著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.24-30, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
9

心臓活動,特に電気活動と収縮性の維持には,自律神経と液性因子がバランスよく関与することが不可欠である.このバランスが破綻した際には,不整脈をはじめとするさまざまな病的状態が惹起される.通常の心電図から得られる情報のなかで,交感神経活動や副交感神経活動を評価するのは容易ではないが,少なくともRR間隔とQT間隔は自律神経活動を顕著に反映した指標であるため,自律神経活動を評価することは,不整脈の診断や治療に有用である.交感神経活動が亢進し副交感神経活動が減弱すると,心拍数は上昇しQT間隔は短縮する.交感神経活動が減弱し副交感神経活動が亢進すると,徐脈となりQT間隔は延長する.しかしながら,交感神経活動の亢進と副交感神経活動の減弱は,必ずしも同一の効果を生じるものではなく,両神経終末の伝達物質および心筋イオンチャネルの作動形式の相違に起因する.さらに,血管平滑筋の収縮・弛緩による血圧変動は,心臓の圧受容器反射を介した自律神経機能の調節機序として,重要な働きを担う.したがって,自律神経機能に起因する不整脈を理解するには,自律神経による直接的な心筋の電気生理作用と循環反射を介した自律神経活動調節の両者を知ることが必要である.
著者
奥村 謙 目時 典文 萩井 譲士
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.292-296, 2011 (Released:2011-10-14)
参考文献数
8
被引用文献数
3 5

脳梗塞はラクナ梗塞(LI),アテローム血栓性脳梗塞(ATCI),心原性脳梗塞(塞栓)(CE)の3つに大別される.久山町の疫学データでは,LI患者の生命予後は時代とともに改善しているが,ATCIとCE患者の予後は不良のままで,特に1988年~2000年のCE患者の1年生存率は約50%と極めて不良であった.2005年10月~2008年1月に弘前脳卒中・リハビリテーションセンターに搬送されたLI(215例),ATCI(308例),CE(245例)患者の退院時の機能予後をmodified Rankin scaleで比較すると,0点,1点の機能良好例はLIが63%,ATCIが46%,CEが31%であった.一方,4点,5点の機能不良例および6点の死亡例はLIが18%,ATCIが37%,CEが52%で,CEがほかに比して明らかに不良であった.CE症例の75%で持続性(永続性)または発作性心房細動(AF)の合併が認められたが,CE発症後の機能予後に発作性AFと持続性AF間で差は認められなかった.血栓溶解療法は確かに脳梗塞の有用な治療法であるが,その適応となる例はCEの11%にすぎなかった.したがってAF例でCEのリスクを有する患者に対しては,CE発症予防のための方策が極めて重要と考えられた.
著者
春木 康伸 山日 千明 柴田 正慶 三浦 卓也 山川 暢子 福田 康司 櫻井 聖一郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.5-11, 2017 (Released:2018-02-11)
参考文献数
8
被引用文献数
1

心房細動(atrial fibrillation : AF)に対するカテーテルアブレーション(radiofrequency catheter ablation : RFCA)後のAF再発判定にホルター心電図が有用であるが,通常の検査期間は24時間であり,十分な判定が行えないこともある.そのため,当院では体外式ループ心電計を用いて判定を行っており,今回その有用性について検討した.2012年11月~2015年4月にAFに対するRFCAを施行し,治療後に体外式ループ心電計を1週間装着した210例を対象とした.装着初日(24時間)のAF検出率と全記録時間(1週間)のAF検出率の比較,日数別のAF検出数を比較した.装着初日のAF検出率は8.6%(18例),全記録時間のAF検出率は16.7%(35例)であった.日数別のAF検出数は,初日は18例,2日目は15例,3日目は13例,4日目は12例,5日目は10例,6日目は15例,7日目は13例であった.1週間の検査は24時間のみの検査に比しAFの検出率が約2倍となることから,RFCAの治療結果をより正確に判定し,適切な診断および治療を提供できるという点で有意義と思われた.AFに対するRFCA後の治療効果の判定には,24時間より長時間記録可能な体外式ループ心電計が有用であった.
著者
高橋 淳
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 = Electrocardiology (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.242-244, 2009-06-04
参考文献数
7

