著者
稲見 真倫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.2, pp.63-67, 2013 (Released:2013-08-09)
参考文献数
26

近年の免疫領域における細胞内シグナル伝達研究の発展は目覚ましいものがある.最先端の分子医学的な手法を駆使することにより,主要免疫担当細胞における重要なシグナル伝達経路が明らかとなり,その中の鍵となる分子が同定されてきた.その中でも特にタンパク質リン酸化酵素は,ほぼ全てのシグナル伝達経路に関与し決定的な役割を果たしていることがわかっている.タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)はATPからリン酸基を転移させて,特定のタンパク質をリン酸化する酵素である.ATP結合領域は各キナーゼにおいて相同性が高いため,特定のキナーゼのATP結合領域に特異的に拮抗する低分子を見出すことは難しいとも考えられてきた.しかしながら,がん領域におけるイマチニブの成功により,がん分子標的薬としてのキナーゼ阻害薬が非常に注目され,創薬におけるキナーゼ阻害薬の可能性が今までになく議論されるようになってきた.自己免疫疾患領域においても,その細胞内シグナル伝達におけるキナーゼの重要性は認識されていたものの,前臨床の研究に留まっていたが,p38阻害薬が臨床入りし,ついに2012年にはJAK阻害薬が上市された.本総説においては,JAK阻害薬に焦点を当てて,自己免疫疾患におけるキナーゼの重要性,創薬の可能性,問題点などを概説したい.
著者
麻川 武雄 榎本 恵一 高野 正子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.59-68, 1993
被引用文献数
1

Adenylate cyclase is a key enzyme that couples with both the stimulatory and inhibitory G proteins (G<SUB>s</SUB> and G<SUB>i</SUB>). The cyclase has been purified and shown to be a glycoprotein of molecular weight 115, 000-180, 000. Cloning of cDNAs for adenylate cyclase showed that the cyclase is a member of a large family consisting of a variety of subtypes of the enzyme. These subtypes show different responses to calmodulin and G protein &beta;&gamma; subunits, and their distributions in tissues and organs are also different. This suggests that each subtype is involved in a particular physiological function. The general structure of adenylate cyclase is composed of two cytoplasmic domains and two membrane-spanning domains, each of which contains 6 transmembrane spans (12 spans in a molecule). The amino acid sequence of each cytoplasmic domain, which is thought to contain a nucleotide (ATP) binding site, is well-conserved among the various subtypes. This review also focuses on the regulation of adenylate cyclase activity by G protein subunits, particularly on several models for adenylate cyclase inhibition by G<SUB>i</SUB>. As one of these mechanisms, direct inhibition of adenylate cyclase by the &beta;&gamma; subunits recently demonstrated by us will be discussed.
著者
今泉 祐治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.219-231, 1993 (Released:2007-02-06)
参考文献数
54
被引用文献数
5 4

Membrane ionic currents were recorded using whole cell and patch clamp techniques in smooth muscle cells isolated from various organs to clarify the mechanisms underlying the diversity of membrane excitability. Components of inward and outward currents upon depolarization were resolved from one another kinetically or pharmacologically and were analyzed and compared in these cells under the same conditions. Cells were isolated from the ureter (UT), urinary bladder (UB), vas deferens (VD), aorta (AT), pulmonary artery (PA), taenia caeci (TC) and ileum (IL) of the guinea pig; the femoral artery (FA), portal vein (PV) and iris sphincter (IS) of the rabbit; the stomach fundus (SF) of the rat; the trachea (TR) of the dog and the coronary artery (CA) of the pig. Action potentials were elicited by depolarization in cells from UT, UB, VD, TC, IL, SF and PV, but not in those from AT, PA, FA, IS, TR and CA. Currents identified included Ca2+ currents, Na+ current, Ca2+-dependent K+ current, two kinds of delayed rectifier K+ currents which were pharmacologically distinguished by sensitivity to 4-aminopyridine, and Ca2+-independent A-type transient K+ current. The membrane excitabitiy including the action potential configuration in each cell type can be roughly explained by a combination of these currents, taking their amplitude and features into consideration.
著者
垣野 明美 沢村 達也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.2, pp.107-113, 2016 (Released:2016-02-10)
参考文献数
22

