著者
平藤 雅彦 佐藤 洋一 南 勝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.357-363, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
9
被引用文献数
2 4

全身のセロトニン(5-HT)のおよそ90%は腸管に分布し,そのほとんどは腸クロム親和性(EC)細胞の顆粒内に局在している.EC細胞は小腸粘膜に散在するため5-HT遊離機序と細胞内カルシウム濃度の関連などその細胞内情報伝達系の基本的な点も不明である.本稿ではマウス小腸よりEC細胞が散在する陰窩標本の分離法と,その細胞内カルシウム動態解析法を紹介する.マウス回腸切片を摘出し筋層を剥離した後,コラゲナーゼ処理を行って粘膜組織を消化する.その後駒込ピペットで適度なピペッティングを加えて組織を分散させる.陰窩標本の分離法で重要なポイントはこのコラゲナーゼ処理とピペッティングの条件である.陰窩標本は長軸100 μm前後,短軸50 μm前後の長細い壷状をした数十個の細胞集団であるが他にも大小の上皮細胞塊,破壊細胞などが混在しているので,110 号(160 μm)と30 号(30 μm)のナイロンメッシュで分別して陰窩標本を集める.得られた陰窩標本を抗5-HT抗体を用いた蛍光抗体法で免疫染色して共焦点レーザー顕微鏡で観察すると,1個の陰窩標本に0~3個ほどのEC細胞が同定される.陰窩を構成する細胞の細胞内カルシウム動態解析には,蛍光顕微鏡画像解析装置を用いる.陰窩標本を底面が無蛍光ガラスになっている測定用チャンバーに接着物質(Cell-Tak)で接着固定し,蛍光カルシウム指示薬としてfura-2を用いて蛍光画像データを取る.用いた陰窩標本が後でわかるようにマーキングし,パラホルムアルデヒドで固定し,免疫染色してEC細胞を同定する.蛍光画像データからEC細胞での蛍光変化を再度解析することによりEC細胞での細胞内カルシウム動態が解析できる.本方法は他の消化管ホルモンを含有する様々な内分泌細胞にも応用可能と考えられる.

1 0 0 0 血管毒性

著者
永江 祐輔 都賀 稚香 友尾 孝 鈴木 栄子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.132, no.1, pp.39-44, 2008-07-01
参考文献数
4

血管は内皮細胞,平滑筋細胞,膠原線維,弾性線維からなる脈管である.内皮および平滑筋細胞は血管弛緩・収縮因子の産生や反応により血管緊張を調整していること,ならびに吸収された薬物に最初に曝される組織であることから,機能的・構造的に血管毒性の主要標的細胞である.薬物起因性の血管病変には動脈硬化,動脈瘤,血管炎,静脈血栓症および腫瘍があげられる.血管毒性が原因で医薬品が発売中止された事例は稀である一方で,血管障害の有効なバイオマーカーがないために,動物試験で血管毒性がみられた薬物の臨床開発を断念せざるを得ない場合が多い.末梢血中内皮前駆細胞(EPC)や内皮細胞(CEC)の計測は有望なバイオマーカーのひとつである.また,血管毒性の探索法として従来の病理組織学的手法に加え,摘出血管の収縮・弛緩能を測定する方法や超音波イメージングシステムを用い非観血的に血管形態や血行動態を観察・計測する方法があげられる.<br>
著者
柳瀬 晃子 西沢 幸二 井上 治 洲加本 孝幸 齋藤 雄二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.77-83, 1996 (Released:2007-02-06)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

