著者
植阪 友理 光嶋 昭善
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.398-411, 2013 (Released:2014-05-21)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

説明文に比べると研究は少ないものの, 文学作品の指導が子どもの表象や認識に及ぼす影響を検討することは, 生涯にわたって文学を楽しむ大人を育成するためにも重要である。文学は読み手が体験を踏まえて再構成する自由度が大きく, 説明文よりも多様な状況モデルを許容する。中でも俳句は最も文字数が少なく, この特徴を強く有している。一方, 現在の俳句指導は解釈が定まっている名句の鑑賞が中心であり, 作句活動や相互の鑑賞活動はあまり行われていない。このため俳句本来の面白さに気づくことが難しい状態である。そこで名句の鑑賞のみならず, 作句活動や相互の鑑賞活動を取り入れた新たな単元構成を提案し, 子どもの認知に及ぼす効果を検討した。また, 鑑賞会では, (1)創作者を匿名とし, 創作者も鑑賞者と一体化して鑑賞させる, (2)鑑賞や創作の技法を明示的に教えるなどの工夫を加えた。ある児童の句に着目してやり取りを分析した結果, 異なる状況モデルを共有することで, 個々の児童の想定を超えたより豊かで新しい状況モデルが生み出されうること, 文学に対する興味が喚起されていることなどが示された。最後に, この指導から得られる新たな心理学研究の可能性を論じた。
著者
竹村 明子 前原 武子 小林 稔
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-10, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
6

本研究の目的は, スポーツ系部活参加の効果を, Nicholls (1992) の目標理論の枠組みにより, 明らかにすることであった。そのため, スポーツ系部活に参加する高校生 (部活群) 231名と, 部活に参加しない高校生 (非部活群) 200名とを対象に, 学業の目標志向性および適応 (無気力感・授業満足感) を測定し, 比較検討を行った。その結果, 部活群は非部活群に比べて, 課題志向性 (個人の能力の発達を目標とする志向性) および協同性 (仲間と協力することを目標とする志向性) が高いことがわかった。そして部活群は非部活群に比べて, 無気力感3因子のうちの自己不明瞭感が低く, 授業満足感が高いことから, 適応が良好であることがわかった。さらに, 部活群・非部活群ともに, 課題志向性が高いことは低い無気力感を説明することが, 一方授業満足感については説明できないことが明らかとなった。従って, スポーツ系部活は高校生の目標志向性および適応に対して概ね肯定的効果があることが明らかとなった。しかし, その効果は目標志向性の内容および適応の指標により異なるメカニズムをもつことが示唆された。
著者
岡本 真彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-88, 1992-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
6 10

The present study analysed metacognition in the process of solving arithmetic word problem. Sixty-three fifth graders were divided into high and low performer groups based on their achievement of an arithmetic criterion test. The arithmetic word problem used in this study was made of five sub-stages: prediction of result, problem comprehension, planning, executing and evaluation of result. Two procedures were used in the present study. First came the workseat measuring problem solving behavior and the second consisted of a stimulated-recall interview to measure awareness concerning problem solving (metacognition). Verbal response and behavior in the problem solving and interview were recorded by VTR and tape-recorder. The main findings were as follows: (1) High performer had significantly more metacognition scores than low performer; (2) High performer showed more self -monitoring activity than the low one.

1 0 0 0 OA 子ども虐待

著者
数井 みゆき
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.148-157, 2003-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
62
被引用文献数
1

