著者
増田 金吾
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.471-483, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

本研究は,東京府青山師範学校教諭・赤津隆助と彼の教え子たちとの関連について検討したものである。教え子たちの中でも,特に武井勝雄と倉田三郎の美術教育者としての存在意義は大きい。赤津の指導,並びにそれが彼らに及ぼした影響関係を赤津隆助や教え子たちの執筆した文献等を読み解き,考察した。その結果,赤津は「感じとらせるという方法」により,教え子たちに対し幅広い人格の育成を行い,労苦を惜しまず美術教育界や教育界そして社会に貢献する態度を身をもって教えたこと,また美術教育における思想や方法論として,創造主義を基本としながらも,造形主義と生活主義の美術教育を伝えていたこと,が明らかとなった。
著者
小口 あや
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.171-184, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
12

本研究は,作品鑑賞時,中学生がどのように作品と向かい合う傾向にあるのかを明らかにするために行った。これまでの研究で,小学3年生から6年生は,作品世界に埋没する観念的自己と現実世界で客観的に作品を見る現実的自己の両方で作品と向き合っていること,鑑賞時はどちらかというと観念的自己が強く出ていることが分かっていた。今回の調査と鑑賞実践で,中学2年生から観念的自己が弱くなり代わりに現実的自己が強くなることがわかった。中学2年生からの変容は,他の研究分野での発達段階とも重なる。小学生に続いて中学1年生までは,作品世界に入り込んで作品を感受する観念的自己が強い。中学2年生からは作品をあくまでも現実世界に存在する物として感受する現実的自己が強くなる。それぞれの学年に合わせた指導をすることが教育方法論としては重要である。
著者
鈴木 幹雄
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.197-212, 2011

本論稿では,J・イッテンの出身校,シュトゥットガルト芸術アカデミーでヘルツェル教授の下に学び,ナチズム崩壊後,シュトゥットガルト芸術アカデミー教授(1946-55年)となったW・バウマイスターの芸術教育と芸術教育観について基本的な輪郭を描こうと試みた。筆者の知る限りそれはわが国ではこれまで先行研究で解明されることのなかった領域で,バウハウス系譜の芸術教育学とは異なるもう一つの芸術教育観であった。バウマイスターは,ワイマール共和国の時代,フランクフルト市芸術学校の教師として招聘を受け(1927-33),1946年には,シュトットガルト芸術アカデミー装飾油彩画の教授として招聘された。そして1949年には,同アカデミーに改革提案を提出すると同時に,現代の造形表現理論と新しい時代の芸術教育学の基本的精神を若い世代に伝えようとした。それは,内的亡命に耐えてきた一老教授によって用意された,フランス,スイスと国境を接する南西ドイツの戦後芸術大学改革コンセプトであった。
著者
佐々木 宰
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.203-215, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
17

多民族・多文化社会における美術教育の特徴的な機能として,「エスニシティの可視化」 と,それを通した「自国の美術文化の創出」というモデルを想定した。アジアの多くの国は多 民族・多文化国家であり,特に東南アジア諸国においては,それぞれの民族集団におけるエス ニシティと,国民としてのナショナリティの二重の帰属意識が求められる。複数のエスニシテ ィをどのようなバランスで扱うかは国の政策によって異なるが,インドネシア,マレーシア, シンガポールでは学校教育を通して民族の文化的な価値観を育成しており,そのために視覚や 触覚を通して感性に働きかける美術教育が一定の機能を果たしていることが確認できた。さら に,エスニシティはもとより国民としての文化的価値観を共有するために,「自国の美術」の 創出が試みられており,その意識形成に対しても,美術教育が機能していることが確認された。
著者
大泉 義一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.59-69, 2003-03-31 (Released:2017-06-12)

Appreciation is a communicative act with intervention of art works, and mutual interchange by 'seeing' art works. Most cases of former appreciation learning, however, were done by one-way transmission with 'language communication' as a supplementary means. If we think of appreciation from the view of recognition, of course we can recognize act of 'seeing' by 'language'. Peculiar communication of art creation activities is, however, non-language, and the 'error', which exists there is important. The error is embodied images of a viewer, therefore it contains rich educational value. In this paper, I examined the educational meaning of 'communication through art creation' paying attention to that error, which was applied into classroom practice.
著者
伊藤 智里 高橋 敏之
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.41-53, 2011-03-20 (Released:2017-06-12)

