著者
藤森 旭人
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.55-62, 2013-03

本論では対人援助職に内包される援助者のこころの在りようを出発点とし、心理療法の中でも無意識を扱う精神分析において、心理療法家が個人分析と呼ばれる精神分析を受けておく意義や必要性について考察した。その理解を促進させるために漫画「ホムンクルス」を用いた。「ホムンクルス」とは「こころの歪み」であり、主人公が他者の「ホムンクルス」を視覚化して見ることができるという設定になっている。この歪みは精神分析的作業の中では転移-逆転移として捉えられるものであり、他者の「ホムンクルス」と関わることで、精神的破綻をきたすまでが描かれている。対人援助者は、自分の傷つきを棚上げし、他者への援助によって自分自身を保とうとする傾向があることにも触れ、この傷つきや破綻を防ぐためにも、個人分析を受けておくことの必要性について論じた。そして、それは他者のことをよく考えられるこころの状態を作りだしておく作業でもあることを強調した。
著者
植田 恵理子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.97-109, 2013-03

本稿は、筆者が主催する参加体験型音楽劇「音の絵本」コンサート時に見られた、「協同して、何かを成し遂げる観客の姿勢」から、協同して表現活動に参加するための要因を導き出し、保育現場の活動に生かす方法を示唆するものである。ここでは、音の絵本「西遊記」というコンサートを取り上げ、観客が協力して、生き生きと積極的な表現活動を行った場面を抽出し、その要因となった事項を導き出す。得られた結果を踏まえて構成した、音の絵本「ねえ、おはなししてよ」を、S 幼稚園にて実施したところ、コンサート時と同じように園児たちが協力し、積極的に表現を工夫し合う姿が見られた。以上から、協同的な学びを引き出す音楽活動の一つとして、参加体験型の音楽劇が有効であることがわかった。
著者
渡辺 実
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.49-62, 2012-03

知的障害児の文字・書きことば学習の指導について、担当教員の意識や指導方法を明らかにすることによって、文字・書きことばの習得学習が効果的に行われるための基礎的要件を明らかにする。研究方法は、K 市小学校の特別支援学級担当教員51 人に、勤務年数や書字指導について、児童の発達段階の意識等、7 項目の質問を4 段階で回答してもらい、その理由をKJ 法で分析し、各質問項目の相関も調べた。結果として、国語の重点課題では「話すこと」をあげた教員が最も多く、「書くこと」の指導は最も少なかった。回答における各項目の相関では、「発達段階の考慮」と「書字学習は難しいか」という質問において女性教員では弱い相関がある。男性教員では経験年数と指導法において負の相関が認められ、経験年数が増すに従って指導法の悩みが減少していくが、「経験に頼っている」という反省もある。指導方法では、具体的な工夫や児童と指導者の課題を述べ、積極的に週予定の中に書字指導を組み込み、指導の有効性と見通しを持って指導をすることが必要であると言える。
著者
藤井 渉
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.21-36, 2012-03

本稿では、身体障害者福祉法の対象規定に着目し、その成立と内容について考察を行うものである。身体障害者福祉法の対象規定には、身体障害者福祉法の別表と、身体障害者福祉法施行規則に示されている身体障害者障害程度等級表がある。そこで本稿ではこれらを取り上げ、その成立過程と、他の社会保障関係法との比較によってどのような特徴及び関連性を有するのかを検討した。
著者
福富 昌城 坂下 晃祥 塩田 祥子 Masaki FUKUTOMI SAKASHITA Akiyoshi SHIOTA Shoko 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 Faculty of Social Welfare Hanazono University Faculty of Social Welfare Hanazono University Faculty of Social Welfare Hanazono University
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.20, pp.9-19, 2012-03

本報告はケアマネジャーを対象としたグループ・スーパービジョンの連続研修会における調査の結果である。調査は、参加者がどのような学びをしたのかを明らかにすることを目的とした。調査結果として、参加者は「既に得ている情報や利用者像を異なった角度から見直す」ことで「ケースの見方」を深め、事例検討会/グループ・スーパービジョンにおいて「事例提供者の努力を承認する姿勢」を持つことで支持的な関わりを学んでいることが理解できた。
著者
脇中 洋
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.53-81, 2008-03

1995年7月に大阪市東住吉区の住宅密集地で発生した火災は、娘Mの死亡保険金目当ての詐欺未遂および放火殺人事件(いわゆる東住吉事件)として母親Aと内縁の夫Bが立件され、2人には2006年11月最高裁で無期懲役刑が確定している。本件は放火を裏付ける物的証拠がなく、AおよびBの自白のみを証拠としている。特にBには大量の供述があり、その大半で放火殺人を認めて克明に犯行様態を記しているが、その供述には数多くの疑問点が指摘されている。筆者は控訴審の段階から弁護団の鑑定依頼を受けて、B供述が「真犯人が体験を記した」ものか、「無実の者が犯人に扮して記した」ものかを明らかにするための供述分析を行なった。この鑑定書のうち、本稿では夫が自白に落ちた当日の供述を紹介して、自白の生成プロセスに関する評価を行なう。
著者
春名 苗 寺本 珠眞美
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.24, pp.19-25, 2016-03

高齢者虐待のケースには、市区町村が責任を持ち、地域包括支援センターと連携して対応することになっている。だが、実際には、市区町村がイニシアティブをとって高齢者虐待対応を積極的に行うところと、対応を地域包括支援センターにほぼ任せているところに分かれている。各11 市区町村に1 カ所の地域包括支援センターに聞き取り調査を行い、実態を明らかにした。その結果、虐待の対応の会議の開催については、随時行うところと、定例で行うところに分かれた。また、見守り支援については、計画を立ててフォローアップするところと、地域包括支援センターに見守りを任せているところにわかれた。会議開催と見守り支援等の特徴で類型化し、高齢者虐待の会議開催を随時行い、見守り支援の計画を立てる「随時・戦略型」が進むべき方向であると明らかにした。
著者
坂下 晃祥 田中 秀和 サカシタ アキヨシ タカナ ヒデカズ Akiyoshi SAKASHITA Hidekazu TANAKA
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要
巻号頁・発行日
vol.19, pp.79-94, 2011-03

