著者
中西 陽 石川 信一 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.544-554, 2016
被引用文献数
7

本研究では, 中学校の通常学級集団で実施する社会的スキル訓練(Social Skills Training: SST)が, 自閉スペクトラム症的特性の高い生徒の社会的スキルと学校適応感の向上に効果があるかどうかについて検討した。自閉スペクトラム症的特性の程度は, 対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale: SRS)を用いて評価された。SST介入群は, 自閉スペクトラム症的特性の高い生徒9名(Higher levels of autistic-like traits: H-ALT), 低い生徒54名(Lower levels of autistic-like traits: L-ALT)からなり, 全3回のSSTプログラムに参加した。その間, 統制群(H-ALT5名, L-ALT51名)には特別な介入は行わなかった。その結果, H-ALTの生徒に関しては, 統制群では肯定的な変化が示されなかったのに対し, 介入群では有意な社会的スキルの向上と身体的ストレス反応の低下が示された。L-ALTの生徒に対しては, 統制群と比較して介入後に学校適応感の向上が示された。したがって, 本研究でのSSTは生徒の自閉スペクトラム症的特性の水準に応じて異なる効果が期待できる可能性が示された。
著者
山森 光陽 萩原 康仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.555-568, 2016
被引用文献数
3

クラスサイズパズルと呼ばれる, 学級規模が児童生徒に及ぼす影響を検討する研究群で一貫した結果が得られない現象が見られる背景には, 学級規模と学級規模以外の要因との交互作用の存在が考えられる。学級編制基準は学級規模のみならず, 学年学級数の多少も決定するため, 本研究では学級規模の大小, 学年学級数の多少及びこれらの組合せによって過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討した。そのために, 小学校第4, 6学年4月に実施された国語の学力調査得点についての67校分の2時点のパネルデータに, 対象児童が第4, 5学年時に在籍した学年の学級数及び学級の児童数を組合せ, 階層的線型モデルを適用した分析を行った。この結果, 過去の学力調査得点が低かった児童について見れば, 学級数の多い学年で小規模な学級に在籍した児童の方が, 学級数の少ない学年で小規模な学級に在籍した児童と比べて後続の学力が高いといった学力の底上げが見られた。この背景について, 学級規模と学年学級数によって異なる学級の質, 学年学級数によって異なる教師同士の協同による教材研究等の頻度の点から考察した。
著者
酒井 厚 中山 紫帆 深澤 祐介 熊谷 好恵 菅原 ますみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.505-517, 2016
被引用文献数
4

本研究は, 学校が家庭や地域との連携の核を担うアンカーポイント役割(小泉, 2002)の観点から, 小学校教員が子どもに他者と関わる機会を提供するためにその役割を担うことをアンカーポイント活動と定義し, 測定尺度の開発に基づく構造の確認と関連要因について検討することを目的とした。236名の小学校教員に対して, アンカーポイント活動への積極性, 保護者や地域に抱く信頼感, 勤務校が出身地かどうかなどの項目を含む自記入式の質問紙調査を実施した。教員のアンカーポイント活動への積極性尺度を作成し探索的および確認的因子分析を行ったところ, 「子どもの仲間づくり活動」, 「子どもと地域をつなげる活動」, 「子どもの暮らし・安全を支える活動」の3因子が抽出された。つぎに, 階層的重回帰分析を用いて, アンカーポイント活動への積極性の因子ごとに関連要因を検討した。その結果, 教員が保護者や地域住民に抱く信頼感の高さが, 各活動への積極性の高さを有意に予測しており, 両者間の関連性は, 教員の年齢や教員の勤務地が出身地かどうかによって調整されていた。例えば, 勤務地が出身地の場合に, 教員が地域に抱く信頼感の高さがアンカーポイント活動への積極性の高さをより予測しており, これらの結果から教員のアンカーポイント活動への積極性が高められる状況について議論された。
著者
三島 浩路 黒川 雅幸 大西 彩子 吉武 久美 本庄 勝 橋本 真幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.518-530, 2016
被引用文献数
5

