著者
鈴木 篤
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.258-270, 2022 (Released:2022-09-10)
参考文献数
31

教育学では理論と実践という対立図式が長年用いられてきた。だが、ルーマンの議論を踏まえるならば、科学システムと教育システムとは異なる機能システムに属し、さらにそれぞれが独自の歴史を積み重ねてきていることから、前者が生み出した理論を後者が応用するという単純な関係を想定することは困難だとわかる。科学システムはあらゆる活動を、真/非真の二値コードに照らして判断するのに対し、教育システムはすべてを、より良い/より劣るというコードに基づいて判断するためである。
著者
井谷 信彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.184-196, 2021 (Released:2021-11-02)

本論稿の課題は、演劇教育家V.スポーリンの思想に見られる「エネルギー」という概念の内実と射程を明らかにすることにある。これにより、従来即興パフォーマンスの実演/思想を立脚点とする教育の実践/理論のなかで多くの場合に無規定なまま使われてきたこの概念の、意味と用法を見定めるための端緒が築かれる。加えて、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育実践の分析・省察にとって、このエネルギーと呼ばれる現象に関する彼女の思想が重要な視点を提供するものであることが明らかにされる。
著者
山村 滋
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.157-170, 2010-06-30 (Released:2017-11-28)

本稿は、高大接続の問題点に、2つのアプローチにより迫り、それを踏まえて改善のための基本的構想を提示したものである。大学入試と高校教育の多様化は、高校教育の学力的・学習内容的拡散、受験シフトをもたらした。また、高校までに身についた技能と大学で必要な技能の分析の結果、「パフォーマンスにもとづく評価」が適する技能・能力が、大学での勉学のために必要なことが明らかになった。したがって、大学で必要な技能を含む学力・能力の形成にも資する高校教育課程を前提として、受験シフトを防ぐように工夫された、高校での成績の評価に基づく大学入学システムが必要なのである。
著者
小泉 かさね
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.273-284, 2021 (Released:2021-11-02)
参考文献数
19

本研究は研究室コミュニティへの参加の実態と課題の解明により、その改善に資することを目的とする。大学の国際化において研究室の重要性が増す中、国内外でその実態が解明されておらず、学術的に体系化された方法論がない。分析の結果、留学生のコミュニティ参加の契機、参加の肯定的・否定的側面が明らかになった。また、コミュニティの閉鎖性と同化圧力、参加形態における選択肢の少なさが同化圧力をうむことが示唆された。
著者
川上 英明
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.367-378, 2020 (Released:2021-01-09)
参考文献数
35

本稿は、森昭における人間の「生成」の歴史性と自然性に関する議論を、京都学派の思想圏との関係性に着目しながら検討し、その可能性と限界を見定めることを目的とする。具体的には、森のハイデガー解釈に着目し、それが和辻哲郎と高坂正顕によるハイデガー解釈と関連していることを示すことで、本稿の目的に迫る。この検討は、人間生成の歴史性と自然性との緊張を緊張として思考する地平を切り開くものとなる。