著者
宮中 文子 松岡 知子 五十嵐 稔子 本庄 英雄 北脇 城
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.63-72, 2008
被引用文献数
1

女性の妊娠・出産・育児期において生じるストレスの度合いを,客観的に評価するため尿中ストレス関連物質を測定した.研究方法は,妊娠経過に異常なく,経膣自然分娩した初妊婦8人について,妊娠35〜36週,産後4〜6日,産後3〜4週の3つの時期に,ストレスに関する質問紙調査と尿中ストレス関連物質の測定を行い解析した.その結果,5事例における6場面のストレスの内容は,出産や育児への不安,出産体験の不満,児のリスクへの不安,育児上の不安などの情動であった.その6場面でストレスに一致して,尿中アドレナリン値,ノルアドレナリン値,ドーパミン値,コルチゾール値,17-OHCS,17-KS-Sのすべてで高値が認められたのは2場面で,アドレナリン値,ノルアドレナリン値を含む5項目の高値がみられたのは1場面,4項目の高値は3場面でみられた.出産への不安がストレスだった2事例ではストレスがなくなった出産後も高値を示したことから,生理的側面での,ストレスからの修復が遅れている可能性が考えられた.これらのことから,尿中アドレナリン値とノルアドレナリン値については,妊娠・出産・育児期のストレスを評価できることが示唆された.その他の尿中ストレス関連物質との関係についてはこの事例のみでは明らかにならなかった.今後,事例を重ねて検討していきたい.
著者
松木 俊二 菅原 英世 坂本 真佐哉 田中 雄一郎 楢原 久司 宮川 勇生 中野 重行
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.62-68, 1999

不妊症経過中に発症したうつ病2症例の睡眠障害に対して,腕時計型活動性モニタリング(ACTIWATCH^<[○!R]>)と睡眠チェックリスト,睡眠日記を併用して評価を行った.症例1は27歳主婦.2度の卵管妊娠(両側卵管摘出)の既往あり.2度目の退院後にパニック障害とうつ病を発症した.ACTIWATCH^<[○!R]>は睡眠薬離脱期に2週間装着した.症例2は35歳主婦.両側卵管閉塞による続発性不妊症(体外受精-胚移植による1児あり).ACTIWATCH^<[○!R]>は睡眠薬導入期に4週間装着した.睡眠-覚醒の客観的評価(ACTIWATCH^<[○!R]>)と主観的評価(チェックリスト,日記)は必ずしも符合しなかった.即ち,患者自身が眠っていると感じた時間帯にACTIWATCH^<[○!R]>で評価した身体活動量は増加し,患者自身が眠れないと感じた時間帯にその活動量は低下していた.睡眠障害患者の睡眠の評価には自覚症状のみでなくACTIWATCH^<[○!R]>や睡眠チェックリスト,睡眠日記を用いた客観的指標の有用な場合があることが示唆された.
著者
杉本 敬子 砂川 洋子 河野 伸造
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.144-153, 2005

本研究の目的は, 中高年女性の主観的睡眠評価とそれに影響する関連要因を明らかにすることである.住民健診において調査協力の得られた342名の女性を対象として, ピッツバーグ睡眠質問票(The Pittsburgh Sleep Quality Index : PSQI)を含む質問紙による調査を行った.その中で, 回答が有効であった292名(有効回答率: 85.4%, 年齢: 30〜80(平均51.2)歳)を, Pre更年期群(40歳未満), 閉経前更年期群(閉経前で40歳以上60歳未満), 閉経中更年期群(閉経中で40歳以上60歳未満), 閉経後更年期群(閉経後で40歳以上60歳未満), Post更年期群(60歳以上65歳未満), 老年期群(65歳以上)の6群に分類し, 群間による比較を行ない以下の結果を得た.老年期群は, 最も要介護家族を抱えていたが, 昼寝を習慣としていた.心身の自覚症状総合得点は閉経中更年期群が最も高かった.睡眠の量的面において, 「実睡眠時間」は, 閉経後更年期群(平均6.0時間), 閉経中更年期群(平均6.2時間)の順に短く, PSQI要素の「睡眠時間」においても閉経後更年期群(p<.01)と閉経中更年期群(p<.05)が, 老年期群とPre更年期群より, 有意に得点が高かった.一方, 睡眠の質的面において, PSQI総合得点は閉経中更年期群・閉経後更年期群の順に高く, PSQI要素得点は, 「睡眠の質」「入眠時間」「睡眠効率」「睡眠困難」「日中覚醒困難」においては閉経中更年期群が, 「眠剤の使用」においては老年期群が, 最も高かった.さらに, 睡眠評価に関連する要因においては, 精神神経系症状を中心とする「心身の自覚症状」が, 最も強い関連要因として抽出された.これらの結果は, 更年期女性が, 量と質の両面において, 睡眠の悪化を強く自覚することと, 中高年女性の心身の自覚症状が主観的な睡眠評価と強く関連することを示唆する.
著者
藤林 真美 齋藤 雅人 大田 香織 松本 珠希 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.86-93, 2008
被引用文献数
1

