3 0 0 0 OA J波の機序

著者
相庭 武司 河田 宏 横山 光樹 日高 一郎 高木 洋 石橋 耕平 中島 育太郎 山田 優子 宮本 康二 岡村 英夫 野田 崇 里見 和浩 杉町 勝 草野 研吾 鎌倉 史郎 清水 渉
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.345-351, 2015 (Released:2015-07-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

これまで良性と考えられてきた早期再分極(J波)だが,一部の症例で突然死との関係やBrugada症候群,QT短縮症候群との合併が注目され,必ずしも予後良好とはいいきれない.その成因は,主に動脈灌流心筋切片(wedge)モデルの実験結果から,心外膜側の活動電位第1相notchに起因する「早期再分極」異常と,臨床の電気生理学的検査から得られた心室内伝導遅延による「脱分極」異常の両方が考えられている.しかし,脱分極と再分極は相反するものではなく,ひとつの心筋細胞の活動電位において表裏一体であり,両者が密接に関係し,特徴的な心電図異常と心室細動発生に至ると考えるべきであろう.遺伝子レベルでも特発性心室細動(早期再分極)やBrugada症候群が,必ずしも単一の遺伝子異常では説明不可能な点もこれを裏付ける考え方である.今後,心電図学のさらなる研究によって,より具体的に良性J波と不整脈の原因となる悪性J波の鑑別が可能となることを期待したい.
著者
家子 正裕
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.149-156, 2014 (Released:2015-07-27)
参考文献数
9
被引用文献数
3

ワルファリンは,細胞性凝固反応の開始期,増幅期,増大期に存在する凝固第VII,IV,X因子およびトロンビンの原料となるプロトロンビンの蛋白量を低下させ,強力な抗凝固効果を発揮する.しかし,出血性副作用も多く,プロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)を頻回に測定し,用量を調節しなくてはならない.ダビガトランは,初期トロンビンおよび増幅期にフィードバックするトロンビンを阻害し,結果的に凝固増幅期を阻害することでトロンビン産生速度を低下させる.活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)で過剰状態をモニタリングできるものの,APTTのトロンビン阻害薬感受性は試薬ごとに大きく異なっているため,標準化が必要である.Xa阻害薬は凝固増大期のプロトロンビナーゼ複合体を阻害し,トロンビン生成速度および産生総量を低下させ,抗凝固効果を発揮する.リバーロキサバンおよびエドキサバンでは,過剰状態をPTでモニタリングできるが,PTのXa阻害薬感受性は試薬ごとに異なるため注意を要する.また,アピキサバンはPTに反応しないことから,今後新たなモニタリング検査の開発が望まれる.一方,抗血栓効果の確認には,Dダイマーや可溶性フィブリンモノマー複合体などの血栓マーカーが,すべての抗凝固薬で有用である.
著者
小林 洋一 菊嶋 修示 宮田 彰 三好 史人
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.20-36, 2010 (Released:2010-07-14)
参考文献数
10

ATP(アデノシン三リン酸)は多くの不整脈の診断と治療に用いられる.そのなかで,上室不整脈に対するATPの使い方としては,上室頻拍の停止,上室頻拍の鑑別診断,wide QRS頻拍の鑑別診断,上室頻拍に対するカテーテルアブレーションの評価,WPW症候群に対するカテーテルアブレーション後の副伝導路再発の予知,心房細動に対するカテーテルアブレーションの評価,などがあげられる.まず,ATPのヒトにおける上室の刺激伝導系への作用を概説し,次にATPの基本的な使い方を,さらには,臨床的な診断治療における有用性につき述べ,その他今まであまり使われていない使用方法にも触れる.Ca拮抗薬はすでに20年以上前から不整脈治療に用いられてきたが,本章では静注薬に的を絞り,ATP,ベラパミル,ジルチアゼムの使い分けについて解説する.
著者
熊谷 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.205-207, 2012 (Released:2015-07-01)
参考文献数
5

心房細動(AF)に対する薬物治療が奏効しない場合,カテーテルアブレーションによってAFを根治できる可能性がある.また近年は,AF停止効果が認められているピルシカイニドやニフェカラントとカテーテルアブレーションを組み合わせたhybrid therapyにより,高い洞調律維持率が得られるようになった.カテーテルアブレーションと抗不整脈薬によるhybrid therapyは,難治性AFに対する治療戦略のひとつとして有用であると考えられた.
著者
樗木 晶子
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.139-140, 2020-10-30 (Released:2020-11-19)
参考文献数
4
著者
柳(石原) 圭子
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.179-185, 2013 (Released:2015-07-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

マグネシウムイオン(Mg2+)は体内ではナトリウムイオン(Na+),細胞内ではカリウムイオン(K+)に次いで二番目に多い陽イオンであり,体内のMg2+不足は不整脈,虚血性心臓病,心不全などの心血管疾患の病態にかかわる可能性が古くから指摘されてきた.不整脈との関連では,硫酸マグネシウムの静脈内投与がQT延長に伴うトルサード型心室頻拍を抑制することが知られており,一方で高Mg2+血症は房室ブロックや心停止を引き起こす危険性がある.そのメカニズムには細胞外から心筋の膜電位やイオンチャネルへの作用以外に,何らかの経路でMg2+が細胞内に流入してイオンチャネル機能を修飾する可能性が考えられる.生理的濃度の細胞内Mg2+(Mg2+i)にはL型Ca2+チャネルを抑制し,緩徐活性型遅延整流性K+電流(IKs)や内向き整流K+電流(IK1)を増加させる作用がある.したがって,Mg2+流入が心室筋活動電位の持続時間を短縮して活動電位延長に伴う早期後脱分極,さらにはトルサード型心室頻拍を抑制する可能性がある.またMg2+iが誘発するIK1トランジェントは,急速活性型遅延整流性K+電流(IKr)が減少する際に,再分極予備能として早期後脱分極発生を抑制することがシミュレーションによって示されている.
著者
野上 昭彦
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.245-263, 2014 (Released:2015-07-27)
参考文献数
29
被引用文献数
1