動脈硬化の進行は,血管だけでなくその灌流する臓器の機能にも直接関わり,臓器障害を引き起こす.コレステロールと動脈硬化の関連は確立されており,中でも酸化などの修飾を受けた変性LDLが動脈硬化進行の重要な要因である.血管内皮の酸化LDL受容体LOX-1(lectin-like oxidized LDL receptor 1)は,変性LDLと結合することで血管内皮障害を引き起こし,動脈硬化性疾患の進展と発症を促進する.これまでの研究で,LOX-1は動脈硬化の初期段階から発現が上昇し,LOX-1の抑制により心血管疾患の症状を改善することが明らかになっている.最近の疫学調査により,血中のLOX-1リガンド(LOX-1 ligand containing apolipoprotein B:LAB)が動脈硬化性疾患の発症リスク評価に有用である可能性が高まってきている.また,ヒトの血液中に存在しLOX-1に結合する変性LDL様物質L5が明らかになり,L5がLOX-1を介してST上昇心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)の病態悪化に関与していることがわかってきた.このように内在性のLOX-1リガンドと疾患の関連が明らかになってきている一方,細胞膜上では,LOX-1がアンジオテンシンⅡ受容体のAT1と複合体形成をすることがわかってきた.これにより,細胞内シグナル伝達を介したLOX-1の作用については,AT1を介したアンジオテンシンⅡと似た形で機能する可能性が示唆される.
著者
笠 純華 倉内 祐樹 田中 理紗子 春田 牧人 笹川 清隆 関 貴弘 太田 淳 香月 博志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第94回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.3-P1-07, 2021 (Released:2021-03-21)
被引用文献数
1

Migraine is a common neurovascular disorder characterized by severe headaches and is associated with dysfunction of the autonomic nervous system. Notably, some patients who have migraine seem to be more sensitive to changes in the weather such as atmospheric pressure and humidity. Here, we investigated the effect of Goreisan, a traditional Kampo medicine used to treat headaches, on the cerebral blood flow (CBF) dynamics by using implantable CMOS imaging device for detecting hemodynamic signal in female meteoropathy model mice. Moreover, we evaluated the effect of loxoprofen, an analgesic used to treat headaches, on the CBF changes and compared it to the effect of Goreisan. To reproduce the change of the weather, atmospheric pressure was lowered by 50 hPa and kept this level for 1 h and it was returned to the previous level. We observed the increase in CBF during low atmospheric pressure, which was prevented by Goreisan (1 g/kg, p.o.) as well as loxoprofen (4 mg/kg, p.o.). Although CBF gradually recovered to baseline after returning to normal atmospheric pressure, Goreisan, but not loxoprofen, lowered CBF below baseline. These results suggest that Goreisan is the headache therapeutic drug with a different action profile from loxoprofen in that it has a mechanism to actively reduce cerebral blood flow.
著者
西村 有平
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.2, pp.88-91, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1

新たに承認される薬の数は,開発コストあたりに換算すると過去数十年間に渡り減少し続けている.この課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,ゼブラフィッシュを創薬に導入する機運が高まっている.ゼブラフィッシュは,ヒトへの外挿性,組織の複雑性,化合物スクリーニングの簡便性・高速性の三軸において比較的優れたバランスを持つモデル動物であり,産学官ともに創薬ツールとして利用される機会が増えている.本総説では,ゼブラフィッシュの表現型を指標とするin vivoスクリーニングを基軸とする創薬と,データベースなどを利用したin silicoスクリーニングとゼブラフィッシュの統合的利用を基軸とする創薬,という二種類のアプローチを用いた神経疾患治療薬の開発について概説する.また,ゼブラフィッシュを用いて発見された疾患治療薬が臨床に進んでいる具体例を提示する.今後,ゼブラフィッシュを用いた創薬研究の発展に伴い,ゼブラフィッシュで発見される疾患治療薬が臨床において真に有用である割合が明らかにされ,トランスレーショナルリサーチツールとしてのゼブラフィッシュの意義が確立されていくことが期待される.
著者
南嶋 洋司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.1, pp.40-45, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
11

