著者
長野 正展
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.343, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
3

強力な細胞毒性を有する薬剤ほど,標的細胞のみに作用する「選択性」を高め,正常細胞への副作用を避けることが重要である.この懸念を解決する方法の1つとして,抗体の持つ標的特異性を薬剤に付与した抗体―薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)がある.ADCは通常,抗体,リンカー,抗がん剤より構成される.抗体部分によりがん細胞表面の標的抗原に特異的に結合したADCは,細胞内に取り込まれる.続いて,リンカーが切断を受け,抗がん剤を放出し,がん細胞選択的に活性を発揮する.2014年に厚生労働省により認可されたアドセトリス(1)は,抗体のシステイン残基に抗がん剤モノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E:MMAE)を結合させたADCである(図1).ここで,抗体に対する薬剤の結合数(drug-to-antibody ratio:DAR)に着目すると,抗体において薬剤との結合に利用可能なシステインの数は8であるのに対し,アドセトリス(1)のDARは4程度である.興味深いことに,薬理活性の向上を狙いDARを8としたADCは,in vitro実験では期待通り薬理活性が増大するが,in vivo実験ではADCの代謝が促進され,薬理効果が減弱する結果となる.Lyonらは,この原因がリンカーの疎水性にあると推察し,リンカー部分の水溶性を高めることで,DARの増加に伴う血中安定性の低下を抑え,高い薬理活性を示すADCの開発に成功したので紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Chari R. V. J. et al., Angew. Chem. Int. Ed.Engl., 53, 3796-3827 (2014).2) Hamblett K. J. et al., Clin. Cancer Res., 10, 7063-7070 (2004).3) Lyon R. P. et al., Nat. Biotech., 33, 733-735 (2015).
著者
渡邉 真治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1150_2, 2019 (Released:2019-12-01)

NESIDは,日本における感染症サーベイランスシステムで,国(厚生労働省)が管理している一元的なオンライン中央データベースである.医療関係者の協力のもと,国(厚生労働省および国立感染症研究所)と自治体(保健所および地方衛生研究所:地衛研)との共同でインフルエンザを含む感染症サーベイランスが実施されているが,感染症による患者情報や病原体情報などが保健所や地衛研からNESIDに入力されることで,国内の感染症の発生状況の正確な把握や分析ができる.国や自治体は,国民や医療機関へNESIDに基づく情報公開・提供を迅速に行うことで,当該感染症に対する有効かつ的確な対策を図ることが可能となる.
著者
西山 由美
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.426-427, 2023 (Released:2023-05-01)

神戸薬科大学は自然豊かな六甲山の麓にあり、薬用植物園は大学の北西部、標高100 mに位置している。圃場は山の斜面を利用してひな壇状に設置され、管理棟、冷温室も含め敷地面積は2,776 m2、日本薬局方収載生薬の基原植物をはじめ、有用・有毒植物など年間を通して約1,000種近くを栽培展示している。近年は学生ガイドの育成や薬用植物園レターの発行など、植物園を教育や憩いの場として活用する取り組みを行っている。
著者
和田 浩志 村上 孝夫 田中 信壽 中村 昌司 斎木 保久 陳 秋明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.989-994, 1986-11-25 (Released:2008-05-30)
参考文献数
23
被引用文献数
5 8

From the fronds of Pseudocyclosorus subochthodes CHING and P. esquirolii CHING, a new flavanone glycoside (2S)-eriodictyol 7-O-methylether 3'-O-β-D-glucopyranoside (I) and maltol 3-O-β-D-glucopyranoside (V) were isolated. Besides them, from the former a new glycoside 5-hydroxymaltol 5-O-α-L-rhamnopyranoside (II) and (2E, 6E)-(10S)-2, 6, 10-trimethyl-2, 6-11-dodecatriene-1, 10-diol (12-hydroxynerolidol) (III) were isolated and from the latter astragalin and shikimic acid were isolated. Their structures were elucidated by chemical and spectroscopic methods.
著者
西山 伸宏
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.143, no.5, pp.443-447, 2023-05-01 (Released:2023-05-01)
参考文献数
5