心房細動(AF)の根治を目的としたカテーテルアブレーション治療は,AFの多くが肺静脈内心筋起源の心房期外収縮を契機に発生するという発見以降,めざましい進歩を遂げてきた.肺静脈隔離アブレーションは,各肺静脈を個別に隔離する方法から始まったが,施行例増加とともに再発や合併症の問題が浮上してきた.そこでわれわれは,同側上下肺静脈の広範囲同時隔離法を考案し,良好な成績を収めた.その後,画像システムの進歩により左房や肺静脈の解剖的把握が可能となり,発作性AFに対するアブレーションは一般的な治療法となりつつある.一方,慢性AFに対しては各種アブレーション法が考案されており,成績も徐々に向上してきた.しかし,慢性AFでは焼灼範囲が広くなるため合併症リスクも高く,より安全性の高い手技の開発が望まれる.
著者
村川 裕二
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.17, no.Suppl1, pp.98-101, 1997-03-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
5
著者
児玉 逸雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.17, no.Suppl1, pp.89-91, 1997-03-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
8
著者
三田村 秀雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.135-141, 2013

心房細動(AF)治療の薬理学的ターゲットはいまだに不明瞭で,しかも変化するため,既存の抗不整脈薬の効果は十分とはいえない.それでも,孤立性発作性AFに対してはレート治療よりもリズム治療が有効で,特にNa<SUP>+</SUP>チャネル遮断薬が奏功することは確認されている.発作時に自身で止めるためのpill-in-the-pocket(頓服)療法も,一定の注意を払えば有用である.持続性AFのリズム治療は心房筋のリモデリングのために困難であるが,様々な工夫が試みられている.除細動後に洞調律が長く続くほどリモデリングからの回復が進むため,その期間だけ抗不整脈薬で時間稼ぎをしたり,再発時に抗不整脈薬を早期に投与することによって,抵抗性のAFを停止できる場合がある.また,アミオダロンやベプリジルなどには,薬理学的に電気的リモデリングを逆転させる作用があることも認められている.最近では,デバイスやアブレーションなど非薬物治療の効果を補助するために,抗不整脈薬が併用されることもある.
著者
吉村 道博
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.23, no.Suppl1, pp.31-36, 2003-03-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
4
著者
桑原 大志 高橋 淳 高橋 良英 中島 永美子 藤井 昭 久佐 茂樹 大久保 健史 藤野 紀之 野里 寿史 疋田 浩之 小堀 敦志 武居 明日美 佐藤 明 青沼 和隆
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-9, 2011 (Released:2011-08-02)
参考文献数
9

【目的】高齢者における心房細動(AF)カテーテルアブレーション治療の成績,手術合併症,長期予後を明らかにする.【対象】当院でAFカテーテルアブレーション治療を施行した75歳以上の102例(男性73例,発作性79例).【方法】肺静脈隔離と非肺静脈由来のAF起源焦点アブレーションを基本とし,必要に応じ左房後壁隔離などを追加した.【結果】肺静脈隔離などの一般的治療のみを施行された患者が95例(93%)であった.手術重大合併症が1例(心タンポナーデ1例)に発症した.アブレーション後937±598日の経過観察において,95例(93%)で洞調律が維持された.死亡,新規脳梗塞発症,心不全による入院の複合エンドポイント回避率は,アブレーション後洞調律を維持している患者で高値を示した.【結論】75歳以上のAF患者に対するカテーテルアブレーション治療は,安全に施行可能であり,その後の洞調律維持効果も十分高く,長期予後改善効果も認められた.
著者
長坂 昌人 本田 勝紀 松崎 健三
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.353-359, 1983-05-31 (Released:2010-09-09)
参考文献数
34

東大第1内科に入院して低Na血症を示した患者48例の心電図を, 血清Na濃度が≦130mEq/lの時とそれ以上の時との間で比較した。その際血清Na濃度と血清K濃度とは相関がなかった。同一患者での比較であるので血清Na濃度の変動の幅は小さかったが, 低Na血症時にRR間隔は短縮し, 第II誘導でのP波の幅が延長した。その他の測定値には有意の差がなかった。P幅の延長は心筋細胞電位において媒液Na濃度を低下させると興奮伝導速度が低下することに対応する。RR短縮は歩調取り細胞の自発興奮は低Na媒液で, 緩徐化または不変とされているのでそれからは説明できない。むしろ交感神経末端でのカテコラミソの取込みの抑制, 放出の増大の影響を考えるべきと思われた。このことは房室伝導においても低Na媒液は延長させるという成績に対し, 臨床心電図では不変か若しくは促進していることと関係あるかも知れない。なお心室内伝導に関しては脚ブロック型等の延長傾向を示す例が見られた。そのうちの1例は低Na血症の解消と共に脚ブロック型も改善した。
著者
村越 伸行 許 東洙 西連地 利己 五十嵐 都 入江 ふじこ 富沢 巧治 夛田 浩 関口 幸夫 山岸 良匡 磯 博康 山口 巖 大田 仁史 青沼 和隆
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.236-244, 2016