子ども虐待は増加の一途を日本でもたどっているが, 虐待についての研究や報告は臨床現場からのものが多く, 被虐待児一般の発達プロセスについては日本ではほとんど研究が行われていない。その実施の難しさは確かにあるが, 家庭以外の場で被虐待児が日常的に関与する学校現場における問題や課題を理解していることは重要だろう。アメリカを中心にした研究の概観から, 学習意欲の減退や学業成果の悪化など基礎学力が大幅に低下をしていること, また, 攻撃性が高くて仲間から拒絶や無視を受けやすいという対人関係の問題を抱えやすいことなど, 学校生活を円滑に送り, 子ども自身が能力を高めていくことが阻害されている現実が明確になった。さまざまな問題に対する教育現場や教師の対応についても論じられている。
著者
西田 裕紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.25-36, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本稿では,2012年7月から2013年6月の1年間に日本で公表された,成人期・老年期の発達に関心をもつ心理学研究の動向を展望した。まず,研究の成果を「育児・親としての経験」,「夫婦関係」,「高齢者の心的発達・well-being」,「認知機能・知能」,「その他」の5つのテーマに分類して概観し,個々の研究に関して,新しい発見や生涯発達研究への示唆,今後の課題について論じた。それらの結果から,以下の全体的な傾向が指摘された。まず,成人期・老年期の心理的発達に関する論文の数は,例年と同様に多くはなかった。しかしながら,これまで研究が少ないと指摘されてきた夫婦の関係性に関する論文や,高齢化にともなって社会的な要請の強い高齢者の心的発達・well-beingに関する論文などが精力的に発表されており,この1年間の研究成果は,我が国の生涯発達研究の今後の進展に貢献するものと考えられた。最後に,成人期・老年期の発達研究の重要性と難しさ,今後の展望を議論した。
著者
下仲 順子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.303-309, 1980-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は, 文章完成テストに投映された老年群と青年の自己認知概念を中心にした心理特徴面を比較することにより, 老年期の自己概念の諸特徴を世代差, 性差の観点から追求することを目的として行われた。対象者は, 青年群は私立大学生男112, 女112, 計224 名である (年齢範囲18~25才)。老年群は居宅老人男110, 女89, 計199名である (年齢範囲69~71才)。社会経済条件は両群共平均かそれ以上に属している。結果: 家庭イメージでは, 両群共約半数の者は肯定的表現をしているが否定的反応では青年群の方が多く, 中立的客観的反応では老年群の方が多い。友人イメージにおいて, 肯定的反応は青年群女に多い。老年群では肯定反応とほぼ同率で客観的反応がなされておりそれは老人女に多い。体イメージでは, 青年女子が健康等の肯定反応が多く, 老年群では否定的な表明は老人女性に多い。加齢イメージにおいては性差, 世代差は示されなかった。過去および現在の自己イメージでは青年群に否定的自己記述が多く示された。だが未来の自己イメージでは, 老年群は肯定および否定反応に集中しているが, 青年群は過半数の者が肯定的な未来志向を示していた。生と死イメージは, 老年群のみに性差が示され, とくに女性老人の否定的表明が特徴的であった。次に生きる喜びを老年群は家族との交流や自己の健康面に求めているが青年群は物事の達成による充実感覚に喜びを求めている。また青年群は自分の人生に対して肯定的表明を示しているのに比し老年群は客観的記述が多い。以上の両群の諸特徴は世代差, 性差の観点から考察された。すなわち世代的差違として青年群に示された心理特徴面は, 成人として自我を確立してゆく過程の中で, 種々の観点からの自己省察の機制が反映していると解釈された。これに対し老年群の肯定した自己の受け入れ等の特徴は, 自我の統合性の段階を反映していると推定される反面, 自己の未来に対して冷静, 否定的であるといった面や家族という縮少した世界の中で安定しているという面は日本の老年期特有の心的特性が表明されていると考察された。
著者
加藤 厚
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.292-302, 1983-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
3 9

Marcia, J. E. による同一性地位概念を客観的な測度によって測定し, その成立における11の心理社会的領域 (家族との関係, 将来の仕事, 生き方や価値等) および 3つの時期 (現在, 大学に入ったころ, 高校2年生のころ) の重要性を検討し, あわせて各同一性地位の特徴を明らかにすることが本研究の目的である。概念的検討整理をふまえて, 「現在の自己投入」, 「過去の危機」, 「将来の自己投入の希求」の3変数の組合わせによって, 6つの同一性地位を定義する同一性地位判定尺度を作成した。大学生310名 (男子170名, 女子140名) のデータを分析した結果, 以下の諸点が示された。(1) 同一性拡散地位および権威受容地位は, それぞれ全体の約4%を占めるにすぎず, 同一性拡散-積極的モラトリアム中間地位が, 全体の約50%を占める。(2) 男子においては, 「将来の仕事」および「生き方や価値」の領域における危機と自己投入, 「勉強」の領域における自己投入が, 同一性地位と密接に関連している。(3) 女子においては, 「大学に入ったころ」の危機の水準, および大学入学以降の「同性の友人との関係」, 「勉強」, 「将来の仕事」, 「生き方や価値の追求」の各領域における自己投入の水準が, 同一性地位と密接に関連している。(4) 「政治」や「宗教」は, 大学生における同一性地位の形成において, 重要な領域であるとは言い難い。各同一性地位の特徴およびその性差も, 特に「大学に入ったころ」の危機および自己投入の水準に関して, 詳しく検討された。
著者
豊田 秀樹 秋山 隆 岩間 徳兼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.209-225, 2014

テストを構成している項目の性質を調べる際の有用な方法の一つとして項目特性図がある。項目特性図は設問項目における受験者の正答率を用いて, 当該項目がどのような性質, 特性を有していたのかを分析するための道具である。項目特性図作成の際に, 分析者は受験者を任意の数の群に分ける作業が必要となる。経験的に5群に分割されることが多いものの, 群数を決定するための明確な基準, 根拠は知られていない。群への分割数の選択について, 統計的な基準や根拠を与えることができれば, 項目特性図を用いて項目の性質を調べる上で便利である。本論文では項目特性図における情報量規準を用いた群数の選択法を論じる。シミュレーションを行い, 与えられた真の群数を推奨可能であることが示唆された。また, 実データへの適用例を通じて提案手法が妥当な群数を推奨可能であることを示す。
著者
藤原 健志 村上 達也 西村 多久磨 濱口 佳和 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-196, 2014
被引用文献数
4