後生動物のように個体の生存に酸素が必須な生物の細胞には,必要とする酸素よりも利用出来る酸素が少なくなった低酸素状態(hypoxia)に対する応答反応(低酸素応答)がプログラムされている.低酸素環境下で必要な遺伝子群の多くは,低酸素応答のマスターレギュレーターとも呼ばれる転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)によって誘導されるのだが,低酸素応答の研究は,そのHIFの発見によって飛躍的に進化した.2019年のノーベル生理学・医学賞が低酸素応答の研究者3名に授与されたことからもわかるように,「酸素濃度のセンシングと,低酸素環境への適応」の分子メカニズムに関する研究領域は,その面白さと重要性が広く認知されている.正常酸素濃度環境(normoxia)においては,酸素添加酵素(oxygenase)に分類されるプロリン水酸化酵素PHDが,分子状酸素O2を用いてHIFのα-サブユニット(HIFα)の特定のプロリン残基を水酸化する.プロリン水酸化されたHIFαは,ユビキチン-プロテアソーム依存的タンパク質分解へと導かれるため,normoxiaにおいてはHIFによる低酸素応答は不活性化されている.一方でhypoxiaにおいては,酸素添加酵素であるPHDの酵素活性が低下するために先述したHIFαのプロリン水酸化が抑制されるため,プロリン水酸化依存的タンパク質分解を免れてタンパク質発現量が急速に上昇したHIFαが,β-サブユニット(HIFβ/ARNT)と結合し,ヘテロダイマー型転写因子HIFとして低酸素時に必要な遺伝子群の転写をドライブする.すなわち,HIFを介した低酸素応答は酸素濃度依存的なPHDの酵素活性によって制御されているため,PHDこそが酸素濃度センサーとして機能しており,PHDの活性を抑制すると正常酸素分圧下においてもHIFを介した低酸素応答を活性化させることが出来る.本稿では,PHD-HIF経路を介した低酸素応答を,近年開発されたPHD阻害薬(HIF-PH阻害薬.本邦では2019年9月20日付けで腎性貧血治療薬として認可された)を用いて人為的に活性化させることで,様々な疾患の治療に応用しようといういくつかの試みについて紹介させて頂きたい.
著者
杜 偉彬 前川 祐理子 夏井 謙介
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.1, pp.6-11, 2019 (Released:2019-07-12)
参考文献数
21
被引用文献数
2

アレルゲン免疫療法(allergen immunotherapy:AIT)は,原因アレルゲンを有効成分として投与することにより,アレルギーの根治が期待できる唯一の治療法とされている.日本では,1960年代より花粉やダニに起因するアレルギー性鼻炎に対する皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)が導入され,その臨床効果も認知されている.しかし,SCITでは,アナフィラキシーなどの全身性反応のリスクが課題であり,それを解決するために舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)が確立された.日本では,スギ花粉症の成人及び12歳以上の小児において,初めてのSLIT製剤としてスギ花粉舌下液が2014年に承認された.その後,当社は至適用量の設定や服薬の利便性の向上を実現させるために,SLIT錠の開発に着手した.ダニアレルギー性鼻炎の成人及び12歳以上の小児においては,ダニ舌下錠が2015年に承認されたのち,2018年に12歳未満の小児においても追加適応の承認を取得した.一方,スギ花粉症に対しては,スギ花粉舌下錠が2018年に年齢制限がなく承認された.本稿では,SLITの液剤及び錠剤の開発経緯とともに,SLIT錠の製剤技術,舌下投与後のアレルゲンの体内分布についても述べる.
著者
古川 雄祐 平岡 信弥 和田 妙子 菊池 次郎 加納 康彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.1, pp.26-32, 2011-07-01
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