【目的】一般住民における上室期外収縮の長期予後については,いまだ不明である.本研究の目的は,一般住民健診における上室期外収縮の診断的意義を調べることである.【方法と結果】われわれは1993年の年次一般住民健診を受診し,2008年まで経過を追えた63,197名(平均年齢58.8±9.9歳,67.6%女性)を解析した.一次エンドポイントは平均14年のフォローアップ期間中の脳卒中死亡,心血管死亡,または全死亡,二次エンドポイントは心疾患あるいは心房細動(AF)のない解析対象者における最初のAFの発生とした.上室期外収縮のない解析対象者と比較して,上室期外収縮のある解析対象者のハザード比(95%信頼区間)は,脳卒中死亡:男性1.24(0.98~1.56),女性1.63(1.30~2.05),心血管死亡:男性1.22(1.04~1.44),女性1.48(1.25~1.74),全死亡:男性1.08(0.99~1.18),女性1.21(1.09~1.34)であった.AFはフォローアップ期間中386名(1.05/1,000人年)に発生した.ベースラインでの上室期外収縮の存在は,AF発症の有意な予測因子であった〔(ハザード比(95%信頼区間):男性4.87(3.61~6.57),女性3.87(2.69~5.57)〕.傾向スコアマッチング解析でも,上室期外収縮の存在が交絡因子の補正後もAFの発症および心血管死亡のリスク上昇に有意に関連していた.【結論】一般住民における12誘導心電図での上室期外収縮の存在は,AF発症の強い予測因子であり,心血管死亡リスクの上昇に関連している.
著者
長谷 弘記
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.321-326, 2012 (Released:2015-07-16)
参考文献数
23

血液透析患者は非慢性腎臓病患者に比較して心臓突然死の発症頻度が25~130倍高く,透析治療開始後12時間以内と中2日を空けた透析治療前12時間以内にピークを有する.その主な原因として血中K+濃度の急激な変化,虚血性心疾患や慢性うっ血性心不全を高率に合併すること,透析治療中に急速に減少する体液量などによってもたらされる交感神経系の持続的賦活化があげられる.また,植込み型除細動器(ICD)による予後改善効果は不十分であり,抗不整脈薬の使用も限定される.一方,心房細動(AF)は高齢透析患者の30%以上に合併する.非慢性腎臓病患者に合併したAFでは,血栓性合併症を予防するワルファリン治療が最も優先されるが,透析患者では脳出血のみならず脳梗塞発症リスクを増大させる.以上,透析患者に合併した不整脈を治療する際には,その特異性を理解する必要がある.
著者
深瀬 広幸
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.276-281, 2014 (Released:2015-07-27)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
中島 美紀
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.217-222, 2006-05-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

ニコチンは喫煙によって肺から吸収された後, 肝臓においてコチニンへと代謝され薬理作用を失う.この代謝反応を触媒しているのはCYP2A6である.ニコチンの代謝能には非常に大きな個人差が認められており, CYP2A6の遺伝子多型との関連が明らかになった.日本人では遺伝子全欠損型であるCYP2A64や, アミノ酸変異を伴うsingle nucleotide polymorphism (SNP) を有するCYP2A67やCYP2A610, またプロモータ領域にSNPを有するCYP2A69の変異型の遺伝子頻度が高く (2~20%) , これらの遺伝子型を組み合わせて2つもつ時, ニコチン代謝のpoor metabolizer (PM) となる.このようにニコチン代謝能の個人差の大部分はCYP2A6の遺伝子多型で説明できる.PMではニコチンの消失半減期が顕著に延長し, 体内からの消失が遅延する.CYP2A6の遺伝子多型は喫煙量および喫煙に関連する疾患リスクにかかわる可能性が考えられる.
著者
坂巻 文雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.91-96, 2002-03-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

アミオダロンによる副作用, 特に肺合併症は約5%前後にみられるとされ, ときとして致死的となることがあり, 本剤使用中の患者においては, 肺合併症への対策が重要である.アミオダロン投与患者においては自覚症状や画像検査の定期的チェック以外に肺拡散能検査 (DLco) や血清KL-6値等の間質性肺炎の活動性を示す指標の経過観察が行われるが, 本合併症のすべてを画像所見が出現する以前に予測することは現時点では困難である.アミオダロンによる肺合併症の病型は, おもに亜急性もしくは慢性に発症する型と, 急性に発症する型に分けられ, 経過や%DLco, 血清KL-6値をはじめとするモニタリング指標に違いがみられた.アミオダロンによる肺傷害には蓄積毒性による直接的傷害と炎症免疫学的機序による間接的傷害がある, どちらの機序が主体になるかで病型が異なってくる可能性があり, これが経過や治療反応性に違いを生じさせていることを理解することが重要と考えた.