著者
早川 美徳
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.753-757, 2009-10-05
参考文献数
16

金平糖の角はどのように生え,その大きさや格好はどのようなメカニズムで決まっているのか.それに明快に解答するのは,案外と難しいことのようである.最近筆者らが行った金平糖の成長実験で得られた結果を紹介し,薄膜流を伴った結晶成長という観点から,つららや鍾乳石の表面にできる凹凸との関連性について考える.
著者
須藤 靖
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.87-94, 2015-02

物理学会誌の記事のほとんどは難しい.私の知る限り少なくとも30年以上前から編集委員会の方々が編集後記で繰り返し,わかりやすい記事をと訴えかけ,かつそれに向けた不断の努力をされてきたにもかかわらず.多分にこれは,非専門家のためにではなく,身近な専門家の顔を浮かべながら執筆してしまう著者のせいである.これが良いことか悪いことかは自明ではないが,著者が「釈迦に説法」を避けるべく書いた解説が,大多数はその分野の非専門家である平均的物理学会員にとって「馬の耳に念仏」になってしまい,ほとんど読まれなくなっているとするならば,あまりにももったいない.一般相対論の研究者ではない私が本特集の序論的解説を依頼されたのは,まさにそのためであろう.というわけで,今回は学生時代に一般相対論の講義は受けたもののほとんど覚えていない,という平均的物理学会員を念頭においた平易な,といっても一般向け啓蒙書とは異なる解説を試みたい.したがって,もしも「釈迦に説法」あるいは「厳密には正しくない」と感じられた方がいたならば今回の試みは大成功だと言える.該当しそうな方はただちに本解説をスキップして以降の記事に進まれることを強くお薦めする.
著者
諏訪 秀麿 藤堂 眞治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.370-374, 2011-05-05
参考文献数
26

マルコフ連鎖モンテカルロ法は積分計算の汎用的数値手法であり,様々な分野で必要不可欠な解析手段となっている.1953年の発明以来,この手法は詳細つりない条件の枠の中で発展を続けてきた.しかし詳細つりあいは必要条件ではない.最近の研究により,この条件を破ることで,推定値の収束が大幅に改善されることが明らかになってきた.本稿では,モンテカルロ法の原理について解説した後,我々の新しいアルゴリズムを紹介する.
著者
大関 真之 西森 秀稔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.252-258, 2011-04-05
参考文献数
11

量子アニーリングというのは,量子揺らぎを巧みに利用して最適化問題を解くアルゴリズムである.量子力学を用いて最適化問題の解を与えるような情報処理を行うという意味では,量子計算のひとつの技法ともいえる.実験技術の進歩もあって,このような量子力学的な自由度を制御する研究が理論・実験両面で盛んになっている.量子アニーリングは,量子計算の中でも汎用性という意味において際だった特徴を持つ.量子アニーリングの今とこれからについて紹介していこう.
著者
青木 秀夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.80-84, 2009-02-05
参考文献数
16

南部理論と物性物理学との深いかかわりを,南部理論とBCS理論とのかかわり,南部・ゴールドストーン定理,南部理論と超伝導とアンダーソン・ヒッグス機構,などの観点から解説する.
著者
永弘 進一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.763-767, 2009-10-05
参考文献数
14

流体表面と固体の衝突の問題は,古くから研究されている.「石の水切り」はその身近な例である.しかし,衝突時の流体の過渡的なダイナミクスや,表面の大変形を扱うことは難しく,水面へ投げ入れた小石が小さな波紋を作り反発する条件について,単純な現象論も見いだされていない.この水切りについて,最近の実験から,平らな石の面と水面のなす角度が約20°の時,もっとも反発が起こりやすくなる事実が見いだされた.本稿では,数値シミュレーションによる,石の反発条件の解析を行った結果を紹介する.また,最適角度の存在が,単純なモデルによって説明できることを示す.
著者
菊池 誠
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.824-825, 1993-10-05
著者
三輪 哲二
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.626-632, 1988-08-05

2次元イジング模型というのは, まことに "世界と世界のあいだの林" (C.S. ルイス「魔術師のおい」岩波少年文庫)のような所で, ところどころに静かな水をたたえた池があって, モジュラー不変性という緑色の指輪をまわしながらその池に飛び込むと, そこには一つの世界がひろがっていて…. conformal field theory という世界から帰ってきた我々は, もう一度隣の池に飛び込んでみる. するとそこにひろがる世界は, Baxterという名のライオンによって作られたcommuting transfer matrixという国で….
著者
小竹 悟
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.156-163, 2016-03

