著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
13 8

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を日的として高まるのではないかと考えられた。
著者
葛谷 隆正
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.8-17,65, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12

われわれは民族的好悪とその人格性要因に関する問題について男女232名に対して行なつた調査結果を考察してきたが, いまその主要な点を要約し列挙してみることとしよう。(1) 大学生の民族的好悪の状態は5年前の調査結果と比較して0.874という高い相関があり, かなりの一致性がみられるが, 特にシナ人・インド人・朝鮮人に対しては一の方向に, オーストラリヤ人・スイス人・アメリカ人に対しては十の方向にかなりいちじるしい変化をきたしていた。(2) 民族的好悪感と民族的優劣観とは0.760の相関を示し, 相当の一致性のあることがわかつた。しかし, ロシア人・ユダヤ人・シナ人・アメリカ人においては好悪感よりも優劣観においていちじるしく+であり, これに反し日本人・インド人・ビルマ人・フィリピン人・黒人に対してはいちじるしく一であることが注目された。(3) 民族的好悪と人格性要因との関係については,(i) 外国びいきの性格の強もいのはそうでないものよりも優劣点・自己嫌悪点がより高く, 偏見点においてより低いという傾向が顕著にみられた。しかし偏見点が彼等においてより低いということは外国びいき自国ぎらいという人間的罪悪感から逃れるためのかれらのとる自己防衛手段の現われではないかと察せられる。(ii) ・偏見的性格の強いものはそうでないものに比して優劣点がより低く自己嫌悪点がより高いという傾向が明瞭に看取された。(iii) 自己嫌悪の強いものはそうでないものよりも優劣点も偏見点もより高いという傾向がはつきりうかがわれた。(iv) したがつて, 外国びいきの性格の強いものも偏見的性格の強いものも基本的には同一の人格性力学をもつた2つの異なつた姿であると見られる。

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.8, 1966 (Released:2013-02-19)

Vol. 13 No. 1 p. 15修正箇所:本文 右側修正内容:(誤) 43.3(正) 54.4

1 0 0 0 OA ABSTRACTS

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.60-60, 1966-03-31 (Released:2013-02-19)

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.44, 1966 (Released:2013-02-19)

Vol. 13 No. 4 p. 194-254修正箇所:その他
著者
安田 朝子 佐藤 徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.203-214, 2000-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
3 1

Taylor (1989) は, 自己報酬的なバイアスは精神的健康や適応と結びついていると主張している。しかし, それは本当だろうか。自己報告式の尺度のみによって健常者を抽出すると, 「抑圧型」のような過度に肯定的なバイアスを示す群がそこに混入するため, 結果が大きく歪む危険性がある。しかし, 「抑圧型」は身体疾患の罹病率が高く, 必ずしも健康であるとは言い難い。「抑圧型」は, 特性不安尺度の低得点者かつMarlowe-Crowne社会的望ましさ尺度の高得点者と操作的に定義される。他方,「真の低不安群」は両尺度の低得点者である。研究1では, 過度に肯定的な自己評価傾向および非現実的な楽観傾向は「抑圧型」において顕著であり,「真の低不安群」はそれほど楽観的ではないことが示された。また,「抑圧型」では, 当人にとって重要なゴールと現状との不一致が小さく, それゆえ陰性情動の自己報告が低いことが示唆された。研究2の結果から,「抑圧型」において観察された非現実的な楽観傾向は, 実際にゴールと現状との不一致がないことによるのではなく, 現状に関するフィードバック情報が無視されているためであることが示唆された。すなわち,「抑圧型」では, 定期試験前になされた成績予測得点は最も高く, 実際の成績は最も悪かった。また, 予測に比して成績が悪かった場合, 他群では結果のフィードバックを受けて予測が下方修正されたのに対し,「抑圧型」では予測が変わらないか上方修正される場合さえあった。本研究では,「抑圧型」ではそもそも負の結果のフィードバックが適切に評価されないためにこうした楽観傾向が維持されており, それゆえ状況に応じた対処方略の選択と修正が妨げられていることが示唆された。こうした結果から,「真の適応」とは, 状況に応じた適切な対応をなし得る認知構造の柔軟性にあるのではないかと考えられる。
著者
橋本 憲尚 加藤 義信
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.358-368, 1988-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
51

