著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.54-64, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 一般の人々による日常的な相談・援助場面の会話に注目し,「人はどのように他者の悩みをきくのか」を明らかにすることである。会話データから帰納的な分析を行うため, 質的研究法の 1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。データ収集においては, 大学生の同年代・同性ペアによる実験的な相談・援助場面の会話を録音した。データ分析においては, 〈概念のラベル付け〉から〈最終的なカテゴリーの選択〉へと至る4つの段階を経て, データからカテゴリーを生成した。その結果, 他者の悩みをきく際の発言として,【推測・理解・確認】【肯定・受容】【情報探索】【自己及び周辺の開示】【違う視点の提示】【問題解決に向けた発言】という6つのカテゴリーが抽出された。生成されたカテゴリーを先行研究と比較すると, 悩みのきき手が自分の体験を開示したり, 問題を受容するよう促したりするところに, 臨床面接や援助技法とは異なった日常的な相談・援助のあり方が見出された。これらのカテゴリーは, データに基づいた暫定的なものではあるが, 今まで研究対象として見過ごされてきた日常的な相談・援助に実態像を与えるものとなった。
著者
鈴木 豪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.138-150, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

本研究では, 鈴木(2014)の手続きを改め(グラフの提示と共通点・相違点の発見順序の固定), 多様な考え方の比較検討方法の違いが課題解決に及ぼす影響を検証した。平均を既習である小学5年生(N=44)を, 代表値(平均, 最頻値, 最大値, 最小値)をもとにした四つの考え方について, (a) 共通点・相違点を考える比較検討方法(共通相違群), (b) 最も良い考え方を選びその理由を考える比較検討方法(最良選択群), のいずれかを経験する群に割り当てた。児童は比較検討を行った後, 事後課題2問に回答した。その結果, 外れ値が存在するときに, 次に得られる値を予測する事後課題では, 共通相違群の方が, 外れ値を除いた平均や最頻値をもとに回答できた割合が大きかった。また, 外れ値を含んだ平均をもとに回答した児童のうち, 外れ値の存在に言及した児童の割合も共通相違群の方が大きかった。次に, 2種のデータの大小を比較する事後課題では, 共通相違群の方がより多くの比較方法を示すことができていた。共通点・相違点を考える比較検討方法が, 最も良い考え方を選ぶ比較検討方法よりも, 代表値を用いた課題解決により良い影響を及ぼすことが示された。
著者
板津 裕己
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.86-94, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

The aim of this study was to investigate the relation between self-acceptance and interpersonal attitude. Self-acceptance was measured with Self Acceptance Scale (SASSV, Itatsu, 1989, 1993), and interpersonal attitude was done with Interperso nal Attitude Inventory (IAI, Kato & Takagi, 1980) and Interpersonal Relations Inventory (IRI, Fukuyama, 1981). Subjects were 391 male university students. Close relationships were found between many subscales and indices of SASSV, and subscales on IAI and IRI. Every subscale and Basic Trait (Secondary Factor) on SASSV had a close relation with different aspect on interpersonal attitude. Subjects who accepted their own self had a friendly attitude toward others. From the results mentioned above, a hypothesis was built up willing that each trait or factor of self-acceptance had a close relation with specific aspect on interpersonal attitude. DBS (Distance Balance Score), which was one of the indices of SASSV, was related to discrepancy sc ores on IRI. This result meant that inner balance of self-acceptance contributed to disparity between self-attitude and attitude for others.
著者
細渕 富夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.96-107, 2014-03-30 (Released:2014-12-24)
参考文献数
63
被引用文献数
2

本稿は,2012年7月から2013年6月までに発表された特別支援領域に関する教育心理学的な研究から,その研究動向を概観したものである。関係4学会での発表を障害種別に分析した結果,「その他・障害一般」の発表が最も多かった。次いで多かった発表は,「自閉症スペクトラム障害」であった。また,学会誌掲載論文数を見ると,『教育心理学研究』,『心理学研究』,『発達心理学研究』ともに1編のみであり,『特殊教育学研究』は45編であった。障害種別の内訳では,「その他・障害一般」が最も多く,次いで「自閉症スペクトラム障害」であった。そして,それらの論文の一部を簡単に紹介した。次に,重度・重複障害児の教育に関する研究を概観し,研究動向を整理したうえで,盲ろう児教育の歴史に関する最近の研究を紹介した。さらに,重症児の教育に関する研究動向として,(1)超重症児,(2)医療的ケア,(3)終末期ケア,(4)いのちの尊厳に区分して整理した。最後に,今後の研究課題として,初期重症児施設の療育体制に関する研究や超重症児のコミュニケーションに関する実践的研究を挙げた。
著者
石井 秀宗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.70-82, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
94
被引用文献数
1 5

