著者
有吉 範高
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.181-186, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
23

ヒューマンゲノムプロジェクトの成果が今後の医療を大きく変革させると言われている.とりわけ医薬品に関わる業界へのインパクトは大きく,創薬のプロセスから臨床現場における薬剤の使い方に至るまで薬物に関わるおおよそ全ての過程が変貌するであろうと予想されている.文部科学省科学技術政策研究所·科学技術動向研究センターの技術予測調査によれば,2012年には個人個人の遺伝子の構造,一塩基多型(SNPs)等を含む全塩基配列が即座に安価で決定できるようになり,診断やオーダーメード治療に普及する,そうである.しかしながら薬物療法の現場において治療前にどのような遺伝子診断を行い,患者一人一人に最適な与薬を行うかという問題を,概念的にではなく現実問題として捉えた場合,技術の発展による診断法の進歩と低コスト化だけではおおよそ不充分である.インフォームドコンセントの在り方等倫理的な問題を含めた遺伝子診断体制の整備も無論急務ではあるが,もっとも重要と考えられることは臨床における充分なevidenceの蓄積である.すなわち与薬前に判定を行う遺伝子多型は,診断や薬物療法における有用性が確立されたものであり,真に患者のメリットになるものでなければならないのはもちろんのこと,遺伝子型にプラスして表現型に影響を及ぼす患者の年齢,病態,併用薬等を加味した上での投与設計がなされて始めて個人個人に最適化された薬物療法が達成できる.本稿では,遺伝因子が薬物療法において重要であるとの認識の出発点から,薬理遺伝学という学問領域の開花·発展の歴史を振返り,現状における問題点を通じて10年後(2012年)という近い将来の薬物療法への臨床薬理遺伝学の応用について展望してみたい.
著者
三澤 日出巳 森﨑 祐太
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.2, pp.64-69, 2018 (Released:2018-08-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,大脳皮質運動野の上位運動ニューロンおよび脳幹と脊髄の下位運動ニューロンが選択的かつ系統的に障害される進行性の神経変性疾患である.ALSで障害されるα運動ニューロンは,構成する運動単位からFF(fast-twitch fatigable),FR(fast-twitch fatigue-resistant),S(slow-twitch)と3つのサブタイプに分類され,FF,FR,S型α運動ニューロンの順番で変性が生じる.近年,マトリクスメタロプロテアーゼ9(MMP9)がFF型α運動ニューロンに発現し,変性誘導に関与することが報告された.我々は,細胞外マトリクス(ECM)タンパク質であるオステオポンチン(OPN)が,MMP9とは異なるFR及びS型α運動ニューロンに発現することを発見し,OPNがALSの運動ニューロン変性に与える影響について検討した.ALSモデルマウス(SOD1G93Aマウス)脊髄中のOPNの局在を検討したところ,OPNは病態進行に伴い細胞外に放出され,ECMで粒子状構造物として観察された.またALS発症期の前後において,野生型マウスでは殆ど認められないOPN/MMP9共陽性の運動ニューロンが認められた.この共陽性の運動ニューロンは,FF型α運動ニューロンの変性(変性第1波)の後に代償的にリモデリングしたFR/S型α運動ニューロンであることを発見し,小胞体ストレスマーカーやOPN受容体であるαvβ3インテグリンの発現が認められたことから,ALS病態進行における運動ニューロン変性第2波の機序に,OPNによるインテグリンを介したMMP9活性化の関与が示唆された.またOPN欠損SOD1G93Aマウスは発症の遅延及び寿命の短縮を示し,OPNはALSの病態進行に対して2面性の性質を持つ可能性が示唆された.すなわち,OPNはALSの発症を規定する運動ニューロンに対しては障害的に,ALSの進行を規定するグリア細胞には保護的に作用する可能性が考えられた.以上より,我々はALSの第2波の運動ニューロン変性の機序としてOPN-インテグリン-MMP9系を新たに見出した.
著者
千本松 孝明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.4, pp.258-261, 2007 (Released:2007-04-13)
参考文献数
28
被引用文献数
1

