著者
辻野 啓一郎 町田 幸雄
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.670-683, 1997-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1

幼児期から青年期まで矯正処置などをすることなく正常咬合となった小児28名(男児13名女児15名)について,2か月間隔に得られた上下顎累年石膏模型を用いて,暦齢では3歳から20歳まで,歯牙年齢では各永久歯出齦時を基準とし出齦後7年から14年まで,乳犬歯,第一乳臼歯,第二乳臼歯,犬歯,第一小臼歯,第二小臼歯,第一大臼歯,第二大臼歯の各歯列弓幅径について観察した。乳犬歯間幅径,第一乳臼歯間幅径,第二乳臼歯間幅径は6歳頃まで増加量がわずかであったが,この時期乳犬歯間幅径はほぼ安定し,上顎第二乳臼歯間幅径は増加量が最も大きかった。その後は,各部位ともに漸次増加を示し,切歯萌出期では乳犬歯間幅径の増加が特に大きかった。犬歯間幅径は出齦時から上顎では13歳頃,下顎では15歳頃まで,減少を示しその後安定した。歯牙年齢での観察で出齦後1年まで萌出に伴う減少が著明であった。上顎第一小臼歯間幅径は歯牙年齢では出齦後6か月まで減少が見られたが,その後は著明な変化はみられなかった。下顎第一小臼歯間幅径,第二小臼歯間幅径では出齦後数年間増加がみられたがその後は著明な変化はみられなかった。第一大臼歯間幅径は上顎では15歳頃まで漸次増加し,下顎では出齦後数年間わずかに増加後ほぼ安定していた。第二大臼歯間幅径は上顎では出齦後2年まで減少を示し,下顎では萌出初期は不安定であり,その後はほぼ安定していた。暦齢と歯牙年齢による観察の結果の差違は,上下顎犬歯間幅径で特に著明であった。
著者
原田 桂子 有田 憲司 西野 瑞穗
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1017-1023, 1995-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
8

アニメーションビデオテープをテレビで見せながら診療する方法が,3歳0か月から5歳11か月の小児の歯科診療脇力度を向上させるのに有効であるか否か,実際診療時の適応性ならびに予測した適応性と実際の適応性との相関性から分析した.適応性の予測は,小児の歯科受診歴,歯科診療意識調査,待合室から診療台で診療を受けるまでの行動観察,母親のY-G性格検査,これらから成る36アイテムにより判別予測した.結果は次のとおりであった.1.診療中の行動が適応と判定された小児はテレビを見せた群19人中の13人,68.4%,テレビを見せなかった群18人中14人,77.8%であった.2.テレビを見せた19人のうち,適応と予測された12人で実際行動も適応であった小児は10人,不適応と予測された7人で実際行動も不適応であった小児は4人で,的中率は73.7%であった.一方,テレビを見せなかった18人のうち,適応と予測された12人で実際行動も適応であった小児は10人,不適応と予測された6人で実際行動も不適応であった小児は2人で,的中率は66.7%であった.以上の結果から,診療協力度不適応の就学前小児にアニメーションビデオテープを見せることは,診療協力度の向上に効果はないと結論された.
著者
荒井 清司 松井 智 松根 健介 呂 朋君 曹 宏 西村 眞 辻本 恭久 松島 潔 前田 隆秀
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.481-486, 2007-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
20

著者らは,ラットの露髄面に新規ハイドロキシアパタイトに炭酸カルシウムもしくはβ-TCPを含有させ,覆髄材としての有効性を報告した.そこで,本研究では,ヒト歯髄培養細胞における炭酸カルシウムの硬組織形成能を解明する一助として,細胞増殖試験ならびに硬組織形成の分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)を指標とし,検討を行った。炭酸カルシウムは,1mM,100μM,10μM,1μMの濃度を含有させた培地に最大12日間作用させた。培養24時間後の細胞毒性試験において,各濃度の炭酸カルシウム作用群において著しい細胞毒性は認められなかった。また,細胞増殖試験において,10μM炭酸カルシウム作用群をピークとして,細胞数の増加が認められた。培養3日後の細胞にアゾ染色を行い,10μM炭酸カルシウム作用群において,ALPの濃染が認められた。また,培養12日目のALP活性においても10μM炭酸カルシウム作用群をピークとし,無添加のコントロール群と比較し,有意な差が認められた。以上のことから10μMの炭酸カルシウムをヒト歯髄培養細胞に作用させることで,硬組織形成能を促進させる可能性が示唆された。
著者
船津 敬弘 近藤 信太郎 井上 美津子 若月 英三 佐々 竜二
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.700-707, 1999 (Released:2013-01-18)
参考文献数
22
被引用文献数
1

