著者
平井 真理
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.455-458, 2011 (Released:2015-06-10)
参考文献数
15
著者
藤木 明
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.373-386, 2014 (Released:2015-07-27)
参考文献数
19

房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)には典型的なslow-fast型以外に非典型とされる様々なタイプがあり,その多様性が指摘されている.房室伝導を構成するcompact nodeとposterior nodal extensionの性質が,不整脈の発生に関与する.周囲の心房筋とtransitional cellを介した接合は,anisotropyの強い心房筋の影響を受けやすい.心房筋との接合部は典型的なfast pathwayとslow pathway以外に,intermediate pathwayとよべる接合が両者の間に存在している.それらpathwayの組み合わせにより多様なAVNRT回路が成立するのであろう.それぞれの回路ごとにアブレーションに対する反応が異なるため,正確な診断が重要となる.また,心房筋との接合状態は房室伝導のconcealed conductionにも関与し,心房細動時の心室応答を規定する要因となる.社会の高齢化とともに,今後さらに多様なAVNRTに遭遇する機会が増えるものと考えられる.
著者
加藤 貴雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.28, no.Suppl2, pp.5-19, 2008-03-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

QT延長症候群には, 遺伝的素因を有する先天性QT延長症候群と, 種々の外因によって生じる後天性 (二次性) QT延長症候群がある、先天性QT延長症候群は, 遺伝子異常に基づいて詳細に分類され, 病型によってQTの延び方やT波の形態に特徴があり, それぞれの異常遺伝子によるさまざまなチャネル電流の変化との関係が明らかにされつつある.一方, 最近薬剤による後天性 (二次性) QT延長症候群がきわめて重要視されるようになってきた.抗不整脈薬のみならず, 多くの非循環器薬でも高率にQT延長をきたし, 一部Torsades de pointes型多形性心室頻拍による突然死例も報告されている.新たな薬剤開発に際しても, QT延長リスクの詳細な検討が義務付けられるようになってきた, このような状況から, より詳細で客観的なQT時間計測法, QT延長評価法の開発が急務で, 臨床の現場においてもこれに対応したさまざまな工夫がなされている.
著者
鎌倉 令 山田 優子 岡村 英夫 野田 崇 相庭 武司 里見 和浩 須山 和弘 清水 渉 相原 直彦 上野 和行 鎌倉 史郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-157, 2011 (Released:2011-08-02)
参考文献数
11
被引用文献数
4 2

ベプリジルの至適投与量,ならびに安全かつ有効な血中濃度域を見いだすために,不整脈に対してベプリジルを投与した112例(男性80例,女性32例,年齢64.3±12.5歳)の血中濃度を測定した.測定には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用い,臨床的特徴,心電図指標などを対比し,不整脈抑制効果と副作用の発生状況を評価した.平均投与量は128±34 mg/日,平均血中濃度は751±462ng/mlであり,200mg投与群では有意に高い血中濃度(1,093±721ng/ml)を示した.平均観察期間899日で,心房頻脈性不整脈109例中14例が洞調律を維持し,57例で自覚症状が改善した.改善例の血中濃度は非改善例に比べ有意に高かった(866±541ng/ml vs. 622±329ng/ml, p=0.006).副作用としてQTc延長>0.48秒を10例に,徐脈を6例に認めたが,それらの濃度は副作用のない群に比して有意に高かった(QTc延長vs.副作用なし : 1,086±471ng/ml, p=0.005,徐脈vs.副作用なし : 1,056±522ng/ml, p=0.03).Torsade de pointesを呈した例はなかった.【結論】日本人のベプリジル至適投与量は150mg/日以下,症状を改善し,かつ副作用が出現しにくい血中濃度域は600~1,000 ng/mlと考えられた.
著者
待井 一男 佐藤 信 竹沢 将俊 刈米 重夫 大和田 憲司 室井 秀一 小野 和男 束原 康文 木島 幹博 宮崎 吉弘 粟野 直行 樋口 利行
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.306-316, 1982