加味帰脾湯(KMK)の抗侵害受容作用機序を明らかにする目的で,マウスを用いて,KMKの酢酸ライジング反応抑制に対する各種受容体遮断薬,生体モノアミン合成阻害薬あるいは澗渇薬処置および脊髄切断の影響について調べた.KMKは750mg/kg以上の経ロ投与により有意な酢酸ライジング反応抑制作用を示した.KMKの酢酸ライジング反応抑制作用は,オピオイド受容体拮抗薬ナロキソン前処置の影響を受けず,アドレナリンα2-受容体遮断薬ヨヒンビンやセロトニン受容体遮断薬シプロヘプタジン処置により消失した.したがって,KMKの作用にオピオイド受容体は関与せず,α2受容体やセロトニン受容体が関与していると考えられた.また,KMKの酢酸ライジング反応抑制作用は,生体モノアミン合成阻害薬あるいは洞渇薬であるα-メチル-p-チロシン,ジエチルジチオカルバミン酸,レセルピンおよびp-クロロフェニルアラニンの処置によって消失したことから,生体モノアミンが関与していることが示唆された.さらに,KMKの酢酸ライジング反応抑制作用は脊髄切断により消失したため,その作用部位は脊髄より上位であると考えられた.これらのことから,KMKIの抗侵害受容作用には脊髄より上位のノルアドレナリン系やセロトニン系神経等の下行性痛覚抑制機構が関与していると考えられた.
著者
原 英彰 嶋澤 雅光 橋本 宗弘 洲加本 孝幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.112, no.supplement, pp.138-142, 1998 (Released:2007-01-30)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

Lomerizine, a novel Ca2+ channel blocker, is under development as an anti-migraine drug. We examined the effects on spreading depression (SD) induced by a brief period of hypoxia (40 to 60 sec) in rat hippocampal slices, the cortical hypoperfusion and cortical c-Fos-like immunoreactivity that follow KCl-induced SD in anesthetized rats as compared with those of flunarizine. Extracellular recording was made from the CAl subfield. The latency of initiated SD was examined. Lomerizine (1 and 10 nM) and flunarizine (1 μM) significantly prolonged the latency in a concentration-dependent manner. After KCl application to the cortex, cerebral blood flow monitored by the laser Doppler flowmetry was approximately 20 to 30% below baseline for at least 60 min. Lomerizine (0.3 and 1 mg/kg, i.v.) and flunarizine (1 and 3 mg/kg, i.v.) administered 5 min before KCl application inhibited the cortical hypoperfusion that followed KCl application. c-Fos-like immunoreactivity, an indicator of neuronal activation, was detected in the ipsilateral, but not in the contralateral frontoparietal cortex 2 hr after KCl application. Lomerizine (3-30 mg/kg, p.o.) and flunarizine (30 mg/kg, p.o.) significantly attenuated the expression of c-Fos-like immunoreactivity in the ipsilateral frontoparietal cortex. Lomerizine was 3 to 1000 times more potent than flunarizine in the above SD models. These findings suggest that the inhibitory effects of lomerizine and flunarizine on the interval between the initiated and subsequent spontaneous SDs, the cortical hypoperfsuion and expression of c-Fos-like immunoreactivity induced by SD are mediated via the effects of Ca2+ entry blockade, which may include an increase in cerebral blood flow and the prevention of excessive Ca2+ influx into brain cells.
著者
渋谷 正史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.119-131, 1996 (Released:2007-02-06)
参考文献数
44
被引用文献数
1

Angiogenesis is important not only in normal embryogenesis, tissue organization and its maintenance but also in pathological processes such as ocular disease in diabetes mellitus and rapid growth of tumors in vivo. Recently, endothelial cell-specific growth factor (VEGF) and its receptors (Flt family) has been characterized, and this ligand-tyrosine kinase receptor is considered to be one of the most important systems involved in angiogenesis. VEGF is induced by a variety of normal or tumor cells under conditions such as hypoxia and hypoglycemia and in the presence of substances such as hormones and growth factors. On the other hand, receptors of the Flt family (Flt-1, KDR/Flk-1, Flt-4) are basically strictly expressed only on vascular endothelial cells with a rare exception. Thus, the stimulation of VEGF-Flt towards angiogenesis is through a paracrine mechanism. A direct involvement of Flt-1 and KDR/Flk-1 in vasculogenesis/angiogenesis has recently been demonstrated by gene targetting studies. Blocking of this system might be a useful tool for suppression of solid tumors in vivo.
著者
石原 研治 Hong JangJa Zee OkPyo 大内 和雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.5, pp.265-270, 2005 (Released:2005-07-01)
参考文献数
48
被引用文献数
1