It is well-known that younger children up to the age of about 6 yr. have much difficulty in discrimination between oblique lines in contrast with relative ease in that between horizontal and vertical. This phenomenon is called oblique effect and a large amount of studies were conducted over the past twenty years for determining the causes of such effect. This paper reviewed these experimental studies in terms of the development of the children's strategies in encoding and storing information of oblique orientation in memory. Some recent infant studies revealed that even a baby might have his/her categorical ability of orientation, so, during early childhood, the orientational categories should be much elaborated, and several encoding strategies for non-specific orientation such as oblique should be developed in an appropriate way to each stimulus context. This course of the development seemed to be confirmed on the whole from the present overview of the studies concerned. This confirmation afforded a basis for further discussions on a developmental hierarchy in orientational categories.
著者
榊 美知子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.184-196, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34

本研究では, 手がかりイベント法 (event-cueing technique) を利用し,(1) 自伝的記憶がどのように構造化されているのか,(2) 自伝的記憶の感情情報がどのように保持されているかに関して検討を行った。46名の大学生に手がかり語を8語呈示し, 関連する自伝的記憶を1つずつ想起させた後 (cueing events; 手がかりイベント), 各手がかりイベントに関連する自伝的記憶 (cued events; 想起イベント) を2つずつ想起するよう求めた。その結果,(1) 想起イベントと手がかりイベントは高い時間的近接性を持っていること,(2) 想起イベントを思い出す際に, 手がかりイベントと同じテーマに関する記憶が想起されやすいことが示され, 自伝的記憶がテーマごとに領域に分かれた構造を持つことが明らかになった。更に, 自伝的記憶の領域と感情の関連について階層線形モデルによる分析を行ったところ, 領域ごとに異なる感情状態と関連していることが明らかになった。このことから, 自伝的記憶と感情の関連や, 自伝的記憶による感情制御を検討する際に, 自伝的記憶の領域構造を考慮する必要があることが示唆された。
著者
野崎 優樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.362-373, 2013 (Released:2014-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
7 2

日常生活で自己や他者がストレスを経験した際にネガティブな情動を調整する経験は, 情動を上手く扱うトレーニングのように働き, 情動知能の高さにつながる可能性がある。本研究では, ストレス経験として定期試験を取り上げ, 自他の情動調整行動が情動知能の変化と正に関連する可能性を検討した。さらに, この可能性を検討するために, 情動調整の多次元性を考慮に入れて自他の情動調整行動を測定する尺度を作成した。大学生101名(男性61名, 女性40名)が試験前と試験後の2時点で調査票に回答した。分析の結果, 定期試験期間中の, 肯定的再解釈, 気晴らし, 肯定的再解釈のサポート, 情動の表出のサポートが, 情動知能自己領域と情動知能他者領域の変化と正に関連することが示された。さらに, 気晴らしのサポートが, 情動知能他者領域の変化と正に関連することが示された。また, 状況的および特性的な情動調整行動と試験ストレスの影響を比較した結果, 特性的な情動調整行動や定期試験に対するストレス度よりも, 対試験ストレスの情動調整行動が情動知能の変化と正に関連していた。以上より, 定期試験期間の自他の情動調整行動が情動知能の変化と正に関連することが明らかにされた。
著者
藤江 康彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.21-31, 2000-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

教室談話には, 課題解決においてフォーマルともインフォーマルともとれる, 「両義的」なタイプの発話をみいだすことができるだろう。本研究は, 一斉授業の話し合い場面において, 子どもの両義的な発話が, 教師にどのように対応され, 授業の展開にどのような意味をもつのかを明らかにした。小学5年の1学級 (24名) で行われた社会科単元「日本の水産業」の発話記録に対し, カテゴリーの数量的分析と発話事例の解釈的分析を行った。カテゴリーの数量的分析では, 教師は子どもの両義的な発話に選択的に対応しており, つぶやきやいいよどみであっても積極的に受容していることが明らかになった。発話事例の解釈的分析では, 次の点が明らかになった。1つには, 課題解決の活動において, 子どもの両義的な発話生成と教師のねらいとの間に論理展開上のズレが生じると, 教師は追究を行い, 教師のねらいに課題解決を方向づけていた。2つには, 教師の授業進行への戸惑いとして子どもの両義的な発話が生成されると, 教師は一度同調し, 話題を先取りすることで授業進行の主導権を維持していた。3つには, 抽象度が高い内容を扱ったため授業進行が停滞すると, 教師は自ら両義的な発話を導入することで, 子どもの両義的な発話を誘発し, 授業進行を活性化させていた。以上より, 子どもの両義的な発話は教師から対応されることで, 課題解決の促進や授業進行の円滑化に貢献することになるといえる。
著者
田村 隆宏
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-11, 2013-03-30 (Released:2013-10-30)
参考文献数
20

