著者
福永 津嵩 浜田 道昭
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.163-167, 2017-04-10 (Released:2017-04-13)
参考文献数
18

バイオイメージング技術やロボットによる自動測定技術の進歩によって,人間の目ではとても全てを観察する事が出来ないほど大規模な生物画像データが産出されるようになってきた.これらの大規模データから生物学的な知見を得るために,機械学習技術を利用して生物画像の分類やクラスタリングを行うといった研究が近年盛んに行われるようになりつつある.本解説では,このような生物画像における機械学習技術の活用例として,「能動学習・半教師あり学習を利用した生物画像データの自動分類」「電子顕微鏡画像を用いたタンパク質立体構造の単粒子解析」「遺伝子変異体の大規模行動データ解析に基づく遺伝子型と表現型の関係性解析」という3つの研究事例について,実際の画像データや生物学的背景の議論も含めながら紹介する.
著者
木下 修一
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.543-555, 2011-12-10 (Released:2011-12-13)
参考文献数
31

構造色は自然界に広く分布していて,進化の過程で獲得したさまざまな微細構造は,フォトニクス技術の先取りとして強い関心を持たれている.構造色は,光のエネルギーをまったく失うことなく発色するので,最高にエネルギー効率の良い発色法であり,また,重金属を用いないことから環境にもやさしい発色法として注目されている.ここでは,構造色に関連したさまざまな光学現象,すなわち,薄膜干渉,多層膜干渉,フォトニック結晶,回折格子,光散乱について概説し,特に,発色機構との関連について述べていく.また,自然界での構造色の一般的な法則を明らかにし,生物における構造の多機能性についても述べる.
著者
黒田 章裕 勝俣 栄作 山﨑 寛久 山 峻輝 木山 修一 前田 秀一
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.466-472, 2017-10-10 (Released:2017-10-13)
参考文献数
19

赤ちゃんの皮膚は透明感があり,みずみずしく奥行きを感じる.ヒトの皮膚は半透明,多層状の構造を有しているが,屈折率が大きく変化する部位は限られているため,半透明の多層スクリーンでその光学特性を近似できる.我々は,光学近似モデルの光学特性を評価していく中で,長波長側の可視光成分が多重反射し,比較的長い距離を伝搬していく現象を観察した.長波長可視光成分には,赤色,黄色といった皮膚の色や見た目の印象を決定するための重要な光成分が含まれており,これが実際の皮膚でも生じているのか否かを確認することは,皮膚のような半透明体を光学的,画像的に解釈するための基礎理論を構築することにつながるため重要である.そこで,ヒトの前腕内側部を用いて,異なる色のレーザー光を照射した時の皮膚内の光到達距離を高感度センサーを用いて調べてみたところ,長波長側の光が短波長側と比べてより長い距離を伝搬していること,赤色レーザーの場合で,その伝搬距離は54mmに達することを見いだした.この結果は,先の光学近似モデルの結果と良い一致を見た.
著者
野口 淳
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.68-72, 2023-02-10 (Released:2023-02-10)
参考文献数
25

立体物としての文化財のアーカイブスには3D計測が有効である.実在するモノ,建造物,空間などをLiDAR (light detection and ranging) スキャナや3D写真計測により対象表面を高密度な点群として,かたち,色・テクスチャを詳密に記録することで,光学的な「見た目」だけでなく,かたちとして残される製作技法や使用の痕跡も検討可能なアーカイブデータを作成することができる.微細なものから巨大なものまで,規模や複雑さに関わらずデジタルデータとすることで物理空間の制約を超えた保管と利活用が可能になり,また個別資料のデータを,より大きな組み合わせ,配置,構造の要素としてデータベース化することもできる.文化財3D計測の概念・手法・利活用と展望について概観する.
著者
高島 永光 高本 徹也 斎藤 和行 新井 聖 阿部 隆夫
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.3-10, 2013-02-10 (Released:2013-02-13)
参考文献数
10