気管支喘息などのアレルギー性疾患では,白血球の1つである好酸球が骨髄,末梢血および炎症部位で増加し,炎症部位に浸潤した好酸球は細胞内顆粒を放出することによって組織を傷害すると考えられてきた.しかし,最近,炎症部位に浸潤した好酸球は,炎症の誘発ではなく気道リモデリングに関与しているのではないかということが示唆され,病態形成における好酸球の役割に対する認識は変化しつつある.本稿では,最近の知見をふまえ,アレルギー性炎症における好酸球増多機構と炎症部位での好酸球の役割について述べる.
著者
佐々木 えりか
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.2, pp.94-99, 2018 (Released:2018-08-10)
参考文献数
29

これまでマウス・ラットというげっ歯類のモデル動物が医学研究に大きく貢献してきた.その有用性は今後も変わることはないが,近年,非ヒト霊長類の遺伝子改変技術が確立し,よりヒトに生理学的・解剖学的に似ている非ヒト霊長類のモデル動物としての有用性が見直されてきている.実際,特に精神・神経疾患の研究分野では,国内外で非ヒト霊長類を用いた前臨床研究が増加している.本稿では,非ヒト霊長類モデル動物の1つである,コモンマーモセットについて概説し,その疾患モデルについて紹介する.
著者
山本 健二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.345-355, 1995 (Released:2007-02-06)
参考文献数
47
被引用文献数
5 4

Progressive periodontal disease is characterized by acute progressive lesions of gingival connective tissues, excessive leukocyte infiltration, and occurrence of a characteristic microflora. A variety of proteolytic enzymes derived from oral bacteria and host cells are found in gingival crevices and thought to play an important role in the onset and development of progressive periodontal disease. The anaerobic bacterium Porphyromonas gingivalis has been implicated in the etiology of the disease. Recently, we have purified a novel arginine-specific cysteine proteinase, termed “argingipain”, from the culture supernatant of the organism. The enzyme was shown to have two important abilities related to the virulence of the organism. One is direct association with periodontal tissue breakdown through its abilities to degrade physiologically important proteins such as human collagens (type I and IV) and to evade inactivation by internal protease inhibitors. The other is associated with disruption of the normal host defense mechanisms through its abilities to degrade immunoglobulins and to inhibit the bactericidal activity of polymorphonuclear leukocytes. The virulence of argingipain was further substantiated by disruption of argingipainencoding genes on the chromosome by use of suicide plasmid systems. On the other hand, we have studied roles of host cell-derived proteinases in the periodontal tissue breakdown. Levels of lysosomal proteinases such as cathepsins B, H, L, G and medullasin were determined in gingival crevicular fluid from periodontitis patients and experimental gingivitis subjects by activity measurement and sensitive immunoassay. The results suggested that all of these enzymes would be involved in the development of both gingivitis and periodontitis.
著者
筑波 隆幸 山本 健二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.15-20, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

カテプシンEは免疫細胞や皮膚などに限局的に存在する細胞内アスパラギン酸プロテアーゼである.我々はカテプシンEの機能を解析するために遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)を作成した.カテプシンE欠損マウスは無菌(Specific pathogen-free, SPF)環境下で飼育しても,全く異常は認められなかったが,コンベンショナル(Conventional)環境下で飼育するとアトピー性皮膚炎様症状を示した.このマウスは病理組織学的にもアトピー性皮膚炎の特徴である表皮肥厚と皮下組織への好酸球,マクロファージ,リンパ球,肥満細胞などの細胞浸潤が認められた.また,血液学的解析でも,高好酸球血症と高IgE血症が見られ,脾臓細胞からのIL-4,IL-5などのTh2サイトカインの産生上昇が観察された.さらに,血清でのIL-1βおよびIL-18濃度の上昇とこれらのサイトカインの生物学的半減期の遅延が認められた.アトピー性皮膚炎患者においても,カテプシンE量が健常者とくらべて有意に減少していることから,ヒトおよびマウスともにカテプシンEの欠損あるいは低下によりアトピー性皮膚炎発症を惹起することが分った.
著者
西中 崇 中本 賀寿夫 徳山 尚吾
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.2, pp.79-83, 2017 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30