学校検診の心電図検査で異常を指摘され, 当科を受診した46名中44名に心電図異常が認められた。内訳は洞性徐脈及び洞性不整脈10例, 冠状静脈洞調律2例, 心室性期外収縮5例, 心室調律2列, 1度房室ブロック8列, 2度房室ブロック4例, 右脚ブロック12例, WPW症候群5例, 左室肥大1例, 右室肥大1例, 心筋傷害1例, 右胸心1例であった。精査の結果明らかな基礎疾患がみつかったのは, 右室肥大が見られた先天性肺動脈弁狭窄症1例と心筋障害が疑われた心尖部肥大型心筋症の計2例で, その他には不完全右脚ブロックを指摘された漏斗胸1例, 家族性WPW症候群の1例, 他の奇型合併を伴わない右胸心1例がみつかった。残りの39例では, 明らかな基礎疾患の存在は認められなかった。<BR>44名中右脚ブロック10例, 心肥大2例, 右胸心1例を除く31例の心電図異常例にマスターダブル負荷試験を行ったところ, 負荷陽性は心尖部肥大型心筋症1例だけであった。マスターダブル負荷直後, 心室性期外収縮4例, 2度房室ブロック1例, WPW症候群4例を除く23例では, 不整脈が消失したりQRS波型の正常化が見られた。<BR>マスターブル負荷試験は, 不整脈を有する学童のスクリーニングテストとして簡便かつ有用な方法である。
著者
志賀 剛
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.365-375, 2011 (Released:2012-02-10)
参考文献数
52

心臓突然死は心不全患者の死因の1/3を占め,そのほとんどが心室頻拍・心室細動(VT/VF)を原因とする.これら心室不整脈は有効な心室収縮を破綻することで循環血液の駆出を妨げ,心静止や無脈性電気活動に至る.心不全治療を行ううえで,心室不整脈に対する対策が必要である.VFおよび血行動態が破綻する持続性VTには,電気的除細動が最も有効である.電気的除細動抵抗性のVT/VFに対しては,リドカインに比し,アミオダロンあるいはニフェカラントの有用性が示されている.一方,予防薬としてはβ遮断薬が心不全患者の生命予後を改善するのみならず,心臓突然死をも予防することが示されている.心不全を対象とした大規模臨床試験から明らかになった心臓突然死を減少させるβ遮断薬は,メトプロロール,ビソプロロールおよびカルベジロールである.一方,アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の心臓突然死予防効果については,一定の見解がない.抗不整脈薬では,アミオダロンが数々の大規模臨床試験から突然死予防薬として位置付けされている.しかし,その効果には限界があり,ハイリスク例に対する心臓突然死予防としては植込み型除細動器(ICD)が有効とされる.ただし,ICDには不整脈予防効果がないため,アミオダロンにはICDへの付加治療としての役割もある.心室不整脈の抑制,VT周期の延長,上室不整脈の予防,房室伝導の抑制からICDショック作動の抑制,抗頻拍ペーシング成功率の改善,頻回作動の抑制ならびに不適切作動の回避が考えられる.近年,アミオダロンの心外性副作用の欠点を補う新しいIII群抗不整脈薬が開発され,その臨床応用が待たれている.
著者
有田 眞
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.18-23, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
7

2 0 0 0 OA QT短縮症候群

著者
清水 渉 小山 卓 山田 優子 岡村 英夫 野田 崇 里見 和浩 須山 和弘 相原 直彦 鎌倉 史郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.392-396, 2009 (Released:2010-05-21)
参考文献数
11

QT短縮症候群(SQTS)は,器質的心疾患をもたないにもかかわらずQT時間が修正QT(QTc)時間で300~320msec未満と短く,心室細動(VF)から突然死を発症する症候群である.当院で有症候性のSQTS症例を4例経験した.全例男性で,3例でVFが確認され,1例では失神発作を認めた.12誘導心電図上,安静時QTc時間は平均327msecと短縮しており,全例で後壁および/または下壁誘導でスラー型またはノッチ型のJ波(早期再分極)を認めた.加算平均心電図では全例で遅延電位は認めず,電気生理学的検査を施行した2例では,いずれも右室の有効不応期は短縮していたが,VFは誘発されなかった.薬物負荷試験では,クラスIII群のニフェカラントとクラスIa群のジソピラミドの静注,およびキニジンの内服でQTc時間の延長を認めた.先天性QT延長症候群の原因遺伝子(LQT1,2,3,5,6,7)上に変異は認めなかった.全例で植込み型除細動器(ICD)が植込まれ,1例で3ヵ月後にVFの再発を認めた.
著者
林 秀樹 内貴 乃生 宮本 証 川口 民郎 杉本 喜久 伊藤 誠 Joel Q. Xue 村上 義孝 堀江 稔
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.368-376, 2015 (Released:2015-07-27)
参考文献数
10

