著者
福元 崇真 乾 明夫 田中 洋 野添 新一
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.308-315, 2016

発達障害は,従来遺伝と環境という二つの要因が相互に関係して発症すると考えられ,特に遺伝要因が重要視されてきた.しかし近年,海外を初め,我が国の調査では発達障害,あるいは発達障害の疑われる子どもの増加が報告されている.遺伝要因を考慮すれば一定になるはずの発達障害の増加が指摘されていることから,遺伝要因を重要視する見方は徐々に弱まっており,代わりに最近,調査・報告による環境要因の重要性が見直されつつある.本研究の目的は環境要因に注目し,発達障害および発達障害様相を持つ児童の母親(以下,障害あり群)と健常児童の母親(以下,障害なし群)を対象に後方視的質問紙調査を行い,妊娠後期(28週目)と出産後1年半での養育環境における母親の育児ストレスと児童の抱える発達障害様相との関連性を明らかにすることである.調査には,養育者が育児中に生じる心の状態を尋ねる「育児不安尺度(中核的育児不安,育児時間)」と,養育者の育児環境について尋ねる「育児ソーシャルサポート尺度(精神的サポート)」を使用し,有効回答数は154名であった.養育している児童の診断の有無,育児支援関連施設の利用経験の有無などによって選定し,障害あり群47名(41.4±6.5歳),障害なし群107名(40.4±4.9歳)の2つの群の妊娠後期と出産後1年半における育児不安・育児ソーシャルサポートの得点についてt検定,2要因分散分析を行った.その結果,1)妊娠後期において,障害あり群の精神的サポート得点は有意に低く(p<0.05),2)出産後1年半において,障害あり群の中核的育児不安得点は有意に高かった(p<0.05).今回の結果から,妊娠後期における配偶者(夫)からの育児に関する妊婦(妻)への精神的サポートの低さが,胎児の養育環境を介して発達障害ないし発達障害を呈する症例に何らかの影響を与えていた可能性が示唆された.
著者
照屋 典子 伊波 華 砂川 洋子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.87-93, 2017

<p>本研究の目的は,手術を受けた初発乳がん患者を対象に,セルフケア能力とその関連要因について明らかにすることである.A県内2総合病院で乳がん手術を受け,外来通院中の女性111名を対象として,自記式質問紙調査を行った.調査内容は,基本属性 (年齢,罹病期間,術式,化学療法,内分泌療法,放射線療法の有無,配偶者,子供の有無,仕事,趣味の有無,治療に対する満足度) 11項目とセルフケア能力を査定する本庄のセルフケア能力を査定する質問紙 (Self-Care Agency Questionnaire,以下SCAQ) の29項目である.対象者111名中有効回答が得られた81名の分析を行った (有効回答率73.0%) .対象の平均年齢は56.4歳であった.各個人特性の群別にSCAQの比較を行った結果,罹病期間,術式,放射線療法,趣味,治療に対する満足度の項目で有意差が認められた.そこで,セルフケア能力に関連する要因を探索するために,これら5項目を独立変数,SCAQ得点の低群,高群 (カットオフ値133点) を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.その結果,SCAQに有意に関連する変数として,趣味の有無 (p<0.05,オッズ比2.857) と治療に対する満足度 (p<0.01,オッズ比9.726) が抽出され (χ<sup>2</sup>検定 p<0.01) ,乳がん患者のセルフケア能力の高低には,趣味の有無,治療に対する満足度が有意に関連していたことが明らかとなった.このことから,初発乳がん患者のセルフケア能力を促進するためには,趣味や楽しみを持つことを勧める支援が効果的であり,治療に対して満足度が抱けるような療養環境を提供する重要性が示唆された.</p>
著者
横瀬 宏美 鈴木 正泰 金野 倫子 高橋 栄 石原 金由 土井 由利子 内山 真
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.310-321, 2015

