著者
柴田 直哉
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-84, 2019-08-30 (Released:2019-09-07)
参考文献数
37

STEMを用いた位相イメージング法の一種であるDPC STEMは,通常のSTEM本体と分割型検出器やピクセル型検出を組み合わせることで,試料内部の局所電場・磁場分布を可視化できる手法である.近年のSTEM本体性能の向上と検出器開発の進展により,DPC STEMは市販のSTEM装置でも利用できる一般的な手法となりつつある.本稿では,DPC STEMの簡単な原理から始めて,最近の材料・デバイス研究応用事例を紹介する.また,この手法を原子分解能観察に用いることで,原子内部の構造観察が可能になりつつある最新の開発状況についても紹介する.
著者
臼倉 英治 臼倉 治郎
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.31-36, 2020-04-30 (Released:2020-05-09)
参考文献数
22

原子間力顕微鏡(AFM)は探針で試料表面を走査することにより,電子顕微鏡とほぼ同等の分解能で表面の凹凸を計測する顕微鏡である.そのため,水中でも計測が可能であり,培養液中で生きている細胞の表面構造を観察できると期待されていた.しかし,細胞表面は常に動いているため,表面構造を描写するには,その運動より速く探針を走査しなければならない.結局,今日の高速AFMの出現まで待たなければならなかった.我々の使用しているAFM(オリンパスBIXAM)は6 μm × 4.5 μmの範囲を1フレーム/10秒の速度で取り込む.現在では必ずしも高速ではないが,細胞表面から伸びる葉状突起や膜直下のアクチン線維の動きを明瞭に捉えることができた.一方,我々が改良した試料作製法であるアンルーフ法や凍結切片法をAFMの試料作製に応用することで,これまで不可能であった細胞内の微細構造を水中で電子顕微鏡同等の分解能で観察することに成功した.
著者
守屋 俊夫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.37-42, 2020-04-30 (Released:2020-05-09)
参考文献数
14

近年,加速電圧が200 kVのクライオ電子顕微鏡を使用した単粒子解析で複数のタンパク質構造が3.0 Åより高い分解能で決定された.300 kVに対して200 kVの粒子画像コントラストは高いため,100 kDa未満のタンパク質でも大きなデフォーカス量や位相板を使用せずに高分解能構造を得ることができる.これは,200 kVが小さなタンパク質の構造決定により適していることを意味する.しかし,これまで発表された近原子分解能構造の大多数は300 kVを使用したものである.そこで本講座では,特にコントラスト伝達関数に関連する入力パラメータを見直し,200 kVデータセットに最適なボックスサイズと粒子マスク直径を見つけるための理論と決定手順を紹介したい.また,デフォーカス分布を考慮してこの二つの設定値を最適化するだけで,200 kDa未満のタンパク質の単粒子解析で3.0 Å前後の分解能から顕著な向上を得た実例も紹介する.
著者
立花 繁明
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.81-83, 2007-07-31 (Released:2011-04-13)
参考文献数
9
被引用文献数
3
著者
小林 昂平 古寺 哲幸 田原 悠平 豊永 拓真 笠井 大司 安藤 敏夫 宮田 真人
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.67-71, 2019-08-30 (Released:2019-09-07)
参考文献数
27

Mycoplasma mobile(以下モービレ)は,ペプチドグリカン層を持たない,魚の病原細菌(単細胞の生物)である.モービレは固形物表面にはりつき,はりついたまま滑るように動く滑走運動を行う.滑走メカニズムにおいて,モービレの細胞表面にあるタンパク質でできた“あし”が,宿主細胞表面のシアル酸オリゴ糖を引き寄せ,菌体を前に進める.この滑走運動は,細胞内部にあるモーターがATPを加水分解することにより駆動されるが,ATPの加水分解によりモーターがどのような構造変化を起こすかは明らかになっていない.そこで本研究では,高速原子間力顕微鏡(以下高速AFM)を用いて,細胞内部におけるモーターの動きを可視化することを目的とした.ガラス基板表面に貼り付けた細胞表面を高速AFMでスキャンすると,内部モーターと思われる粒状の構造がシート状に並んでいる様子が見られた.さらに,個々の粒子は滑走方向に対して右方向に8.2 nmシフトする動きを示した.
著者
石塚 和夫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.11-15, 2015-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
10

高分解能電子顕微鏡には透過型電子顕微鏡(CTEM)と走査型透過型電子顕微鏡(STEM)がある.現在,どちらのタイプの電子顕微鏡でも最適な条件では原子コラムの並びが観察できる.しかし,電子顕微鏡像から推定された原子構造が正しいこと確認するにはシミュレーションが必要になる.試料の構造情報と顕微鏡の結像情報をシミュレーションプログラムに与えれば,顕微鏡像が表示されるが,CTEMとSTEMでは顕微鏡像に寄与する信号が異なり,電子レンズの効果も異なる.表示された結果を正しく評価するにはシミュレーションの基本的な考え方やアルゴリズムの大枠を理解しておく必要がある.本解説ではマルチスライス法による高分解能電顕像のシミュレーションの基礎的な考え方,特に弾性散乱,熱散漫散乱の計算方法および部分干渉性の取り扱いについて説明する.
著者
高橋(中口) 梓 平岡 毅 遠藤 泰久 岩淵 喜久男
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-52, 2014-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
25