高校ごとの生徒指導上の問題の発生頻度認知や携帯電話に対する規制と, 携帯電話に対する生徒の依存傾向等との関連を検討した。13の高校に所属する教師約500人と生徒約1,700人を対象に調査を行った。その結果, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が高い高校に在籍している生徒ほど, 携帯電話に対する重要度認知が高く, 携帯電話に対する依存傾向が強いことが示唆された。生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校に関しては, 携帯電話に対する規制の強弱により, 生徒の携帯電話に対する依存傾向が異なることが示唆された。具体的には, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校の中では, 携帯電話に対する規制が強い高校に在籍している生徒の方が, 規制が緩やかな高校に在籍している生徒に比べて, 携帯電話に対する依存傾向が強いことを示唆する結果が得られた。
著者
神長 伸幸 大石 衡聴 馬塚 れい子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.531-543, 2016
被引用文献数
3

視覚文脈を見ながら文を理解する際の処理の逐次性を5歳・6歳児および成人を対象に検討した。実験では, 「緑の猫はどれ」のように形容詞と名詞の組み合わせを含む文を聴覚提示し, 視覚文脈から指示対象となる事物を選ぶよう被験者に教示した。視覚文脈は, 指示対象を形容詞または名詞の提示により特定できる場合があった。課題中の眼球運動測定データより指示対象となる事物の注視頻度と瞳孔径を求め, 視覚文脈と年齢群の効果を検討した。成人群では, 名詞で指示対象を特定できる場合より形容詞で特定できる場合で指示対象の注視頻度の上昇が早かった。しかし, 5・6歳児では, 視覚文脈の注視頻度への影響が統計的に有意でなかった。瞳孔径を指標とすると, 6歳児は名詞で指示対象を特定できる場合に比べて形容詞で特定できる場合に瞳孔径の拡張が早かった。成人では, 名詞で特定できる場合に形容詞で特定できる場合よりも瞳孔径の拡張が大きい傾向が見られた。5歳児は視覚文脈の効果が瞳孔径に現れなかった。これらの結果より, 少なくとも6歳以降は視覚文脈に合わせた形で指示対象を逐次的に特定できると考えられる。ただし, 幼児は眼球運動制御が未熟で, 注視頻度のみから文理解の逐次性を安定的に検出するのは難しく, 瞳孔径が補完的な指標となり得ることが示唆された。
著者
尹 成秀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.492-504, 2016
被引用文献数
3

本研究は在日コリアン青年の心理学的問題について, 対人関係における体験に焦点化し検討を行ったものである。在日コリアン青年14名に対してエピソード・インタビューを行い, 得られた語りをグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果, [日本人との関係における体験], [在日コリアン同士の関係における体験]についてのカテゴリー関連統合図が作成された。<br> 考察では, 在日コリアン青年は日本人との間でも在日コリアン同士の間でも, 相手との差異を認識した際に相手が差異に対して否定的な態度であると想定し, 自身もその差異を望ましくないものとして意味づけている可能性が示唆された。そして, そのために彼らには相手からの評価や相手との関係が悪化する不安, 疎外感, 劣等感が生じる可能性が考えられた。しかし同時に, 在日コリアンであることを知ってもらいたいなどの相反する情緒も生じるために, 差異をめぐる状況で葛藤が生じることが示唆された。また, そうした状況で彼らは自身の認識や気持ちとは異なる相手に合わせた対応を行う場合もあることが見出された。この体験は彼らの対人関係のなかで反復されるものであり, 中核的な問題の1つであると考えられた。
著者
犬塚 美輪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.13-25, 2016 (Released:2016-04-11)
参考文献数
30
被引用文献数
5

