著者
宇佐美 洋 岡本 能里子 文野 峯子 森本 郁代 栁田 直美
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.383-403, 2019-12-31 (Released:2020-03-10)

日本語教育関係者を対象に,フォーラム・シアター(FT)と呼ばれる演劇ワークショップを実施した後で,参加者に対するインタビューを実施し,各参加者にどのような変容があったかを分析した。その結果,ある参加者はFTへの継続的な参加を経て,ネガティブ・ケイパビリティ(すぐに答えを求めず考え続ける能力)を深化させていったことが確認されたが,一方でFTに明確な終着点を求めてしまう参加者もいたことが確認された。またある参加者は,FTでは「一人称的アプローチ」(自分の内観をそのまま他者に当てはめて理解しようとする)によって他者理解をしようとしていたが,その後他者から「二人称的アプローチ」(対象の情感を感じ取り,対象の訴え・呼びかけに答えようとする)を受けることで,一人称的アプローチから脱却していくプロセスが確認された。このことを踏まえ,この種のワークショップを運営する者に求められる配慮についても論じた。
著者
三代 純平
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.27-49, 2015-12-30 (Released:2016-03-21)

本稿は,地方大学において韓国の高校生を対象に行われたオープン・キャンパスに関する実践研究である。大学の教職員,留学生,地域の方々と共に,韓国の高校生を受け入れることで,そこに,ことばを学びあう場が生まれた。オープン・キャンパスというプログラムに協働で携わることで,新たなコミュニケーションが生まれ,新たなコミュニティが生まれた。その経験は,プログラムへの参加者それぞれに学びをもたらした。留学生は,地域のコミュニティや将来参加したいと思うコミュニティに求められる日本語を体験的に学んだ。この実践を省察することで,一つの実践を通じてことばを学びあう場をデザインすることが,日本語教育の目的となりうることを主張する。そして,そのための日本語教師の役割に,実践の共有があることを論じる。
著者
福元 美和子
出版者
言語文化教育研究学会
雑誌
言語文化教育研究
巻号頁・発行日
vol.14, pp.162-173, 2016

<p>明治期は近代日本語の歴史においてもっとも変化と躍動が起きた時期である。鎌倉室町期以降,さまざまなお国ことばが混在した話し言葉と書き言葉が大きく乖離した状態で受け継がれてきた日本の言葉を,全国で統一した話し言葉,さらに言文一致が求められるようになっていった。その先駆けとして森有礼は「日本語廃止論・英語採用論」を唱えたとされている。本稿では,後世に渡って批判の的とされてきたその原点ともいえるアメリカの言語学者ホイットニーとの書簡のやりとりの一部分を中心に,森有礼は本当に「日本語廃止論・英語採用論」を提唱したのか考察を試みる。</p>
著者
南浦 涼介 柴田 康弘
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.97-117, 2015-12-30 (Released:2016-03-21)

本研究は,異なる立場にある「実践者」と「研究者」の協働による「実践研究」のありかたを模索する研究である。近年「実践研究」のありかたが提起されてきているが,多くの場合「実践者」と「研究者」は同一であることが前提である。しかし,教育の分野では異なる立場にある「実践者」と「研究者」が協働の形で実践の質的向上をねらう実践研究のパターンも当然想定される。また,近年の学力観の変容から,「学習者にとっての実践の意味」を考える視点の重要性も謳われている。ただ,これらが「研究者」による実態の解明としての研究である場合,「実践」の改善や変革につながりにくいという側面はある。本小論では,「実践者」と「研究者」が協働的な形で元生徒であった子どもたちに「座談会」を開き,中学校から高等学校に進学した中での子どもたちの学習に対する価値観の葛藤や変容を聞くことによる実践者と研究者のインパクトのありようを検討する。さらに,そうした過程を「実践者」と「研究者」が協働的に構築していくことによる実践研究の可能性について考察する。
著者
中川 篤 柳瀬 陽介 樫葉 みつ子
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.110-125, 2019-12-31 (Released:2020-03-10)