ベンダムスチン(トレアキシン<sup>&reg;</sup>)はプリンアナログ様骨格にアルキル基が結合したハイブリッドな抗がん薬である.作用機序はDNAアルキル化が主体と考えられ,代謝拮抗作用については明確な結論は出ていない.がん細胞に作用させた場合に他のアルキル化薬に比べて多彩な作用を示すのが特徴で,(1)架橋形成~DNA鎖切断によるネクローシス誘導,(2)DNA損傷チェックポイント活性化によるp53依存性アポトーシスおよび活性酸素種(ROS)を介するp53非依存性アポトーシスの誘導,(3)分裂期チェックポイントの阻害による分裂期細胞死(mitotic catastrophe)誘導,(4)DNA修復阻害,(5)遺伝子発現調節,(6)早期のS期停止誘導などが報告されている.このような多様な作用機序を有することが,アルキル化薬を含む他の抗がん薬と交差耐性を示さない,単剤で従来の標準併用化学療法を上回る成績を示すなどの優れた特徴を生んでいると考えられる.ベンダムスチンは1963年に旧東ドイツにおいて開発されたが,90年代に入ってから本格的に臨床試験が行われ,低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫(瀘胞性リンパ腫,小細胞リンパ腫),マントル細胞リンパ腫,慢性リンパ性白血病に対する有効性が確立している.現在は再発・難治例が適応となっているが,初発の低悪性度非ホジキンリンパ腫を対象としてリツキシマブ+ベンダムスチンと現在の標準的治療であるリツキシマブ+CHOP(シクロフォスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)を比較する第III相試験が行われ,無増悪生存期間の中央値において前者が有意に優れていた.さらに現在,中悪性度非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞性リンパ腫,末梢性T細胞リンパ腫),多発性骨髄腫への適応拡大のための臨床試験が行われている.副作用としては血液毒性,リンパ球減少による日和見感染,消化器毒性(食欲不振,悪心,便秘)などがあるが,重篤なものではない.脱毛,末梢神経障害は認めない.ベンダムスチンは今後,さまざまな悪性腫瘍において第一選択の薬剤となる可能性がある.

1 0 0 0 OA 依存性試験

著者
宮脇 出
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.211-215, 2007 (Released:2007-09-14)
参考文献数
25

近年の世界的な薬物乱用の増加によって,適切な依存性評価の重要性が高まってきている.しかし,ICH(International Conference on Harmonization)では,依存性試験について積極的な議論はなされておらず,各極の依存性試験に対する対応や考え方は一様ではない.さらに,日米欧の三極から出されているガイドラインや指針には依存性評価の基本概念が記載されているだけで,具体的な試験の内容については触れられていない.このような理由から新薬製造メーカーの研究者は依存性試験の実施について戸惑う点も多いと推察される.本稿では(1)各極の依存性に関するガイドラインや指針の特徴,(2)一般的な薬物依存性試験の方法と問題点,(3)乱用/依存の可能性を評価する際の留意点について,筆者なりの見解をまとめた.
著者
中尾 駿介 中道 範隆 増尾 友佑 竹田 有花 松本 聡 鈴木 真 加藤 将夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第92回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.2-YIA-03, 2019 (Released:2020-03-20)

The aim of the present study was to examine enhancement of learning and memory by oral administration of ergothioneine (ERGO), which is a hydrophilic antioxidant highly contained in golden oyster mushrooms and other foods, and systemically absorbed by its specific transporter OCTN1/SLC22A4 in daily life, with an aim to clarify its possible role as a neurotropic compound. After oral administration of ERGO in normal mice, the novel object test revealed a longer exploration time for the novel object than for the familiar object. Similar result was also confirmed in mice ingested with ERGO-free diet. Dietary-derived ERGO is present in the body without the administration, but the ERGO administration led to modest (3~4 times) increase in its concentration in plasma and hippocampus. Exposure of cultured hippocampal neurons to ERGO elevated the expression of the synapse formation marker, synapsin I, and neurotrophin-3 and -5. The elevation of synapsin I was inhibited by tropomyosin receptor kinase inhibitor K252a. Thus, oral intake of ERGO may enhance object recognition memory, and this could occur at least partially through promotion of neuronal maturation in the hippocampus.
著者
清木 雅雄 上木 茂 田中 芳明 添田 美津雄 堀 裕子 会田 浩幸 米田 智幸 森田 仁 田頭 栄治郎 岡部 進
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.5, pp.257-269, 1990 (Released:2007-02-20)
参考文献数
31
被引用文献数
33 32