本研究では, 学習者が数学をどのような学問だと捉えているかを数学信念と定義した。本研究の目的は, 第1に, その因子構造を明らかにすることである。第2に, 数学信念の個人差を説明する要因を検討することを目的とした。先行研究と予備調査をもとに質問紙を作成し, 本調査では大学1年生762名の回答を分析した。探索的因子分析と確認的因子分析から, 数学信念が「有用性」「思考プロセス」「固定性」「困難性」の4因子によって説明できることを示し, 各因子の負荷の高い4項目を用いた数学信念の構造モデルを採用した。さらに, 性別, 学力(得意度・入試難度), および学習経験(専攻・数学学習経験・受験経験)が, 数学信念の4因子をどの程度説明するか, 共分散構造分析によって分析した。その結果, 学力や学習経験にかかわる変数と数学信念の関連が見られた。具体的には, 数学得意度は, 全ての因子と関連し, 得意度が高いほど有用性や思考プロセスの評定が高く, 固定性や困難度の評定が低かった。また, 入試難度・学習経験と受験経験から思考プロセスには有意な正のパスが示され, 固定性には有意な負のパスが示された。さらに, 専攻が理系であると, 思考プロセスの評定が高かった。一方, 性別と信念の4因子の間に有意なパスは見られなかった。
著者
植木 理恵 清河 幸子 岩男 卓実 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.92-102, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

「テーマ学習」とは, 児童・生徒が自らテーマを選択し, 情報収集を行い, その結果をまとめて発表する一連の学習活動である。現在は「総合的な学習」の導入への移行期にあたり, このような自己制御的な学習に関する先進的な取り組みがすでに多く報告されている。しかしこれまでの実践事例は, どのようなテーマについて, どのような学習活動を行ったかという記述に留まっているものが多い。教育心理学的な視点からは, 学習者がどのような内的な知識・技能をもち, それをどう高めていくかが問われるであろう。そこで本研究は, 筆者らが大学において地域の児童・生徒を招いて開催してきた実践活動の中で, スタッフがいかにテーマ学習を支援しようと試み, それが子どもたちにどのような効果をもたらしたかについて検討を行った。その結果, 1年間の準備期問とテーマ学習の体験を通して, 子どもたちは「情報どうしを比較すること」「情報を統合すること」といったスキルを自発的に身につけていることが明らかになった。そのような結果をもたらしたスタッフの有効な働きかけとしては「一般的な自己制御学習のスキルを直接教授すること」と「子どものモニタリング機能を担うこと」などがあげられ, 今後のテーマ学習の際にはこのような支援をより意図的に行うことの必要性が示唆された。
著者
竹下 浩 奥秋 清次 中村 瑞穂 山口 裕幸
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.423-436, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
33
被引用文献数
4

近年日本の製造業で生産技術者の育成が急務となっており, 高等教育でも「ものづくりPBL」の取り組みが増加している。しかし実際のチームワーク形成過程は解明されておらず, 効果的な授業評価法を確立するために, その解明が求められている。そこで本研究は, ものづくり型PBLのチームワーク形成プロセスを説明・予測できる理論モデルを提示する。6校13名からデータを収集, 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果, 42の概念が生成された。ものづくり型PBLにおけるチームワークの形成プロセスは, ものづくり・チーム活動・スキル蓄積という3つの過程で構成されており, 主な特徴は以下の3点である。(1) 製作段階ごとにスキルが試される結果, ものづくり過程はチームワーク形成過程に強制力を有していた。(2) チーム活動課程は, サブチーム(製作物の専攻科別担当チーム)の形成から発達し, 協業あるいは孤島化へと至る。(3) 成員はものづくりを目的としてチーム活動する一方, チーム活動の派生物としてスキルを習得していく。考察では, 先行研究では説明できない点を議論する。さらに, 高等教育や企業の人材育成への示唆を提示する。
著者
飯村 周平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.364-375, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
38
被引用文献数
7

高校受験は, 多くの中学生にとってストレスフルな出来事である一方で, 生徒に心理的な成長をもたらす可能性もある。本研究では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートが高校受験を通じたストレス関連成長に及ぼす影響を検討する。対象者は中学3年生(男子96名, 女子87名)であり, パーソナリティ特性, 知覚されたサポート, およびストレス関連成長で構成される尺度に回答した。階層的重回帰分析の結果, パーソナリティ特性と知覚されたサポートは, ストレス関連成長の全分散の30-50%程度を説明した。男子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの交互作用がストレス関連成長と関連を示し, 女子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの主効果のみが確認された。以上の検討から, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの効果は, 生徒の性別や両要因の組み合わせによって異なることが示唆された。
著者
小田切 歩
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-16, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