This paper introduces the research of nanomachines utilizing boron chemistry. Boron neutron capture therapy (BNCT) has beeing attracting increasing attention as a minimally invasive cancer treatment, and p-boronophenylalanine (BPA) has been approved as a potent BNCT drug. However, intratumoral retention of BPA remains to be improved. Recently, we have developed a BPA delivery system [poly vinyl alcohol (PVA)–BPA] utilizing PVA. PVA–BPA altered the uptake pathway of BPA by cancer cells and significantly improved the intracellular retention in cancer cells. in the in vivo experiments, PVA–BPA showed improved tumor accumulation and a remarkable tumor growth inhibition upon thermal neutron irradiation. On the other hand, a useful delivery system of bioactive proteins has been strongly demanded. In this study, we have developed the ternary complex micelles for the protein delivery utilizing tannic acid (TA) and block copolymer containing a boronic acid group. The ternary micelles improved the blood retention and tumor accumulation of the loaded proteins, and realized a tumor tissue-selective enzymatic reaction in the enzyme delivery.
著者
田中 佑樹 岩瀨 真喜子 小椋 康光
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.217-221, 2023 (Released:2023-03-01)
参考文献数
12

鉄,亜鉛,銅,セレンなどの必須元素がその生理作用を発揮したり,水銀,カドミウム,ヒ素などの非必須元素がその毒性を発現したりする機構を明らかにするためには,生体内あるいは細胞内での存在量,化学形態,分布を把握する必要がある.これらの生命金属元素の生体内・細胞内情報を得るための分析法の一つとして,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)が汎用されている.本稿では,ICP-MSを基盤とした生命金属元素に関する最新の分析法を紹介する.
著者
七田 崇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.72, 2016 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

西アフリカでエボラ出血熱が流行し,地球規模の混乱を引き起こしたことは記憶に新しい.現地で医療活動に当たっていたアメリカ人がエボラウイルスに感染したことから,ワクチンをはじめとする治療手段の開発について世界的な関心をよんだ.本稿では,ツヅラフジ科植物であるシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra S. Moore)に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイド2量体のテトランドリンが,エボラ出血熱に対する優れた治療効果を持つことがSakuraiらによって報告されたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Sakurai Y. et al., Science, 347, 995-998 (2015).2) Kolokoltsov A. A. et al., Drug Dev. Res., 70, 255-265 (2009).
著者
和氣 弘明 橋本 明香里
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.858-861, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
18

アルツハイマー型認知機能障害、自閉スペクトラム症、統合失調症などの多岐にわたる疾患において、神経回路を決定するシナプスの異常を認める。近年の光学技術の発達に伴い、脳の免疫細胞であるミクログリアが、健常時、発達期、病態期の様々な場面で、シナプスと直接の接触を繰り返し、その新生、除去、維持、活動の制御などの多岐にわたる役割を果たすことが解明されてきた。本稿では、ミクログリアとシナプスに関する最新の知見をまとめ、今後の疾患研究への展望について議論する。
著者
津田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.755-759, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
22
被引用文献数
5

痛みを連想すると,恐らく多くの人はあまりいいイメージを持たないだろう.熱いものを触った時の痛み,どこかに手足をぶつけたときの痛み.一見,私たちにとって有害なものと思えるこのような痛みだが,私たちはこの感覚を経験し学習することで,痛みを伴う外傷を未然に避ける防御行動を習得することができる.このような生理的な痛みは急性疼痛と呼ばれ,私たちが安全に生きていくために必要な生体警告信号としての重要な役割を担っている.一方で,がんや糖尿病,脊髄損傷,手術の後遺症,HIV感染,多発性硬化症など多くの疾患で発症する慢性化した耐え難い痛みは,患者のQOLを極度に低下させ,疾患そのものの治療や,精神にも悪影響を及ぼしてしまう.また,四肢の切断や帯状疱疹ウイルス感染などの場合,患部の外傷は治癒したにもかかわらず,痛みだけが慢性的に残ることがある.このような疾患では,自発痛に加え,通常であれば痛みを起こすはずのない軽度な刺激,例えば衣服が肌に触れるという軽い刺激によってさえも強い痛みが出るアロディニア(異痛症)が特徴的である.すなわち,本来痛みが有する生体防御信号としての役割がこれらの疾患では完全に破綻しており,慢性化した痛みそのものが病気であるといえる.この慢性疼痛は,神経系の損傷や機能異常に起因することから「神経障害性疼痛」と総称される.全世界で数千万人が慢性疼痛で苦しんでおり,適切な痛みのコントロールが必要であるが,実際は強い鎮痛薬であるモルヒネにさえ抵抗性を示す症例が少なくなく,未だ有効な治療法も確立されていない.現在の疼痛研究における大きな課題の1つは,この神経障害性疼痛メカニズムの解明と有効な治療法の開発であり,その克服に向けて,様々な視点から研究が進められている.本稿では,まず末梢から脊髄,さらに脳へ至る痛覚伝達経路を概説し,神経の障害後に脊髄後角神経回路がどのように変化して神経障害性疼痛を引き起こすのかを,神経細胞および非神経細胞のグリア細胞に注目した最新の研究成果を交えて紹介する.
著者
叶 直樹 吉木 美穂 茨木 駿志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.736-740, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
25

