著者
佐藤 洋希
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.409-421, 2023 (Released:2023-12-13)

本稿では、占領期の日本放送協会松山中央放送局管内における「ラジオの集い」の実施内容の形成過程を跡付けた。当初、同管内の「ラジオの集い」は、その「公民教育」の射程として、CIEや日本放送協会の関心事であった「政治教育」を強調していた。一方で、その後、愛媛県の社会教育課や農業改良課と結びつくことによって「考える農民」の育成にも取り組まれていった。こうした取り組みの総括的な団体として同管内では1952年に「ラジオの集い」連合会が結成されるに至ったのである。
著者
青木 栄一
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.374-385, 2011-12-29 (Released:2018-12-26)

伝統的な教育行政学は領域学としての性質を強く持っていた。教育行政学は教育行政に関する記述情報を蓄積してきたが、記述的推論や因果的推論を蓄積することは乏しかった。なぜなら、教育行政学の先行研究には比較という方法論が欠如していたからである。本稿は、比較制度分析や制度の多様性に関する研究を参照し、教育行政学に方法としての比較を導入することを提案する。さらに比較が成り立つための要件についても言及する。
著者
豊永 耕平 須藤 康介
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.215-227, 2017-06-30 (Released:2018-04-27)
参考文献数
28

小学校英語教育の効果に関する先行研究では、交絡要因を統制して代表性のあるサンプルを分析するという統計的因果推論の過程が軽視されてきた問題点があり、異文化理解などの情意面への効果や、開始学年による違いも十分に検討されてこなかった。大規模調査データの二次分析の結果、小学校英語教育は1・2年生から始めた場合のみ、中学生の英語学力に正の効果をもたらす可能性があるが、外国への親しみやグローバル人材意識などには統計的に有意な効果をもたらさないことが示された。
著者
鈴木 篤
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.1-13, 2021 (Released:2021-10-19)
参考文献数
16

近年、非対面型授業の可能性に注目が集まっているが、どの程度まで従来の対面型学校教育に代替可能なのかについて研究の蓄積は十分でない。実際には、非対面型授業は従来の学級が有していた機能を何らかの形で確保しない限り、対面型学校教育には代替しえないだろう。生徒の社会化には学級制度が大きな役割を果たしており、たとえ短期的には非対面型授業が「うまくいっている」ように見えても、実際には参加者自身の過去の(対面型の)学級を通した被教育経験によって支えられている可能性も存在するためである。
著者
加藤 美帆
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.175-185, 2018-06-30 (Released:2018-10-17)
参考文献数
20

子どもの社会的生きにくさの顕在化や、時代に対応した能力形成など、公教育が多くの課題に直面するなかフリースクールには公教育の補完的な役割も期待され、かつての対抗的な関係から変化がおこってきている。しかし学校教育とは依然不均衡な関係にあるフリースクールに公教育の課題の受け皿としての役割を押し付ける危険性には留意する必要がある。教育機会確保法が公教育の「文化的・象徴的な変革」につながり得るかが今後問われていくことになる。
著者
元濱 奈穂子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.445-454, 2021-09-30 (Released:2021-12-04)
参考文献数
57

本稿は、政策を主な対象とした大学教育改革研究の傾向を批判的に再考するため、欧州質保証研究の動向を検討した。欧州質保証研究では、政策設計に焦点化した研究への偏重が、政策の野心と実態の乖離や、グローバリゼーション言説の強化と多様性の軽視を招いてきたという反省が為され、ローカルな文脈から質保証を再定義しようとする試みが始まっている。欧州の動向は、日本の研究者の立場性の再考を促すものとしても受け止めることができる。
著者
唐木 清志
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.155-167, 2017-06-30 (Released:2018-04-27)
参考文献数
32

本研究の目的は、社会科(地理歴史科・公民科)授業における政策に関する学習の理論と方法を明らかにすることである。学校教育で主権者教育を実質的に機能させるには、社会科の役割が重要である。政治問題を巡る対立状況、その原因となる政治的価値観の相違、これらを教材化して、社会科授業で児童生徒に政治的論議を経験させることは、社会科教師の使命とも言える。そして、その際に注目すべき学習論が、政策に関する学習である。
著者
河合 務
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.276-288, 2008-09-30 (Released:2017-11-28)