レニン-アンジオテンシンシステム(RAS)は心血管系の機能調節並びに疾患形成に関わる重要な因子であり,循環器領域に関わる臨床医,研究員にとって最も関心深いシステムの一つである.アンジオテンシンII(Ang II)による成長促進,血圧上昇,肥大と言った作用は主に1型受容体(AT1)を介していると考えられている.一方,2型受容体(AT2)の作用はホスファターゼの活性などAT1受容体の作用に対して拮抗するものと考えられているが,その細胞内情報伝達機構は未だ不明な点が多い.RASを抑制する薬剤としてAngiotensin Converting Enzyme Inhibitor(ACEI)とAngiotensin II Type1 Receptor Blocker(ARB)がある.両薬の循環器疾患に対する有効性は数々の臨床大規模試験で証明されているが,その相違は未だはっきりしていない.この両薬はAT1受容体を介するAng IIの作用を抑制するが,ARBでは血中Ang II濃度が上昇しそれがAT2受容体を刺激する.一方ACEIはAng II産生そのものを抑制するためAT2受容体を抑制することになる.AT2受容体の機能がAT1受容体に拮抗するものであれば,理論的にはARBはACEIよりも有効性が高いはずなのだが,ARBの優位性を求めた臨床大規模試験ではその優位性を完全に立証することが出来ていない状態である.我々はAT2受容体遺伝子欠損マウスを用いて,腹部大動脈縮窄による慢性圧負荷およびAng IIの長期投与を施行したところ,AT2受容体遺伝子欠損マウスは心肥大を示さなかった.さらに心臓においてAT2受容体はpromyelocytic leukemia zinc finger protein(PLZF)を介して成長促進に作用していることを発見した.PLZFは74 kDのトランスクリプションファクターで組織選択的発現性が高く,心臓,肝,腸管では発現を認めるが,少なくとも正常な血管,腎では発現を認めない.AT2受容体はPLZF存在下では成長促進を示すが,非存在下ではホスファターゼの活性など成長抑制を示した.AT2受容体の新しい作用を示したこれらの結果はACEIとARBの使い分けのヒントを提示する可能性がある.
著者
近藤 宣昭
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.2, pp.97-102, 2006 (Released:2006-04-01)
参考文献数
33

哺乳類の冬眠動物が冬眠時期に数℃という極度の低体温を生き抜くことは良く知られている.さらに,細菌や発ガン物質などにも抵抗性を持ち,脳や心臓では低温や低酸素,低グルコースにも耐性を示すとの興味深い報告もなされている.このことから,冬眠現象には種々の有害要因や因子から生体を保護する機構が関与しているとの指摘がなされ,最近,生物医学分野での関心が高まりつつある.特に,冬眠発現に関わる体内因子には古くから強い関心が寄せられ探索されてきたが成功せず,近年その存在も疑問視されてきた.これには,冬眠が複雑な生体機能の統合による現象であることや,その発現が1年の長い周期性を持つこと,体温低下により生体反応が著しく抑制されることなど,実験の障害となる深刻な問題が関わっていた.その様な状況下で,我々は1980年代初期に始めた心臓研究を切っ掛けに,冬眠にカップルする新たな因子をシマリスの血中から発見した.冬眠特異的タンパク質(HP)と命名した複合体は,冬眠時期を決定する年周リズムにより制御され,血中から脳内へと輸送されて冬眠制御に深く関わることが明らかになってきた.ここでは,冬眠研究の現状や問題点を含めて,我々が見出したHP複合体が初めての冬眠ホルモンとして同定されるまでの経緯を概説し,医薬分野での新たな応用を秘めた冬眠現象について述べる.
著者
泰地 和子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.171-179, 2004 (Released:2004-08-27)
参考文献数
31
被引用文献数
9 7