女性の就業率が増加し,多忙で不規則な生活を強いられることと相俟って,簡便で即効性の保湿・栄養効果があり,尚且つ爽快感や心地よさなどの心理的作用を期待できるスキンケアが求められている.本研究では,化粧水などの液状製剤を含浸させたシート型コスメティック・フェイシャルマスクによる心身のリラクセーション効果を自律神経活動の観点から評価することを試みた.14名の健康な若年女性(年齢21.2±0.8歳)を対象に,フェイシャルマスクを15分間装着させ,マスクの使用前・使用中・使用後の心電図を胸部CM_5誘導より測定した.自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した.また,フェイシャルマスク使用前後に,Visual Analog Scale(VAS法)を用いて主観的心理反応(さわやかさ,うるおい感)も計測した.その結果,マスク使用前と比較して,心拍数は,使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)に有意に低下した.総自律神経活動は,使用中に有意に増加(p<0.05),副交感神経活動については使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)ともに顕著な増加を示した.また使用感スコアは,フェイシャルマスク使用後,さわやかさ(p<0.01),うるおい感(p<0.01)ともに顕著な上昇を認めた.これらの結果から,フェイシャルマスクの総合的な質感が,直接的あるいは間接的に自律神経系に作用し,副交感神経活動の亢進により,心拍数を減少させたことが考えられた.また短時間のフェイシャルマスクの装着により,肌のうるおい感と心理的な爽快感を生み出すことから,心身のリラクセーション効果も得られることが推察された.
著者
我部山 キヨ子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.212-219, 2002
被引用文献数
1

本調査の目的は,産後2年間の自己概念の変化を調査し,出産・育児との関連性を分析することである.1.対象と方法:対象は京都及び大阪府にある総合病院3施設で出産した女性440人である.調査方法は,産後の4時期(出産直後・5日後・1ヵ月後・1〜2年後)に自己概念(RosenbergのSE, DreyerのISRO)と出産・育児因子を質問紙にて調べた.2.結果:1)有効回答195人(44.3%),平均年齢29.0±3.7歳,2)積極的・消極的自尊感情は,4時期ともに初産婦は経産婦よりも高値で,特に積極的自尊感情は全時期で有意に高値を示した.3)初産婦・経産婦ともに家庭内労働・育児やキャリアの葛藤・家庭外労働の3つの性役割は,1ヵ月後よりも1〜2年後に高値を示し,特に家庭外労働の性役割は有意に高値となった.4)不良な自尊感情に影響した出産因子は,出産が重い部(経産婦)と出産に不満部(初産婦)であった.良好な自尊感情に影響した育児因子は,育児が楽しい部と夫の育児参加部(経産婦)および育児の心配や不安がない群(初産・経産)であった.5)有職群は「育児・キャリアの葛藤」(初産・経産)と,「家庭外労働」(経産婦)の性役割が有意に高値で,非伝統的傾向を示した.経産婦の出産体験満足部は「家庭内労働」の得点が有意に低値,母乳育児群は「育児・キャリアの葛藤」の得点が有意に高かった.以上,自尊感情は出産の軽重・満足や育児態と,性役割は職業・出産の満足及び母乳育児と深く関連していることが示唆された.
著者
駒田 陽子 廣瀬 一浩 白川 修一郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.87-94, 2002
被引用文献数
2

妊娠随伴睡眠障害は睡眠障害国際分類によれば,妊娠中に生じる不眠あるいは過眠と定義され,一般に過眠で始まり重度の不眠へ進展することが多いとされる.本研究では,妊婦の睡眠習慣,睡眠健康や睡眠障害の可能性についての実態を把握することを目的として,研究内容を十分に説明し同意の得られた,妊娠初期,中期,末期の妊婦364名(29.7±4.2歳)および同一地域に居住する非妊婦194名(34.0±4.2歳)を対象とした探索的調査を行った.睡眠習慣に関しては,就床時刻には妊婦と非妊婦で差はみられなかったが,起床時刻は妊婦の方が,どの妊娠期においても非妊婦に比べて有意に遅延していた.また睡眠時間も同様に妊婦で有意に延長していた.睡眠健康に関しては,妊婦は睡眠維持が悪化しており入眠困難性を有していた.むずむず脚症候群・周期性四肢運動障害の可能性のある者は妊娠中期で発生頻度が9.0%と高かったが,海外での報告と比べかなりの低値であった.睡眠時歯ぎしりは妊娠初期で発生頻度が高く,夜間下肢こむらがえりは妊娠各期で発生頻度が対照群に比して高かった.悪阻の症状が重度の者は睡眠維持,入眠困難性,起床困難性が悪化していた.本研究から,心理的不安の強い妊娠初期に,悪阻などにより睡眠が障害され,また妊娠期を通じてむずむず脚症候群や周期性四肢運動障害など入眠を障害する睡眠随伴疾患が発生している可能性のあることが判明した.
著者
今井 千鶴子 今井 正司 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.474-480, 2007
被引用文献数
1

