著者
濤岡 暁子 野坂 久美子
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.821-831, 2000-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
29

本研究では,各歯列期における齲蝕感受性の程度が,齲蝕の新生とリコールの間隔の間に,どれ程関連しているかについて調査を行った。対象は,昭和60年から平成6年までの10年間に本学小児歯科外来に新患として来院した患児2,797名のうち,リコールを1年間以上継続して行った1,329名である。まず,患児を齲蝕と修復物の数と部位から,齲蝕感受性の高い群と低い群に分けた。さらに,それぞれの群を初診時年齢から4つに分類し,リコール間隔の一定していた群と不規則な群に再分した。その結果,初診時年齢0~3歳未満で齲蝕感受性の高い群は,1か月間隔に比べ2か月間隔のリコールでは,齲蝕発生歯数が著しく増加していた。また,初診時が0~3歳未満,3~6歳未満群の時,齲蝕感受性の高い群,低い群ともに,乳歯列から,混合歯列,永久歯列へと移行するに従い,齲蝕の発生は,減少していった。しかし,6~8歳未満,8~10歳未満群では,混合歯列から,永久歯列へ移行した時,齲蝕発生歯数は多くなっていた。また,リコール間隔が一定と不規則の場合を比較すると,各歯列期に移行した時の齲蝕の発生は,減少した場合は一定の方が齲蝕の減少歯数が大きく,増加した場合は不規則の方がより大きい齲蝕増加歯数であった。以上の結果から,リコールは,低年齢時から規則性をもって始めるほど有効性があり,また,齲蝕の程度や永久歯萌出開始時期を考慮した間隔が必要と考えられた。Key words:齲蝕感受性,齲蝕の発生,リコール間隔
著者
太田 増美 池田 孝雄 安達 詩季 難波 隆夫 朝田 芳信
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.474-481, 2011-12-25 (Released:2015-03-14)
参考文献数
26

第一大臼歯の異所萌出は第一大臼歯の近心位への萌出により近接した第二乳臼歯の歯根吸収を引き起こし,後継永久歯の萌出余地不足を招来する。そのため,早急な第一大臼歯の正常な位置への誘導が必要である。今回,著者らは上顎第一大臼歯さらに上下顎第一大臼歯の異所萌出が認められた2 例においてバンド,エラスティックチェーン,リンガルボタンを利用したHalterman の装置とその改良型装置により第一大臼歯の遠心への萌出誘導を行った。これらの治療の結果以下のことが示された。1 .Halterman とその改良型装置は萌出誘導期間が2~3 か月と比較的短く,装着中に痛みや違和感を示すことはなかった。2 .Halterman 改良型装置は上顎だけでなく下顎の症例に対しても有効な装置であった。このことより,上下顎第一大臼歯の異所萌出に対してHalterman とその改良型装置は比較的容易に第一大臼歯を遠心に誘導することが可能であり,さらに短期間で行えることから患者に負担が少ない有効な治療法であることが示唆された。
著者
楽木 正実
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.114-137, 1986-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
67

フッ化モリブデン酸アンモニウム(NH4)2MoO2F4の齲蝕抑制機序を,象牙質に及ぼす影響の面から検討した。その結果,(NH4)2MoO2F4は,健全象牙質粉末と反応して,フッ素のみを主体としたフッ化物よりもCaF2を速やかに生成させ,フッ素の取込み量も増加させた。無機質における脱灰と再石灰化を想定し,BrushiteおよびWhitlockite合成系に(NH4)2MoO2F4を添加した実験においては,他のフッ化物と同程度にapatiteを生成させた。pH6.0およびpH5.5に調整した(NH4)2MoO2F4で処理したコラーゲンはコラゲナーゼによる分解を受けず,(NH4)2MoO2F4は象牙質有機質の溶解を抑制する可能性が推察された。さらに臨床応用を想定し,(NH4)2MoO2F4を歯面塗布した場合には,象牙質の耐酸性の向上作用は,10%濃度でほぼ上限に達し,この効果は,塗布直後のみならば人工組織液に浸漬後も38%Ag(NH3)2Fと同程度であった。10%(NH4)2MoO2F4を象牙質に塗布した場合,直後には象牙質表面だけでなく象牙細管内にもおよぶCaF2の生成ならびにフッ素とモリブデンの内層への浸透を認め,8週間経過後には38%Ag(NH3)2Fにはおよばないもののapatiteの成長による象牙細管の封鎖傾向を認めた。以上の研究結果から,(NH4)2MoO2F4は歯質を着色させることなく,象牙質に対しても抗齲蝕作用を有することが示唆された。
著者
眞田 奈緒美 嶋田 理菜 岡田 裕莉恵 山口 茜 木村 奈緒 根本(山本) 晴子 清水 邦彦 清水 武彦
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.466-473, 2018