新規化合物Z-103の抗潰瘍剤としての有用性を明確にするため,各種実験胃損傷(ストレス胃損傷,塩酸aspirin胃損傷,histamine胃損傷及び塩酸ethanol胃損傷),並びにmepirizole十二指腸潰瘍モデルに対する作用をラットを用いて検討した.対照薬物としてspizofuroneおよびcimetidineを使用した.Z-103は各モデルに対して用量依存的な抑制効果を示し,特に塩酸ethanol胃損傷およびmepirizole十二指腸潰瘍モデルに:おいてはspizofuroneおよびcimetidineよりは,強い抑制作用を示すことが判明した.さらに胃諸機能に対する作用について検討したところ,in vitro実験において,Z-103は制酸効果および抗ペプシン作用を有することが判明した.また,ethanol胃損傷時における胃粘膜被覆粘液量減少,並びにaspirinによる胃粘膜電位差低下に対して,それぞれ用量依存的な予防作用を有することが判明した.一方,ラット胃液分泌に対しては,高用量(300mg/kg)で若干減少させるが,それ以下の用量では影響を及ぼさなく,また,Heidenhain pouch犬の胃液分泌に対して全く作用を及ぼさないことが明確となった.以上をまとめると,Z-103は,ラット各種実験胃損傷,並びに十二指腸潰瘍モデルに対して著効を示し,その抑制効果は抗分泌作用によるものではなく,若干の制酸効果,および防御因子増強作用(mucosal protection作用,胃粘膜関門,並びにmucus bicarbonate barrierの恒常性維持作用)によるものが主体であろうと考えられる.よって,本薬剤はヒトにおいても防御因子増強型潰瘍治療薬として,十分に期待できるものと考えられる.
著者
勝山 真人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.6, pp.285-290, 2013

NADPHオキシダーゼは食細胞において同定されたスーパーオキシド(O<sub>2</sub><sup>&minus;</sup>)産生酵素であり,感染微生物の殺菌に重要な役割を果たす.O<sub>2</sub><sup>&minus;</sup>は食細胞以外でもNADPH依存的に産生されるが,この十数年の間に,非食細胞型NADPHオキシダーゼが相次いで同定された.その触媒サブユニットNOXには,NOX1からNOX5までの5種類と,関連酵素であるDUOX1とDUOX2の計7種類のアイソフォームが存在する.各アイソフォームはそれぞれ活性発現に必要な共役サブユニットや組織分布が異なっており,遺伝子改変マウスを用いた解析の結果,それぞれ独自の生理機能をもつことが明らかとなりつつある.本総説では主に各NOXアイソフォームの発現調節機構について紹介し,薬物治療への応用の可能性についても言及する.
著者
粕谷 善俊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.21-26, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
24

p38は,細胞外の刺激を核内の転写制御機構へとつなぐシグナル分子,MAPK(mitogen-activated protein kinase)ファミリーの1つであり,特に,ストレスや炎症性サイトカインにより活性化されることから,JNK(c-Jun N-terminal kinase)やERK5とともにストレス活性化プロテインキナーゼ(stress-activated protein kinase:SAPK)とも呼ばれている.p38の発見から20年が経過し,その多岐にわたる生理的・病態生理的機能が明らかになっているとともに,関節リウマチを始めとする炎症性疾患の創薬ターゲットとして着目され,近年,p38阻害薬の開発が精力的に行われてきた.本稿では,p38の機能を解説するとともに,p38阻害薬の治療応用の可能性も含めて,その動向についてふれたい.
著者
毛利 彰宏 野田 幸裕 溝口 博之 鍋島 俊隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.4-8, 2006 (Released:2006-03-01)
参考文献数
40
被引用文献数
2 2