背景:月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:以下PMDD)は,黄体期後期に抑うつ症状が出現し,仕事や学業,対人関係などにおける生活上の問題をきたす病態である.PMDDは月経のある女性の3〜8%にみられ,様々な研究が行われてきたが詳細な病態生理学的機序については不明な点が多い.方法:一女子大学において,ある年度に心理学の講義を履修した学生に研究参加を呼びかけ,833名(有効回答率93%)からデータを得た.調査は自記式で行い,調査用紙には 1)月経前不快気分障害診断に関する項目,2)生活習慣,睡眠習慣,朝型・夜型の時間特性などに関する要因,3)月経の状態,婦人科受診歴などの婦人科的要因,4)精神科受診歴および家族歴,性格特性,季節性特徴などの精神医学的要因,5)最近1年間のライフイベント,ストレス対処行動などストレス関連要因,という内容を含めた.PMDDの診断は,精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版(DSM-IV-TR)に基づいて行い,PMDDと個々の要因との関連について統計学的に検討した.結果:PMDDは833名中45名(5.4%)にみられた.PMDDの有無を従属変数とし,合計30の要因との間で単変量ロジスティック回帰分析を行ったところ,合計16の有意な関連要因がみいだされた.これら有意な関連要因間の交絡関係を調整するため多変量ロジスティック回帰分析を行ったところ,神経質,身体的不調への過敏,家族との問題,ストレス対処行動としての飲酒がPMDDと有意な正の関連を示した.結語:今回の調査で得られたPMDDの有病率は5.4%と,先行研究における有病率とほぼ同等であった.本研究の結果から,PMDDにはうつ病と共通する性格素因や心理的ストレスなど,精神医学的および心理的要因が強く関与していることが示唆された.
著者
甲斐村 美智子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.277-284, 2010
被引用文献数
1

本研究では,わが国の文化を考慮し新たに作成された自己肯定感尺度を用い,女子学生の初経教育時からの月経の経験と自己肯定感の関連について検討した.その結果,初経時に家族が祝福する態度を示す,肯定的月経観・積極的対処行動の促進,随伴症状の軽減により,自己肯定感が向上することが示唆された.これらのことから,初経は一つ上の発達段階に到達した重要な節目という意識をもち,祝福することの重要性が再確認された.さらに,月経問題を主体的に捉え積極的に対処するスキルが獲得できるよう,初経教育のみならず発達段階や月経の成熟に応じた月経教育を家庭・学校・地域が連携して行っていく必要性がある.
著者
神崎 光子 藤原 千惠子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.193-206, 2015

【目的】本研究は,初めて母親となる妊婦の抑うつ状態と育児自己効力感に家族機能が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.【方法】初産婦502名を対象に妊娠中期,妊娠後期において,家族機能尺度(FFS),抑うつ尺度(SDS),育児自己効力感尺度(PSE)および属性(年齢,家族形態,収入満足度,夫のサポートへの満足度,産褥期の夫以外のサポートの有無,母体の産科的異常の有無,胎児異常の有無)からなる自記式質問紙を用いて横断的調査を行った.有効回答が得られた妊娠中期群151名,妊娠末期群159名,計310名を分析の対象とした.【結果】抑うつ状態が疑われる妊婦の割合は,妊娠中期で47.7%,妊娠後期で48.1%であった.パス解析の結果,育児自己効力感へは,「認知的抑うつ症状」から有意な負のパスが,また家族の「情緒的絆」,「外部との関係」からは有意な正のパスが見られた.また「認知的抑うつ症状」へは,家族の「情緒的絆」「役割と責任」「外部との関係」から有意な負のパスが見られ,「コミュニケーション」は,「情緒的絆」「役割と責任」「外部との関係」に有意な正のパスを出していた.このモデルの適合度は,CMIN/DF=.989,NFI=.989,CFI=1.000,AIC=76.876,RMSEA=.000であった.【考察】本研究の結果から,妊娠期において問題解決のための効果的な「コミュニケーション」を強化し,「役割と責任」を明確化することによって,「情緒的絆」と「外部との関係」は高まり,「認知的抑うつ症状」の軽減と育児自己効力感の促進につながることが明らかとなった.これらの結果は,妊娠早期から家族機能を高めることによって,家族がシステムとして初産婦の心理社会的変化に応じて対処することが可能となり,それによって初産婦の妊娠期の抑うつの予防や育児自己効力感の促進につながることを示唆するものと考えられた.
著者
甲斐村 美智子 上田 公代
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.412-421, 2014

