著者
進藤 直哉 王子田 彰夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.92-99, 2017-05-01 (Released:2019-07-30)
参考文献数
3

コバレント阻害剤は求電子的反応基で標的タンパク質と共有結合を作り、強力で持続的な薬効を示す。毒性の懸念から従来の創薬では避けられる傾向にあったが、標的選択性の高いコバレント阻害剤(TCI)の開発が近年盛んである。マイケルアクセプターはシステイン残基に対する反応基として汎用されているが、薬剤の構造や時間・濃度に依存してさまざまな非特異反応を起こすことが報告されている。筆者らはTCIの標的特異性の向上を目指して新規反応基を探索し、クロロフルオロアセトアミド(CFA)基がチオールと穏やかに反応することを見出した。CFA基を既知のEGFR阻害剤骨格に導入しSARを検討した結果、承認薬と同等のEGFRT790M阻害活性とin vivo抗腫瘍活性を示す化合物NS-062を見出した。また蛍光ラベル化解析により、CFA誘導体がマイケルアクセプターと比べ極めて高選択的にEGFRと共有結合を形成することを確認した。
著者
黒野 昌邦 西澤 玲奈 江頭 啓 竹内 淳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.127-131, 2018

<p>創薬研究に利用できる情報は指数関数的に増大し、ビッグデータの有効利用法の開発が望まれている。メディシナルケミストにとって、HTSの結果解析はリード創製のための重要なプロセスであるが、あまりにも膨大なデータのためにその取り扱いや解析が難しい。そこでメディシナルケミストに使いやすい可視化法「エルピスマップ」を開発したので本稿で紹介する。「エルピスマップ」は、良質なリード創製の可能性を見極められること、追加HTSまたはヒットからの合成展開のGo/No-go判断ができること、そして複数ターゲットのHTS結果を比較した場合、リード創製面でのプロジェクトの優先順位づけを可能にした新しい可視化法である。</p>
著者
中原 健二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.63-66, 2020-05-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
2

中枢神経領域疾患には多くのアンメットメディカルニーズが残されており、複数の製薬企業が重点領域に掲げている。一方で本領域をターゲットとした創薬は、薬理学的メカニズムの複雑さから難度が高く、開発成功率が低いことから、共同研究によって活路を見出す製薬企業が少なくない。塩野義製薬株式会社はJanssen Pharmaceuticals, Inc.(ヤンセン社)にアルツハイマー病治療薬の開発候補品であるBACE1阻害剤(atabecestat)を導出し、同時にバックアップ化合物の創製に関する共同研究を開始した。筆者は、ベルギーにあるヤンセン社の研究所にてメディシナルケミストとして上記共同研究に参画する機会を得た。本稿ではヤンセン社の研究環境や共同研究を通して感じたことについて述べたい。
著者
瀧川 紘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.211-213, 2020-11-01 (Released:2021-05-01)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催することのできなかった日本薬学会第140年会における一般シンポジウム「有機合成化学の若い力」を7月31日にオンラインで開催した。学部や産学、世代の垣根を越えたおよそ1000名の方々から参加登録があり、新進気鋭の若手研究者4名による2時間半にわたる素晴らしい講演を聴講した。本稿では、その詳細とともに、オンライン開催を通じて筆者が学んだことについて述べる。
著者
湯本 史明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.59-63, 2017-05-01 (Released:2019-07-30)
参考文献数
7

筆者は2007年からカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のRobert Fletterick研究室にて博士研究員として在籍し、主に幹細胞の転写因子複合体の構造解析に取り組み、その後、NIHのPSI:Biologyの1テーマとなったプロジェクトの立ち上げとプロジェクトマネージメントを担当し、5年半の現地での研究生活を経て、2012年に高エネルギー加速器研究機構に職を得て帰国した。その後もUCSFやスタンフォード大学との密接な共同研究や共同セミナーの開催を通じ、現地と交流を続けている。本稿では、UCSFで開始した幹細胞転写因子の構造生命科学研究について紹介すると共に、この10年間の構造生物学を取り巻く時代背景、さらには実際に見聞きしたアカデミアと産業界との交流について紹介する。
著者
谷内出(野口) 友美 橋本 祐一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.213-218, 2017-11-01 (Released:2019-12-01)
参考文献数
10