近年,早期再分極が致死性不整脈発生の新たな心電図所見として注目されている.しかし,早期再分極のすべてが致死性不整脈の原因になっているわけではなく,良性と悪性が存在する.両者の鑑別は極めて重要である.われわれは,病院を受診した症例から構成された心電図データベースを用いて,様々なコホートにおいて早期再分極と致死性不整脈の関係を調べた.早期再分極は,思春期に頻度が高いことが認められ,Brugada症候群・QT短縮症候群・デバイス植込みの症例において,早期再分極と致死性不整脈発生の関係が認められた.今後,早期再分極と治療効果の関連を検討する必要があると考えられた.
著者
秋山 俊雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.425-441, 2011 (Released:2012-02-10)
参考文献数
37
被引用文献数
5 2 8
著者
小田倉 弘典
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.127-133, 2011 (Released:2011-08-02)
参考文献数
20

心房細動(AF)診療においては,患者の意向や感情を重視した意思決定が重要である.傾聴と支援を主眼とするAF外来が,意思決定において有用であったので報告する.対象は過去6年間の当院初診AF患者212例である.AF外来実施前の103例(非実施群)と後の109例(実施群)を比較した.AF外来は,患者の解釈モデルを聞き取るチェックシートと,ベネフィット,リスクを記載した補助的説明文書を用い,医師と看護師により約60分の予約制で実施した.両群間でAFの種類,年齢,死亡率,脳梗塞,大出血の発症率に有意差はなかった.小出血(非実施群14%,実施群5%),ワルファリン拒否(非実施群11.3%,実施群5.2%),カテーテルアブレーション拒否(非実施群70%,実施群30%)は非実施群が有意に多かった(p<0.05).レートコントロールへの移行(非実施群33%,実施群62%)は実施群で有意に多く,3ヵ月後のAF特異的QOL評価法3は実施群(51±8点)が非実施群(43±8点)より良好であった(p<0.05).患者の不安や疑問に対し傾聴し支援することが,意思決定に有用と考えられる.
著者
中野 恵美 原田 智雄 脇本 博文 長田 圭三 岸 良示 松本 直樹 三宅 良彦
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.319-331, 2009 (Released:2010-05-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

【背景】非虚血性心疾患に合併するリエントリー性心室流出路起源心室頻拍(VT)における必須緩徐伝導路の存在,およびリエントリー回路については,不明な点が多い.【目的】エントレインメントマッピング法を用いて心室流出路起源VTのリエントリー回路を同定する.【方法】非虚血性心疾患に合併した心室流出路起源VT症例51例(男性26例,女性25例,平均年齢50.3±14.5歳)中,6例に8種類のリエントリー性心室流出路起源VTを認めたため,エントレインメントマッピング法による頻拍回路の検討を行った.【結果】エントレインメントマッピングを行った心室流出路93部位中52部位がリエントリー回路上であると診断された(大動脈バルサルバ洞6,左室流出路43,右室流出路3部位).リエントリー回路上これらの52部位は,exit(7),central-proximal(1),inner loop(19),outer loop(25)に分類された.VTは大動脈バルサルバ洞6部位中4部位で,心室流出路46部位中4部位でアブレーションにより停止した(p=0.0002).【結語】心室流出路起源VTのリエントリー回路が,大動脈バルサルバ洞領域と心室流出路に同定された.エントレインメントマッピング法は,リエントリー性心室流出路起源VTにおけるアブレーション至適部位決定に有用であった.
著者
加藤 貴雄
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.245-262, 2020-12-23 (Released:2020-12-26)
著者
岡村 祥央 中野 由紀子
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-65, 2023-04-04 (Released:2023-04-07)
参考文献数
12

QRS時間の延長は脚ブロックなどの心室内伝導障害だけでなく,副伝導路症候群や心室不整脈など,様々な病態で目にする.12誘導心電図のQRS波形を読み解くことで,心室内刺激伝導系の遅延伝導部位や副伝導路の局在,および心室不整脈の起源を評価することが可能であり,正常心電図を含めたQRS波形を理解することが重要である.さらに背後に隠れている基礎心疾患の鑑別も重要であり,特に心室内伝導障害や心室不整脈の原因にはサルコイドーシスのような早期治療介入により心筋障害が改善する疾患も存在する.QRS時間の延長は独立した予後不良因子であり,特に左脚ブロックに関しては心臓再同期療法などの治療介入により,積極的にQRS時間の短縮を目指す必要がある.また副伝導路症候群や心室不整脈に対しては,症例ごとにカテーテルアブレーションや植込み型除細動器の適応を検討すべきである.
著者
池田 隆徳
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.64-73, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
11