幼少期に受ける精神的・身体的なストレスは,成熟期において精神疾患を含む様々な疾患の発症や重症度と強く関連する.この原因として,幼少期ストレスによる内分泌系の調節異常や神経系の機能・構造的変化を介したストレス応答性の変化,すなわちストレス脆弱性が関与することが示唆される.神経障害性疼痛のような慢性疼痛では,痛みの認知や情動に関わる脳神経系の機能変化が認められる.つまり,神経障害などの器質的異常だけでなく,精神的,心理的,社会的な要因が複雑に関与し,慢性疼痛の病態を形成している可能性が考えられる.このような痛みの慢性化に影響する精神的・社会的な要因の一つに幼少期の養育環境が挙げられる.実際に,幼少期の劣悪な養育環境によって,成人期における慢性疼痛の発症リスクが増加することが報告されており,幼少期に受けるストレスは脳内の疼痛制御機構に悪影響を及ぼすことが示唆される.しかしながら,幼少期ストレスと成熟期における慢性疼痛との関係性については明らかにされていない.最近我々は,幼少期ストレスによる慢性疼痛に対する影響を解析するための動物モデルを確立した.幼少期のストレス負荷は,成熟期における神経障害後の痛覚過敏や情動障害の増悪を引き起こす.さらに,幼少期ストレスは疼痛や情動の調節に関わる脳領域において,神経の活性化や可塑的変化の指標となるphosphorylated extracellular signal-regulated kinase(p-ERK)発現を増加させた.これらの知見は,幼少期による脳神経系の機能変化が,慢性疼痛の増悪に関与することを示唆する.本総説では,幼少期ストレスによる成熟期における脳神経系の機能変化と慢性疼痛の関係について紹介する.
著者
沖山 雅彦 河嶋 浩明 福西 左知
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.115-122, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
20

核酸構成成分のプリンヌクレオチドのアナログであるジダノシン(ddI)の活性代謝物ddATPは,E.coliのDNAポリメラーゼの作用を阻害することが知られていたが,1985年にNCIの満屋らにより,ジダノシンおよびddAがヒトT細胞においてヒト免疫不全ウイルスの複製の阻害作用を示すことが報告され,臨床応用への道が開かれた.ジダノシンは細胞内に取り込まれた後,活性代謝物ddATPとなりHIVの逆転写酵素を阻害する.本剤はジドブジンに比較しin vivoおよびin vitroにおける細胞毒性は弱い.本邦のHIV感染症治療ガイドラインで初回治療選択薬として推奨されている本剤は,1992年6月に1日2回投与のヴァイデックス錠およびドライシロップ剤の承認を取得し発売された.その後2001年3月には,1日1回投与のヴァイデックスECカプセル剤の承認を取得し発売したことにより,HIV/AIDS患者におけるヴァイデックスのアドヒアランス向上が期待できるようになった.
著者
谷口 敦夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.6, pp.330-334, 2010-12-01
参考文献数
20
被引用文献数
1

かつて日本では痛風はまれな疾患であった.しかし,現在では日本での痛風の有病率は欧米に匹敵する.高尿酸血症も成人男性の20~30%に達する.このように痛風・高尿酸血症は日常診療で遭遇することの多い疾患であり,充分なコンセンサスの得られた治療ガイドラインが必要である.そこで,2002年に日本痛風・核酸代謝学会は高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインを作成し,標準的な治療法を示した.第2版は2010年1月に発刊され,第1版で示された高尿酸血症・痛風治療の基本を踏襲しつつ,第1版発刊以後の新たなエビデンスが加えられている.高尿酸血症には尿酸塩沈着による合併症と,尿酸塩の沈着が直接関連しない合併症がある.痛風は前者であり,このほかに痛風結節,痛風腎,尿路結石がある.一方,後者には生活習慣病あるいはメタボリックシンドロームがある.痛風では痛風発作と称される激しい関節炎や組織障害をきたす痛風結節が注目されがちである.しかし,痛風はあくまで高尿酸血症の合併症の1つであり,全身的な代謝異常としての認識が必要である.尿酸塩の組織沈着という観点から,高尿酸血症は血清尿酸値7.0 mg/dlを超える場合と定義されているが,第2版では最近の疫学調査の結果も重視し,血清尿酸値7.0 mg/dl以下であっても血清尿酸値が上昇する場合には生活習慣病のリスクが高まることに留意すべきであることが加えられた.一方,高尿酸血症・痛風の治療においては,基礎療法として生活指導が重要である.薬物治療では痛風関節炎(痛風発作)の治療と高尿酸血症の治療を区別する必要がある.高尿酸血症の治療については,痛風あるいは痛風結節の有無・高尿酸血症に伴う合併病態の有無・高尿酸血症の程度を考慮して治療方針を立てていく.このガイドラインが,高尿酸血症・痛風の臨床において有効に活用されることを期待する.
著者
宇治 達哉 橋本 好和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.6, pp.351-358, 2009 (Released:2009-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2

タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシン®静注用2.25,ゾシン®静注用4.5)は,β-ラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタムと広域抗菌スペクトルを有するペニシリン系抗生物質であるピペラシリンを力価比1:8の割合で配合した注射用抗生物質であり,2008年10月より販売されている.本剤は,各種のβ-ラクタマーゼ産生菌を含むグラム陽性菌および緑膿菌などのグラム陰性菌に対して強い抗菌力を有し,タゾバクタムの添加によって薬剤耐性菌の出現頻度が抑制されることが明らかにされている.これまでに国内で実施された敗血症,肺炎,複雑性尿路感染症および小児感染症を対象とした臨床試験においても,優れた細菌学的効果と臨床効果を示すことが証明されている.本剤は,1992年以降,海外において国内の適応症のほか,腹腔内感染症や発熱性好中球減少症などの重症・難治性感染症の標準治療薬として使用されてきた.本剤の用法・用量は,臨床分離菌に対する抗菌力と体内動態に基づくPK-PD解析の結果から設定され,1日最大投与量は18 g(4.5 g 1日4回:重症・難治の市中肺炎および院内肺炎患者)であり,緑膿菌などの重症・難治性感染症の原因菌に対しても有効性が期待できることが明らかにされている.健康成人を対象とした臨床薬理試験では,4.5 g 1日4回の7日間反復投与においてもタゾバクタムおよびピペラシリンの血漿中濃度に蓄積性は認められていない.国内の臨床試験において認められた主な副作用は,肝機能異常と下痢などの胃腸障害であり,本剤の安全性プロファイルは海外と本質的に差がなく,日本人においても安全に投与できるものと考えられた.タゾバクタム・ピペラシリンが使用できることにより,国内においても海外と同様に重症・難治性感染症に対してペニシリン系抗菌剤での治療が可能になり,耐性菌出現抑制にも寄与するものと考えられる.
著者
金子 健彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.3, pp.117-121, 2018

<p>サンバイオ株式会社は現在,再生細胞薬SB623の開発を行っている.このSB623には神経栄養因子や成長因子を分泌する働きがあり,脳の虚血や外傷等による損傷後の神経修復に寄与できると考えられる.SB623の安全性および有効性を評価するため,18例の慢性期脳梗塞患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験を米国にて実施した.移植1年後までの効果を評価したところ,European Stroke Scale,National Institute of Health Stroke Scale,Fugl-Meyer Assessmentのいずれにおいても有意な機能改善が認められた.安全性においても,SB623に起因する副作用や重篤な有害事象は認められなかった.これらの結果から,SB623は慢性期脳梗塞に対し,安全かつ有効であることが示唆された.現在は米国および日本で臨床試験を実施しており,特に日本では再生医療等製品に対する新たな枠組みの中で,いち早く患者様に届けられるよう,臨床開発を加速させている.</p>
著者
津田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.349-353, 2007 (Released:2007-05-14)
参考文献数
62

