著者
伊東 順真
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.394-405, 2021-09-30 (Released:2021-12-04)

本稿は大正新教育の旗手として活躍後、1932年頃を境に全体主義者へと変節した下中弥三郎の生命言説を検討したものである。下中は大正デモクラシー期から昭和ファシズム期にかけて一貫して「生命」という言葉を多用し、生命主義者さえを自認していたが、このことはあまり知られていない。子どもの生命を教育の根幹に据えていた下中が国家的生命の扶翼と拡大を唱えるに至った歴史的契機を明らかにし、その生命主義教育論の陥穽について論じる。
著者
貞広 斎子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.162-174, 2018-06-30 (Released:2018-10-17)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では、「教育主体の多様化」に対する政府財政支出の公共性をどの様に確保していくべきかについて、主に財政制度と質保証の観点から、今後の制度設計の可能性を検討した。公財政制度の在り方は、質保証(認証・監査/評価)の制度と強く結びつき、連動しており、統制のための資源配分を行うのか、教員や学校の自由とアカウンタビリティーを調整した制度を想定するかによって、公教育のフィールドが構想され、公財政配分システムも再編されていくことを示した。
著者
鈴木 篤
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.1-13, 2021

<p> 近年、非対面型授業の可能性に注目が集まっているが、どの程度まで従来の対面型学校教育に代替可能なのかについて研究の蓄積は十分でない。実際には、非対面型授業は従来の学級が有していた機能を何らかの形で確保しない限り、対面型学校教育には代替しえないだろう。生徒の社会化には学級制度が大きな役割を果たしており、たとえ短期的には非対面型授業が「うまくいっている」ように見えても、実際には参加者自身の過去の(対面型の)学級を通した被教育経験によって支えられている可能性も存在するためである。</p>
著者
山崎 智子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.406-418, 2021-09-30 (Released:2021-12-04)
参考文献数
38

1900年代のイングランドにおける市民大学設立は、大学とは何かが問われる過程でもあった。当時の議論において、「大学」とは、組織面では教育と試験・学位授与を一体的に行う「単一」の機関であり、教育面ではアーツ・サイエンス科目のみならず技術・専門職科目をも通じて教養教育を行う機関であるとされた。教育理念の面ではオックスブリッジの影響も一部みられるものの、その代替ではなく、新たな形の「大学」が模索されたといえる。
著者
雪丸 武彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.48-64, 2015

2014年は安倍晋三内閣により教育改革が牽引され、多数の改革案や変化が生み出された年であった。1月24日の第186回国会における施政方針演説において安倍首相は「若者を伸ばす教育再生」として①教育委員会制度改革、②道徳を特別の教科として位置づけること、③幼児教育の段階的無償化、④教科書の改善、⑤英語教育の強化、⑥外国人留学生の受入拡大、外国人教員倍増、⑦グローバル化に向けた改革を断行する大学への支援、⑧海外留学の倍増、を掲げた。これらの改革は2014年中に検討され、一部は法制化された。 2014年の改革案、変化は上記以外にも目立ったものがいくつかある。上記を含め、その内容を筆者なりに吟味すると、大きく4つに区分される。第1に、戦後から継続されてきた教育制度を変えるものである。これに該当するものとして「大学のガバナンス改革」(4月)が挙げられる。学長のリーダーシップが制度的に強化され、同時に教授会のプレゼンスは後退した。また、教育再生実行会議の提言(7月)、中教審答申(12月)で示された「小中一貫教育学校(仮称)」もこの区分に位置づけられよう。教育の機会均等の理念のもと、戦後から小学校6年間、中学校3年間の区切り及び単線型の教育制度は維持されてきたが、それらを変える内容が提案された。 第2に、55年体制を契機に作られた仕組みを変えるものである。これには法律改正を伴った「教育委員会制度改革」(6月)が該当する。この改革により自治体の首長の教育行政に対する関与は大きく強まるものと予想される。また、中教審答申(10月)で示された「特別な教科 道徳」(仮称)も、教育課程の領域である「道徳」の位置づけを変化させるものである。 第3に、「第3の教育改革」の修正を図るものである。これには「土曜授業の実施」が該当する。学校週5日制の導入は前回の学習指導要領改訂時における目玉であったが、国の事業(7月)、鹿児島県の方針(12月)のように少しずつ見直しが図られている。また、「大学入試改革」が着手され、中教審答申(12月)において大学入試センター試験の廃止及び、新たなテストの導入が示された。 第4に、将来的な国家的・社会的変化や危機に対応するものである。日本史必修化、新教科「公共」(1月)、小学校英語の教科化(9月)といった「安倍カラー」の強い改革案もあれば、地方創生の「総合戦略」(12月)では「放課後児童クラブ」「放課後子供教室」の拡大といった少子化対策、子育て支援の文脈からの改革案も提案されている。また、フリースクールへの公的支援の検討(10月)のように、興味深い改革も着手されている。 これら以外に2014年は国と地方との対立も目立った。教科書採択をめぐり国による市町村への是正要求が初めてなされたケース(3月)、文科省の方針に沿わない学力テスト結果の公表を行い問題となったケース(9月)は、国と地方との関係の変化を示すものとして記憶にとどめておくべき事項である。 2014年は様々な方位から、また様々な方位へ改革がなされた。今後これらの改革がいかに結実するのか、あるいは終わりのない改革を続けるのか。その動向をさらに注目していく必要があろう。
著者
山田 浩之
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.453-465, 2013-12-30 (Released:2018-04-04)

教員政策や教員養成制度の改革は教員に対する不信と批判、とくに「教員の資質低下」を前提に実施されてきた。しかし「教員の資質低下」は恣意的に用いられ、客観的資料によって十分に検証されていない。本稿では教員の不祥事の統計などにより資質低下の根拠が希薄であることを指摘する。さらに教員による養成制度や職場環境の評価を明らかにし、教育政策が教員の魅力を低下させ、それが資質の低下をもたらす可能性を検討する。
著者
井谷 惠子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.27-40, 2005

Although in general the ratio of women teachers to men has increased with the advance of women in society, the ratio of women PE teachers to men has not increased in the past 20 years. This is caused by sexism in the employment of PE teachers regardless of qualifications. This paper examines the discovery that the gender culture of a PE teacher society in which the disproportion of men to women is maintained in spite of gender equality in the school system itself. Through a survey by interviews of seven men and five women PE teachers who work in H prefecture, it has been found that gender culture creates the disproportionate number of men to women. This is discussed here considering three factors : 1. the influence of gender culture in sports, 2. the double-standard in physical education, 3. a labor atmosphere which is still considered "men's work". The first point discloses, the men and women dichotomy and the absolute view toward gender difference. Moreover, relating to physical education curriculum and teacher behavior, the masculine principles of strength, bravery, winning, and so on have been permitted to dominate interaction and pleasure. Second, the double standard which expects men and women to have different roles is identified. In physical education, teachers work to form masculinity and expect severeness and toughness in boys. On the other hand, so-called "education for women" is deeply rooted and women PE teachers mainly cover dance education for girls. Influenced by this double standard, the gender role, for example the often seen "women manager" in sport activities, is accepted and the gender order has continued. As for the third point, extracurricular activities such as coaching and student guidance, have strongly reflected the identity of PE teachers. The atmosphere of the company office that doesn't dislike long working hours and work on holidays has been adopted by PE teachers. PE teachers who believe that student guidance is their job and thus take an active role as a "strict teacher" to maintain school order. As a result, the gym in PE teacher society becomes like an office which reinforces male dominance and leaves women PE teachers on the sidelines.