著者
池浦 義典 田中 崇裕
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.178-183, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)

Axcelead Drug Discovery Partners(Axcelead DDP)株式会社は、日本の製薬業界では初となる統合的創薬ソリューションプロバイダーである。経験豊富な創薬研究者が、武田薬品工業から継承した創薬プラットフォームや知見を駆使し、最新のサイエンス・技術も取り入れながら、顧客と共に創薬研究を進め、革新的医薬品の創出に貢献する。本稿では、製薬業界を取り巻く環境変化と創薬研究の新たな潮流に触れるとともに、Axcelead DDPのサービス提供体制や保有する独自の強み、それを基に顧客に提供できる価値(ソリューション)を紹介する。さらに、日本のバイオコミュニティの現状を概観し、日本における真の創薬エコシステムの発展に向けたAxcelead DDPの果たすべき役割や、取り組みについて述べる。
著者
安田 昭仁
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.75, 2018 (Released:2018-01-01)
参考文献数
3

医薬品には錠剤やカプセル剤,注射剤といった様々な剤形が存在する.その中でも錠剤は,取り扱い性,服用性,携帯性に優れ,最も市場に出ている剤形である.しかし,一般に錠剤は嚥下能力の劣る小児や高齢者には服用が困難とされる.錠剤は7〜8 mmが飲みやすいといわれているが,7 mmの錠剤でも半数以上の小児(米国の6〜11歳,患児を含む)は服用できないというデータもある.また,錠剤を服用できない,あるいは服用できるか分からない場合,医療現場ではしばしば錠剤を粉砕して投与される.しかし,錠剤粉砕後の有効性の同等性や安定性は保証されていない.近年では,小児用製剤に関する取組が活発化し,「嚥下困難な患者にも飲みやすい製剤」や「年齢による用量調節のしやすい製剤」が強く求められるようになった.そうした背景の中,嚥下困難な患者でも飲みやすい剤形として,直径1〜4 mm程度の小さな錠剤であるミニタブレットが注目されている.近年では,幼児を含む小児にとってはグルコースシロップと比較してもミニタブレットの方が受け入れられやすいという報告もある.一方,ミニタブレットには製造上の課題が存在する.1錠当たりの質量が小さいため,従来の錠剤よりも製剤工程の影響を受けやすい.例えば,質量が2 mg変動した場合,200 mgの錠剤では全質量の1%程度の影響になるが,15 mgのミニタブレットにおいては10%以上に相当する.そのため,ミニタブレットでは質量の変動が製剤中の有効成分の含量に与える影響が通常の錠剤よりも大きい.また,ミニタブレットは打錠機の臼への顆粒充填量も少ないため,顆粒中における有効成分の偏析(偏りが生じ,不均一な状態)は含量均一性に大きく影響する.そのような背景のもと,本稿ではミニタブレット製造の実現可能性について,詳細に検討を行った研究を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Meltzer E. O. et al., Clin. Pediatr., 45, 725-723(2006).2) Kilingmann V. et al., J. Pediatrics, 163, 1728-1732(2013).3) Mitra B. et al., Int. J. Pharm., 525, 149-159(2017).
著者
松井 和浩 飯村 康夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.543-547, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
3
被引用文献数
3

1967年に始まった市販後医薬品の副作用報告制度に基づく報告件数は増加の傾向にあり,ここ数年は企業報告の国内事例だけで年間3万件を超えている.諸外国規制当局では1998年から2000年代前半にかけて,副作用報告症例のデータベースから機械的かつ網羅的に未知の副作用候補を見つけ出すこと,すなわちシグナル検出のためのデータマイニング手法が開発・実践されていた.我が国においても,安全性監視の充実策の1つとして,予測・予防型の安全対策の必要性が高まる中,医薬品医療機器総合機構(PMDA)の第一期中期計画の中でデータマイニング手法の安全対策業務への導入検討および支援システムを開発し,2009年4月より活用している. 本稿では,データマイニング手法によるシグナル検出の概要およびPMDAにおける安全対策措置への活用事例を紹介する.
著者
平田 一耕 舟越 亮寛
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.143, no.11, pp.941-949, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
23