近年、フランスは「ベビーブーム」を迎えている国として注目され、家族手当など手厚い経済的支援がしばしば言及されるが、出生率低下問題に長く取り組む過程で、子ども・若者の家族形成意識への教育的働きかけが行われてきた同国の歴史的経験に関しては、これまで詳しく紹介されてきたわけではない。本稿は、家族形成に関する「意識改革」が強調されつつある日本の現状を照射する観点から、フランス第三共和政期(1870-1940年)の出産奨励運動と教育との関わりについて、1896年に統計学者J.ベルティヨン(1851-1922)によって設立され、現在も活動を続ける運動団体「フランス人口増加連合」の教育活動を中心に考察している。政治家・行政官・教員・ジャーナリストらが会員として名を連ねた同団体が、公教育行政の後押しをも受けながら多子家族形成に向けた学校教育の実現を目指した活動を展開していく模様を検討し、そのイデオロギー性を指摘している。
著者
北村 三子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.268-277,366, 1999-09-30 (Released:2007-12-27)

教養主義とは、明治の末(ほぼ1910年代)に日本の知識人たちの間に成立した、人間性の発達に関する信条(あるいは「主義」)である。ドイツの教養(ビルドゥンク)概念の影響の下に、若いエリートたちは、人類の文化、ことに、西洋の哲学、芸術、科学などを継承することを通して人格者になりたいと思った。彼らはそれらの偉大な作品に触れることによって強められた理性と意志が人間の行動を制御すると期待した。彼らはある程度それに成功したが、同時に、大地や他者から切り離されてしまったと感じ、不安に悩まされるようになった。 教養主義は主に旧制高校生や大学生の間に普及したが、かれら若きエリートたちは、深層意識では、自分を高等教育には手が届かない若者たちと区別したかったのだ。その意味で、教養主義はかなりスノビッシュなものである。 この教養主義の欠点は、第二次大戦後、日本の教育関係者たちによって批判された。批判者の一人で、新時代のリーダーの一人であった勝田守一は、新しい教養の概念を提案した。それは、高く評価された人類の労働を基盤にしたものであった。勝田によれば、労働は人間の諸感覚、思考能力、コミュニケーション能力を発達させてきた。その中でも、近代に著しく発達した科学的思考法は、私たちにとって最も大切なものなのである。そこで勝田は、教養のある人間は、人類が発達させてきた諸能力を偏ることなしに身に付けていなければならならず、そうすることによって、教養人は社会を進歩させるであろうと主張した。人類の能力は無限に発達すると勝田は信じた。なぜなら、近代科学技術の発展には限界がないように見えたからである。 私たちはもはやこのような楽観的な見解には同意できない。なぜなら、近代の科学技術が自然に対して攻撃的であり、地球の生態系に重大なダメージを与えうることを、私たちは知ってしまったからだ。勝田の教養概念や教養主義をこの観点からもう一度振り返るならば、それらには、思考方法において共通の欠陥があることに気が付く。それは、近代思想一般に見られる欠点と同じものである。 近代的知性は生産的である。それは物を作り出すだけではなく、表象や概念や推論を用いて事物のリアリティを生み出すのだ。その思考法は、利用という観点からだけ事物と関わるものであり、人間中心的で、事物に耳を傾け対話することはない。鮮明に意識に表象されない事物は、意味がないとみなされ、無視される。あの若き教養主義者たちの心の葛藤も、おそらく、この近代の知性の産物である。 教養が再構築されねばならないとしたら、それは、これまでとは異なる思考やコミュニケーションの方法を基盤とするものでなければならないだろう。また、近代的な労働や社会の中でおそらくは失われてきた諸感覚や能力を回復できるものでなければならない。
著者
仲松 辰美
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.37-47, 2014 (Released:2015-06-16)

本稿は、戦後教育改革期における CIEの PTA構想に関する研究で、従来の研究を検証し、先行研究が見落としてきた文部省による CIE文書の誤訳の可能性を指摘した。そのなかで、 CIEの PTA構想は、学校教育の責任主体として学校(教師)を位置づけ、 PTAを通じた親の内的事項への関与が、決定権を持たないものの、 PTAの権利であり義務として予定されていたことを明らかにした。さらに、このような構想は一貫したものであったと考えられた。
著者
生澤 繁樹
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.543-557, 2015 (Released:2016-05-18)
参考文献数
46

政治や教育における「代表」や「表象」という意味での “representation” の機能と作用について考察する。とくにこれまでのカリキュラムの公共性をめぐるポリティクスを中心的に取り上げながら、この問題を考えることが現代社会における代表制デモクラシーのあり方にとどまらず、参加政治の意味それ自体を根本的に問いなおし、そこに暗に設定されたコンピテンシーという教育上の問題を再び浮き彫りにするということを試論的に示していく。