塩酸デクスメデトミジン(プレセデックス)は,強力かつ選択性の高い中枢性α2アドレナリン受容体作動薬である.α2アドレナリン受容体作動薬は,鎮静および鎮痛作用,抗不安作用,ストレスによる交感神経系亢進を緩和することによる血行動態の安定化作用等,広範な薬理作用を示す.本薬はラット大脳皮質における受容体親和性試験において,α2アドレナリン受容体に対して高い親和性と選択性を示し,α2受容体への親和性はα1受容体への親和性よりも約1300倍高かった.鎮静作用については,各種動物モデルで,用量依存的な自発運動量の低下,正向反射の消失,鎮静スコアの増加がみられた.鎮痛作用についても,各種動物モデルで,用量依存的な痛みからの逃避潜時延長作用がみられた.本薬の鎮静作用に関する作用部位は青斑核であると考えられ,本薬を青斑核内投与することにより,ほぼ全例で正向反射の消失が認められた.また,α2A受容体変異マウスにおける成績より,本薬の鎮静作用はα2A受容体サブタイプを介して発現することが示唆された.本薬は,ほとんどが肝代謝を受け,血中から速やかに消失する.日本において実施された第II/III相多施設共同プラセボ対照二重盲検ブリッジング試験では,胸部·上腹部の手術後,集中治療室に収容された患者を対象とし,有効性および安全性を検討した.鎮静作用については,挿管中に治療用量のプロポフォール(>50 mg)の追加投与を必要としなかった症例の割合を有効率として算出し,本薬投与群で有意に高かった(本薬群:90.9%,プラセボ群:44.6%).鎮痛作用については,挿管中にモルヒネの追加投与を必要としなかった症例の割合を有効率として算出し,本薬投与群で有意に高かった(本薬群:87.3%,プラセボ群:75.0%).有害事象については,本薬群で高血圧および低血圧が主なものであった.
著者
徳冨 芳子 鳥橋 茂子 徳冨 直史 西 勝英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.4, pp.227-234, 2002 (Released:2003-01-21)
参考文献数
42
被引用文献数
2 3

消化管律動性収縮の起源として,神経と平滑筋細胞の間に介在するCajal間質細胞(ICC)が関与することが,従来から指摘されていた.我々は,レセプター型チロシンキナーゼをコードするc-kit遺伝子の機能を調べる過程で,c-kit 遺伝子座(W )ミュータントマウスおよびc-Kit中和抗体投与BALB/cマウスの消化管におけるc-kit 発現細胞の著しい減少と自動運動能の低下を見い出した.また,ICCがc-kit 遺伝子を発現していること,そしてICCのネットワーク構造の発達と維持にc-Kitタンパクが重要な役割を果たしていることも明らかにした.このc-KitをICCの特異的なマーカーとして用いることにより,ICCが,律動的な電気的slow waveの発生源(ペースメーカー細胞)として,また,神経から平滑筋細胞へのシグナル伝達のメディエーターとして機能していることが分かってきた.ICCは間葉系細胞に由来し,前駆細胞からの分化もc-Kitに依存することが示されている.ICCは分布する組織層によって分類され,それぞれのサブタイプで平滑筋細胞,或いは線維芽細胞様の微細構造を呈している.c-Kitタンパク(レセプター)のリガンドであるSl 因子は,消化管において神経細胞と平滑筋細胞に発現しており,Sl 遺伝子座ミュータントマウスや,W 或いはSl 遺伝子座にlacZ を導入したトランスジェニックマウスなどを用いた解析からも,c-Kit/Sl 因子がICCの分化·増殖に関与すること,即ち消化管律動性収縮の“key molecule”であることが示唆されている.本稿では,これらの知見に加えて,c-Kit/Sl 因子の関与が示唆されている消化管運動性疾患の病態生理学についても紹介する.
著者
永田 清
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.3, pp.146-148, 2009 (Released:2009-09-14)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

チトクロムP-450(P450)が発見され半世紀が過ぎようとしているが,その間にP450の単離精製,それに続くcDNAの単離および遺伝子配列の解明は,薬物代謝の研究に大きな進歩をもたらした.その大きな成果の一つとして,薬物代謝が関わる薬物相互作用の分子機構の解明が挙げられる.その結果,酵素活性阻害や酵素誘導の予測が可能となってきた.また,各個人に適した薬物投与設計,即ちPersonal Medicineが近年注目を浴びており,その実現を目指して個人間の異なる薬理効果あるいは副作用・毒性発現の原因をP450遺伝子配列の違いによって説明する試みが行われている.一方で薬物代謝酵素活性の個人間変動は,これら酵素の遺伝子多型ではすべて説明できないことも判明してきた.さらに,P450は化学物質の酸化反応の過程で活性代謝産物を生じやすく,それが原因で毒性を引き起こすことがあるため問題となっている.
著者
檜杖 昌則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.6, pp.349-358, 2010 (Released:2010-12-06)
参考文献数
25