Inflammatory bowel disease (IBD) is an autoimmune disease that inflames the intestinal tract and reduces patient quality of life. In recent years, prescriptions of biologics and Janus kinase inhibitors have made outpatient pharmacists indispensable to clinics and hospitals. Therefore, we retrospectively investigated the effectiveness of immunopharmacist outpatient services in treating IBD. The survey spanned between January 2019 and December 2020 and included patients who had visited an IBD-specialized outpatient clinic. The endpoints were the number of pharmaceutical and accepted interventions, improvement rates, and cost-effectiveness of the pharmacist outpatient services. The definition of pharmaceutical intervention involves the pharmacist outpatient clinic, which refers to the number of prescription proposals made to doctors, and the dispensing room, which refers to the number of inquiries made to doctors. The survey included 139 patients, and 579 assessments were performed in the pharmacist outpatient clinic. Out of 352 pharmaceutical interventions by the outpatient pharmacist group, 341 (96.9%) were accepted by physicians. Similarly, out of 74 pharmaceutical interventions by the dispensing group, 54 (73.0%) were accepted by physicians (p<0.0001). The overall improvement rate of pharmaceutical interventions was 93.5%. The immunopharmacist outpatient clinic was found to be cost-effective, with an estimated value of 44068000 yen. In IBD outpatient services, clinical pharmacists and physicians are integral members of the medical care team and have a positive impact on drug treatment outcomes.
著者
上岡 洋晴
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.143, no.11, pp.931-940, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
23

The purpose of this narrative review was to clarify the current status and issues of scientific evidence for functionality in the Foods with Function Claims system based on previous research. From the introduction of the system in April 2015 to January 1, 2023, there were 6606 notifications, of which 6297 (95.3) were systematic reviews (SRs) and 309 (4.7%) were clinical trials (CTs). SRs were identified the following problems: i) inadequate description based on the first version of PRISMA checklist, and ii) very low levels of quality assessment in the first version of AMSTAR checklist and AMSTAR 2. CT was reported to have the following problems: i) inconsistencies between the protocol and the content in the paper (non-compliance), ii) high risk of bias, and iii) not described based on the CONSORT 2010 checklist. Since SRs and randomized controlled trials (RCTs) often have low-quality notifications, it is necessary to correctly communicate this information to consumers in order to make appropriate purchasing decisions.
著者
中里 有希
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.207-211, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

小児医薬品の開発は、年齢、体重、発達段階等による薬物動態、有効性及び安全性への影響、開発費用に対する採算性の低さ等の問題を抱えてきた。小児医薬品の開発を推進するために、日本を含め世界中で様々な取組みが行われている。本稿では、主に米国及び欧州の取組みについて、更には各国間での協働についても触れながら、小児医薬品の開発がどのように推し進められてきたか紹介する。
著者
向 祐志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1118, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
4

狭い治療濃度域を有する薬物や体内動態の個人差が大きい薬物では,therapeutic drug monitoring(TDM)が患者間の体内動態の違いを補正するために有用である.我が国におけるTDMは,特定薬剤治療管理料の算定対象薬物について実施されることが多く,一部の免疫抑制薬を除いて,血漿あるいは血清が薬物濃度測定用の検体として用いられている.近年,欧米を中心にdried blood spot(DBS)を検体とした薬物血中濃度測定法が盛んに報告されている.DBSによる検体採取には,1検体あたりの採取量が1滴の血液で済み,患者宅での採取が可能なため,医療コストを低減できる等の様々な利点がある.Linderらは抗てんかん薬のうち,カルバマゼピン(CBZ),ラモトリギン(LTG)およびバルプロ酸(VPA)では,DBS中濃度を血漿中濃度の代替指標として用いることができる可能性を示したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Evans C. et al., AAPS. J., 17, 292-300(2015).2) Martial L. C. et al., PLoS. One., 11, e0167433(2016).3) Li W., Tse F. L., Biomed Chromatogr., 24, 49-65(2010).4) Linder C. et al., Clin. Biochem., 50, 418-424(2017).
著者
F. W. FOONG
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.900-902, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
2
被引用文献数
1