本研究では, 授業場面における集団での多様な考えの統合過程(協同的統合過程)を通じて, 個人が多様な知識をどのように関連づけていくのかという個人の知識統合のメカニズムを検討した。その中でも, 教科内容の知識と日常的な知識の関連づけに着目し, 高校生が理解に困難を抱えている三角関数と回転運動との関連づけに関する問題解決過程を, 事前課題—授業(協同的統合過程の有無)—事後課題のデザインで検討した。分析の結果, 多様な解決方略が可能な課題を設定し, 教師の支援のもとで生徒がそれらの方略の構造化を集団的に行うような協同的統合過程において, 個人が発言あるいはワークシート上で日常的な知識と教科内容の知識を用いて方略間の関連に関する説明を構築することで, 円という共通点による, 回転運動という日常的な知識と単位円という具体的な教科内容の知識との関連づけをもとに, 高さの変化を表すものとして, 回転運動と三角関数という抽象的な教科内容の知識が関連づけられ, さらに半径や高さの基準という, より具体的な教科内容の知識が関連づけられていくというプロセスで知識が構造化されていき, 事後課題において知識統合が促進されることが示された。
著者
五十嵐 哲也 萩原 久子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.264-276, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
5 5

本研究では, 中学生の不登校傾向と幼少期の父母への愛着表象との関連を検討した。480名の中学生を対象とし, 以下の結果が得られた。1)「別室登校を希望する不登校傾向」は主に母親の「安心・依存」と「不信・拒否」,「遊び・非行に関連する不登校傾向」は両親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。また,「在宅を希望する不登校傾向」では異性親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。一方,「精神・身体症状を伴う不登校傾向」は,「分離不安」との関連が強かった。2) 女子では, 幼少期の母親への愛着がアンビバレントな型である場合や, 父母間の愛着にズレが生じている場合に不登校傾向が高まる傾向が示された。女子はこうした家族内における情緒的不安定性への感受性が強く, 不登校傾向を示しやすいと言える。3) 男子では,「在宅を希望する不登校傾向」得点が高く, 幼少期の父母両者に対する愛着の「不信・拒否」と関連があることが特徴的であった。これは青年期以降の社会的ひきこもりに見られる状況と一致しており, 登校しながらも在宅を希望している男子の中に, 思春期時点ですでに同様の傾向が示されていると言える。
著者
黒沢 幸子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.120-129, 2010-03-30 (Released:2012-03-27)
参考文献数
76
被引用文献数
1 1
著者
小野田 亮介 松村 英治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.407-422, 2016
被引用文献数
4

本研究の目的は, 低学年児童の意見文産出活動を対象として (1) マイサイドバイアスの克服におけるつまずきの特徴を解明し, (2) マイサイドバイアスを克服するための指導方法を提案することの2点である。2年生の1学級32名を対象とし, 1単元計5回の実験授業を行った。その結果, マイサイドバイアスの克服におけるつまずきとして, 反論を理由なしに否定する「理由の省略」と, 反論と再反論の理由が対応しないという「対応づけの欠如」が確認された。一方, 他者の意見文を評価する活動においては, 児童は反論想定とそれに対応した再反論を行っている意見文を高く評価していた。そこで, 児童は「良い意見文の型」を理解してはいるが, その産出方法が分からないためにマイサイドバイアスを克服できないのだと想定し, 児童が暗に有している「良い意見文の型」を児童の言葉から可視化する指導を行った。その結果, 児童は教師と協働で「良い意見文の型」を構築・共有することができ, その型を基に独力でマイサイドバイアスを克服した意見文産出ができるようになることが示された。
著者
柳岡 開地
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.395-406, 2016
被引用文献数
1