<p>横紋筋肉腫は,骨格筋へ分化する胎児性間葉系細胞を発生母地とする軟部悪性腫瘍であり,小児の軟部悪性腫瘍としては代表的な疾患の一つである。今回我々は,横紋筋肉腫の治療に伴い歯および骨の形成障害を生じた7歳0か月の女児の1例を経験したので報告する。患児は2歳6か月時に右眼窩原発胎児型横紋筋肉腫(StageⅠ)と診断され,急速な腫瘍増大のため腫瘍の8割を経結膜にて摘出し,2歳7か月から4歳6か月まで化学療法が施された。更に,2歳8か月から2歳9か月までの期間に右側眼窩から上顎洞にかけて総線量45Gyの放射線治療が施行された。</p><p></p><p>口腔内所見およびエックス線所見から,上顎右側部において矮小歯,歯胚の欠如,歯根形成不全,歯槽骨の形成不全が認められた。他部位においても歯胚の欠如やエナメル質石灰化不全を認めた。また,これらの症状に伴い,叢生および開咬を認めた。</p><p></p><p>本症例に認められた,多数歯にわたる著しい形成障害や顎骨の発育不全は,横紋筋肉腫の治療の為に施された放射線療法および化学療法により誘発された可能性が示唆された。</p>
著者
村井 雄司 青木 裕美 田中 睦 首藤 かい 近藤 有紀 倉重 圭史 疋田 一洋 安彦 善裕 齊藤 正人
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.509-517, 2014-11-25 (Released:2015-11-25)
参考文献数
63

生体を覆う上皮は,重層や角化および上皮間の緊密な結合により病原体が生体に侵入することを防ぐ物理的防御機構と,抗菌ペプチドを発現することにより病原体の付着を抑制する化学的防御機構を有している。活性型ビタミンD3 の生理活性は,カルシウム代謝調節による骨リモデリングのみならず,上皮細胞の分化誘導や,免疫調節に関わっていることが明らかになっている。本研究では活性型ビタミンD3 をヒト角化上皮細胞株(HaCaT 細胞)に添加することによる,抗菌ペプチドの発現変化を明らかにすることを目的とした。HaCaT 細胞は,活性型ビタミンD3 添加により抗菌ペプチドであるhBD-1, hBD-2 およびLL-37 mRNA と,それぞれのペプチドの有意な発現上昇を認めた。しかしhBD-3 は変化を認めなかった。本結果から活性型ビタミンD3 は角化上皮の化学的防御機構に寄与し,これを増強すると考えられた。また発現上昇を認めた抗菌ペプチドは,齲蝕原因菌や歯周病菌に対しても抗菌作用を有するため,良好な口腔環境維持するうえで活性型ビタミンD3 の存在が重要である可能性が示唆された。
著者
新里 法子 番匠谷 綾子 大谷 聡子 五藤 紀子 岩本 優子 山﨑 健次 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.237-242, 2012-06-25 (Released:2015-03-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1

児童虐待の相談件数は近年急激な増加傾向を示しており,社会全体で早急に解決すべき重要な課題となっている。我々は,広島県内の2 か所の児童相談所および子ども家庭センターの一時保護施設に入所した要保護児童を対象に,齲蝕経験者率,未処置歯所有者率,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数について調査し,一般の児童と比較検討を行った。その結果,要保護児童は齲蝕経験者率および未処置歯所有者率が高く,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数が多いことが示された。また,虐待により保護された要保護児童と,その他保護者の長期療養などの理由で入所した要保護児童の齲蝕罹患状況に,大きな差は認められなかった。要保護児童全体の齲蝕罹患率が高いことから,要保護児童の生活環境自体が齲蝕を誘発しやすいことが推測された。歯科医療従事者は小児の多発齲蝕や長期にわたる齲蝕の放置などを通じて,保護者の養育放棄とそれに伴う養育環境の悪化に気付くことで,虐待を早期に発見できる可能性があることが示唆された。
著者
後藤 讓治 細矢 由美子
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.447-454, 1985-06-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
13