インクジェットプリンタに要求される重要課題の一つは,長期間において不連続に印刷を行った際にインクの吐出不良を生じないことである.ところが,コンシューマー用インクジェットプリンタにおいて,吐出不良が製品寿命より遥かに短い段階で見られ,商品の長期信頼性の観点から大きな問題を有していた.吐出不良の原因として,プリントヘッドのインク流路内に存在する小さなサイズの気泡が,インク流路内に滞留している間に大きなサイズに成長し,インク流路幅を狭めてインク流量が減少することが知られている.筆者らは,そのことがノズル穴から適正なインク滴の飛翔しない現象に結び付き,インクの吐出に悪影響を与えるだろうと考えた.この問題を解決するために,インク流路を構成する新たな樹脂材質と流路構造を開発した.材質として酸素と水蒸気ガスに対する高バリア性を付加し,流路構造として流路にバイパスとなる数個の溝と,小さいままの気泡を流路中心部へ導くリブを設置した.この解決策により,インク流量が長期間にわたって減少せず,気泡成長にかかる期間が長期化することを明らかにした.この手段により,吐出不良の発生が減少する.
著者
平林 純
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.529-535, 2023-10-10 (Released:2023-10-10)
参考文献数
2

幅広く画像を取り扱う画像科学・工学者である私たちは,画像情報の取得やさまざまな画像処理を行い,さらに画像の出力を行っています.今日現在の21世紀に至るまで,多くの画像科学・工学者が存在してきました.そうした先達の中には,絵画を描いた画家たちがいます.現在の画像科学・工学者が,過去の画像科学・工学者たちが作り上げた「油絵」を美術館で眺める時には,“自分たちの経験・今現在の悩み”を思い起こしながら先達の技術に感心・感動してしまうものです.本解説では,画像科学・工学者向けの,油絵の上に現れたひび割れの楽しみ方を紹介します.
著者
山本 裕紹
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.341-351, 2017-08-10 (Released:2017-08-13)
参考文献数
21

何もない空間に情報スクリーンを形成することを特徴とする空中ディスプレイ技術について解説する.再帰反射による空中結像 (AIRR : aerial imaging by retro-reflection) は,道路標識やライフジャケットに使われているような再帰反射素子を用いて実像を空中に形成する技術である.レンズあるいは反射型の結像光学素子を用いた空中像形成手法と比較して,AIRRによる空中表示は,大画面化のスケーラビリティーが高いこと,広い範囲から観察できる空中像を形成できること,大量生産可能な低コスト素子で空中ディスプレイを実現できることで有利である.本稿ではAIRRの原理について詳細に解説した後,LEDパネルを用いた空中ディスプレイの開発について,96インチの等身大空中映像の形成を含む大画面化とその課題である観察範囲の拡大法について述べる.さらに,開発した空中ディスプレイとユーザーのジェスチャー検出を組み合わせた自由空間で映像を直接操作する感覚を与えるインタラクションの実現について報告する.
著者
柴田 博仁 大村 賢悟
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.274-282, 2016-06-10 (Released:2016-06-13)
参考文献数
35
被引用文献数
4

本稿では,業務で頻繁に生じる答えを探す読みにおいて,異なる文書メディア (紙の書籍,デスクトップPC,タブレット端末) を用いて作業スピードや作業の正確さを比較した実験を報告する.最初の実験では20名の実験参加者にテキストマニュアルから答えを探してもらった.結果として,参加者は紙の書籍で最も速く作業を行うことができた.別の実験では,24名の参加者に写真集から写真を探してもった.最初のうち紙の書籍はデスクトップPCに劣ったが,何度も検索を繰り返すうちに紙の書籍で作業するほうが速くなった.いずれの実験でも,紙の書籍では大胆で柔軟なページアクセスが行われ,これが紙の書籍での作業を効率的にしていた.また,いずれの実験でもタブレット端末では迅速なページアクセスが行えず,必要な情報を探し出すに時間がかかった.実験結果をふまえ,紙の書籍での迅速で柔軟なページアクセスに学び,電子書籍でのページアクセスを向上させるための改善策を考察する.
著者
吉田 和司
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.184-191, 2009-06-10 (Released:2009-06-13)
参考文献数
24