本研究は,対象児・A児の1歳6か月から2歳までの積み木遊びを,自然観察法によって調査し,立体造形に繋がる多様な発達的特徴について分析・考察する。A児は,積み木を使用して遊ぶための基本動作である「積む」「崩す」「打ち鳴らす」「並べる」等の行為を経験した。積む行為を獲得した後,挑戦的な遊びと確認的な遊びを重ね,「間隔」「幅・奥行き・高さ」「重心」「バランス」などを体感した。A児は,積み木遊びを通して,「平面」「立体」の概念を獲得しつつあると指摘できる。
著者
和田 学
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.413-428, 2007

本研究の背景は,1960年代のアメリカにおける美術批評教育にある。フェルドマン(Edmund Feldman)は,当時の著名な美術批評モデルの提案者である。本研究の目的は,フェルドマンの批評モデルの形成へ影響を及ぼした文献の調査にある。先ず,彼の文献を調査し,批評モデルが最初にあらわれた文献を特定する。次に,先行研究において指摘された批評プロセスへの影響を考察する。第3に,1960年代のフェルドマンの文献へあらわれた批評プロセスの性質について考察する。最後に,影響を及ぼしたとみられる文献を考察する。
著者
和田 学
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.491-498, 2017 (Released:2019-09-03)
参考文献数
20

本研究の目的は,21世紀の情報環境の特性を踏まえ,美術教育における質的探究のモデルを再考することにある。本研究は,探究学習のモデルの一例として,フェルドマン(EdmundFeldman)の批評プロセスに焦点をあて,彼の批評行為の実演部にみられる解釈を中心に考察する。本研究は,学習者が,2つの探究間に揺れ,質的ジレンマ(葛藤)学習を提案し,21世紀のメデイア環境の時代における批評教育としての意義を位置付ける。
著者
髙橋 文子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.313-326, 2017 (Released:2019-09-03)
参考文献数
18

小学生及び幼児を対象に,美術作品を記憶して描くことによる教育的効果を,形状ストックという観点から検討した。美術作品を見た後,作品を見ないで描く記憶画と,作品を見ながら描く観察画の2枚のスケッチを描写するプログラムを,4歳~12歳児を対象に行った。形状ストックという事物レベルで描かれた物を比較することで,児童の認識,感受の様子をリアルに検討することが可能であった。記憶スケッチには,児童のもつ絵画意識が強く反映されていた。記憶スケッチプログラムは,形や色,印象等の感覚の精度を高め,より質の高い認識や感受を生み出すことを確認した。
著者
新関 伸也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.383-394, 2008

本研究は,間所春による構成教育「まよいみち」について,いつ頃から,どのような目標や内容,方法で行われたのかを明らかにするとともに,戦後の普通教育のデザイン教育において,どのような意義と課題があったのかを考察した。研究方法として,間所の著書や関係資料を中心に読み解き,考察を行った。その結果,構成教育の小学校における具体的な実践が明らかになり,間所春の実践の意義とデザイン教育を取り巻く問題点が浮き彫りとなった。
著者
藤原 智也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.377-390, 2015

本論文では,まず学校と地域連携の実践の前提となる議論に考察を加えた。具体的には,近代における分化原理について考察した後,学校と地域共同体との関わりから教育を構成する社会改造主義の立場について,J.デューイに依拠してカリキュラムの統合原理と地域の共同性の側面から明らかにした。次に,社会改造主義について,ギデンズの「第三の道」理論と照合しつつ,成熟期近代としての今日におけるアクチュアリティを検討した。これらを踏まえて,学校美術教育における教科性をもとにした実践の有効性を論じ,筆者による中学校での授業事例の検討を通してその実践上の可能性を示した。
著者
阿部 宏行
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-12, 2015-03-20 (Released:2017-06-12)

本研究は,子どもの絵の発達と,その指導のあり方を考えるものである。本稿は,小学校6年間を継続的に調査した「食事の風景」をもとにして,大人の絵に近づく子どもの絵の空間の表現の発達は,様々な方向からの視点でかかれた観面混合などを繰り返しながら進んでいくことを記述した。その変化の過程で,食卓の奥の縁の長さが,手前の縁の長さより長くなる傾向がある。これは子どもの成長と表現との間に,「想像視」の働きがあり,それがやがて,1点から固定的な見方の視覚優位の大人の絵になることを指摘した。その上で子どもの絵の変化をとらえつつ指導することの重要性を論述した。
著者
神野 真吾
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.205-218, 2006-03-31 (Released:2017-06-12)