β遮断薬は,Na+あるいはK+チャネル遮断作用を有する狭義の抗不整脈薬に比べて,不整脈に対する作用効果は弱い.しかし,交感神経活動の緊張緩和や頻拍時の心拍数減少などの二次的な効果を有するため,不整脈治療に使用される頻度は高い.また,狭義の抗不整脈薬は強力な不整脈抑制作用を有する反面,心収縮力低下や危険性の高いほかの不整脈を惹起することがあり,この点においてもβ遮断薬は重篤な副作用の発現が比較的少なく,使用しやすい薬物といえる.さらに不整脈領域では,持続性心房細動・心房粗動のレートコントロール目的での使用頻度が最も高く,交感神経緊張が関与する心室不整脈の抑制や予防,心不全や心筋梗塞患者の心臓突然死の予防目的でも広く用いられている.β遮断薬には経口薬のみならず静注薬もあり,急性期の心室不整脈の管理においてなくてはならない薬物となっている.心室不整脈の薬物治療の中心はIII群抗不整脈薬であるが,それが無効である症例に対しては,β遮断薬が有効であることが多い.
著者
村田 広茂 清水 渉
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.170-175, 2023-10-31 (Released:2023-11-03)
参考文献数
6

心電図のT波は,P波―QRS波に続く第三の主要な波であり,心臓の電気的興奮からの回復(再分極)過程を表す波形である.T波を評価する際には,まず正常なT波の極性や振幅の基準値を理解しておく必要がある.次に,異常T波の形状を大まかに3パターンに分けて,つまり,高いT波,平低T波,陰性T波と,それぞれ心電図診断をする.さらに,二相性,二峰性(ノッチ型)などの幅の形態変化を考慮して,それぞれ特徴的な病態や疾患との関わりを理解し,鑑別診断することが大切である.高いT波として重要なのは,高カリウム血症に特徴的なテント状T波と,心筋梗塞超急性期のみに出現する超急性期T波(Hyper acute T wave)である.陰性T波のうち虚血性心疾患に関与するものが重要であり,心筋梗塞の亜急性期から再灌流後に出現する冠性T波(Coronary T wave),一過性の心筋虚血を反映し重度冠動脈疾患を示唆する陰性もしくは二相性T波(Wellens症候群)などがある.心肥大を示唆する,ストレイン型ST-T変化や心尖部肥大型心筋症などに見られる巨大陰性T波(Giant negative T wave)など,各疾患に特徴的なT波も報告されている.また,先天性QT延長症候群の遺伝子型ごとに特徴的なT波や,Brugada症候群のJ点(ST)上昇から引き続く陰性T波など,診断に直結する重要なT波もある.このように,正常なT波の形状とその成因を理解したうえで,臨床上重要な病態・疾患を中心にT波の異常との関係を総合的に理解することが重要である.
著者
加藤 貴雄 八島 正明 髙橋 尚彦 渡邉 英一 池田 隆徳 笠巻 祐二 住友 直方 植田 典浩 森田 宏 平岡 昌和
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.5-13, 2021-02-26 (Released:2021-03-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

【背景】心電図自動診断はすでに半世紀を超える歴史があり,健診や臨床の場で広く用いられている.各心電計メーカーの汎用心電計には,それぞれ最新の自動解析プログラムが搭載されているが,その診断精度は決して十分とはいえず,実臨床の場ではいまだに専門医によるオーバーリードが不可欠である.【目的】近年,臨床的意義が高まっている心房細動を取り上げ,不適切自動診断の現状とその問題点ならびに不適切診断をもたらした要因について検討することを目的とした.【方法】有志の集まりである「心電図自動診断を考える会」会員から収集した,匿名化心房細動関連不適切診断心電図計145例について,世話人間で詳細解析を行った.【結果】①一般健康診断(会員A)における不適切自動診断は,健診心電図連続50,000例中1,108例(2.2%)に見られ,そのうち心房細動関連は54例(約0.11%,誤診43例,読み落とし11例)であった.一方,循環器専門外来(会員B)の調査では,さまざまな不適切診断連続272例中51例(18.8%)で心房細動の読み落としが見られた.②心房細動を読み落とした計62例では,f波を洞性P波と誤認したのが42例(67.7%),異所性P波としたのが5例(8.1%),心房粗動としたのが8例(12.9%),心房波を読み取れなかったのが7例(11.3%)であった.③心房細動と誤診した計83例では,洞性P波を見落としたのが38例(45.8%),異所性P波を認識できなかったのが37例(44.6%),粗動波をf波と誤認したのが8例(9.6%)であった.【結論】心房細動の不適切診断に関しては,誤診が不要な再検査や専門医受診を招く一方,読み落としによる治療の遅れが脳梗塞や心不全の発症など,重大な合併症を引き起こす危険性をもたらす.波形計測や診断アルゴリズムのさらなる改良に加え,適切な心電図所見のビッグデータを用いた人工知能(AI)の導入など,より精度の高い自動診断システムの構築が求められる.