不整脈原性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy : ARVC)は,右室の拡大と機能低下,および右室起源の心室不整脈を特徴とする心筋症である.遺伝的要因があり,心筋細胞間の接着に関与するデスモゾーム関連遺伝子や,Ca2+ハンドリング蛋白であるリアノジン受容体(RyR2)遺伝子の異常などが明らかになっている.2010年には,初期病変や保因者への診断感度を高くした新たな診断基準が示された.本疾患は若年者の突然死の原因となることもあるため,早期診断と心室不整脈および心不全に対する適切な治療が重要である.
著者
古川 哲史
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.24-28, 2012 (Released:2015-06-18)
参考文献数
3
著者
清水 祥子 加藤 孝和 飯田 みゆき 芦原 貴司
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.14-25, 2022-03-04 (Released:2022-03-17)
参考文献数
16

症例は83歳男性,高血圧症,脂肪肝で通院.初診時は53歳.30年間にわたる心電図経過の中で,5種類のQRS波形を呈した間欠性完全右脚ブロック,間欠性軸右方シフトを呈した.71歳時には洞調律で完全右脚ブロック型,QRS軸は+15°〔C15〕であったが,74歳時には洞調律で完全右脚ブロック型のまま,QRS軸が+60°と右方にシフトした〔C60〕.76歳時に心房細動が初発したが,〔C60〕は不変であった.78歳時,先行RR間隔が1.01秒以上では間欠性ながら〔C15〕に戻った.79歳時には,先行RR間隔が0.98秒以上では間欠性に不完全右脚ブロック型を呈したが,QRS軸は+60°〔I60〕のまま不変であった.80歳時には,〔C60〕,〔C15〕,不完全右脚ブロック型でQRS軸+15°〔I15〕の3種類のQRS波形を認め,83歳時には〔I60〕に加え,さらに先行RR 間隔が0.44~0.48秒と極端に短い状況では,QRS幅0.08秒でQRS軸+70°の過常期伝導と考えられる正常QRS波形〔N70〕を認めた.このように,QRS波形が右脚ブロック型のままでQRS幅とQRS軸のそれぞれが異なる臨界先行RR間隔で変化する現象は,右脚の伝導障害のみでは説明困難であり,ヒス束内縦解離によるtriple pathwayを想定することにより,はじめて説明可能と考えられた.
著者
石川 利之
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.340-345, 2012 (Released:2015-07-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1

デバイス植込み症例において,腎不全は手術合併症,生命予後に大きな影響を及ぼす.腎不全があるとデバイス植込みに伴う血腫・感染のリスクが増大し,腎障害の程度が増すに従って危険性が高まる.特に,末期腎疾患では出血性合併症・感染が高率にみられる.植込み型除細動器症例において,腎疾患のある群は腎疾患のない群と比べ,心不全の有病率は高く心不全による入院回数は多く,生存率は低値である.近年,QRS幅の延長した重症心不全症例に対する心臓再同期療法(CRT)の有効性が示されているが,腎不全はCRTを施行した心不全患者の予後規定因子である.しかし,腎不全においてもCRTのレスポンダーの予後は非腎不全例と変わらず,CRT後に腎機能低下の進行が抑制された症例では左室のリバースリモデリングがもたらされ,予後改善効果が期待できる.デバイス植込み手術に際して,人工透析のシャントはデバイス植込み部位の決定時に問題となる.デバイス植込み症例に高率に合併する心房細動は脳梗塞の頻度を高めるが,ワルファリンの使用は脳卒中の頻度を著しく増加させるので,原則禁忌とされる.ワルファリン使用下のデバイス植込み手術は血腫・感染の危険因子となるが,手術時のヘパリン置換は,それ以上にリスクが高いとされ,むしろワルファリン投与継続下の手術がすすめられている.
著者
三﨑 拓郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2018-03-20 (Released:2018-12-28)
参考文献数
9
著者
小林 義典
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.192-194, 2015 (Released:2016-03-11)
参考文献数
8
著者
丸山 徹 入江 圭 森山 祥平 深田 光敬
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.111-117, 2017-07-06 (Released:2018-04-16)
参考文献数
19

QRS波の終末部に記録されるJ波は,近年,特発性心室細動との関連が指摘されている.しかし,この波形が遅延脱分極波であるのか,早期再分極波であるのかについては,いまだ議論が多い.J波がアスリートに多く見られ,アスリートの心臓では乳頭筋の肥大や肉柱化,仮性腱索を認めやすいことから,J波とこれらの心内構造物との関連も指摘されている.乳頭筋や仮性腱索にはPurkinje線維が豊富で,心室筋への伝導が遅延して(PV delay),心室不整脈の基質となる場合がある.また,J波と心室遅延電位の関係性も指摘されており,これらはJ波が遅延脱分極成分であることを示唆する.一方,多くの基礎研究は,J波が早期再分極波であることを支持している.また,正常な貫壁性の心室興奮は,心内膜側から心外膜側へ向かうが,肉柱化した乳頭筋はこれを修飾して,反対側の心室壁が早期興奮症候群に近い興奮伝播を呈するようになる(ミニデルタ波).これは,早期興奮症候群でも認めやすいJ波は,早期に興奮を終了した部分から再分極も早期化して生じるためと考えられる.J波が脱分極成分であるか,再分極成分であるかを知るためには,これらの心内構造物の興奮伝播様式や心室全体の興奮との関連を明らかにすることが不可欠である.