著者
河野 通仁 渥美 達也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.3, pp.625-632, 2022-03-10 (Released:2023-03-10)
参考文献数
10

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は自己抗体の産生,免疫複合体の沈着により腎臓,脳等多彩な臓器を傷害する代表的な自己免疫性疾患のひとつである.グルココルチコイドや免疫抑制薬の使用により生命予後は改善されたが,グルココルチコイドの副作用によりSLE患者の生活の質が低下することが問題視されている.2019年,我が国でSLE診療ガイドラインが作成され,SLEの治療目標は,健常者と何もかわらない社会的活動を行える状態を維持すること,つまり「社会的寛解の維持」と定義された.近年,シクロホスファミドに加え,ヒドロキシクロロキン,ミコフェノール酸モフェチル,ベリムマブ等の新たな薬剤が使用できるようになった.これに伴いSLEの疾患活動性を低下させるだけでなく,グルココルチコイドのさらなる減量,中止が可能となってきている.新たな薬剤の開発も進んでおり,SLE患者の予後ならびに生活の質のさらなる改善が期待される.
著者
長浜 正彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.917-925, 2022-05-10 (Released:2023-05-10)
参考文献数
6

電解質領域はエビデンスレベルの高い領域ではないため,慣習的に対応しないためにも病態生理の把握は重要である.低カリウム(K)血症に関しては病歴に加え,代謝性アルカローシスの有無,尿電解質の解釈,必要に応じてレニン,アルドステロン等のホルモン検査を行い診断する.治療の原則は原疾患の治療であるが,緊急性のある場合は医原性高K血症に気を付けながらK補充も行う.
著者
副田 圭祐 駒場 大峰
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.934-940, 2022-05-10 (Released:2023-05-10)
参考文献数
5

カルシウム(Ca)は骨組織を形成し,神経伝達や筋収縮,酵素活性等の生体の恒常性維持に深く関わることから,主に副甲状腺ホルモンと活性型ビタミンDによって厳密に調整されている.マグネシウム(Mg)は通常の生化学検査には含まれないことも多いが,Caと同様に生体の恒常性維持に深く関わり,他の電解質異常に合併することも多い.本稿では血清Ca・Mg値の異常について,その機序と症候,代表的な病態について概説する.
著者
永井 良三
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.5, pp.1007-1014, 2019-05-10 (Released:2020-05-10)
参考文献数
10

医学には多くの理論があるが,医療現場では当てはまらないことが多い.人間の遺伝形質や生活習慣は多様であり,診断や治療に対する反応には「バラつき」がある.従って,医療の評価は「たまたま」との戦いである.「バラツキ」と「たまたま」を制御するために,統計医学やEBM(evidence-based medicine)が導入されたが,エビデンスレベルの最も高い無作為化介入試験の実施は容易でない.そこで,次善の策ではあるが,医療現場のビッグデータが注目されるようになった.既にビッグデータによる現実の可視化や事前条件を用いた予測が広く利用されている.さらに,ベイズ推計や機械学習を用いた診断システムの開発も始まった.しかし,ビッグデータ解析は基本的に観察研究であり,ベイズ推計には主観も入る.そのため,注意すべき点も多い.本稿では,医学研究におけるビッグデータ研究の位置付け及び事例を紹介する.
著者
加藤 康幸
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.11, pp.2323-2326, 2020-11-10 (Released:2021-11-10)
参考文献数
4

新興ウイルス感染症が発生した場合,医療機関には,院内感染を防止しながら,その時点で最善と考えられる医療を患者に提供する役割がある.「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」は,2020年3月に公表されて以降,改訂されてきた.行政機関と医療機関をつなぐコミュニケーションのツールとしても一定の役割を果たしたと考えられる.
著者
竹内 洋平 溝口 仁志 尾原 明子 中原 麻衣 大倉 亮一 南木 伸基 岡内 泰弘 中尾 克之 井上 利彦 徳田 道昭
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.1, pp.88-94, 2018-01-10 (Released:2019-01-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

43歳,女性の不明熱患者.持続する発熱に加え,慢性蕁麻疹と無菌性・非腫瘍性の多発する骨髄炎を認めた.さらにIgM-κ型のM蛋白が検出され,自己炎症症候群であるSchnitzler症候群と診断した.トシリズマブによる治療にて上記の症状は消失し,以後,寛解を維持している.しかし,長期的にはリンパ増殖性疾患を発症することがあるため,注意深い観察が必要である.
著者
山内 基雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.4, pp.688-693, 2019-04-10 (Released:2020-04-10)
参考文献数
10