社会学者のバウマンが指摘する「個人化」の潮流は本来協働的な営みであるはずのコミュニケーションを個人化して考える傾向と連動しているように思われる。しかし,ますます複合的になり,個人で解決困難な問題が増加していく社会においては,多くの人間が協働的に問題への対処を目指すコミュニケーションこそが重要となる。そこで本研究では共同体による問題対処のコミュニケーションについて,精神保健福祉の分野で目覚ましい成果を挙げる当事者研究を題材にして再考した。その際の理論的枠組みは,個人の特性ではなく関係性の特性に注目する関係性文化理論である。再考の結果,当事者研究のコミュニケーションは,特定の関係性を文化として定着させた上でのコミュニケーションであり,その関係性の文化においてコミュニケーションは弱さを力に変えることができることがわかった。
著者
オーリ リチャ
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.55-67, 2016-12-30 (Released:2017-04-30)

本稿は日本における多文化共生と向き合うべく,ある異文化交流の場に焦点を当て,そこであたりまえのように行われている「◯◯国」を紹介する活動に対し持っている違和感を明らかにすることを目的としている。Hall(1997)が提唱する表象の概念を用い,「◯◯国」を表象する行為は必ずしも「無害」ではなく,(1) 差異の強化,(2) 二項対立の構図の構築,(3) ステレオタイプ構築に繋がる行為であることが記述できた。その背景には常識の支配力やヘゲモニーの維持に関連するイデオロギーが見え隠れしていることも明らかになった。また,日本社会の構成人である母語話者・非母語話者一人一人が「市民」になるためには,(1) 批判的意識,(2) 有標質問・有標イメージに対する認識,(3) 文化の再考,(4) 「わたし」という存在に対する認識が必要であることが示唆できた。
著者
福元 美和子
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.162-173, 2016-12-30 (Released:2017-04-30)

明治期は近代日本語の歴史においてもっとも変化と躍動が起きた時期である。鎌倉室町期以降,さまざまなお国ことばが混在した話し言葉と書き言葉が大きく乖離した状態で受け継がれてきた日本の言葉を,全国で統一した話し言葉,さらに言文一致が求められるようになっていった。その先駆けとして森有礼は「日本語廃止論・英語採用論」を唱えたとされている。本稿では,後世に渡って批判の的とされてきたその原点ともいえるアメリカの言語学者ホイットニーとの書簡のやりとりの一部分を中心に,森有礼は本当に「日本語廃止論・英語採用論」を提唱したのか考察を試みる。
著者
竹田 青嗣 細川 英雄 西口 光一
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.279-300, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

本稿は2018年1月30日(火)に当学会の特別企画として開催された竹田青嗣氏の主著『欲望論』をめぐる本人による講演とパネルディスカッションの記録である。特別企画の前半は,竹田氏が「言語の本質とは何か」という問題から出発する言語ゲーム論を中心に,言語を用いて共通了解を生み出していくための原理としての『欲望論』の哲学原理について講演した。後半はそれを承け,細川英雄氏と西口光一氏が,『欲望論』を日本語教育の分野におけるそれぞれの問題意識に引き寄せつつ講演し,その後,竹田,細川,西口各氏によるパネルディスカッションを行った。その後,フロアとの質疑応答という形でオープンに議論が展開した。どのような社会を構想するべきなのか。それにはどのような哲学原理が必要なのか。そして,ことばの教育に携わる者は,そのような社会の構想に向けてどのような問題意識を持ち,どのように行動すべきなのか。方法論に先立つ「意味」と「価値」を問う「ことばの教育」の哲学原理について,会場では活発な議論が交わされた。本稿では,紙数の関係から竹田,細川,西口各氏の講演部分は要旨のまとめ,他の部分は談話体による記述とした。本稿によって当日の講演およびパネルディスカッションの内容が,臨場感を持って読者に伝われば幸いである。
著者
横田 雅弘
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-44, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

2000年にデンマークで始まり,あっという間に世界90か国以上で実施されるまでに広がったヒューマンライブラリー(「人を貸し出す図書館」)の実際を,筆者がおよそ10年にわたって実施してきた明治大学の事例を基に考察した。特に,文部科学省科学研究費を得て行った「読者」の偏見低減効果に関するアンケート調査の結果と「司書」となったゼミ学生にどのような教育効果があったかを中心に分析した。また,ヒューマンライブラリーの多様な効果と豊富な応用可能性については,このイベントが質の良いナラティブを生み出す構造をもっているためではないかと考え,これまでの筆者の経験から,その応用可能な領域をまとめた。
著者
庵 功雄 寺沢 拓敬 有田 佳代子 牲川 波都季
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.3, 2017 (Released:2018-06-05)

本稿は,2017年2月25日に関西学院大学において開催された言語文化教育研究学会第3回年次大会シンポジウムの記録である。