本研究の目的は,若年女性における月経随伴症状と関連要因がQOLに及ぼす影響について,因果モデルを用いて構造的に明らかにすることである.2012年4月〜12月,熊本市と隣接市の看護系及び非看護系の4年制大学5校に在籍する1,215名の女子学生を対象に,無記名式自記式質問紙調査を実施した.その結果,月経随伴症状を軽減させる要因は肯定的月経観と健康的生活習慣であり,増強させる要因は効果的ではない症状対処行動であった.月経随伴症状はQOLを低下させる要因であり,向上させる要因は健康的生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動であった.生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動はQOLへ直接関連しているだけでなく,月経随伴症状を介した間接的な関連も示されたことから,月経随伴症状を軽減しQOLを向上させるためには,生活習慣を整えるとともに自己効力感,ストレス対処行動に焦点を当てた支援が有効であることが示唆された.特に生活習慣は月経随伴症状,QOLの両者に直接関連していることから,重要だと考える.
著者
岡本 美和子 松岡 恵
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.85-92, 2003
被引用文献数
4

本研究は,出産後1〜2ヵ月において子どもの持続する泣きに直面した初産婦が危機状態に至る経緯と,危機状態に陥る条件となる母親の背景を明らかにすることを目的として行った.危機状態までの過程は,母親が習慣的対処や試行錯誤的対処を行った後も子どもが泣き止まず,さらに追い込む要因が働き危機状態に至るとした.調査は,出産後2ヵ月まで母子ともに重篤な問題がなく経過した初産婦30名を対象に,1ヵ月健診後に体験した子どもの持続する泣きと母親の気持ちについての半構成的面接を行った.得られたデータを内容分析した結果,対象者全員が出産後1ヵ月以降に子どもの持続する泣きに直面しており,19名が危機状態あり群として認められた.危機状態に追い込む要因については,状況認知と支援内容において危機状態あり群なし群の両群間に有意差を認めた.状況認知では「何をやっても泣き止まない泣き」と捉え,対処時周囲からの支援が得られなかった母親が危機状態あり群では高率であった.さらに危機状態に陥った母親の背景として,必要な育児情報へのアクセスができない母親は『先の見えない不安』を,情報から迷いが生じた母親は『母親としての自信の揺らぎ』を,そして,必要な情報を選択できない母親は『泣き止まないことへの苛立ち』を感じていることが明らかになった.本研究の結果より,出産後2ヵ月頃までの子どもの持続する泣きに直面した初産婦の背景と育児情報に関わる問題の特徴が明らかになり,この時期の初産婦への支援の必要性と支援の具体的方向性が示唆された.
著者
須藤 元喜 千葉 亜弥 上野 加奈子 矢田 幸博 赤滝 久美 三田 勝己
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.175-182, 2010
被引用文献数
3 1

下肢の細胞外液貯留における不快感は女性の代表的な愁訴の1つであり,むくみと呼ばれている.むくみは筋ポンプ運動による改善が勧められていることから,筋疲労との関連が考えられるが,その詳細については明らかになっていない.そこで,下肢におけるむくみと疲労の関連性を明らかにするために,化粧品販売職の女性182名にアンケート調査を行い,153名から有効回答を得た.その結果,下肢の疲れを94%,むくみを90%の回答者が感じており,疲れとむくみの意識は重なる部分が多く,下肢組織外液貯留の心理的評価には疲労の項目が必要であると考えられた.また,疲れ,むくみ感覚が最も多かった部位はふくらはぎであり,疲れで78%,むくみで85%の回答者が感じていた.また,むくみの不快感の原因を67%が大きさ,疲労の不快感の原因は66%が痛みという言葉でそれぞれ特徴的に表現していた.これらの結果をもとに心理的な疲れとむくみを評価するVAS主観評価調査表20項目を作成した.作成したVAS(visual analogue scale)主観評価調査表を用いて立ち仕事およびデスクワークの勤労女性19名を評価した.測定は就労前の午前9時から10時までの朝方と,就労後の午後4時から5時までの夕方に実施し,就労前後および立位と座位の勤労姿勢を比較した.全被験者19名の就労前後のVAS主観評価の結果は,20項目中16項目で不快感が有意に増加した.就労姿勢別の解析では,デスクワーク群9名に比して立ち仕事群10名の就労前後の不快感上昇が,足首周囲長,ふくらはぎ周囲長,下肢の重さ,ふくらはぎの痛み,足首の痛み,土踏まずの痛みの7項目で有意に増加していた.アンケート調査を手がかりに作成したVAS主観評価調査表は組織外液貯留の下肢不快感を実際の労働条件において評価することができた.
著者
森 美加 馬渕 麻由子 酒井 佳永 安田(鹿内) 裕恵 岩満 優美 飯嶋 優子 日高 利彦 亀田 秀人 川人 豊 元永 拓郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.132-145, 2013