生活環のほとんどを他の昆虫体内で過ごす内部寄生蜂は,それぞれの宿主に適応するため驚くべき進化を遂げている.本稿で扱うキンウワバトビコバチCopidosoma floridanumは宿主卵,そして孵化した宿主幼虫の中で生き延びるために,進化的にバリエーションが少ないはずの初期発生を大幅に変更し,卵割後,アメーバ様に移動できるステージを獲得した.この移動性の寄生蜂胚は宿主細胞に自己と誤認させ,宿主胚の胚発生に伴う細胞移動に便乗し,その細胞間を通って宿主胚体内に侵入する.孵化した宿主幼虫体内で寄生蜂胚は,宿主細胞の臓器を保護する宿主由来の嚢組織(cyst cell)で周囲を覆わせて宿主免疫を回避するだけでなく,酸素を得るため宿主に気管を形成させていた.本講座では,共焦点レーザー顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて一連の現象を明らかにした経緯と,分子擬態に関与する分子機構の一部について紹介する.
著者
釜澤 尚美
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.219-221, 2009

<p>凍結割断レプリカ標識法による観察から,中枢神経系のギャップ結合は,斑状だけでなく,ひも状,リボン状,網状と多様な形態を頻繁に呈すること,また,直径0.1 µm以下の小さなギャップ結合が多数存在することが明らかになった.さらに,双面レプリカ標識法によって,網膜の神経細胞間において2種類のコネキシンで構成されるギャップ結合では,それぞれのホモ6量体コネクソンがサブドメインを形成して2つの細胞間で連結していることが判明した.</p>
著者
齋藤 晃 長谷川 裕也 内田 正哉
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.39-46, 2013-04-30 (Released:2019-09-10)
参考文献数
31

本稿では,らせん状の波面をもつ電子波の物理的基礎を概説し,最近われわれが行った電子らせん波の生成,伝播および干渉についての結果を紹介する.透過電子顕微鏡の照射レンズ系にFIB加工したフォーク型回折格子およびスパイラルゾーンプレートを導入し,試料上でのビーム径がナノメーターオーダーの電子らせん波を生成した.特にスパイラルゾーンプレートをもちいた実験では,±90ћという大きな軌道角運動量をもつ電子らせん波が生成できた.また,回折格子等を通過した電子がらせん波を形成するまでの伝播過程を観察し,その強度分布がフレネル伝播理論にもとづくシミュレーションときわめて良い一致を示すことを明らかにした.さらに2つの電子らせん波をもちいた干渉実験を行い,互いの軌道角運動量によらずそれらが干渉することを見出した.この結果から,軌道角運動量はスピンと異なり,位置や運動量と同時計測不可能な物理量であることが確認できた.
著者
原 徹 田中 啓一 前畑 京介 満田 和久 山崎 典子 大崎 光明 大田 繁正 渡邉 克晃 于 秀珍 山中 良浩 伊藤 琢司
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.289-291, 2009-12-30 (Released:2020-01-21)
参考文献数
8
被引用文献数
1

透過型電子顕微鏡(TEM)におけるEDS分析のエネルギー分解能を大幅に向上させることを目的として,超伝導遷移端センサ型マイクロカロリメータをTEMに搭載した分析電顕を開発した.実験機として単素子検出器を無冷媒式冷凍機で駆動する検出器を製作し,現在,TEMの性能を損なわずにシリコンKα線の半値幅として7.6 eVを達成しており,多くの近接したピークを分離した測定が可能になっている.
著者
池上 浩司
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.85-90, 2019-08-30 (Released:2019-09-07)
参考文献数
16

繊毛は長さ1~10 μm,直径約200 nmの小さな細胞表面構造で,ゾウリムシなどの原生生物からヒトを含む脊椎動物まで進化的に非常によく保存されている.脊椎動物などの多細胞生物では一つの細胞に1本のみ生える一次繊毛が存在し,哺乳類では全身の多くの細胞で観察される.一次繊毛は数10 μmの大きさを持つ細胞の表面に1本しか存在しない光学限界ギリギリの太さの微細な構造であるため,その存在を知っている者が明確な意図を持って観察しないと見落としてしまうことも多い.また,一次繊毛はゾウリムシや気管の上皮に生えている多数の運動性繊毛に比べて不安定な構造であり,観察対象を注意して扱わないとアーチファクトとして偽陰性(繊毛の消失)や偽陽性(繊毛の異常な形態)を捉えてしまう可能性も高い.本解説では,そんな“fragile”な一次繊毛を光学顕微鏡で観察する難しさと観察のコツを交えながら,光学顕微鏡で見える一次繊毛の姿や動きを紹介する.

1 0 0 0 OA 同位体顕微鏡

著者
圦本 尚義
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.134-137, 2006-07-31 (Released:2010-04-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
田中 功 溝口 照康
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.116-119, 2005-07-31 (Released:2009-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1
著者
金子 賢治 馬場 則男 陣内 浩司
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.37-41, 2010
被引用文献数
1

<p>近年,電子線トモグラフィ(TEM-CT)法がナノスケールの空間分解能で内部の複雑な立体的情報を解析する手法として注目を集めています.本稿ではその1:原理と題してTEM-CT法の原理や歴史的背景,連続傾斜像の撮影と再構築,ラドン変換や再構成法について概説します.</p>