調和振動子の量子力学ではエルミート多項式,水素原子の量子力学ではラゲール多項式という具合に,直交多項式は量子力学の問題を扱う際に頻繁に現れる欠かせない存在である.これら直交多項式は数学者によって詳しく調べられてきた.物理学にとって大切な2階微分方程式を満たす直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られる事が古くから知られており,2階差分方程式を満たす直交多項式も(q-)超幾何直交多項式のアスキースキームとして1980年代にまとめられている.このように書くともう何も研究する事が無いように思われるかもしれないが,中々どうして最近もまだ進展があり,その内の2つ,生成消滅演算子の自然な構成と,新しい種類の直交多項式について解説する.この発見の原動力となったのが解ける量子力学模型によるアプローチで,その利点は量子力学の研究で培われた知識・手法を用いる事ができる点である.また,直交多項式の性質に統一的な視点を与える事もできた.例えば,アスキースキームの直交多項式が満たしている前方・後方ずらし関係式は個別に述べられているだけであったが,量子力学の観点からは模型の形状不変性の帰結として統一的に理解できる.解ける量子力学模型の生成消滅演算子に関する研究は色々と行われてきたが,それらは具体的な微分演算子としてではなく形式的な演算子に過ぎなかった.前方・後方ずらし関係式はパラメータをずらしてしまうので,調和振動子以外では生成消滅演算子とは別物である.調和振動子の生成消滅演算子が座標のハイゼンベルク解の負・正振動数部分の係数として得られていたのを真似て,アスキースキームの直交多項式が固有関数に現れる量子力学模型に対して生成消滅演算子を微分演算子(差分演算子)として自然な形で構成する事が2006年にできた.これには,閉関係式と名付けられた性質を用いて,正弦的座標と呼ばれる特別な座標のハイゼンベルク解が厳密に求められる事が利用された.通常の直交多項式は全ての次数が揃っている事から完全系をなしているが,次数に欠落があるにも拘らず完全系をなしているものが新しい種類の直交多項式である.2階微分方程式を満たす(通常の)直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られるという定理を逃れる試みとして,微分方程式を差分方程式に変更する事でアスキースキームの直交多項式が得られていたが,多項式の次数を見直すという新しい方向への変更である.0次式が存在せず1次式から始まるが完全系をなす最初の例が2008年に与えられ,例外直交多項式と名付けられた.新しい種類の直交多項式を固有関数として持つ解ける量子力学模型を形状不変性や他の手法を用いて構成する事により,新しい種類の直交多項式が無限に多く得られ,多添字直交多項式と名付けられた.この新しい種類の直交多項式の発見は,多少大げさかもしれないが,エルミート・ラゲール・ヤコビ以来の大きな進展と言えよう.差分方程式を満たす直交多項式に対しても多添字直交多項式を構成する事ができ,これらの構成において量子力学的定式化がおおいに役立った.直交多項式に新たな分野を切り開いたこれらの新しい多項式は現在活発に研究が行われている.
著者
高嶋 梨菜 藤本 聡
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.830-834, 2015-11-05

磁性体で発見された渦糸状スピン構造のスキルミオンは,連続変形ではつぶせない安定な構造をもち,粒子や弦のような独特のダイナミクスを示すことから,基礎物性として興味深いだけでなく,磁気記憶デバイスなど応用上の研究の展開も期待されている.また,このスキルミオンは伝導電子に有効的な「磁束」として作用することも知られており,トポロジカルホール効果として観測されるなど,スキルミオンとの結合で生じる伝導現象についても関心を集めている.最近,スキルミオンが格子状に配列した相をもつ金属磁性体Fe_<0.5>Co_<0.5>Siにおいて,スキルミオンの合体ダイナミクスが報告された.磁場中で磁性体を冷却することにより,スキルミオンの準安定状態が実現されるが,この状態で磁場を下げたときに,スキルミオンが合体して数を減らす様子が観察されている.さらに数値計算に基づき,合体点で有効「磁場」の湧き出しを与えるモノポール構造の生成が示された.このモノポールの生成消滅を伴う「磁束」の合体・分裂過程は,通常の電磁現象では見られない際立ったものである.さて,本稿では,このスキルミオンの合体過程がもたらす新奇な伝導現象,電磁現象に関する最近の研究を紹介する.特にこの研究では伝導電子に働く効果として,スキルミオンとの相互作用に加えて,相対論的なスピン軌道相互作用に注目する.すなわち,Fe_<0.5>Co_<0.5>Siにおけるスキルミオンの実現にはDzyaloshinskii-守谷(DM)相互作用が不可欠であるが,この系のDM相互作用は結晶の空間反転対称性の破れとスピン軌道相互作用に由来している.他方,Fe_<0.5>Co_<0.5>Siは,伝導電子が磁性も担う遍歴磁性体であることから,伝導現象にも空間反転対称性の破れに起因するスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすと考えられる.スキルミオンやモノポールのようなトポロジカルに非自明なスピン構造は,ベリー曲率の効果により,伝導電子に対して有効的な「磁場」を生み出し,それらのダイナミクスは,有効的な「電場」を生み出す.さらに反転対称性の破れに起因するスピン軌道相互作用が存在すると,上記の実空間における非自明な構造に加えて,波数空間にもトポロジカルに非自明な構造をもつことになる.この2つの非自明な構造の絡み合いが,磁気スキルミオン-モノポール系の物理に新しい色彩を加える.たとえば,空間移動するモノポールが,有効的な磁荷に加えて,電荷をもつような振る舞いを示すことが分かった.つまり,あたかもダイオンのようにふるまうのである.このような伝導電子の豊かな構造とスキルミオン特有のダイナミクスを組み合わせることで,今後も多様な現象が見つかることが期待されている.
著者
矢部 孝
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.18-25, 1992-01-05
被引用文献数
4

数値流体と言うととかくテクニックの必要な難しいものとの認識を持っている人が多い. ここでは, 一般的な双曲型の方程式 (所謂, 移流項を含む方程式) の数値解法の, ある方面から見た歴史と, これを簡単に精度良く行う最近の手法を, 肩の凝らないように解説する. また特性線, 誤差 (振幅及び位相) 解析, 通信でよく用いられる標本化定理とエリアジング (エイリアンと同じ語源) など, 一つの手法を色々な視点から複眼的に眺める. 最後に, 現在全く独立に発展してきて, お互いに協調できなくなりつつある非圧縮性流体と圧縮性流体の計算手法を, 一つの手法で統一的に記述する可能性とその実例について紹介する.
著者
深井 有
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.354-360, 1993-05-05
参考文献数
22
被引用文献数
1