本研究の目的は,一般大学生を対象として,日常的に経験する痛みに関する実態把握を性差の観点から検討することであった.対象者は,408名(男性196名,平均年齢2128±1.76歳;女性212名,平均年齢20.77±1.49歳)であり,質問内容は,過去1カ月における「痛み経験の有無」「痛みの部位(複数回答可)」「最も強い痛みの部位と痛みの主観的評価」「痛みが原因による鎮痛薬服用の有無(市販薬,あるいは医師からの処方薬)」「痛みが原因による通院の有無」「痛みによる日常生活への支障の程度」「痛みへの対処方略」であった.調査の結果,男女ともに,6割以上が日常的な痛みを経験していることが確認された.また,わが国の青年期における痛み経験の性差はみられにくいことが示された.さらに,痛みに対して破局的に対処してしまう傾向と主観的な痛みとの関連が示されたことから,従来の身体的対処(薬物療法)に加えて,心理的対処(痛みに対する心理教育や認知の変容)を行うことが,青年期の痛みに対するマネジメントを行う際に有用な技法になることが示唆された.
著者
玉田 太朗
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.192-199, 2004

ナラティヴ・ベイスト・メディスン(以下,NBM)は,10年ほど前から本邦の医療界にも普及してきたが,その特徴的な主張の一つは「患者の病い」と「病いに対する患者の対処行動」を,患者の人生と生活世界における,より大きな物語の中で展開する「物語り」であるとみなすことにより患者を全人的に診ようということである.表題は,柳澤桂子氏の同名の著書(中公文庫1988)からお借りしたものであるが,この本は彼女が30年余にわたって原因不明の腹痛発作に悩まされ,生き甲斐としていた研究からの引退も余儀なくされ,介護病院のお世話になるまでの病気の経過と医師の対応ならびに家庭的・社会的な活動性を失っていく経過に対する患者の認知と心理的反応,思考と対処行動を克明に述べたもので,まさにひとりのすぐれた生物科学者が述べた,ほとんど一生にわたる「病の物語」である.この物語の結論として彼女は,診断がつかないという不安以上に,彼女を悩ませたのは「病気そのものの苦しみよりも,医療から受けた苦しみの方がずっと大きかった」,「原因が分からないために,すべては私の気のせいであるとされたり,あるいは私が人間として未熟であり,自己中心的であるとされた.多くの場合根拠となるデータもなしに,安易にそのように結論されたことが残念である.」と記している.これはどの苦しみを患者さんに与えた原因は,医療者がひたすら苦痛の原因をbiomedicalに追求する余り,その苦痛が患者さんの人生全体に及ぼす影響を考慮し,生物的・社会心理的な視点からの全人的な対応を欠いたことがある.そのためこの「病の物語」は,ほとんど患者さんの独白である. NBMでは「治療者と患者の間で取り交わされる(あるいは演じられる)対話を,治療の重要な一部であるとみなす」(同上)とされているが,その対話はほとんどなかった.
著者
石 明寛 石 政道 吉田 耕治 柏村 正道
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.185-189, 2000

目的:生殖年齢婦人の長期大量飲酒によって続発性無月経,性機能障害,不妊など起きることが報告されている.今回,長期間の不妊治療でも妊娠できないことを悩んでアルコール依存症となった2症例を報告する.症例1:36歳の主婦で0妊,32歳で結婚,夫婦は円満で,結婚2年目から夫の晩酌の相手をして,少量飲酒を始めた.近医で不妊治療を受けても2年間妊娠せず,不安と淋しさから飲酒を始めるようになった.平成5年より月経不順となり,その後続発性無月経となったため当科に受診となった.禁酒と当科での診療約1年2ヵ月後,妊娠に至った.症例2:29歳の主婦 0妊,20歳で結婚.仕事を継続していた.結婚して3年経過しても,妊娠しないため,治療に専念する目的で会社を辞めたが,2年経過しても子供に恵まれなかったことを契機として,飲酒を始めようになった.28歳時,肝機能異常及び無月経などを呈し,近医を経て当科紹介となった.現在禁酒及び不妊治療を受けている.考察:女性がストレスを感じた時のfright反応としての行為は買い物,やけ食い,飲酒などが多い.不妊であることは,女性にとって強いストレスのひとつである.今回の2例の患者はfright反応として飲酒に走ったものである.不妊治療のときには,患者の飲酒歴の検討や心理教育も大切と思われる.