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)の有病率は肥満人口の増加に伴い増加しており,OSASはcommon diseaseとして広く認知されるようになった.その背景として,OSASが心臓血管疾患を惹起して生命予後を悪化させることが明らかにされてきたことが挙げられる.しかしながら,そのメカニズムは,生活習慣病とOSASに共通するリスク因子である肥満が存在するため,複雑にならざるを得ない.そこで,本稿では,OSASと生活習慣病を双方の視点から,両者の関連性を概説したい.
著者
金子 猛
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.2132-2136, 2020-10-10 (Released:2021-10-10)
参考文献数
11

副鼻腔気管支症候群は「慢性・反復性の好中球性気道炎症を上気道と下気道に合併した病態」と定義されており,慢性副鼻腔炎に下気道の炎症性疾患である慢性気管支炎,気管支拡張症あるいはびまん性汎細気管支炎が合併した病態である.長引く咳嗽の鑑別診断として重要であり,特に容易に原因が特定できない湿性咳嗽の場合は,第一に考慮すべき病態である.治療の基本は,マクロライド系抗菌薬少量長期療法である.
著者
常岡 有希子 長谷川 稜 吉田(田宮) 彩 佐原 利典 横田 和久 野原 千洋子 花岡 希 藤本 嗣人 中村(内山) ふくみ
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.110, no.8, pp.1656-1663, 2021-08-10 (Released:2022-08-10)
参考文献数
10

32歳,男性.夏季に近位筋優位の筋痛,筋力低下,握力低下,CK(creatine kinase)高値を認め,対症療法で自然軽快した.発症1週前,同居の娘に上気道症状があったとの病歴を聴取し,パレコウイルスA3型(Parechovirus A3:PeV-A3)感染症を疑った.咽頭ぬぐい液からPeV-A3遺伝子が検出され,PeV-A3感染による流行性筋痛症と確定診断した.本症は夏季に乳幼児のPeV-A3流行に伴って成人に発生する.特徴的な筋症状から本症を疑い,詳細な病歴,特にsick contactの聴取が重要である.
著者
山岡 正弥 下村 伊一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.710-716, 2015-04-10 (Released:2016-04-10)
参考文献数
10

ヒトを含む哺乳類では時計遺伝子により生体リズムが形成されている.それらの生体リズム障害を引き起こす代表例であるシフトワーカーでは肥満,代謝異常の発症リスクを増加させることが報告されている.またノックアウトマウスを用いた検討でも時計遺伝子異常と代謝異常の関連が報告されている.生体リズム障害とくに時計遺伝子異常がどのようなメカニズムで肥満症の病態に悪影響を及ぼしているのかは更なる調査が必要であるが,肥満,代謝異常合併者への対策には,生体リズムの改善といった観点からもアプローチが行われるべきである.
著者
二木 芳人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.1085-1091, 2012 (Released:2013-05-10)
参考文献数
4
被引用文献数
1

MRSAは院内感染の最も重要な病原微生物の一つであり,その感染症発症のコントロールは院内感染防止対策の指標であると同時に,感染発症時には的確な診断と治療が求められる.近年,市中感染型MRSAの増加傾向,抗MRSA薬の耐性化,新しい治療薬の登場など,本領域には話題も多い.MRSA感染症も複雑化・難治化する中で,耐性化と同時に選択肢も増えた今日,それぞれの治療薬の特性を十分理解し,個々の患者状態や感染症に応じた治療計画を考えることが求められる.

1 0 0 0 OA IV.咳喘息

著者
斎藤 純平
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.2116-2123, 2020-10-10 (Released:2021-10-10)
参考文献数
14

咳喘息は喘息の亜型であり,「喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽が唯一の症状,呼吸機能ほぼ正常,気道過敏性軽度亢進,気管支拡張薬が有効な疾患」と定義される.多くは好酸球性気道炎症を伴い,典型的喘息と同様に気道リモデリングも生じ得る.診断に際し,気管支拡張薬の有効性を確認することが重要で,気道過敏性亢進,呼気NO(nitric oxide)上昇,末血/喀痰好酸球増多は診断の参考となる.治療は,吸入ステロイド薬をベースに,必要に応じて,気管支拡張薬やロイコトリエン受容体拮抗薬を併用する.
著者
彦惣 俊吾 坂田 泰史
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.221-227, 2022-02-10 (Released:2023-02-10)
参考文献数
10

ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬・ARB(angiotensin receptor blocker)は,長らく慢性心不全治療薬の中心的役割を担ってきた.近年,ナトリウム利尿ペプチド分解酵素阻害作用を併せ持つARNI(angiotensin receptor neprilysin inhibitor)が,ACE阻害薬以上の有効性を有することが示され,国内外のガイドラインにおいて,ACE阻害薬・ARBでは効果不十分な症例においてARNIへの切り替えが推奨されるようになった.どのような症例が切り替えの対象となるのか,及び切り替えの際の留意点等について解説する.
著者
原田 斉子 冨田 稔 木村 暁夫 香村 彰宏 林 祐一 保住 功 兼村 信宏 森脇 久隆 祖父江 元 犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.157-160, 2012 (Released:2013-04-11)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

Neurolymphomatosisは脳神経を含む末梢神経,神経根あるいは神経叢へのリンパ腫の浸潤を呈する,臨床的には稀な疾患とされている1).今回,寛解導入後に末梢神経障害をきたし,神経生検によりneurolymphomatosisと診断し得たB cell lymphomaの2例を経験した.悪性リンパ腫の寛解導入後であっても末梢神経障害を呈した場合には,neurolymphomatosisを鑑別に入れ,神経生検を考慮する必要があると考えられた.
著者
浅野 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.2067-2073, 2018-10-10 (Released:2019-10-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

喘息において,気管支平滑筋収縮や気道過敏性の背景に気道炎症が存在するという病態の理解が1990年代以降の喘息治療とその効果を大きく変革した.さらに,2000年代に入ると,吸入ステロイド薬ではコントロールできない重症喘息の病態解明が精力的に行われ,表現型解析,2型自然リンパ球の同定,抗体医薬の臨床応用とそれによる2型免疫応答に対する再評価等が行われ,喘息の病態理解はさらに深まっている.
著者
玉置 淳
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.6, pp.1412-1418, 2013-06-10 (Released:2014-06-10)
参考文献数
10

アレルギー性鼻炎と肥満は,いずれも喘息のリスクファクターとして注目されている.前者は好酸球性アレルギー性炎症という面で喘息と類似の病態であり,両疾患は相互に影響しone airway,one diseaseという概念で理解される.後者は肺気量の変化,身体活動性の低下,種々のアディポカインに起因する気道炎症の増悪・気道過敏性亢進などを介して,喘息の重症化および難治化に重要な役割を果たしている.
著者
馬場 康彦 井上 展聡 山田 達夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.8, pp.1652-1656, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
5

薬剤性過敏症症候群(DIHS)は薬物アレルギーとウイルス感染症が複合的に関与し多臓器障害を来たす疾患である.DIHSの神経障害として辺縁系脳炎を呈する症例が報告されており,human herpes virus 6の再活性化が症状の発現に関与していると考えられている.DIHSに伴う中枢神経障害は時に重篤な経過を示す場合があり,原因薬剤の中止とステロイドの全身投与を早期に行う必要がある.
著者
上村 昌寛 小野寺 理
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.3, pp.582-586, 2019-03-10 (Released:2020-03-10)
参考文献数
10

脳細胞は,神経活動を維持するためにも老廃物を効率的に処理する必要性がある.しかし,中枢神経系には解剖学的に同定されたリンパ管は認められず,どのように老廃物を除去しているのかについては十分にはわかっていなかった.近年の研究で,脳脊髄液は,穿通枝動脈の血管周囲腔からアストロサイトが形成した勾配により細胞間隙内に移動し,その後,静脈周囲腔を伝って中枢神経外から排泄されることが明らかになった.この排泄機構は,gliaが介在したリンパ管システムとして,glymphatic systemと呼ばれる.このglymphatic systemは老廃物の処理にも関与する.さらに,glymphatic systemの機能不全がAlzheimer型認知症等の神経変性疾患の発症に深く関わっている可能性がある.glymphatic systemは脳小血管と密接に関連しており,脳血管機能の低下がglymphatic systemの機能低下を引き起こし,Alzheimer型認知症等の神経変性疾患の発症に関連する可能性がある.

1 0 0 0 OA IV.呼吸器系

著者
近藤 哲理
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.2435-2441, 2000-12-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
9

身体所見の診断率は一般的な呼吸器疾患で70%程度はあるが,身体所見は日常的な疾患を迅速かつ簡便に推定する技術と考えるべきである.これまでも多くの診察法の解説があるので,本稿では,頸部リンパ節腫脹での亜急性壊死性リンパ節炎, auscultatory percussionの手法,疾患による水泡音の発生時相の相異, COPDにおける身体所見と肺機能の相関などを紹介した.身体所見は地味であるが,臨床医として不可欠な技術である.