著者
大野 克嗣
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.501-507, 1997-07-05
参考文献数
11

我々の世界に満ち満ちている非線形性は, 我々が知りたい(時空)スケールをそれから懸け離れた我々には知り得ないスケールと結合してしまう(1節). だが, それにしては我々の世界はそんなに無法則的には見えない. ある現象が「よく変わる部分」と「そうでない部分」からなるなら, 後者に目をつけることで現象がわかった気になれるようだ(2節). 「くりこみ」は「そうでない部分」を浮き彫りにしてくれる. そこでまず, 簡単な例でくりこみの処方を説明しよう(3節). 「くりこみ」で世界の細部によらない構造を抽出できるなら, それは系の長時間挙動の理解にも使えるだろう. より一般に, くりこみは(非線形系の)「漸近解析」の指針たりうるであろう(4節). くりこみはこのような技術的問題に有効なだけでなく, もっと大きな文脈の中でも意味を持っているのではないだろうか(5節).
著者
青木 秀夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-26, 2006-01-05
参考文献数
78

量子ホール効果において最近, 様々な発展が見られる.これを, 分数量子ホール系が強相関系として独自の面白さをもつことから始めて, さらにスピンや層などの内部自由度をもつ場合の特異な現象, 非平衡・光物性, 他の系への波及(回転するボース凝縮体など)という観点から解説する.
著者
仙場 浩一 齊藤 志郎 角柳 孝輔 中ノ 勇人
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.37-41, 2009-01-05

物質と光の相互作用を光子1個レベルで操る共振器量子電磁力学いわゆるcavity-QEDは,人工原子の一種超伝導量子ビットを使えば,超伝導回路のみで実験可能なことが近年実証された.巨視的量子系である超伝導量子ビットとマイクロ波光子の相互作用は,原子と光子の相互作用に比べ何桁も強く設計可能であり,実験に必須な強結合条件が容易に実現できる.さらに,様々な物理パラメータが電気回路的に可変な魅力的な系であることも判ってきた.
著者
荒木田 英禎 福島 登志夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.517-523, 2008-07-05

1960年代に登場したレーダーやレーザーによる距離計測技術によって,地球から他の惑星までの距離が非常に精密に測定出来るようになった。近年これらの技術はさらに高精度化されているが,それにより新たな問題が持ち上がって来た.惑星レーダーと惑星探査機の軌道追跡データの精密解析から,天文学で用いられる長さの単位,天文単位AUがメートルに対して15±4[m/世紀]程度で増加している,というのである.だが,惑星間の距離ではなく天文単位の増加とはどういうことだろうか?本稿では,天文単位の意味と決定方法について述べた後,太陽系内の精密位置天文学が新たに直面したこの問題を詳しく解説する.
著者
田中 豊一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.542-552, 1986-07-05
被引用文献数
3

高分子ゲルのまわりの温度や, 溶媒組成などを変えていくと, あるところでその体積が1000倍にも不連続に膨潤したり収縮する. この現象が相転移であり, 気体-液体の間の相転移のように普遍的で, あらゆるゲルに起こり得ることが明らかになってきた. この相転移現象の中に, ゲルを構成している高分子のミクロな個性と特徴が, 増幅されてくっきりと浮かび上がる. さらに, この現象を利用して, ゲルを人工筋肉やロボットの記憶素子, 表示素子, エネルギー変換素子, 選択的吸収体などとして応用する可能性が開けた.
著者
小川 修三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.90-94, 1996-02-05
参考文献数
14
著者
藤垣 裕子
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.172-180, 2010-03-05
被引用文献数
1

本稿では,現代における科学者の社会的責任について考える.責任を呼応可能性,応答可能性という意味で捉え直して再整理すると,現代の科学者の社会的責任は,(1)科学者共同体内部を律する責任(Responsible Conduct of Research),(2)知的生産物に対する責任(Responsible Products),(3)市民からの問いへの呼応責任(Response-ability to Public Inquiries)の3つに大きく分けられることが示唆される.この3つの区分を,ジャーナル共同体(専門誌共同体)との関係を用いながら考察し,最後にカテゴリー間の葛藤について考える.
著者
富田 和久
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.99-118, 1985-02-05
被引用文献数
1

分子カオスを背景に熱力学が形成されたように, 巨視的カオスに基づいて柔かい現象論 (情報力学) が期待されることから出発する. 次に, 巨視的カオスと分子力オスの間に存在する, 力学的な類似性, また本質的差異をやや詳しく辿った後, カオスは例外的特殊現象ではなく, むしろ一般的・基本的な現象であることに注意する. 最後に, 生物のような柔かい系を扱う新たな視点が求められている現時点において, 巨視的カオス の概念こそ, 物理学を広くする鍵であることを指摘し, 関連する事項にふれる.
著者
原 治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.412-413, 1983-05-05
著者
河辺 隆也
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.206-214, 1981-03-05

トカマクに代る核融合へのアプローチの内開放系磁場閉じ込めの解説を行う. この系では磁力線が閉じていないために核融合炉としては多くの利点を持っているが, 核融合を起すに至るまで高温高密度のプラズマを閉じ込めるのがトカマクに比べて難しい. しかし多くの新しいアイデアを出しタンデムミラー等磁場の他に静電場も用いたり, 高周波プラグなど高周波を用いたりして, 閉じ込めの改良がはかられ, トカマクにあと一歩というところまで近づきつつある. しかもまだまだアイデアを出す余地があるので, ここに開放系磁場閉じ込め核融合の現状と問題点, 将来への展望を述べたい.
著者
松澤 通生
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.402-412, 1986-05-05

常識に反して, 異常に膨脹した原子がこの世の中に存在する. 一つの電子が高い主量子数を持つ軌道に励起された状態にある原子を高リュードベリ原子と云い, これが上記の膨脹した原子の正体である. 原子の世界での最も簡単な系でもある. 静かにそっとしておくと寿命は長いが, 他粒子と出会うとすぐこわれやすい. 超高真空が実現している星間空間では半径0.02mm程度の原子が存在する. 地上でも 10^<-4>cm 程度の半径の原子を実験室で作れるようになった. この励起原子は風変わりな存在で, 原子の世界でのスケールから大分かけ離れた挙動を示す. 本解説ではこの励起原子のいささか "非常識" な振舞について解説し, その正体を明らかにする.