著者
押川 正毅 戸塚 圭介 山中 雅則
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.814-819, 1999-10-05
参考文献数
34

磁性体において磁化を磁場の関数としてプロットしたものは磁化曲線と呼ばれる. その名のとおり, 磁化は飽和するまで磁場の増加とともに滑らかに増加するのが通常である. しかし最近, 磁化曲線の途中にプラトーと呼ばれる平坦な領域が出現し, プラトーにおける磁化が特定の値に量子化される現象が注目されている. 何故プラトーが出現し, そこで磁化が量子化されるのか, 主に一次元の系について理論面から解説する.
著者
宮崎 州正
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.431-434, 2007-06-05
参考文献数
14
被引用文献数
2

ガラス転移の特徴である,ダイナミクスの急激なスローダウンの背後には,空間的に不均一な動的構造があることが最近明らかになった.現在,この構造の定量化が実験と数値実験により急速に進んでいるが,これを説明する微視的理論は存在しなかった.我々は,ガラス転移における唯一の第一原理理論と言われるモード結合理論を拡張することにより,ガラス転移点近傍における動的構造を定量的に評価することに初めて成功した.
著者
上田 和夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.316-323, 2010-05-05
参考文献数
51

抵抗極小の現象に対する近藤効果による説明は多体効果の研究の本格的な幕開けを告げるものであった.不純物スピンに関する近藤効果の本質が明らかになるとともに,多体相関の研究は局所的問題から格子系へと展開し,重い電子系からさらには銅酸化物超伝導体を含め強相関電子系の磁性と超伝導というジャンルを形成した.一方,ナノサイエンスの舞台である二次元電子系の量子ドットにおける輸送現象にも近藤効果が本質的役割を果たすことが明らかになり,非平衡状態における多体相関が関心を集めている.近藤効果に淵源を持つこれら二大潮流の研究の現状と今後の動向について私見を述べる.
著者
板倉 数記
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.148-156, 2004-03-05
被引用文献数
1

「陽子は3つのクォークからできている」という一般的な"常識"は,強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に根差した現在の理解からすると,甚だ曖昧で不正確なものである.実際,非常に高いエネルギーでの散乱で弱結合理論になるQCDは,この素朴な"常識"からはほど遠い陽子の姿を予言する.すなわち,高エネルギーの極限では,陽子は「グルオン」というクォークとは異なる構成要素が高密度に飽和した状態になり,この現象は陽子に限らず,如何なるハドロン(陽子,中性子などのバリオンと中間子の総称)にも,原子核にも現れる普遍的なものである.この状態は,あたかもガラスのようにゆっくりと変化するランダムな「色」の荷電分布を背景にして,「色」を持つグルオンがボーズ凝縮のように高密度に凝集したものであるので,「カラーグラス凝縮」と呼ばれている.本橋では,この「カラーグラス凝縮」の生成過程と性質,記述方法,実験的証拠の有無などについて,最近の理論的発展を解説する.
著者
小川 哲生 上田 正仁 井元 信之
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.781-788, 1993-10-05

量子力学の観測問題のなかでもマクロ系での波束の収縮に関する問題は,「シュレーディンガーの猫のパラドックス」でも知られるように積年の論争の対象である.『量子力学はマクロ系にも適用可能か?』この問いに答えるべく実験が始まっている.本稿では,この問題の意義を振り返りながら最近の状況を報告し,「シュレーディンガーの猫状態」(マクロな量子力学的重ね合わせ状態)を実際に作り出すフォトンカウンティング法を紹介する.この議論を通して,時間的に連続な量子力学的測定,すなわち波束の連続的収縮を概説し,波束が時々刻々収縮することと観測によって得られた情報との関連を,「番犬効果」を例にとり具体的に説明する.
著者
広瀬 立成
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-33, 1977-01-05

反粒子第1号の発見はDiracにより予言された陽電子である. 今からおよそ45年前のことであった. それ以後, 陽子を始め共鳴状態も含めた総ての素粒子に対して, 必ず反粒子状態が存在することが確認されてきた. 反粒子は素粒子界に於ける影武者である. 常に粒子と対になって発生し, 粒子と結合して消滅する. この反粒子の出没自在の特異な性質は, 量子数保存という量子力学の最も基本的な法則から理解できる. 近年消滅反応は電磁相互作用や強い相互作用の研究に大変有効であることが認識されてきた. 素粒子の世界が粒子と反粒子に対して全く対称に創造されている以上, 両者を対等に理解して始めて素粒子全体の描像が解明されるのである. 反粒子が反粒子原子を形成してから消滅に至るまでの道筋を追いながら, 強い相互作用の中で反粒子消滅の果す役割を概観しよう.
著者
今井 功
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.i-ii, 1965-01-05
著者
若林 克法 草部 浩一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.344-352, 2008-05-05
参考文献数
57

サッカーボール状分子C_<60>,炭素ナノチューブの発見は,その興味深い形状と多彩な電子状態から,物理,化学,工学の各分野から強い関心を巻き起こし,ナノスケールにある炭素物質は,今やナノサイエンス/ナノテクノロジー研究における代表的な物質としての地位を占めている.最近では,グラファイトから一原子層のグラファイトシート(グラフェン)を引き剥がして得たサンプルにおいて,従来の2次元電子系とは異なった電子輸送特性が測定されたことを契機に,グラフェンの特異な電子状態を利用した電子デバイスの研究が精力的に行なわれている.本稿では,グラフェンにおけるメゾスコピック効果に着目し,ナノスケールにあるグラフェン,つまりナノグラフェンには端の形状によって特異な電子物性が現われることを概説する.