本稿では,2012年下半期から2013年上半期あたりに行われた測定・評価領域の研究動向を概観した。測定対象となる構成概念を,パーソナリティや情動などの心理特性と,学力や能力などとに分け,尺度作成,テスト,テスト開発支援,理論などの観点からそれぞれの研究を捉えた。そして,以下のことを指摘した。(1) 尺度作成の中に信頼性・妥当性の検討を含まない意識があること。(2) パスモデルが適合することをもって,安易に短縮版尺度を作成する風潮があること。(3) 項目応答理論はもはや研究者だけのものではなく実用段階に入っていること。(4) 種々雑多なテストが氾濫している現在においては,構成概念の測定・評価に関する専門的な知識をもっと社会に伝える必要があること。しかし,(5) わが国の測定・評価の専門家の絶対数は少なく不足していることである。「テストで評価する」だけでなく,「テストを評価する」ことの重要性を社会全体に知らせることが,いま,測定・評価あるいは教育心理学全般の研究者に求められている。
著者
香川 克
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.83-95, 2014-03-30 (Released:2014-12-24)
参考文献数
84
被引用文献数
1 1

本稿では,2012年7月から2013年6月までの1年間に発表された臨床心理学に関する研究の中から,児童期・青年期を対象としたものを選んで概観した。その結果,「心理療法・カウンセリングの深化」「不登校・ひきこもりへの支援」「発達障害への心理療法」「女性の“傷つき”と行動化への心理療法」「児童養護施設における心理療法」「スクール・カウンセリング」「学生相談」「親への援助」「留学生・外国人への援助」「投映法研究」「児童・思春期の適応」「青年期の適応と発達」などのカテゴリーが見られた。母親になっていく年代の女性の外傷体験や,母親自身の抱える心理的なテーマへの支援の必要性が取り上げた研究があり,さらに,社会的養護をめぐる論文も多く,子どもたちが育つ環境を整えることが難しくなっていることがうかがわれた。このような研究動向の背景に,社会経済的な状況の困難の影響が考えられる。発達障害や不登校をめぐる研究も,子育ての困難さと関連している場合が少なくなかった。このように,育つことや育てることが難しくなっている状況の中で,子どもたちに関わる幅広い立場からの協働作業が求められていることを論じた。
著者
及川 昌典
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.50-56, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

近年の日本の教育心理学における社会領域の研究は,学校組織における対人関係や集団の問題を扱うだけでなく,人々の心の仕組みを総合的に扱う分野として発展してきている。本稿では,教育・社会心理学の研究目的に照らして,日本教育心理学会第55回総会発表を整理した上で,日本における過去1年間の教育・社会心理学研究の成果について概観し,これからの研究の展望について考察した。総会での発表件数に基づき,適応,対人関係,教師,社会的スキル・社会性の4つが中心的な研究テーマとして選出された。これらのテーマごとに,日本で刊行された研究を概観した結果,いずれのテーマにおいても,理論の精緻化と実践への示唆という両方の目的において,独創的かつ有益な研究成果を見出すことができた。これからの研究の展望としては,教育・社会心理学の目的に適ったこれまでの取り組みを継承しつつ,個々の研究知見や理論を統合する枠組みを提唱していくことや,実践を見据えた理論の構築を通じて,教育・社会の問題への実証的アプローチを推進していくことが期待される。
著者
岸田 元美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.1-12,61, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7

This study is the 2nd report by the author concerning the study on the human relationship between pupil and teacher. The 1st report was an analysis of pupils' attitude toward their teachers. In order to confirm the points which had been proposed in the 1st report, the author took six teachers as subjects and investigated their personality traits and the educational attitude toward their pupils which had caused the differences in the pupils' attitude toward them.As personality traits, sex, age, intro-extro vert, the term of teaching experience and final schooling were adopted. In order to investigate the patterns of teachers' educational attitude toword the pupils, a questionnaire was made, asking the teachers their daily attitude toward the pupils. The questionnaire consisted of five investigation sheets (1) affectionate indifferent (2) authoritathe laissez-faire (3) strict liberal (4) devoted neglectful (5) qualified unqualified.The pupils' attitude toward their teaehers was then compared with the teachers' personality traits and educational attitude toward the pupils.The main results of the investigation were as follow; The teachers' sex and age scarecely influenced upon the pupils' attitude toward them but their educational attitude toward the pupils much influenced upon it. Those teachers who had more desirable human relations to their pupils were identified as qualified, devoted, liberal and affectionate.
著者
小林 敬一 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.377-385, 1992-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3