私たちの身のまわりでは,プリンタ,複写機,ATMなど,紙を取り扱う装置があふれている.これらの装置は主に紙の繰り出し機構,搬送機構,集積機構から構成されている.本解説では,紙の繰り出し,搬送,集積の各機構や解析技術について紹介する.また著者らが開発してきたATMに関する機構や解析技術についても紹介する.
著者
白岩 洋子
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.284-289, 2014-08-10 (Released:2014-08-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1

写真の修復技術はあいにく国内ではまだ馴染みが薄くほとんど知られていない.しかしデジタル媒体が主流になりつつある現在においても,過去から現在の「もの」としての写真を保存する上で重要な役割を担っている.昨今,写真の歴史的価値がますます注目され,写真作品が収集の対象となっている中,この分野に関する理解と発展の必要性を強く感じている.写真は制作,保存,展示のそれぞれの工程で劣化が起こるため,損傷や劣化の促進を防ぐための適切な対策が重要である.またそのような予防対策だけではなく,損傷を治療する修復,修理も必要な場合がある.ここでは,修復に対するアプローチ,修復工程や処置を紹介すると共に,2011年に起こった東日本大震災によって被災した写真の救済について,筆者の経験を解説する.
著者
小林 潤平
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.219-227, 2020-04-10 (Released:2020-04-10)
参考文献数
61

本稿では,日本語文を読むときの速度や理解の向上を促す表示方式を紹介する.速く読むことを狙いとした表示方式では,文節の区切りを視認しやすいように文字を並べていく.この表示方式によって,読書中の視点移動がスムーズになり,読み心地や理解度を低下させることなく,自然と速く読めるようになることがわかった.よりよく理解することを狙いとした表示方式では,段落やセンテンスの区切りに配慮し,段落先頭から順にセンテンス単位で文字を退色させていく.この表示方式では,文章の要旨を把握しやすくなる効果が確認されており,退色によって段落先頭センテンスへの注意を促し,より正確な要旨把握をもたらした可能性が推察されている.
著者
寺尾 博年
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.508-512, 2009-12-10 (Released:2009-12-13)
参考文献数
4
被引用文献数
2

Zink (ゼロインク) 技術は1パスフルカラーダイレクトサーマル記録が可能な技術である.Zink用紙はフルカラー記録のため多層構造となっており,プリンタを設計するには用紙深さ方向の温度分布を知る必要がある.そのために3次元の解析モデルを検討し,用紙深さ方向の温度分布と印刷の関係を明らかにした.また,この解析技術によってサーマルヘッドの構造を検討しヒーター形状を決定した.本稿では,Zink用紙ならびに記録方法を述べ,3次元解析技術を用いたサーマルヘッド構造検討結果,及びZinkプリンタの構造と今後の展開について述べる.
著者
石井 政憲 城戸 滉太 太田 力 柴田 寛之 山田 健太郎 鈴木 孝治 チッテリオ ダニエル
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.94-105, 2016-02-10 (Released:2016-02-13)
参考文献数
29

患者のすぐそばで行える医療診断 (その場診断) が重要であるという考えが,臨床現場において普及しつつある.近年,マイクロ流路を紙の上に設けることで,コストやユーザーの負担を抑えながら,実用に即した分析ができる検査チップを開発する研究が世界的に盛んである.2007年,Whitesidesらにより提唱されて以来注目を集め,現在ではmicrofluidic paper-based analytical devices (μPADs) の呼称が定着している.マイクロ流路と身近な素材である紙の組み合わせにより,複雑な操作を伴う分析や多重項目測定を,比色法や蛍光法,電気化学的手法などを用いて,低コストかつ簡便に行えるμPADsが数多く開発されている.μPADsは基材が紙であることから,主に印刷による作製技術が進歩を見せている.中でも,様々なデバイス生産で工業的にも活躍しているインクジェット技術が,μPADsの大量生産や機能性付与が可能なアプローチとして着目されている.本稿では,将来の実用化に期待の集まるμPADsの製作技術や応用例の現状について,特に汎用性の高いインクジェット技術に焦点を当てながら解説する.