女性が多数を占める疾患である関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis : 以下,RAとする)患者がどのような心理的支援を望んでいるのか,そのニーズを調査し,さらに,RA患者に対するサービスのあり方を検討し,ニーズに合わせた支援プログラムを提案することを目的として,2011年2月から8月,RAに罹患し医療機関にて治療を受けているRA患者で,研究参加に同意した20名(女性18名,男性2名)を対象として,調査票および面接による調査を行い,面接の逐語記録の文書データをグラウンデッドセオリーアプローチを参考にして分析した.その結果,電話相談,ホームページ,メール相談,個別心理相談,心理教育,セルフケアグループすべての支援に対してニーズがあり,特に電話相談(必要時),個別心理相談(通院先),心理教育のニーズは顕著であった.そこで,個別心理相談,心理教育を中心とした,チームによる包括的なケアシステムがRA患者のQOLを高めるためには有効なのではないかと考えられる.また,心理教育のテーマとしては,確定診断時においては,(1)病気の具体的な説明,(2)身体的ケア,(3)心理的ケア,(4)療養上の工夫が,生物学的製剤開始時においては,(1)効果と副作用を中心とした具体的説明,(2)自己注射について,(3)費用について,(4)生物学的製剤を使用する上での不安と期待についてが,家族向けとしては,(1)病気の説明,(2)RA患者の心理について,(3)家族へのケアが考えられる.さらに,不安の受容と変化を併せ持った心理療法的チームアプローチであるDBTを参考にした包括的ケアシステムの開発は,不安と安心の間で揺れ動くRA患者の心理的ケアのモデルとして有効であり,また,RA患者の長期的Quality of Lifeを最大にすることを治療目標とするT2T(Treat to Target)の有効性に繋がるのではないかと考えられる.
著者
南 久美子 野添 新一
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.127-134, 2008

摂食障害患者(神経性食欲不振症(Anorexia nervosa,AN):45例,神経性過食症(Bulima nervosa,BN):28例)が治療前に書いた文章完成テスト(Sentence Complete Test,SCT)を用いて家族関係を分析した.その中で次の3項目"私の父""私の母""家の人は私を"を対象とした.そしてSCTから見た家族関係は病型によって違いがあるか,また病態の慢性化に関わっているかを調査した.その結果,1)「私の父」に関する評価は,AN群が"父はやさしい"と肯定的に評価し,BN群との間に有意差(p<0.05)があった.2)「私の母」に関して,BN群は母親を否定的に評価し,AN群との間に有意差(p<0.05)があった.3)「家の人は私を…」に関して,AN群は"…してくれる"と家族を肯定的に評価し,BN群との間に有意差(p<0.05)があった.またBN群の患者はAN群に比して家族によって否定的に評価されている(p<0.05)とした.結論として,SCTから見た摂食障害の家族関係には病型による違いがあった.AN群では父性性が弱く,家族は過保護,過干渉的で,BN群は家族システムの変化〔核家族化,少子化,母親の就業など〕や高度経済成長に伴う物質的豊かさやマスコミなどの影響を受けて,家族の絆がよりほころびていた.このような家族の態度は摂食障害の慢性化を促すことに深く関わっていると考えられた.以上から摂食障害の治療において家族との関わりは一層重視されるべきである.
著者
大関 信子 水口 雅
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.506-518, 2007