In this study, two issues concerning processes of prospective memory, that is, the relations between the use of memory aids and metamemory knowledge, and the effect of activities which arise on process till remembered, were examined. Eighty undergraduates were asked to bring four objects they may use in class or test hours two weeks later. The main results were as follows: 1) the relation between use or non-use of memory aids and metamemory knowledge weren't noticed ; 2) according to the importance and the effort made in order to bring the objects manipulated as experimental factors, recognition of importance, memory aids and conversation with others, etc., influenced the subject's performances in various ways, suggesting that conversation with others may have two functions (monitoring and reciprocal supplements) specially in the processes of prospective memory.
著者
浦上 昌則
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.400-409, 1996-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

It appears that students develop their motivation for self-growth through career exploration process. This study explored the relationships among career decisionmaking self-efficacy, vocational exploration activities and self-growth motivation in career exploration processes. Subjects were 224 women's junior college students majoring in liberal arts. Data were collected on two occasions in the process. At the beginning of a job-searching, the career decision-making self-efficacy expectations were measured. Eight months later, the questionnaire measuring the activity of vocational exploration and the change in self-growth motivation in their exploration process was administered to the students. These data were analyzed using covariance structure analysis. The results indicated that self-growth motivation was directly predicted by the career decision-making self-efficacy, and two factors of vocational exploration activity, i. e. collecting and integrating information about self and vocation, and reconsidering one's own vocational exploration activities. The career decisionmaking self-efficacy had a significant effect on all vocational exploration activity factors. Based on these results, the meaning of vocational exploration activity in the career development was discussed.
著者
橋本 剛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.94-102, 2000-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
4 4

教育場面においても対人関係の否定的側面が精神的健康に及ぼす影響は重大な問題であると考えられる。本研究では (1) 社会的スキルと対人ストレスイベント (ストレッサーとなり得る対人関係上の出来事) の関連,(2) 対人方略 (他者との関わり方/スタイル) と対人ストレスイベントの関連,(3) 対人方略と社会的スキルの関連, を検討することを目的とした。分析対象は大学生計200名 (男性105名, 女性95名, 平均年齢19.38歳) であった。分析の結果, 社会的スキルは対人劣等とは負の関連を持つという仮説は支持されたが, 対人摩耗とは正の相関を示すという仮説は必ずしも支持されなかった。また, 社会的スキルの対人ストレス緩衝効果は示されず, 部分的に直接効果が示された。対人方略と対人ストレスイベントの関連については, 内省傾向が否定的影響力をもつことが確認された。対人方略と社会的スキルの関連については, 対人関係の深化を回避する傾向が社会的スキルと負の関連を持つことが確認された。最後にこれらの知見を受けて, 今後の課題などが議論された。
著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.283-293, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

本研究では, 先延ばしの際に生じやすい意識から先延ばしを3パターンに分け, 3パターンそれぞれの先延ばしを行いやすい者の学業遂行について検討することを目的とした。学業遂行に影響を与えると考えられる変数として, 3パターンの先延ばしを行いやすい者の仮想的有能感および達成目標についても検討が行われた。292名の4年制大学生を対象とした質問紙調査の結果, 以下の3点が明らかとなった。第1に, 否定的感情が一貫して生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えないことが明らかとなった。ただし, 失敗を回避しようとする状況では学業遂行に悪影響が生じる可能性が示唆された。第2に, 状況の楽観視から生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えることが明らかとなった。また, 低い学業遂行の帰結として生じる自己評価の低さを, 他者軽視に基づく仮想的有能感によって補償していることが推察された。第3に, 計画性をもって行われる先延ばしは, 学業成績に好影響を与えることが明らかとなった。計画性をもって行われる先延ばしは, 気晴らしの機能をもつ先延ばしによって課題遂行のための目標が明確化するために学業遂行に好影響を与えると推察された。
著者
堀内 和美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.11-21, 1993-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