私たちは日常様々な場面でスクリプト(Schank & Abelson, 1977)を利用している。スクリプトは, 様々な場面に共通する要素と場面特異的な要素から構成される。本研究ではこうした要素間の区別を, 場面変更時に柔軟に利用できるようになる発達過程とその認知的基盤に関する検討を行った。実験1では, 幼児67名を対象に柳岡(2014)の人形課題を改良した課題を実施した。実験2では, 幼児66名を対象として2つの時期に分けて, 実験1と同様の人形課題, 実行機能を測定する赤/青課題, DCCS, 9ボックス課題の3課題, 語彙能力を測定する絵画語い発達検査を実施した。本研究の人形課題では, ある行き先にむけて人形に服を着せる途中に, 他者が別の行き先への変更を指示する課題であった。この課題では, "着替えスクリプト"の共通要素と固有な要素を区別して変更できるかどうかを測定した。結果, 幼児期後期になると, 2つの行き先間で変更する際に共通の要素を脱がさず固有の要素のみ変更していたことから, スクリプトを柔軟に利用できることが明らかとなった。さらに, その認知的基盤として実行機能の発達が関連することが示唆された。
著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016
被引用文献数
4

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
飯村 周平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.364-375, 2016
被引用文献数
7

高校受験は, 多くの中学生にとってストレスフルな出来事である一方で, 生徒に心理的な成長をもたらす可能性もある。本研究では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートが高校受験を通じたストレス関連成長に及ぼす影響を検討する。対象者は中学3年生(男子96名, 女子87名)であり, パーソナリティ特性, 知覚されたサポート, およびストレス関連成長で構成される尺度に回答した。階層的重回帰分析の結果, パーソナリティ特性と知覚されたサポートは, ストレス関連成長の全分散の30-50%程度を説明した。男子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの交互作用がストレス関連成長と関連を示し, 女子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの主効果のみが確認された。以上の検討から, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの効果は, 生徒の性別や両要因の組み合わせによって異なることが示唆された。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.352-363, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己変容の想起がアイデンティティ形成にもたらす影響について明らかにすることであった。今のどのような自分を(現実自己), この先どのような自分に(理想自己)変えたいと思っているかを尋ねる項目に加えて, 志向性, 変容後のイメージ, 計画性を尋ねる項目が作成された。研究1では, 大学生393名を対象に質問紙調査が行われた。分析の結果, 自己変容を望まない者は, 自己変容を望む際に具体的な現実自己や理想自己を想起する者よりも, 反芻的なアイデンティティ探求が低いことが示された。研究2では, 大学生230名を対象に実験的操作を用いた2回の質問紙調査が行われた。分析の結果, 理想自己を伴って自己変容を想起した群は, 何も想起しなかった群と比べて, 反芻的探求が有意に減少した。また, 2つの研究を通して, アイデンティティ形成に影響を及ぼす要因は, 理想自己に変わった姿をイメージすることや理想自己への変容のための計画を持つことであることが明らかにされた。
著者
大西 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.340-351, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 一般的な学生の学業領域に固有の知覚された無気力について探索的な検討を行った。研究1では, 学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し, 学業への取り組みの実際との関連から妥当性を検討した。研究2では, スチューデント・アパシーと抑うつとの相関から作成した尺度の特徴を検討し, クラスタ分析を用いて学業領域固有の知覚された無気力を類型化した。2つの研究の結果, 労力回避, 葛藤, 達成非重視という3つの知覚された無気力と, 無気力群, 低無気力群, 中間群, 達成非重視低群という4つの群が得られた。達成非重視は, これまでの無気力研究では検討されていないものである。その特徴は無気力的な行動が狭い範囲にとどまり, アパシー的な感情を感じることも少なく, 病的なモラトリアムではなく, アイデンティティの確立にむけて将来を考えている状態であることが示された。一方で学業課題の達成を非重視できない一群の学生は病的なモラトリアムの状態に固着しており, アイデンティティの確立に課題を抱きやすいことが示唆された。