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症とよく似た精神症状を示すことから,統合失調症の病態仮説として「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱されている.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理作用を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物でも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると,休薬後において少量のPCPを投与すると運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,一方,強制的に水泳をさせても泳がなくなる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このようなPCP連続投与マウスに認められる情動・認知機能障害にグルタミン酸作動性神経系がどのように関与しているのか分子機序を調べたところ,運動過多の増強はPCPがNMDA受容体拮抗作用を示し,その結果ドパミン作動性神経系を亢進することによっていた.生理食塩水連続投与マウスでは強制水泳ストレス負荷および水探索や恐怖条件づけ試験で訓練するとCa2+/calmodulin kinase IIやextracellular signaling-regulated kinaseのリン酸化が著しく増加するが,PCP連続投与マウスでは増加しなかった.一方,PCP連続投与マウスの細胞外グルタミン酸の基礎遊離量は著しく減少していた.これはグリア型グルタミン酸トランスポーターのGLASTの発現が増加し,グルタミン酸の再取り込みが増加しているためであることが考えられた.したがって,PCP連続投与マウスに認められる精神行動障害には,グルタミン酸作動性神経系の前シナプス機能およびNMDA受容体を介する細胞内シグナル伝達の低下が関与しているものと考えられる.
著者
相馬 義郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.4, pp.222-223, 2013 (Released:2013-04-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1
著者
小野 信文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.113, no.4, pp.203-210, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

脳血流(CBF)は自動調節(autoregulation)能によってほぼ一定に保持されている.その調節には種々の因子が関与するが,神経性調節を中心にその特徴を述べる.CBFは圧の減少に依存する減少,血圧に依存しない一定量の保持状態,高圧時に圧に依存する増加(breakthrough)を特徴とし,自動調節は保持状態の部分である.これは全身血圧低下による酸素欠乏と全身血圧の異常上昇・CBF増加による脳浮腫から脳組織を保護するための調節機構である.脳血管の緊張低下に関係する脳内機構は,コリン神経,興奮性アミノ酸あるいはGABAなどが神経性にあるいは非ニューロン的に働いている.AChについては,前脳基底部のマイネルト核から大脳皮質へ投射する系と前脳基底部の中隔から海馬へ投射する系があり,コリン系神経興奮によって大脳皮質ではムスカリン性ならびにニコチン性受容体のいずれもCBF増加を起こし,海馬では主にニコチン性受容体を介している.血管緊張に与る系は,交感神経系支配によるノルエピネフリン,セロトニン神経などがある.セロトニンの収縮性受容体は5-HT1Dβならびに5-HT2Bであるが,一部5-HT7受容体性の拡張性も持つ.神経走行が明確でないが,NO,アンジオテンシン,ブラジキニン,PG類も自動調節に影響する.NOS阻害薬は自動調節の上限を強く抑制し,breakthrough発現を抑え,breakthrough時にはNO産生の亢進が推察される.また洞大動脈神経切除によってもbreakthrough発現が見られない.アンジオテンシンの産生を抑制すると自動調節を血圧の低い方ヘシフトする.ブラジキニンは脳血管に対しB2受容体と関連する血管拡張,血管透過性亢進ならびに血液脳関門透過性亢進作用がある.PGF2αもbreakthrough発現を抑える.また,自動調節の下限域では血中TX B2が増加し,上限域ではPG Eタイプや6-keto-PGF1αが増加し,血圧の状態によって異なるPGが産生される.
著者
池田 孝則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.527-538, 2003-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2 39