まず最初に,討論をはじめとする意思疎通のための科学英語をよりよく理解する上で非常に有用なヒントおよび基本的事項を紹介する.基本的には,科学英語における文法は一般英語と同様であるが,多種多様な各分野特有の用語を理解し,発音なども含めて習得する必要がある.また,一般英語では見慣れない特殊な用語や用法もある.例えば,apoptosisのようにギリシア語に由来するものは通常の辞書には載っていないし,意味は分かっても発音できないことがある.また,一般英語ではexpressionという言葉の複数形はないが,核酸・遺伝子関係の研究論文ではしばしば複数形expressionsが使われる.さらには,“Diabetes-induced neuropathy patients(n=40) who satisfied the test criteria were enrolled for the study.”の文中のdiabetes-induced,neuropathyおよびenrolledという語や用法は学術的な文章ではよく見られるが,一般にはあまり使われない.一般英語では,“cardiovascular disease patients”のようなnoun+nounの表現は正しくない用法とみなされている(特に,ヨーロッパにおいて).さらに一般英語では許しがたいnoun+noun+nounのような複合名詞が,科学論文にはしばしば使われる.“Rat brain extracts”や“three-dimension expression”などはその例である.また,“After centrifugation at 1,500×G for 3 min at 4℃, the yellowish supernatant was decanted into a test tube and stored at -30℃ until use”におけるcentrifugation,supernatantおよび略語“1,500×G”やminなどは,学術論文・報告書などに見られる独特の用語や表現である.
著者
林 則充 窪田 均 中村 恵宣 山元 康王 岡 幸蔵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.128-132, 2019-08-01 (Released:2021-02-06)
参考文献数
6

コレステリルエステル転送タンパク質(Cholesteryl Ester Transfer Protein:CETP)阻害剤は、動脈硬化惹起性のLDLコレステロール(LDL-C)の低下、抗動脈硬化性のHDLコレステロール(HDL-C)の上昇という理想的な脂質制御が可能であり、新規の動脈硬化治療薬として期待できる。筆者らは、最適化研究において、「通常製剤での薬剤開発を意識したin vivo評価法の採用」および「in vitro評価法の改良」により、カルボン酸型化合物が優れた作用を有することを見出した。そして、カルボン酸型化合物のさらなる最適化により、臨床候補化合物TA-8995(obicetrapib)の創製に成功した。TA-8995は近年の臨床試験において、同クラスの化合物と比べて世界最強の作用を示した。
著者
安田 好文
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.362, 2017 (Released:2017-04-01)
参考文献数
3

寄生虫や花粉などに曝露されると,T細胞はTh2細胞に分化して抗原特異的にIL-5,IL-13などのTh2サイトカインを産生し,好酸球集積,杯細胞過形成,気道抵抗上昇を惹起して外来抗原を排除する.しかしその反応が過剰になると,喘息やアトピー性皮膚炎などの2型炎症の原因となる.また一方で,IL-13はマクロファージ(Mφ)を免疫抑制性のMφに分化させ.抗炎症性のIL-10やTGFβの産生を介して免疫抑制や組織修復を誘導する.このMφはさらにアルギナーゼ1(Arg1)を発現し.アルギニンの枯渇や一酸化窒素の産生抑制によっても抗炎症作用を示す.Arg1は尿素代謝に必須の酵素であり主に肝臓に発現するが,このように免疫系でも重要な役割を持つ. また上皮細胞の傷害によりIL-33などが産生されると,グループ2自然リンパ球(group 2 innate lymphoid cells:ILC2)は抗原非特異的にTh2サイトカインを大量に産生する.その特徴から.ILC2はTh2細胞とは別の2型炎症の鍵となる細胞として注目されている. 最近,ILC2がArg1を発現することが報告されたが,その意義は不明であった.本稿では,ILC2に発現するArg1の役割を明らかにしたMonticelliらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Munder M., Br. J. Pharmacol., 158, 638-651(2009).2) Waker J. et al., Nat. Rev. Immunol., 13, 75-87(2013).3) Monticelli L. A. et al., Nat. Immunol., 17, 656-665(2016).
著者
山本 一貴
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.943, 2023 (Released:2023-10-01)
参考文献数
4

タンパク質分解誘導剤は,標的タンパク質に結合してその機能を低下させる従来の阻害剤とは異なり,標的タンパク質を化学的にノックダウンすることから,新たな創薬モダリティとして注目されている.Proteolysis targeting chimera(PROTAC)は,分子内にE3リガーゼおよび標的分子への結合部位を有し,強制的に標的タンパク質をユビキチン化することで分解を誘導する.PROTACは,触媒的に働くことも利点の1つであり,低用量化による毒性低減も期待できる.しかし,PROTACの開発においては,標的バインダーの修飾位置やリンカーの長さ・形状の最適化には指針がなく,標的によってオーダーメイドする必要があり,効率化が求められている.今回,ChenらのDNA encoded library(DEL)を用いたPROTAC最適化のアプローチについて紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Sakamoto K. M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 98, 8554-8559(2001).2) Brenner S., Lerner R. A., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 89, 5381-5383(1992).3) Chen Q. et al., ACS Chem. Biol., 18, 25-33 (2023).4) Winter G. E. et al., Science, 348, 1376-1381(2015).
著者
南郷 拓嗣
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.871, 2020 (Released:2020-09-01)
参考文献数
3