明治期に,西欧の制度を移入し,美術という言葉が生まれて以降,日本においては,美術家たちによって実践される「美術」と,教育現場で行われる「美術教育」の間に,次第に距離が生じ,断絶した状況が生じている。その一方で生涯学習をはじめ,一般市民の美術は,「美術」「美術教育」いずれともほとんど関わりを持たずに,盛んに取り組まれている現実がある。こうした混沌とした状況の中,現在,美術・美術教育をとりまく環境は大変厳しいものとなっている。今こそ,我々は近代化の中で美術と美術教育が辿ってきた道程を顧み,私たち日本人にとって必要な美術の在り方を,構築する必要があるのではないだろうか。
著者
辻 大地
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.269-281, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
45

本研究は,園の保育内容(造形表現)における描画題材について,子どもの表象能力の発達過程の特性に基づいた内容を理論的に設定して提示する題材研究である。 研究の結果,幼児期前半期(1歳半ころ~4歳ころ)と幼児期後半期以降(4歳ころ~)の表象能力の発達の質的な変化に対応した,描画題材の内容の設定が必要であることが明らかになった。また幼児期前半期では表象能力が目の前の事物に依存しているため,目の前にある形や色,素材などに直接関わることでイメージをふくらませる題材や,今・ここの目の前の出来事として遊べる題材が適していること,そして幼児期後半期以降では言葉を使って考えることができるようになるため,表象活動が目の前の事物や出来事だけに依存しない言葉で考えることを楽しむ題材や,今・ここの自分とは異なる他者や過去の自分の立場になって考えることを楽しむ題材ができるようになることが示唆された。
著者
牧野 由理
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.289-300, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
36

本研究は,明治期の旧開智学校において使用していた教育掛図や備品台帳を対象とし,視覚教材として掛図が与えた影響について検討したものである。明らかになったことは以下3点である。 (1)明治43(1910)年の備品台帳の分析によれば,1,244点の掛図を所蔵していた。10分類のうち最も多い掛図は「地理部」であり,次いで「修身部」,「歴史部」,「動物部」,「国語部」の順である。 (2)備品台帳の「著作者又ハ発売者」の集計によれば,「職員」が198点(16%)の掛図を作成していた。「職員」による掛図は信州地域の地図や歴史,産業など地域に密着していたことや,「松本教育品博覧会」の影響を受けていたことがわかった。 (3)「歴史部」の掛図の一部には,日本画家である岡倉秋水や女子高等師範学校図画講師の森川清が図を手掛けていたものが含まれていた。他教科の教育掛図を通して間接的ではあるが画家の絵に美的感受を受けていたことが示唆される。
著者
胡 文涛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.161-172, 2006-03-31 (Released:2017-06-12)

本研究は,中日中学校美術教科書の参考作品図版の取り扱い方を比較し,両国の教科書の特徴を明らかにすることを目的とした。そのため,各分野の作品図版数,作品図版における編集内容,自国作家作品数の比較を行った。その結果,中国では創作活動,自国伝統的な美術を重視しており,指導書の性格が強く,日本では作品が多く掲載されており,作品の鑑賞の場となっていることが明らかになった。これらを踏まえて,両国の美術教育における今後の課題,展望を探った。
著者
島田 佳枝
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.143-159, 2003-03-31 (Released:2017-06-12)

Recently the importance of 'children's participation' has been pointed out in many areas. How-ever, there have been few theoretical attempts made to study children's participation from the standpoint of the children who have difficulties in relation with others prior to participation. This paper describes such circumstances of children as 'Communication Insufficiency Syndrome' according to NAKAJIMA, Azusa, and examines where children can start relations with others as a basic subject of participation theories. Analysis of Roger Hart's participation theory has therefore been conducted in the aspect of the relationship between adults and children. The result shows that 'children's participation' are activities carried out in a 'call-response relationship' and are based on children's own speeches=expressions. Noting that in the participation theory children's self-expressions are considered as based on their physicality especially at initial stages, it is also discussed how this observation is associated with dissolution of 'Communication Insufficiency'.