イベルメクチン(ストロメクトール)は放線菌<i>Streptomyces avermitilis</i>の発酵産物アベルメクチン類から誘導された半合成の環状ラクトン経口駆虫薬である.イベルメクチンは線虫<i>Caenorhabditis elegans</i>(<i>C. elegans</i>)の運動性を濃度依存的に阻害した.<i>C. elegans</i>の膜標本には,イベルメクチンに高親和性の特異的結合部位が存在し,イベルメクチン類縁体のこの結合部位に対する親和性と<i>C. elegans</i>の運動抑制作用の間には,強い正の相関が認められたことから,イベルメクチンの抗線虫活性には,本部位に対する結合が重要であることが示唆された.<i>C. elegans</i>のpoly(A)<sup>+</sup>RNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入すると,イベルメクチンにより不可逆的に活性化されるクロライドチャネルの発現が確認された.本チャネルの薬理学的性質から,イベルメクチン感受性のチャネルはグルタミン酸作動性クロライドチャネルであることが示された.このグルタミン酸作動性クロライドチャネルについては,2つのサブタイプ(GluCl-&alpha;およびGluCl-&beta;)がクローニングされ,それらがグルタミン酸作動性クロライドチャネルを構成していることが示唆された.以上の結果からイベルメクチンは,線虫の神経又は筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロライドチャネルに特異的かつ高い親和性を持って結合し,クロライドに対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極を引き起こし,その結果,線虫が麻痺を起こし死に至るものと考えられた.ヒツジおよびウシの感染実験において,イベルメクチンは,<i>Haemonchus</i>,<i>Ostertagia</i>,<i>Trichostrongylus</i>,<i>Cooperia</i>,<i>Oesphagostomum</i>,あるいは<i>Dictyocaulus</i>属に対し,投与量に依存した強い駆虫効果を示した.糞線虫属<i>Strongyloides</i>に感染したイヌ,ウマおよびヒトに対しても,駆虫活性が報告されている.本邦における第III相試験では,糞線虫陽性患者50例を対象に本剤約200 &micro;g/kgが2週間間隔で2回経口投与された.投与4週間後に実施された2回の追跡糞便検査による駆虫率は98.0%(49/50例)であった.<br>
著者
吉岡 充弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.106, no.5, pp.311-319, 1995 (Released:2007-02-06)
参考文献数
49
被引用文献数
3 3

It is known that serotonin is widely distributed in the body; its receptors are located in various tissues and organs. It has been reported that serotonin receptors without apparent synaptic structure exist in the peripheral nervous system. These serotonin receptors might be the target of circulatory serotonin. In particular, serotonin has a potent depolarizing action on vagal afferent nerves. This stimulation causes various autonomic reflexes, so-called von Bezold-Jarisch reflex, that consist of bradycardia, hypotension and apnea. The peripheral 5-HT3-receptor subtype seems to be responsible for the initiation of these reflexes. The physiological and pathophysiological significance of these serotonin-induced modulations have not, however, been established. The present study was designed to examine the effects of exogenous serotonin on the chemosensitive afferent nerves including carotid sinus nerves, cervical vagus nerve, and efferent motor nerves, such as phrenic nerves and pharyngeal nerves. Because little is known about the involvement of the serotonergic system in the pulmonary reflex and pulmonary-related reflexes (swallowing or vomiting), the distribution of the motor component of these nerves within the brain stem of the rat was also determined.
著者
望月 秀紀 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.147-150, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
17

ポジトロン断層影像法(PET)など脳機能画像法が開発されたことによって,これまで研究することが困難だった中枢レベルの痒みの研究が可能となった.現在,中枢における痒みのイメージング研究において2つの展開がある.ひとつは“痒み”という感覚が脳内でどのように作り出されているのか,そして,もうひとつは,中枢神経系を介した痒みの抑制システムの存在についてである.痒みと痛みは同じ末梢神経線維によって伝達されるにもかかわらず,私たちはそれらを異なる体性感覚として知覚する.その違いが脳内でどのように作り上げられているのかが最近のPET研究によって明らかにされつつある.痒みと痛みの脳内ネットワークは非常によく似ているがいくつかの相違点があると考えられている.例えば,痛みの認知に関係する視床や二次体性感覚野は痒み刺激を与えてもあまり反応しない.このような脳内ネットワークの違いが,痒み・痛みといった感覚の違いを作り出している可能性がある.アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患は,現在,国民の3割が患う国民病として知られており,その治療法の開発が強く望まれている.特に,アトピー性皮膚炎患者の場合,掻きむしる行為が原因で症状が悪化する.痒みの治療法として,抗ヒスタミン薬など薬剤治療が一般的に用いられるが,それでも痒みの治療は多くの問題を抱えている.その問題のひとつは,心理的ストレスによる痒みの悪化である.逆に,趣味に没頭しているときなどは痒みが軽減される.このような現象から,脳内に痒みを増減するようなシステムが存在する可能性が指摘されている.我々は痒みに関するPET研究から,中脳中心灰白質を中心とした痒みの中枢性抑制システムの存在をヒトにおいて証明した.今後,中枢性痒み抑制メカニズムによる痒みの新たな治療薬の開発が期待される.