本研究の目的は, 小学生を対象とした対人的感謝尺度を開発し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から6年生までの1,068名を対象とし, 対人的感謝, ポジティブ感情, ネガティブ感情, 共感性, 自己価値, 友人関係認知, 攻撃性を含む質問紙調査を実施した。主成分分析と確認的因子分析の結果, 1因子8項目から成る対人的感謝尺度が構成された。対人的感謝尺度は高いα係数を示し, 十分な内的一貫性が認められた。また, 対人的感謝尺度は当初の想定通り, ポジティブ感情や共感性, 友人関係の良好さと正の関連を, 攻撃性と負の関連を有していた。以上より, 対人的感謝尺度の併存的妥当性が確認された。さらに, 尺度得点については, 男女差が認められ, 女子の得点が男子の得点よりも有意に高かった。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の感謝研究に関して議論された。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.168-174, 1986-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3 5

The purpose of this study was to examine (a) the concepts of masculinity and femininity, and their interrelation,(b) the appropriateness of the scale for measurements of sex-roles, and (c) the difference of role expectations for both sexes. Using two types of adjective lists, scores concerning desirabilities for men, women, and ‘self’ were factor analyzed respectively in unipolar scales among 155 undergraduates and in bipolar (SD) scales also among 217 undergraduates. In both scales, three factors were identified; “agency” emphasizing personal abilities or properties,“communion” oriented to cooperation with-or consideration for others, and “delicacy-charms” consisting of tenderness and sexual attractiveness. The scale was termed ISRS (Ito Sex Role Scale). Agency and communion were the main structural dimensions of sex-roles, mutually related with desirability for both men and women. The unipolar scales were more suitable for measurements of sex-roles than SD scales for the independence of factors. Role expectations for men consisted of agency and communion, while delicacy-charms were added to those for women. Reliability and validity of ISRS were substantiated in various aspects.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-67, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

This research examined children's perceptions of junior high school (JHS) and their adaptation to JHS. In the first study, the structure of children's (N=420) expectations and worries about JHS was demonstrated to be five-dimensional by a factor-analytic procedure: (1) worries about interpersonal relationships,(2) expectations about interpersonal relationships and school work,(3) expectations and worries about club activities,(4) worries about school work, and (5) desires for freedom. The levels of expectations were higher than those expected from a previous research. The results also showed that club activities play an important role in children's perceptions of JHS. In the second study, part of the subjects (N=115) in the first study was tested again at the ninth month after transferring to JHS. Cluster analysis applied to them identified four subgroups showing different patterns of expectations and worries, as well as adaptation to JHS environment. One of the four subgroups, which showed high level of expectations in general and low level of worries about interpersonal relationships, was suggested to be most adaptable to JHS.
著者
香川 秀太 茂呂 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.346-360, 2006-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

本研究は, 密接に関連する状況間の移動と学習に関する状況論的な諸議論に新たな知見を追加するため, 看護学校内学習から周手術期の臨地実習へ移動する看護学生の学習過程を検討した。研究1では観察を行い, 「校内では, 学生は, 根拠に基づいて看護することの重要性が実感できず, その学習が希薄になってしまう傾向にあるが, 臨地実習に入ると, その重要性をより実感して厳密に実施することを学習する。それはなぜか。」という問いを設定した。研究IIでは, 実習期間終了直後の学生に半構造化面接を実施し, 修正版グラウンデッドセオリーに基づく分析を行い, この学内と臨地の差異の背景と考えられるものの一つを,【時間の流れ】の相違 (異時間性) として概念化した。臨地では, 学生の現在の行為が未来の患者の容態変化と繋がっている (共時) 上, 学生は, 患者の変化のつど, 継続的に行為を調整していく (通時) が, 学内では, 学生の現在の行為は看護対象の未来の容態変化ではなく, 合格・不合格と繋がっている (共時) 上, 対象と行為の関係が一時点で終わる (通時)。こうした異時間性が, 根拠立ての重要性の実感の差異を説明することが示唆された。
著者
秋山 道彦 武井 澄江 斉藤 こずゑ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.265-272, 1982-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