近年,タンパク質の分解を誘導する有機分子が,疾患治療の新しいモダリティとして注目を集めている.PROTACと総称されるこの新しい創薬モダリティは,様々なタンパク質の分解誘導が可能であり,タンパク質異常が原因の疾患で苦しむ患者や,治療に難渋する医療者に対し,新しい治療薬の選択肢となることが期待されている.本稿では,最新のPROTAC研究の動向を,論文報告された分子の特徴と活性・性能評価の観点から紐解いた。
著者
榮 慶丈 西川 直宏 塚本 修一朗 鈴木 孝禎 岡本 祐幸
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.136, no.1, pp.113-120, 2016-01-01 (Released:2016-01-01)
参考文献数
27

Molecular simulations have been widely used in biomolecular systems such as proteins, DNA, etc. The search for stable conformations of proteins by molecular simulations is important to understand the function and stability of proteins. However, finding the stable state by conformational search is difficult, because the energy landscape of the system is characterized by many local minima separated by high energy barriers. In order to overcome this difficulty, various sampling and optimization methods for the conformation of proteins have been proposed. In this study, we propose a new conformational search method for proteins based on a genetic algorithm. We applied this method to an α-helical protein. We found that the conformations obtained from our simulations are in good agreement with the experimental results.
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.698-699, 2021 (Released:2021-08-01)

ミニ特集:植物バイオが切り拓く生合成研究ミニ特集にあたって:植物が生産する二次代謝(特化代謝)成分は,その生物活性から医薬品原料などに用いられる.これらの成分の生合成経路は,薬剤師国家試験でも出題されることからも分かるように薬学教育における学びの重要な1領域であるが,遺伝子工学をはじめとする植物バイオテクノロジーの発展により,本研究領域は飛躍的な進展を遂げている.近年では,オミクス解析などを用いることで遺伝子レベルやタンパク質レベルでの詳細な経路解明が進み,同定された生合成遺伝子の微生物への導入による物質生産や,逆にゲノム編集によって生合成遺伝子を破壊することによる毒性物質含量の低減など,様々な形での応用に発展している.本ミニ特集では,これら植物バイオによる生合成研究の最新の成果を,最前線で活躍されている先生方に紹介していただいた.表紙の説明:今月の表紙は,クズを題材にした「夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも」である.これは,大伴家持の叔母にあたる大伴坂上郎女の作で,大伴宿禰駿河麿への相聞歌とされている.またまた男女の歌である.電子付録では,二人の思いを妄想しつつ,民間薬や食用としてのクズ,植物としてのクズの仲間,クズと同じく夏から初秋の草原で見られる花についても紹介したい.
著者
倉石 泰
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.803, 2020 (Released:2020-09-01)

20世紀後半はかゆみ研究の冬の時代であったが,21世紀に入りかゆみの基礎研究が急激に増加し,かゆみの末梢組織における発生機序と中枢神経系における調節・認知機構が明らかにされてきた.しかし,かゆみにはまだベールを掻き払わねばならない謎も多く残されている.本誌のかゆみ特集が多くの研究者をかゆみ研究にいざない,我が国の研究者がそう痒性疾患治療の進歩に貢献することを期待する.
著者
廣田 佳久
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.199-203, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
16

Vitamin K plays an important role in blood coagulation and bone formation. However, apart from the liver and bone, the role of vitamin K in other tissues remains unknown. Previously, we have reported on high concentrations of vitamin K in the mouse brain and investigated vitamin K conversion in brain tissue. This led us to hypothesised the possibility of vitamin K contributing significantly towards maintenance and function of the cranial nervous system. In this review, we summarise the synthesis of novel vitamin K derivatives, their neuronal differentiation inducing activities and the induction mechanism. The findings from this study will provide insights into the physiological roles of vitamin K in the brain.