頂窩は,1937年,所によって報告された歯牙咬頭部附近のエナメル質に認められる小窩であり,これまで頂窩に関する報告は少ない。本研究においては,10例の咬耗,磨耗の少ない人間永久歯の頂窩49例が観察された。観察は先ず実体顕微鏡によってなされ,次いで超音波洗浄器による洗浄,乾燥後,金蒸着が施され,走査型電子顕微鏡によって観察並びに計測が行われた。また,標本の一部は,頂窩中央部で矢状断され,その側壁部が走査型電子顕微鏡によって観察された。観察の結果,1歯あたり最大9個,最小2個,平均4.9個の頂窩が見られた。頂窩の開口部の形態は,円形(46.9%),楕円形(36.7%)三角形(10.2%),その他(6.1%)に分類された。頂窩の直径は最大0.68mm,最小0.014mmで,平均0.17mmであった。頂窩は,歯牙の咬頭部付近のエナメル質に喇叭状に開口し,エナメル象牙境付近で試験管状に終了する盲管である。また,頂窩の側壁には,側枝状の小孔が開口しているのが観察された。
著者
篠原 稔 船越 禧征 高石 佳知 稗田 豊治
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.159-166, 1991-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
21

軟骨無形成症は四肢短縮型の小人症を主症状とし,著明な顔面,頭蓋の成長障害を伴う疾患で,主に家族性,遺伝性にみられる.本疾患の名称は長い間,胎児性軟骨異栄養症と呼ばれていたが,Parrotがクル病およびその他の低身長疾患から分離して軟骨無形成症として初めて報告し,それ以後この名称が広く用いられている.本症はこれまで整形外科,内分泌領域からの報告は散見されるが,歯科領域からのものはほとんどみられない.今回,私たちは軟骨無形成症と診断された女児を観察し,以下の所見を得た.1)咬合状態は,前歯部に開咬がみられた.2)口蓋についての異常はみられなかった.3)歯の形態や数および歯の成長については異常は認めなかった.4)舌にやや肥大傾向がみられた.5)側方頭部X線規格写真による角度分析,および距離分析の結果,頭蓋底の成長阻害が認められ,相対的下顎前突を呈していた.
著者
吉村 剛 鈴木 淳司 中岡 美由紀 坪井 文 大谷 聡子 大原 紫 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.415-422, 2008-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
19

小児口腔から検出されるプラークは多くの場合白色であるが,しばしば黄褐色のプラークが認められる。本研究では,黄褐色プラーク(以下黄褐色群)と白色プラーク(以下白色群)の相違点を臨床的・細菌学的に明らかにすることを目的として,当科を受診した患児30名を対象とし,プラークの菌種構成,酸産生能,齲蝕罹患状態,プラークより分離された齲蝕原性菌(S.mutans,S.sobrinus)株の耐酸性について比較検討を行い,以下の結果を得た。1.齲蝕罹患者率と平均齲蝕罹患歯率を比較したところ,黄褐色群は白色群より有意に低かった。2.プラークの酸産生能についてカリオスタットを用いて検討した結果,黄褐色群のリスクが有意に低かった。3.菌種特異的なPCRを用いて,プラークに含まれる菌種を分析した結果,黄褐色群では,齲蝕原性菌の検出率は低く,S.mutansとS.sobrinusの混合感染も確認されなかった。また,非齲蝕原性菌(S.sanguinis,S.mitis)の検出率が高かった。一方,白色群では,齲蝕原性菌の検出率が高く,S.mutansとS.sobrinusの混合感染も多く認められ,非齲蝕原性菌の検出される割合も低かった。4,各プラーク群より分離された臨床株を用いて,耐酸性能を検討したところ,白色群から得た分離株は黄褐色群から得た株よりもやや高い耐酸性能を示した。以上より,黄褐色プラークは,菌種の分布,齲蝕誘発性が異なるために白色プラークよりも低い齲蝕リスクを示すことが明らかとなった。
著者
中原 弘美 多賀谷 正俊 西田 宜弘 近藤 亜子 松原 有為子 田村 康夫
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.429-439, 2013-11-25 (Released:2015-03-21)
参考文献数
28
被引用文献数
3

機能的矯正装置ムーシールドにて幼児期反対咬合の治療を行い,治療効果と,どこにどの様な形で治療の効果が現れているかについて検討したものである。被検児は反対咬合小児66 名(平均年齢5 歳1 か月)を対象として,機能的矯正装置ムーシールドにて治療を行い,治療の有効性と被蓋改善までの治療期間について検討を行った。次いで,66 名のうち16 名を対象として,治療前後における模型分析と側面セファロ分析を行い,また口蓋形態から口蓋縦断平面の変化について検討した。その結果,78.8%に被蓋の改善が認められ有効と判定された。治療期間は平均9.8 か月で,開始年齢や歯齢別で差は認められなかった。乳犬歯間距離は,上顎は有意に増大し下顎は小さくなっていた。一方,長径では上顎は乳中切歯と両側乳犬歯間が有意に増大し下顎は減少していた。セファロ分析では,ANB, FMA, Y-Axis で有意な増加が認められ,またAPDI で有意な減少が認められた結果,下顎の後退と時計方向の変化が認められた。歯槽性では,U1 to SN, U1 to FH の角度はそれぞれ有意に増加し,またL1 to MP の角度は有意に減少した。また口蓋の縦断面積において,治療後は有意な増加がみられた。以上から,機能的矯正装置ムーシールドは幼児期における反対咬合の治療に有効であり,歯や顎骨に対し直接的な矯正力を働かせなくても前歯の傾斜だけでなく上下顎骨の位置関係や口蓋の形態にまで変化をもたらしていることが明らかとなった。
著者
杉本 明日菜 赤澤 友基 河原林 啓太 宮嵜 彩 上田 公子 北村 尚正 岩本 勉
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-11, 2018-02-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
17
被引用文献数
6