日本人乳歯の大きさにおける性差を分析するために,乳歯列正常咬合を有する小児100名(男児50名,女児50名)から得られた石膏模型の歯冠近遠心幅径,唇(頬)舌径を杉山・黒須の計測基準に従い,デジタルノギス(0.01mm)を用いて計測した。歯冠サイズの性差は性差百分率によって検討した。歯冠形態の比較は幅厚指数によって行った。結果は以下の通りである。1.計測者内誤差は第一乳臼歯でやや大きいものの0.1mm未満であり,分析に影響を与えない範囲内であった。2.歯冠近遠心幅径,唇(頬)舌径ともに全ての歯種で,1-3%程度,男児が女児より大きかった。3.上顎では歯冠唇(頬)舌径の,下顎では歯冠近遠心幅径の性差が大きい傾向を示した。4.男・女児ともに変動係数は,歯冠唇(頬)舌径の方が近遠心幅径より大きく,サイズの変異が大きい傾向を示した。5.幅厚指数では歯冠サイズと比較して大きな性差はみられなかったが,下顎乳犬歯では有意差がみられ,女児が相対的に歯冠唇舌径が大きかった。
著者
吉原 俊博
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.31-35, 2012-03-25 (Released:2015-03-15)
参考文献数
3

本稿では,エビデンスに基づく診療ガイドライン作成の背景とその作成手順について説明する。本稿の要旨を以下に示す。1 .Medical information network distribution service(Minds)には2011 年10 月現在,8 つの歯科に関係するガイドラインが公開されている。2 .Cochrane Review には2011 年10 月現在,93 の歯科に関するレビューが公開されている。3 .診療ガイドラインの作成において,文献検索とその選択が重要になるが,エビデンスレベルの高い文献を得ることは非常に難しく,その結果,推奨グレードを強くすることが困難になる。4 .「症状はないが,齲蝕を完全に除去すると露髄する可能性のある深部齲蝕を有する歯に対する有効な治療法は?」というクリニカル・クエスチョンを設定した場合,米国小児歯科学会診療ガイドラインでは「Guideline on pulp therapy for primary and young permanent teeth」というガイドラインが得られる。Cochrane Review では「Complete or ultraconservative removal of decayed tissue in unfilled teeth」というガイドラインが得られる。
著者
新居 智恵 田中 庄二 鈴木 昭 村上 幸生 小林 聡子 秋田 紗世子 利根川 茜 渡部 茂 町野 守
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.628-633, 2009-09-25 (Released:2015-03-11)
参考文献数
30

切歯結節は,切歯の基底結節が隆起した比較的稀な歯科的な異常である。われわれは,永久前歯における切歯結節の6 例を経験した。3 例は,上顎側切歯に,1 例は両側の上顎中切歯にみられた。1 例は,稀な下顎に,さらに,1 例は下顎側切歯と下顎犬歯の癒合歯にみられた。 結節の形態は,凸様突起物はたはT 字状突起物であった。処置は,レジン充塡にて結節の補強を行い経過観察とした。咬合に関係していない症例では経過観察とした。 永久前歯における切歯結節について,文献的考察を加えて報告した。
著者
大野 裕美 下岡 正八 田中 聖至 本間 裕章 馬場 宏俊
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.33-41, 2008-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
25
被引用文献数
2

今回著者らは,小児の性格の違いで視知覚による情報探索の仕方に違いがあるかどうかを知るために,小児の性格を心理検査の一つであるTS式幼児・児童性格診断検査を用いて,依存群,標準群,自立群に分類し,歯科医師の正立顔写真に対する小児の眼球運動を測定した。移動角速度秒速5度未満を停留点,5度以上をサッケードとして分析し,以下の結論を得た。1.小児の顔の見方には性格が影響していることが示唆された。2.停留回数,停留時間とも依存群,標準群,自立群の順に増加した。部位別では諸部分を中心とした顔への停留が最も多く,特に自立群において増加した。3.停留点,サッケードの分布は各群とも諸部分を中心とした顔への分布が多く認められた。4.視線の走査方向には4つのタイプが認められ,自立群では繰り返し,「みる」Lookなどの規則性のある走査が増加する傾向にあった。5.依存群の顔の見方は従来の小児の顔の見方に類似し,自立群の顔の見方は成人の顔の見方に類似していることが認められた。しかし,依存群と従来の小児の見方は間違っているわけではなく,発達の一過程であることが示唆された。従って小児が何故そのような見方をしたのかを知ることは,小児一人ひとりの発達のプロセスを理解する上で重要と考える。
著者
今村 基尊 山本 妙子 小野 俊朗 今村 節子 会田 栄一 黒須 一夫
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.607-613, 1991-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
15
被引用文献数
2