神経因性疼痛は,神経系の損傷や機能不全による難治性疼痛で,触覚刺激で激烈な痛みを誘発するアロディニア(異痛症とも呼ぶ)が特徴的である.この病的な痛みには,今現在も有効な治療法は確立されていない.近年,痛み情報の受容や伝達に関わる分子が次々と明らかにされてきている.その中の一つがATP受容体である.神経を損傷した神経因性疼痛モデルにおいて出現するアロディニアは,イオンチャネル型ATP受容体(P2X)の拮抗薬およびP2X4受容体アンチセンスオリゴの脊髄内投与で抑制される.脊髄内におけるP2X4受容体の発現は,ミクログリア細胞特異的に著しく増加する.ミクログリアにおけるP2X4受容体の過剰発現には,フィブロネクチンのβ1インテグリンを介したシグナルが関与している.P2X4受容体が刺激されたミクログリアは,脳由来栄養因子BDNFを放出する.BDNFは,脊髄後角ニューロンの陰イオンに対する逆転電位を脱分極側へ移行させ,抑制性伝達物質のGABAにより脱分極が誘発される.従来までは,神経因性疼痛の原因として,痛覚伝導系路における神経細胞での変化のみに注目が集まっていたが,以上のようにP2X4受容体の役割から得られた知見は,脊髄ミクログリアを介在するシグナリングの重要性を示し,新しい神経因性疼痛メカニズムを明らかにした.この新しいメカニズムは,難治性疼痛発症機序の解明と今後の治療薬開発に大きく貢献する可能性がある.
著者
仲田 善啓 井上 敦子 杉田 小与里
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.61-68, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

シグマ(σ)受容体は中枢神経系に存在し,ハロペリドールやコカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうること,精神分裂病患者で受容体数の減少および遺伝子の多型が観察されたことから,精神機能に関与していることが示唆されている.しかしσ受容体の生理的機能については未だ不明な点が多く,思索の域をでない状態であるといえる.σ受容体には2つのサブタイプ(σ1,σ2)が見い出され,σ1受容体はそのcDNAとゲノムが複数の動物種でクローニングされている.σ受容体の中枢神経系での機能を明らかにする目的で,モルモットおよびラットにハロペリドールを慢性投与し,σ受容体結合活性とσ1受容体をコードするmRNAを定量解析した.その結果,ハロペリドールは,σ1,σ2両受容体に同等の親和性を有しているにもかかわらず,慢性投与により,σ1受容体結合量は減少したが,σ2受容体結合量は変化しなかった.この結合量減少作用はモルモットにおいてラットより著しく大きく観察された.また,モルモットとラットにおいてσ1受容体mRNAはハロペリドール慢性投与により影響を受けないことが明らかになった.以上の結果より,σ1とσ2受容体はin vivoにおいて異なった機構により制御されている可能性が考えられた.また,ハロペリドールによるσ1受容体結合量の減少は受容体の遺伝子からの転写活性減少によるものではないことがわかった.さらに,モルモットとラットのσ受容体に対するハロペリドールの作用の相違から,ハロペリドール投与による臨床効果を考える上で代謝産物のσ受容体への影響を考慮すべきであることが示唆された.
著者
臼井 達哉 岡田 宗善 原 幸男 山脇 英之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.2, pp.85-89, 2013 (Released:2013-02-08)
参考文献数
42

Ca2+結合タンパク質であるカルモジュリン(CaM)はCaM依存性(関連)タンパク質の機能調節を介して筋収縮,免疫応答,代謝,神経成長といった様々な細胞機能に影響を与える.最近,CaMおよびCaM依存性プロテインキナーゼ(CaMK)IIが心血管疾患の病態進展に関わるという報告がなされた.高血圧症の病態ではTNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)産生を介して血管の炎症性反応が亢進する.しかしながら,血管炎症の観点からCaM関連タンパク質の高血圧症進展に及ぼす影響はほとんど検討されていない.本総説ではCaM関連タンパク質の中でCaMKs(CaMKI,CaMKII,eukaryotic elongation factor(eEF)2 kinase(CaMKIII),CaMKIV)とCaMKスーパーファミリータンパク質(death associated protein kinase(DAPK)ファミリータンパク質,CaM serine kinase(CASK),checkpoint kinase(Chk))をとりあげ,これらの機能を心疾患における役割と血管炎症を介した高血圧症の病態制御機構に焦点を当て概説する.今後,本総説で紹介したCaM関連タンパク質をターゲットとした薬物の開発がACE阻害薬,カルシウム拮抗薬といった既存の降圧薬では治療が難しい患者に対しても有効な治療戦略になることが期待され,さらなる病態生理的役割の解明が重要になると考えられる.
著者
中川 隆之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.4, pp.184-187, 2013 (Released:2013-04-10)
参考文献数
19