ヒストンのアセチル化修飾は重要なエピジェネティクス調節機構の1つである。ブロモドメインは、ヒストンのアセチル化リシンを認識するreaderであり、転写やクロマチンリモデリングなどのDNA依存的な細胞プロセスを制御する。ブロモドメインを対象としたエピジェネティック研究の多くは、BETファミリータンパク質を標的としており、その阻害剤は抗がん剤として臨床試験段階にある。筆者らは、BET阻害剤のファーマコフォア検証やアカデミアとしてのポリファーマコロジー活性化合物創製研究として、新規BET阻害剤およびBET/HDAC二重阻害剤を創製している。本稿ではBETブロモドメインの医薬標的としての魅力や最新の阻害剤の開発状況などを紹介する。
著者
伊藤 昭博 工藤 紀雄 吉田 稔
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.190-194, 2017

<p>がん細胞の運動や浸潤に重要な働きをするアクチン結合タンパク質であるコータクチンの活性は、アセチル化などのさまざまな翻訳後修飾によって制御されている。筆者らは、酸化ストレス応答転写因子Nrf2の負の制御因子であるKeap1をコータクチン結合因子として同定し、Keap1によるコータクチンの新しい活性制御機構を明らかにした。さらに、Keap1-コータクチンシステムを介したアセチル化による細胞運動制御機構を明らかにしたので紹介する。加えて、コータクチンの脱アセチル化酵素として同定したSIRT2の阻害薬は、がん浸潤、転移の治療薬になる可能性があることから、SIRT2阻害薬探索研究を実施し、複数のヒット化合物を得ることに成功した。得られた阻害薬とSIRT2複合体のX線結晶構造から、SIRT2の新しい酵素活性の制御機構の存在が明らかになったので併せて紹介する。</p>
著者
斉藤 毅 長瀬 博
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.90-96, 2016-05-01 (Released:2018-06-01)
参考文献数
19

睡眠覚醒や摂食を制御する因子であるオレキシン系の発見以来、これまで多くのオレキシン受容体アンタゴニストが見出されてきた。一方で、作動活性を有する低分子アゴニストについては、未だ報告はない。われわれは、内因性リガンドであるオレキシンが、ナルコレプシーをはじめとする睡眠疾患や糖尿病、肥満に効果的であることに注目し、オレキシン受容体作動活性を有する化合物の探索研究を行った。スルホンアミド構造を有するHTSヒット化合物を分子基盤とし、独自の分子設計コンセプトを活用した最適化研究を行うことで、オレキシン2受容体選択的アゴニストYNT-185を世界に先駆けて見出した。YNT-185はin vivoにおいて、オレキシンと同様に顕著な覚醒誘導、維持作用が確認された。また、本化合物はナルコレプシーモデルマウスを用いた投与実験において、劇的にその症状を改善した。
著者
安藤 英紀 石田 竜弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-24, 2020-02-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
15

標的遺伝子の発現を特異的に抑制するRNA干渉(RNA interference;RNAi)医薬品は、patisiran(Onpattro®)が2018年に世界で初めて販売されたことを契機に、これまで以上に高い注目を集めている。筆者らは臨床での実用性を考慮したRNAi医薬品の開発を試み、すでに量産が可能な工業化技術を確立し、体腔(胸腔および腹腔)内直接投与により悪性胸膜中皮腫や承認薬のない胃がん、卵巣がん、膵臓がんの腹膜播種転移の治療剤としての有用性を前臨床レベルで確認した。本稿では、すでに本格開発段階に移行している体腔内投与型RNAi製剤(開発コード:DFP-10825)について、これまでの開発経緯を紹介する。
著者
吉光寺 敏泰 鈴木 幸吉
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.54-58, 2017-05-01 (Released:2019-07-30)
参考文献数
5

Meiji Seikaファルマは、抗菌薬を中心とする感染症領域と中枢神経系領域をスペシャリティとした研究開発型製薬企業である。現在、創薬研究では感染症に加えて、免疫炎症・がん領域の強化に注力しており、外部連携を重視してアカデミアや企業との共同研究・技術導入などを推進している。さらなる研究能力向上を目的に、2016年4月に国内最大のバイオクラスターである神戸医療産業都市に研究拠点を開設し、複数の研究者を派遣して研究活動を進めている。創薬テーマの設定においては、対象疾患を絞って出口を見据え、臨床でのポジショニングを重視する方針としている。特に、自社単独では困難となりつつある創薬に対し、アカデミアや企業との複合的な連携を想定したネットワーク型創薬を成功の鍵として、新たな疾患領域と創薬モダリティの拡大に取り組んでいる。