2007(平成19)年に社会福祉士及び介護福祉士法が改正され、より時代のニーズに適合した社会福祉士の活躍が求められている。一方、福祉に関する専門職の資格として、社会福祉士より先に制度化された社会福祉主事については、議論の場に登場する機会が減少し、これまでにもその制度の形骸化が指摘されており、その存在意義が問われている。本稿においては、社会福祉主事任用資格の制定史を振り返り、改めてその意義と課題を探ることにより、今後の議論に活かそうとするものである。
著者
三品 佳子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.11-33, 2008-03
被引用文献数
1

本研究は、イングランドの脱施設化の歴史と背景にある思想を辿るなかで日本にACTを普及するために必要なことを明らかにすることを目的にした。イングランドの精神科病床削減は、1954年に始まり、現在も引き続き進行中であり、急激ではないが、着実に減り続けている。一定の地域を定め、サービスがどの家庭にも届けられるよう配慮されている。特に北バーミンガムでの取り組みは、ケアマネジメントを機能分化させた上で、バーミンガム市の社会福祉局やボランタリーセクターと連携を図りつつ、国民保健サービス(National Healty Service:NHS)のいくつかの機能的チームが地域生活支援を展開している。包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment:ACT)は、重い精神障害のある人への最も効果的な地域生活支援の方法である。英国の精神保健の歴史とバーミンガムの実践から、ACTを日本に普及するためには、1.援助者の人間観や援助観、2.ACTのための予算の確保、3.援助者の使命感、4.援助者の技能の向上、5.援助者の待遇改善の5点が必要であることがあきらかになった。
著者
澤野 純一
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-79, 2014-03

児童自立支援施設(当時の教護院)で福祉実践を展開した辻光文は、仏教者として本物の道を求めるにあたって、あえて僧侶にはならず、在家仏教者として生きる道を選択した。27歳の時に初めて児童福祉分野の仕事に出会い、その後、児童自立支援施設の小舎夫婦制を知るにあたって、自分の進むべき道を見出す。後年、辻の仏教者としての歩みと福祉実践者としての歩みは、同一線上に重なり、深い仏教理解による「いのち」への眼差しを根底に据えた独自の福祉実践が展開されることになるが、本稿では、両者の歩みが重なる以前の辻の悪戦苦闘の時代を取り上げる。この時代、辻は、仏教者としても福祉実践者としても苦闘の中にあったが、小舎夫婦制における子どもたちとの境目のない生活を繰り返す中で、子どもたちと辻自身を貫く「いのち」の存在を見つめてゆく。本稿は、辻が後に展開することになる「いのちそのもの」を「共に生きる」福祉の黎明期を考察する。
著者
保田 恵莉
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.49-57, 2014-03

今、モンテッソーリ教育が再び注目されている。幼児教育への関心の高まりと先進国各国で行きづまった教育の方向模索の中で、再評価され始めているのである。モンテッソーリ教育そのものというよりも、今日の教育観、人間観、子ども観に「人格形成」の確立を迫るものとしてのモンテッソーリの貢献が、取り上げられている。本稿では、近代以降の教育思想の歩みの中で、モンテッソーリによってなされた子ども観の転換と幼児教育の転換の特質を考察し、モンテッソーリの唱えた子どもの創造的使命擁護の方法が、今日こそ必要性を増していることを考察した。
著者
川井 蔦栄 高橋 美知子 古橋 エツ子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.83-96, 2008-03
被引用文献数
3

近年の日本ではTVゲームなどの発達により子どもの本離れが社会的問題になっている。とりわけ幼児期における親子のコミュニケーションの欠落にもつながる最も重要な要因の一つと考えられるため親が子どもに絵本を読み聞かせることの効用(効果)に注目した。本研究では子どもが通う幼稚園で「絵本の読み聞かせボランティア活動」を実施している保護者(親たち)へのインタビューをし、その結果と過去の保育所の結果を比較して、相互作用解析を行った。その結果、本の読み聞かせを行った親子ではそうでない親子と比べ親子間の話題、コミュニケーション(身体的接触を含む)の増加が顕著に見られた。本の読み聞かせは読書離れだけでなく幼児期の親子のコミュニケーションの改善にも有益と期待できる。
著者
渡辺 恵司
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.41-53, 2013-03

精神障害者の精神科病院における社会的入院患者は、7 万人以上いると言われており、社会的入院者の解消は、早急に行われなければならない精神保健福祉の課題の1 つに挙げられている。京都府・京都市では、平成17 年度から精神科病院における社会的入院者の退院を促進するための事業を実施しており、平成22 年3 月末で50 名の方に地域移行推進員が関わりを持ち、29 名の方が退院に至っている。本研究は、平成17 〜 21 年度の地域移行支援事業(以下、事業)を利用し退院された方を対象とし、生活状況等の調査のほか、事業利用者の自由な意見も聴き、それらをまとめて考察を行った。特に事業利用者の意見として、退院して良かったことや、苦労していること、これからやってみたいことなど、入院生活では感じられない「ふつうの生活」の中で、「あたりまえの生活」を望んでいることが浮かび上がってきた。一人一人の生活における悩みや希望は様々であるが、退院し生活の中に「自由さ」という環境が生まれ、その自由さから生活の質の向上が得られていることがわかった。