マラビロクは,HIV(human immunodeficiency virus)が宿主細胞に侵入する際に補受容体として利用するCCケモカイン受容体5(CCR5)に対して選択的に作用するCCR5阻害薬である.既存の抗HIV薬とは異なり,細胞膜上のCCR5に結合してHIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120とCCR5との結合を遮断することによりCCR5指向性HIV-1の細胞内への侵入を阻害するという新規作用機序で,抗ウイルス作用を発揮する.CCR5指向性実験室HIV-1株および臨床分離株を用いた抗ウイルス作用の検討では,マラビロクはすべてのクレードのCCR5指向性HIV-1に対してほぼ同等の抗ウイルス作用を示した.一方,CXCR4指向性および二重指向性HIV-1に対しては作用を示さなかった.また,逆転写酵素阻害薬耐性またはプロテアーゼ阻害薬耐性ウイルスに対しても野生型と同等の抗ウイルス作用を示した.In vitroでの検討で耐性ウイルスの出現が確認されたが,これらはCCR5指向性を維持しており,指向性変化は認められなかった.他の抗HIV薬による治療歴がある最適背景療法(OBT)実施中のCCR5指向性HIV-1感染患者を対象に行われた主軸となる2つの臨床試験では,ベースライン値から投与48週目までのHIV RNA量の減少量は,OBT単独群(プラセボ)に対し,マラビロク300 mg 1日1回または2回投与群で有意に減少幅が大きく,また,CD4リンパ球の増加量においてもプラセボ群より有意に高い結果が得られ,OBTにマラビロクを上乗せすることでOBT単独よりも優れたウイルス学的,免疫学的効果が得られることが示された.マラビロクは,新しい作用機序を有する抗HIV薬であり既存の薬剤に耐性のHIV感染症にも有効であることが示唆され,HIV感染の薬物治療の新たな選択肢として重要な役割を果たすことが期待される.
著者
岩木 和夫 林 譲
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.4, pp.207-211, 2009 (Released:2009-10-14)
参考文献数
5
被引用文献数
2

検出限界は,ある物質を検出できる最少量であり,ノイズとシグナルの境界とも言える.科学としての学問的興味から,分析化学の分野では数十年前から熱心な研究が行われている.一方,ある物質が存在するか否かは,クリティカルな国際問題とも成りえることから,国際ルールである分析法バリデーションにおけるパラメータとして採用されている.たとえば,ISO,IUPACなどで検出限界が取り上げられている.しかし,検出限界の概念を統計学的に与えてある解説は多いが,実際に求める方法を提示してある文献は少ない.現実には,分析者は,自分の分析法の検出限界を自分の責任で推定し,提出または公表しなければならない.しかし,求めた検出限界の信頼性が最も重要な問題である.数少ない繰り返し測定から求めた検出限界は,求めるごとに数倍異なることもある.少ない実験からの検出限界はばらつくことを知りながら,その偶然の値を採用し,危険な物質の検出限界を大きく推定することや,発見したい目的物質の検出限界を小さく見積もるのは反則である.本稿では,ISO11843 Part5の方法を解説する.この方法は,統計的に信頼できる検出限界を与えるので,国際的に通用するデータの信頼性を保証できる.分析法としては,競合法ELISAと非競合法ELISAを例に挙げる.
著者
竹田 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.93, pp.2-ES-1, 2020

<p>In December 2019 a pneumonia outbreak by the novel coronavirus, SARS-CoV-2, occurred in Wuhan City, China. The disease was named as COVID-19. Information on the SARS-CoV-2 genomic sequence was first released on 10 January 2020. We urgently started development of genetic diagnostic methods for SARS-CoV-2. On 14 January, soon after receiving the prototype designed primers, we have received the first clinical specimens suspected for COVID-19. We urgently started assessment of the primers and the laboratory diagnosis testing for SARS-CoV-2 in a parallel way. After the nightlong assessment/testing, the first COVID19 case in Japan was confirmed. The patient was a returnee from Wuhan. Until 22 January, we have established the nested RT-PCR diagnostic method/protocol for SARS-CoV-2, and urgently distributed the primer set/protocol to ~ 80 prefectural public health laboratories (PHLs) nationwide, because the Chun Jie holidays starts in China on 24 January and many Chinese tourists visit Japan. As we concerned, sporadic COVID-19 cases with an epidemiological linkage to Wuhan have detected in Tokyo, Aichi, Nara, Hokkaido, and Osaka prefectures after 24 January. Following the nested RT-PCR method, we have established the real-time RT-PCR diagnostic methods for SARS-CoV-2, and distributed the primer/probe set to ~ 80 PHLs on 30–31 January. However, the laboratory workload increased dramatically, because Japan has started to accept 829 returnees (15 were shown to be SARS-CoV-2-positive later) from Wuhan using government chartered flights on 29 January and screen ~3,500 passengers and crew (&gt;600 were shown to be SARS-CoV-2-positive later) on a cruise ship quarantined in Yokohama for SARS-CoV-2. About one month and a half has passed, a significant number of COVID-19 cases via unknown infection route are currently detected in many prefectures in Japan (total 239 cases, as of 2 March 2020).</p>
著者
北岡 志保
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.93, pp.3-YAL-1, 2020