感音難聴に代表される内耳障害は,主な身体障害のひとつであるが,多くは不可逆性であり,根本的治療法の開発が強く望まれている.本稿では,内耳蝸牛の感覚上皮に焦点を当て,障害進行段階に応じた治療法開発の取り組みについて紹介する.音響刺激を神経信号に変換する役割を担う蝸牛感覚上皮の有毛細胞が障害されているが,未だ細胞死に至っていない段階では,インスリン様成長因子1などの薬物局所投与の難聴治療への可能性が呈示され,臨床試験も行われている.有毛細胞が喪失しているが,感覚上皮を構成するもうひとつの細胞である支持細胞が温存されている段階では,ノッチ情報伝達系制御による支持細胞から有毛細胞への分化転換による有毛細胞再生による聴覚再生が研究されている.さらに,障害が進行し,再生のソースが蝸牛内に残されていない段階では,工学的な蝸牛感覚上皮再生ともいえる人工感覚上皮開発が行われている.今後の研究発展により,革新的難聴治療が臨床的に実現することが望まれる.
著者
杉本 幸彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.5, pp.237-242, 2015 (Released:2015-05-10)
参考文献数
31

プロスタグランジン(PG)は,細胞膜リン脂質から産生される最も代表的な脂質メディエーターであり,各PGに特異的な受容体を介して多彩な作用を発揮する.近年,受容体欠損マウスや特異的作動・遮断化合物を用いた解析からそれらの生理的意義が分子レベルで解明されてきた.とくに古くから知られるPGの神経作用,発熱や疼痛に関しては,その分子レベルでの調節機構が明らかとなった.またこうした既知作用のみならず,PGはミクログリアによる神経毒性やドパミン系を介した心理ストレスにも関与することが見いだされ,アルツハイマー病をはじめとする神経炎症の増悪因子として,さらには衝動や抑うつ応答の制御因子として注目されている.さらに最近,PG産生基質であるアラキドン酸の新たな供給経路が発見され,その責任酵素が種々の神経疾患の治療標的として脚光を浴びている.本稿では,PGによる神経機能の調節とその作用メカニズムに関する最近の知見を概説するとともに,創薬標的としての方向性を考察したい.
著者
柿元 周一郎 小澤 徹 五十嵐 澄 得能 朝成 加来 聖司 関 信男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.85-92, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
49

ガバペンチン エナカルビル(レグナイト®錠)は,新規レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome: RLS)治療薬として開発されたガバペンチンのプロドラッグである.本剤は,ガバペンチンと異なる経路で消化管より吸収され,生体内で速やかにガバペンチンに変換されるため,ガバペンチンで問題となる投与量の増加に伴うバイオアベイラベリティの低下がなく,経口投与時の血中濃度の個体差が小さくなるようにデザインされている.一方,RLSの発症メカニズムは十分に解明されていないが,その症状はむずむずとした脚の不快感や痛みといった異常感覚を伴っており,RLS患者では脊髄後角に入力する感覚神経線維からのシグナル伝達の亢進あるいは異常が起こっていることが示唆されている.このことから,本薬の活性本体であるガバペンチンは,脊髄後角において感覚神経終末に発現する電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し,興奮性シナプス伝達を抑制することで,RLSの症状に対する治療効果を発揮すると考えられる.実際に,国内外の臨床試験において,本剤はガバペンチンに比べ優れた薬物動態特性を示し,また中等度から高度の特発性RLS患者の症状に対して優れた改善効果を示した.一方,副作用およびその発現率は,市販されているガバペンチン製剤で認められているものとほとんど変わらず,本剤の忍容性が確認された.以上より,カバペンチン エナカルビルはRLSの薬物治療において新たな選択肢になると期待される.