口腔筋機機能療法(Oral Myofunctional Therapy : MFT,以下MFT)は口腔周囲筋のバランスの調和をとることで,歯列・咬合の形態を正常に維持することや,咀嚼・嚥下・構音といった小児期の口腔機能の発達支援を目的として行われる治療法の1 つである。様々な訓練方法が提案されているが,個々の訓練の効果について検討された報告は少ない。そこで,今回当科で実施したMFT について一連の訓練を行い,かつ発表に際して同意の得られた20 名(男児15 名,女児5 名,平均年齢7 歳7 か月)についてその治療効果の検討を行った。 その結果,訓練前・後で比較して口唇閉鎖不全のある児は55%から35%,嚥下時舌突出のある児は100 %から50%,構音時舌突出のある児は95%から60%に減少し,改善がみられた。とくに嚥下時舌突出と訓練法の1 つである「スラープスワロー」との間に相関を認めた。しかし,訓練が達成できていても機能の改善が十分でない児もおり,さらなる訓練法や訓練時期の検討が必要であると考えられた。 様々な分野で口腔機能が注目されているが,とりわけ小児期での口腔機能の獲得は生涯を通じての健康に非常に重要な意味をもつ。本調査では20%の児は形態的な問題を有しておらず機能面の問題のみを呈していた。こうした児についても積極的に介入し口腔機能を向上させることは将来の健康寿命延伸に有意義である。そのため,小児の発育・発達に沿った訓練を構築し,口腔機能獲得の支援法として提案することが必要である。
著者
西田 綾美 松村 誠士 堀 雅彦 保富 貞宏 下野 勉
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.767-772, 2009-12-25 (Released:2015-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

先天性表皮水疱症の3 歳児を5 年間にわたり口腔ケアを行った。初診時,プラークコントロールは不良で,多数歯に重症齲蝕を認めた。加えて歯科診療に対する不安が強く,診療は困難をきたした。治療方針を(1)歯科診療に対する協力性の向上(2)口腔衛生の改善(3)齲蝕の進行抑制とし,2 週間に1 回の間隔で来院させた。Tell Show Do 法(TSD)などで行動変容を行い,使用する歯ブラシを加工する等の工夫,診療室でのフッ化物塗布,家庭でのフッ化物洗口等を行った。その結果,プラークの付着が減少し,健全な永久歯が萌出中である。また,初診時には歯冠崩壊のため咀嚼が困難であったが,永久歯の萌出に伴う咬合部位の増加により,食事内容や量が増加し栄養状態もよくなった。患児と信頼関係を築き,両親の理解や協力を得る事で口腔ケアが容易となり,健全な永久歯の萌出を迎えることができた。
著者
杉山 恵子 泉谷 明 武井 勉 大嶋 隆 祖父江 鎮雄
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.758-764, 1986-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
23

コーンスターチを酵素処理することにより得られるT G シロップ( 主成分: イソマルトース31.4%,パノース20.8%,イソマルトトリオース11.4%)の齲蝕誘発能を,供試菌としてS. mutans MT8148R(血清型c),6715(同g)株を用い,in vitroおよびラット実験齲蝕系で検討した。TGシロップはS. mutansの基質になり得たが,スクロース存在下で認められるS. mutans 菌体のガラス管壁への付着は,TGシロップの濃度の増加とともに抑制された。また,S. mutans より得られた粗GTaseはスクロースから多量の非水溶性グルカンを合成するが,TGシロップの添加により著明に抑制された。実験齲蝕におけるTGシロップ投与群の齲蝕スコアは,スクロース投与群の約1/3~1/5の程度で有意に低かったが,小麦粉投与群よりは有意に高い値を示した。以上の結果は,TGシロップが低齲蝕原性の代用甘味料として利用できる可能性の高いことを示している。