【目的】本研究は,急増している海外在住日本人母子(永住者は除く)のうち日本人人口の最も多いニューヨーク(以下NY)で生活する母親を対象に異文化ストレス要因,育児ストレス要因と精神健康度を明らかにすることを目的とした.本研究の意義は,海外で妊娠・出産・子育てをする日本人母親のメンタルヘルスとその影響要因を明らかにし,ウィメンズヘルスに関わる医療従事者に新しい知見を呈することである.【方法と対象】無記名自己記入式質問紙と精神健康度調査票(GHQ30)を用いた実態調査研究であり,NY在住日本人母親200名,比較対照群として国内A市在住母親200名に質問紙を配布し郵送にて192部を回収し191部を分析対象とした.【結果】NYの母親は「海外での子育てはストレス」(53.6%)で,自分の子どもも「海外生活でストレス」(35%)を感じており,母子とも「孤立」(34.7%)し「日本から充分な支援を得ていない」(36.8%)と感じている.NYとA市とも異なる要因で精神健康度が日本国内の女性より悪く,約3人に1人は受診を要し,NY群では「家族と離れている」ことと「子どもの教育」が主な関連要因であった.2市とも9割の母親が「夫も仕事でストレス下にある」と感じており,夫の育児参加への不満と悪いメンタルヘルスとに有意な関係がみられた.上記の他,医療従事者がメンタルヘルス上注意を要する海外在住日本人母親のストレス要因として以下の項目が挙げられる;「子育て」「子どもの友達」「相談相手がいない」「リラックスする時間がない」「自分の健康」「経済」「今の生活に不満足」.【結論】海外在住中,又は一時帰国中の日本人母親はメンタルヘルス上の配慮が必要であり,異文化適応や子育て支援の他,早期に受診できるような母親への予防的介入がメンタヘルス上有効であると考える.
著者
小野 茂之 駒田 陽子 有賀 元 塘 久夫 白川 修一郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.67-75, 2005
被引用文献数
2

消化管運動は, 睡眠-覚醒リズムと同様なサーカディアンを有しており, 腸内細菌の細胞壁に由来すると考えられるムラミルペプチド類は, 睡眠物質として作用することが知られている.便通状態が, 睡眠健康に影響している可能性が考えられる.本検討では, 便通状態としてローマ基準IIで定義した機能性便秘(FC)および過敏性腸症候群(IBS)に着目し, 東京圏在住の成人若年女性を対象に, 便通状態と睡眠健康の関係を調査用紙による自己申告法を用い調査した.FCおよびIBS群で, 対照群に比べ, 睡眠随伴症に関する得点が高く平日の全日の眠気も強かった.IBS群では, 平日の睡眠時間が有意に短縮していた.生体リズムの同調因子である朝食の欠食頻度が, FC群で高かった.生体リズムに関連した就床時刻, 睡眠時間および睡眠習慣の不規則性も, FCおよびIBS群で高かった.本検討より, 1)FCおよびIBSを含む便通不良群の睡眠健康は, 便通良好群に比べ, 睡眠健康が障害されている, 2)便通状態は睡眠健康に関係していることが示唆された.便通状態と睡眠健康の関係は, 睡眠健康を考える際の要因として注目に値すると思われる.
著者
上村 茂仁
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.305-310, 2003
被引用文献数
3

近年,女性の初交年齢の低下やそれに伴う人工妊娠中絶や性感染症の増加が危惧されている.しかしながら親や教師は学生が性の問題で困っているときに相談にのってあげることはなかなか困難である.当院ではメールや掲示板を使っての性知識の普及や相談を行っている.匿名でも相談ができるこれらの方法は,学生が自由に話せる環境を作ることを可能とし,実際ある高校では学校が行ったアンケート調査とメールでの調査で,性行為経験率に大きな差を認めた.当院における学生のメール相談は2000年4月より,ホームページの掲示板相談は2002年10月から開始している.メール相談は2002年9月まで2,023件(462人),掲示板は2003年2月までに799件あった.内容は掲示板がSTD,月経異常,妊娠中絶の順に質問が多いのに対し,メールでの相談はSTD,妊娠中絶,セックスについてと,より秘密的な内容が多かった.初体験前の相談はほとんどメールで行われ,14歳前後の年齢からの相談が一番多く,理由は愛しているとか寂しいからなどが多かった.またそれらの学生は医師側のメールによる説得で性行為を思いとどまった例も多い.メールや掲示板での相談受付は,正しい知識を自由に教えてくれる相談相手かいない学生にとって,有効な手段であり,家族や教師が気づかない初体験前の悩みなども捕まえることが可能であった.ただ24時間に近い体制での対応が必要であり,学生の質問のみから正しい解答を要求されるなどの問題も多くある.