The purpose of this study was to clarify the psychological changes in middle-aged women based on three occupational groups (housewives, nurses and school teachers) from a viewpoint of the Erikson's concept of ego identity (1950). Semi-structured interviews were conducted with 59 women in their 40's: 17 housewives, 23 nurses and 19 teachers. The following results were found. First, ego identity changes were reported to occur in middle-age, and the nature of changes differed among the three groups: 1) housewives intended to get a new identity outside the home, because domestic roles were thought inappropriate as the bases of identity; 2) nurses tended to keep occupational identity built firmly in adolescence, and 3) identity changes among teachers were closely related to the quality of education in the school. Second, the four patterns of ego identity changes were suggested: a) stable home (occupational) identitypersonal identity: b) unstable home (occupational) identity personal identity ; c) stable home (occupational) identityreconfirmation and continuance ; and d) unstable home (occupational) identity unable to change.
著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.283-293, 2014
被引用文献数
2

本研究では, 先延ばしの際に生じやすい意識から先延ばしを3パターンに分け, 3パターンそれぞれの先延ばしを行いやすい者の学業遂行について検討することを目的とした。学業遂行に影響を与えると考えられる変数として, 3パターンの先延ばしを行いやすい者の仮想的有能感および達成目標についても検討が行われた。292名の4年制大学生を対象とした質問紙調査の結果, 以下の3点が明らかとなった。第1に, 否定的感情が一貫して生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えないことが明らかとなった。ただし, 失敗を回避しようとする状況では学業遂行に悪影響が生じる可能性が示唆された。第2に, 状況の楽観視から生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えることが明らかとなった。また, 低い学業遂行の帰結として生じる自己評価の低さを, 他者軽視に基づく仮想的有能感によって補償していることが推察された。第3に, 計画性をもって行われる先延ばしは, 学業成績に好影響を与えることが明らかとなった。計画性をもって行われる先延ばしは, 気晴らしの機能をもつ先延ばしによって課題遂行のための目標が明確化するために学業遂行に好影響を与えると推察された。
著者
曽山 いづみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.305-321, 2014
被引用文献数
1

本研究は新任小学校教師9名を対象に1年間計4回の継時的インタビューを行い, 新任教師の経験過程を明らかにした。1学期, 夏休み, 2学期, 3学期末以降のインタビュー時期別に, 1: 子どもへの理解とかかわり方, 2: 先生としての自分のあり方, 3: 1, 2を促進する要因, 阻害する要因, について分析を行った。新任教師は【わからなさ/難しさに直面する】【子どもの色々な姿を見る】ことを通して徐々に【自分なりの感覚をつかむ】ことができるようになっていた。一方で【先生としてのあり方に悩む】ことと【自分らしいあり方が明確になる】ことを揺れ動きながら, 教師としてのアイデンティティを模索, 形成していた。担任クラスでの困難が大きく, かつ周囲のサポートが得られにくいときには【担任としての責任の範囲】に深く悩むことが示唆された。発達過程を阻害する要因として, 1学期時はリアリティ・ショックや環境への適応が強くあったが, 徐々にその影響は小さくなっていた。同僚教師や保護者との関係は, 阻害/促進どちらの要因にもなり得, 状況文脈によってその影響は大きく変わること, 新任教師にとっては主体性の発揮が大きなテーマであることが示唆された。
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.257-272, 2014
被引用文献数
4

個人の認識論とは, 各人が暗黙に持っている"知識"や"知ること"の性質についての信念のことであり, 個々の信念は認識的信念と呼ばれている。本研究の目的は, 野村・丸野(2011)が想定した教授学習過程への影響のうち, 個人の認識論が授業観と授業中の振る舞いを規定するという想定を検討することであった。そのために, まず745名の学生を対象とした調査によって認識的信念尺度を作成し, その信頼性・妥当性を確かめた(研究1)。このうち, 159名(男性79名, 女性80名)の大学生に対して, 質問と回答を取り入れた講義を行った(研究2)。その結果, 同一の授業に対して, 認識的信念下位尺度のうち, 利用する知識についての性質(条件性および適用可能性)を高く見積もった群は, 授業に協同活動的な側面を見出しやすく, 授業中の質問と回答の意義を実感し活用していた。また, より議論中に自他の意見の調整を行ったと自己評価した。この結果は, 授業を協同的活動として捉えるための認識的信念という観点から議論された。