本研究では日本語を話す子どもたちに命題文の証明課題と疑問文に対する応答課題を与え, 証明の過程と応答の過程に関する3つの仮説-等価仮説, 証明原型仮説, 疑問文単純仮説を検討し, さらに英語を話す子どもたちの結果の比較を通して言語発達の普遍性の仮説の検討を行った。どちらの課題においても肯定文と否定文が含まれ, そのそれぞれには真の文と偽の文が含まれていた。結果は日本語を話す子どもたちにとっては, 疑問文に対する応答の方が命題文の証明よりもむずかしく, 証明原型仮説を支持した。これは日本語の否定疑問のあいまいさによるものと解釈された。以前に行われた英語を話す子どもの結果が疑問文単純仮説を支持したことから, なぜ異なった言語で異なった仮説が支持されたのか考察を行った。その結果, 両言語の語順のちがい, 命題証明過程と疑問文応答過程の心理学的なちがい, 証明課題と応答課題の頻度のちがいなどが, 理由としてあげられた。真偽の次元を考慮すると, 特に4歳児の否定命題の課題と否定疑問文の課題で, 従来英語圏で行われてきた研究結果と反対の結果が出た。すなわち日本語を話す子どもたちにとっては, 偽の否定命題の方が真の否定命題よりもむずかしかった。この点を説明するためにモデルが提出された。モデルの主要な特徴は, 偽・肯定命題と真の否定命題を聞いたとき子どもはそれに対応する真の否定形をもった知識を表象として形成することと, 語順の最後にくる否定詞をさきに処理することであった。このモデルは英語圏で検案されたモデルと比較され, 言語発達・言語処理は言語により異なること, 普遍性の仮説は常に成立するわけではないことが結論された。
著者
澤田 匡人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.185-195, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 妬み感情を構成する感情語の分類を通じて, その構造を明らかにすることであった。研究1では, 児童・生徒92名を対象とした面接調査を実施し, 172事例の妬み喚起場面を収集した。事例ごとの12語からなる妬み感情語リストへの評定に基づいた数量化III類を行って解析した結果, 妬み感情は2つの軸によって3群に分かれることが示された。研究2では, 児童・生徒535名に対して質問紙調査を実施し, 8つの領域に関する仮想場面について, 12の感情語を感じる程度を評定させた。因子分析の結果, 妬み感情は「敵対感情」「苦痛感情」「欠乏感情」の3因子構造であることが確認された。また, 分散分析の結果,(1) 敵対感情の得点は, 能力に関連した領域に限り, 女子よりも男子の方が高く,(2) 苦痛感情と欠乏感情の得点は, 学年が上がるのに伴って増加する傾向にあることが明らかとなった。このことは, 加齢と領域の性質が妬み感情の喚起に寄与していることを示唆するものである。
著者
谷口 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.427-438, 2005-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42

本研究の目的は, ひとつの病院内学級における教育実践を詳細に検討することから, 入院児に対してどのような教育的援助が提供されているのかを明らかにし, 教育実践の特徴カテゴリーを抽出することである。先行研究の少ない分野において有効とされる質的研究法を採用し, 参与観察エピソード及び半構造化面接逐語録をグラウンデッド・セオリー法に則って分析した。分析は概念化からカテゴリー生成, さらに現場教師からのコメントや更なるデータ収集を経て最終的な教育の特徴モデルの生成まで5段階で行われた。結果として, 病院内学級における教育実践が, 通常の教育の枠を超えて, 〈特別支援教育/ 普通校/小規模校/保育/家庭/医療/ソーシャルワーク〉という多様な援助実践の特徴を併せ持っていることが見出された。本研究は, ひとつの病院内学級におけるデータに基づく仮説生成型探索的研究ではあるが, 提示された特徴モデルにより, 従来, 他の特別支援教育と比較してとらえどころがないとされていた病院内学級における教育実践の特徴を捉える新たな視点を提供することができた。
著者
田島 充士 森田 和良
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.478-490, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
28
被引用文献数
5 2

本研究では, 日常経験知の意味を取り込まないまま概念を暗記する生徒達の, 「分かったつもり」と呼ばれる学習傾向を改善するための教育実践である「説明活動(森田, 2004)」の効果について検討した。本実践では, 生徒達が教師役を担い, 課題概念について発表会で説明を行うことになっていた。また残りの生徒達は聞き手役として, 日常経験知しか知らない「他者」の立場を想定して, 教師役に質問するよう求められた。この手続きを通し, 日常経験知の観点を取り入れた概念解釈の促進が目指されていた。小学5年生を対象に実施された説明活動に基づく授業を分析した結果, 以下のことが明らかになった。1)本授業の1回目に実施された発表会よりも, 2回目に実施された発表会において, 教師役の生徒達は, 日常経験知を取り入れた概念解釈を行うようになった。2)聞き手役からの質問に対し, 1回目の発表会では拒否的な応答を行っていた生徒達が, 2回目の発表会では, 相手の意見を取り入れた応答を行うようになった。これらの結果に基づき, 本実践における, 日常経験知との関係を考慮に入れながら概念の意味を解釈しようとする, バフチン理論のいう概念理解へ向かう対話傾向を促進する効果について考察がなされた。