本稿では2011年6月から2012年7月までの乳幼児の発達に関わる心理学的研究の動向を展望した。本稿では特に個々の研究成果の教育実践への貢献について焦点を当てた。乳幼児の発達に関する心理学的研究の現在の関心は知覚,認知,思考,言語,社会性,行動に関するものであった。これらに加えて,母親の養育行動に関わるものがこの領域に関連している。これらの研究成果の教育実践に対する貢献を位置づけることの重要性を議論した。
著者
三島 知剛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.277-289, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本研究は, 教職志望学生の授業観察力の育成法として, 「グループディスカッション」「モデリング」の効果を学生の実習経験の有無に着目しながら検討することであった。そのため, 122名(2年生55名, 3年生67名)を対象にポスト調査での授業観察力が条件間でどのように異なるかを検討した。その結果, (1) 実習経験の有無にかかわらず, 「モデリング」を行うことが授業観察力の「問題指摘数」の側面を向上させること, (2) 実習経験の無い2年生において, 「基本的な教師の指導技術」に関する問題指摘数の向上に「グループディスカッション」「モデリング」の効果が部分的にあること, (3) 授業観察力の「代案生起数」の側面には「グループディスカッション」「モデリング」共に介入の効果が見られないこと, が主に明らかになった。
著者
神崎 奈奈 三輪 和久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.121-132, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
27

グラフの表現の違いが情報理解に与える効果が確認されてきた。このことは, 説明の仕方によって, グラフの使い分けがなされる必要があることを示唆している。本研究では, 研究発表等で日常的にグラフを使用している研究者を日常的グラフユーザと定義し, 日常的グラフユーザ, および理系大学院生, 文系学部学生を対象として, 自らが生成した説明とグラフ表現の一貫性に関する検討を行った。具体的には, 生成された説明中の特定の変数の表現と, 作成されたグラフにおける変数の配置の一貫性という観点から, グラフ作成に関する実験を行った。実験1A, 1Bの結果から, 日常的グラフユーザ, および理系大学院生は, 自らが生成した説明と一貫した表現のグラフを作成していることが確認された。一方, 実験2の結果から, 文系学部学生に関しては, 説明に関連したグラフの使い分けは確認されなかった。ただし, 実験3の結果から, 文系学部学生に関しても, グラフの候補を提示することによって, 自らグラフを作成する状況に比して, 説明に関連したグラフの使い分けが促進されることが示唆された。
著者
古籏 安好
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.193-205,252, 1965-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27

協同と競争の集団効果は, 教育社会心理学の観点から, 最も関心のある問題である。この集団効果を体系的に検討するためには, 「参加性」仮説の体系化が肝要な問題のひとつである。ここに集団参加性変数は'連帯性・勢力性および親和性の3次元に関するとして, これらの概念的および操作的定義を明らかにし, それらの測度を示した。従来かならずしも明確でなかつた参加性と凝集性を識別した。集団に関する凝集性の測度として集団への魅力と対人的魅力に関する2方法によつて, これらの関連をも検討した。以上の検討はすべて集団レベルでなされた。この実験の結論はTable15に要約される。すなわら,1) 協同集団は, 競争集団よりも連帯性・勢力性・親和性およびそれらの総合としての集団参加性の各得点で有意にまさる。特に勢力性は最も顕著な差を示す。2) 協同集団は, 競争集団よりも集団凝集性 (ATG) の得点が高くなる傾向がある。また一般的にいえば, 協同集団では競争集団におけるよりも集団内ソシオメトリックな選択数を増加する傾向がある。ソシオメトリック・テストによる対人的魅力と集団凝集性 (ATG) との間には, 有意の連関があるといえる (TabLe9, 10) 。3) 課題1とIIの得点によつて測定された集団生産性においても, 協同は競争に有意にまさる。4) 知能水準によつて構成された各類型A・B・C・D1およびD2の間に, 集団参加性とその3つの次元 (S・P・A), 集団凝集性および集団生産性の差があるかないかを, 分散分析の結果によつてみると, 競争条件下の勢力性のほかは, すべての測度の得点において有意の差がある。そして一般的にいつて, 集団としての知能水準の高い集団類型は, その低い類型よりも生産性のみならず参加性および凝集性の各変数でも有意に高い得点を持つている (Table5, 8, 14) 。
著者
東 洋
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.125-131, 2000-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
6

筆者の形成期, つまり終戦前後から1960年代初頭に及ぶ間の日本の心理学の流れを, 学生または若手研究者としての体験と印象に即して述べる。この時期はまた戦争による壊滅から, 日本の国力も学問も回復に向かった時期である。教育心理学を関心の中心におきながら, 終戦前後のこと, ゲシュタルト心理学とS-R理論, 戦後の講習会を通じてのアメリカ心理学の影響, 教育心理学の独立, 臨床心理学, 心理学における数学と推計学, コンピューターと認知心理学などの話題から成る。