自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder: ASD)は,社会的相互交渉およびコミュニケーションの障害(社会性行動障害)を主症状とする疾患である.これまで,ASDの子どもの行動障害が発熱によって一時的に改善することが報告されているが,そのメカニズムについては不明なままであった.本稿では,発熱による社会性行動障害の改善にinterleukin(IL)-17aが重要な役割を果たすことを明らかにしたReedらの報告について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Grzadzinski R. et al., Autism Res., 11, 175-184(2018).2) Reed M. D. et al., Nature, 577, 249-253(2020).3) Yim Y. S. et al., Nature, 549, 482-487(2017).
著者
山田 清文
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.9, pp.965-969, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
9
被引用文献数
2

In order to provide safe and effective pharmaceutical care to patients and their family members in clinical practice, pharmacists should receive appropriate clinical training after obtaining their license, as is standard in other medical professions. At present, there is no national framework in Japan for the early clinical training of pharmacists after licensure. However, pharmacy residency programs have been autonomously developed and implemented at some university hospitals and other medical institutions. This article describes the current status of clinical training of pharmacists after licensure in Japan. Furthermore, the standards for pharmacy residency programs, the outline of a core program for clinical training, and the career paths of hospital pharmacists after training are discussed.
著者
髙崎 智彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.366-370, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
15

日本脳炎(日脳)は、アジア地域における最も重要なウイルス性脳炎で、日脳ワクチンは、1954年に中山株を用いたマウス脳由来不活化ワクチンとして日本で開発され、その製造技術はアジア諸国に供与された。細胞培養不活化ワクチンが2009年に製造承認され、市場に供給された。世界的には不活化ワクチンだけでなく、中国で開発された弱毒生ワクチンも使用されている。日脳患者が減少した要因は、冷房等による生活環境の変化や養豚場が居住地から離れたことも挙げられるが、ワクチン接種による予防措置の貢献は大きい。東アジア、東南アジアでは遺伝子I型が流行しているが、近年V型株がしばしば検出されている。
著者
北野 拓真
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.548, 2021 (Released:2021-06-01)
参考文献数
4

がんは日本人の死因の第一位を占め,薬物治療の研究が今最も盛んに進められている疾患の1つである.抗PD-1抗体である免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint blockers: ICB)の開発によりがん治療に大きな変革がもたらされた一方で,これらを用いてもなお半数以上の患者では治療が十分に奏効していない.肥満は様々な疾患のリスクを上昇させることが知られており,生体防御反応に関しても易感染性やワクチン効果の低下をはじめとして免疫応答の低下を引き起こすことから,ICBの治療効果不良の原因の1つとして関与が取り沙汰されている.しかし,Body Mass Index(BMI)と治療の奏効との関連については議論が分かれており,肥満だけでなく生活習慣や飲食物による病態への関与が疑われている.本稿では,マウスにおいて食餌由来のフルクトースによりメラノーマがICBによる治療への抵抗性を獲得することを明らかにしたKuehmらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Larkin J. et al., N. Engl. J. Med., 381, 1535-1546(2019).2) Kanneganti T. D. et al., Nat. Immunol., 13, 707-712(2012).3) Kuehm L. M. et al., Cancer Immunol. Res., 9, 227-238(2021).4) Alaoui-Jamali M. A. et al., Cancer Res., 69, 8017-8024(2009).
著者
久保 允人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.526-530, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
18

気管支喘息や花粉症などのⅠ型アレルギーは,B細胞から産生される免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)によって引き起こされ,IgEは肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球が持つ受容体に結合することで,アレルゲン特異的にアレルギー反応を誘導することが知られている.このIgEの産生は,T細胞から産生される2型サイトカインを必要とすることから,アレルギーはT細胞を必要とする免疫反応と考えられてきた.近年は,T細胞やIgEを介したマスト細胞の反応系が存在しなくてもアレルギーが起こり得ることが知られるようになって,好塩基球や自然リンパ球による免疫反応系の存在が明らかになり,これら自然免疫系の細胞に注目が集まっている(図1).そこで本稿では,好酸球性食道炎と喘息などのアレルギー性炎症を制御する自然免疫系の細胞について紹介する.