乳歯隣接面齲蝕の診査に咬翼法X線写真を用いることで,齲蝕検出率が高まることはよく知られているが,患者の被爆線量から,頻回撮影することも好ましくない.咬翼法X線写真の撮影回数を減らすために,補助手段としてデンタルフロスによる診査の併用を考え,咬翼法X線写真による診査の結果とデンタルフロスによる診査の結果との関係について検討し,次の結論を得た.1)咬翼法X線診査の結果とデンタルフロスによる診査の結果との一致率は,67.1%~94.3%であった.2)上下顎第一乳臼歯遠心面・第二乳臼歯近心面において,フロスにより異常を感じたならばまず齲蝕があったが,フロスによりsmoothと感じても齲蝕がないとは診断しがたい.3)フロスによる乳歯側方歯群の隣接面齲蝕の診査は,咬翼法X線写真の補助的診査として用いることができると考えられた.
著者
大野 秀夫 大野 和夫 小椋 正 木村 光孝
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.653-660, 1986-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
13

乳歯生活歯髄切断処置後,乳歯の生理的歯根吸収が健全乳歯の場合と同様に進行しているか否かを検討するため,生後3カ月前後の幼犬の乳歯に,覆髄剤として,水酸化カルシウムを主成分とするCalvitalを使用し,生活歯髄切断処置を施し,病理組織学的に検索した。乳歯生活歯髄切断処置後の生理的歯根吸収は,健全な対照歯と比較し,組織学的にはほぼ同調した吸収状態を示した。このことは,乳歯生活歯髄切断処置が生理的歯根吸収に対して,何ら影響を与えているとは考え難く,乳歯の歯髄処置として,非常に意義あるものと考えられた。
著者
井手 有三 立川 義博 西 めぐみ 緒方 哲朗 福本 敏 野中 和明
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.605-612, 2005-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
32

授乳状況と齲蝕罹患との関連を検討することを目的とし,平成12年から15年までの4年間に1歳6か月児歯科健康診査を受けた811人を健診当時の授乳状況により卒乳群,母乳継続群,哺乳瓶継続群の3群に分類,調査した.各群について齲蝕有病者率,1人平均齲蝕歯数,および上顎乳前歯部に3本以上の齲蝕歯が認められた者を授乳齲蝕者とし,授乳齲蝕者率を分析した.さらに口腔衛生状態についても検討したところ,以下の結論を得た.1.母乳継続群の齲蝕有病者率,1人平均齲蝕歯数,授乳齲蝕者率はいずれも卒乳群,哺乳瓶継続群と比較し有意に高い値を示した.2.母乳継続群の口腔衛生状態良好率は卒乳群,哺乳瓶継続群と比較し有意に低い値を示した.またどの群においても,口腔衛生状態良好児の齲蝕有病者率,1人平均齲蝕歯数,授乳齲蝕者率は口腔衛生状態不良児のそれと比較し低い値を示した.3.卒乳群と母乳継続群における授乳齲蝕者率は母乳栄養の継続を確認できた最終月齢が1歳3か月以前の場合は極めて低かったが,1歳4か月以降になると急激に上昇した.以上より,母乳栄養を長期に継続した場合,齲蝕罹患率は高くなる傾向があるが,口腔衛生状態を良好に保つことによってその率は多いに下げ得ることが示唆された.また現行の歯科健診の実施時期である1歳6か月よりも以前に齲蝕罹患率の上昇時期があることから,歯科健診はより早期の1歳からの実施が必要と考えられた.
著者
福原 信子 竹辺 千恵美 野中 歩 藤村 良子 平野 洋子 武田 康男
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.880-885, 1997-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
2

本研究は,北九州市内の障害児(者)施設のうち,就学前のMR通園の3施設,292名を対象に行った健診内容から,早期口腔衛生指導と地域歯科健診の効果,健診後の歯科受診勧告の動向について検討したものである。以下の結果を得た。1.齲歯率の減少,シーラント処置者率の増加およびf歯率の増加傾向が認められた。2.初健診時に関してみると,0歳からの早期指導を受けた「療育群」が,開業医,病院歯科等を受診した「その他群」や「未受診群」に較べ齲歯率が低く,f歯率,シーラント処置者率が高かった。3.健診回数が増すに従い,平均齲歯率の減少,平均歯率,平均シーラント処置者率の増加傾向が認められた。4.初健診時の歯垢重症度,歯肉炎重症度は「療育群」が「その他群」,「未受診群」に較べ良好であり,また健診回数の増加に従い両重症度とも軽減が認められた。5.健診後に歯科受診不要とされた者の割合は年次とともに増加した。6.勧告後の歯科処置の内容は,「療育群」では「その他群」の医療機関に較べて歯磨き指導や予防処置に重点が置かれていた。以上の結果は,北九州市における施設職員を含む地域の歯科健診システムの有効性を示すものと考えられる。