<p>既存の抗うつ薬の多くはモノアミンなどの神経伝達物質の作用を調節するが、一部の患者で十分な効果が得られないため、新たな創薬標的の開発が期待されている。近年、うつ病などの精神疾患患者の血中で炎症関連物質が高値を示すことから、炎症仮説が注目されるようになった。しかし、うつ病発症と炎症との因果関係は不明であった。社会や環境から受けるストレスは精神疾患のリスク因子であることから、動物に繰り返しストレスを与える反復社会挫折ストレスがうつ病の動物モデルとして使用されている。反復ストレスは情動変容を誘導し、同時に特定の脳領域のミクログリアを活性化することを見出した。この研究に端を発し、反復ストレスによる情動変容の誘導における脳内炎症の関与とその分子実体を明らかにした。また、脳内炎症の関与がすでに知られている神経変性疾患で、炎症を標的とした創薬基盤を開発した。本講演では、精神・神経疾患の病態形成に関与する脳内炎症について最新の知見を紹介したい。</p>
著者
西条 寿夫 堀 悦郎 田積 徹 小野 武年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.68-70, 2005 (Released:2005-04-05)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

扁桃体は,自己の生存にとってそれぞれ有益および有害な刺激に対する快および不快情動の発現(生物学的価値評価)に関与する.一方,ヒトの扁桃体損傷例や自閉症患者の研究から,扁桃体は,これら情動発現だけでなく,表情認知など人間生活に必須な社会的認知機能(相手の情動や意図を理解する精神機能)に中心的な役割を果たしていることが示唆されている.さらに,われわれの神経生理学的研究によると,サル扁桃体には,価値評価に関与するニューロンおよび相手の表情に識別的に応答するニューロンが存在する.以上から,生物学的価値評価と社会的認知の2つのシステムが扁桃体に存在し,2つのシステムが並列的に機能している仮説的神経回路を提唱した.
著者
渡邉 雅一 児玉 寛 長谷川 浩二 伊藤 佳子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.221-231, 2007 (Released:2007-09-14)
参考文献数
22

パタノール®点眼液0.1%は,塩酸オロパタジンを有効成分として,抗アレルギー作用と抗ヒスタミン作用を併せ持つアレルギー性結膜炎治療剤である.本剤は結膜肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離抑制作用と,選択的かつ強力なヒスタミンH1受容体拮抗作用により痒感,充血などのアレルギー性結膜炎症状を改善させると考えられている.非臨床試験において眼の即時型アレルギーに対する抑制作用,ヒスタミン誘発血管透過性亢進に対する抑制作用,各種化学伝達物質の遊離抑制作用および選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用を示した.第III相臨床試験では,対照薬のフマル酸ケトチフェン点眼液に劣らない有効性を示し,安全性において副作用発現率は有意に低かった.長期投与試験では10週間の連続点眼を行ったが副作用は認められず,結膜抗原誘発試験では本剤のアレルギー性結膜炎に対する有効性と効果の持続時間が確認された.本剤は,抗アレルギー作用と抗ヒスタミン作用という2つの作用によりアレルギー性結膜炎症状の改善をもたらし,高い安全性を有することが示された.
著者
野中 崇司 勝浦 保宏 杉山 浩通 宮城 文敬
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.132, no.4, pp.237-243, 2008-10-01
参考文献数
36
被引用文献数
1

オルベスコ<sub>&reg;</sub>インヘラーは新規のプロドラッグ型ステロイドであるシクレソニドを主薬とする定量噴霧式エアゾール剤(pMDI)であり,本邦では初めての1日1回の用法による成人の吸入ステロイドとして承認された.本稿ではシクレソニドの非臨床成績および臨床成績について概説する.シクレソニドは肺に吸入された後,組織のエステラーゼによって活性代謝物である脱イソブチリル体(desisobutyryl-ciclesonide:des-CIC)へと変換される.des-CICは強力かつ特異的にグルココルチコイド受容体に結合し,既存薬に匹敵する抗炎症作用を有することがin vitroおよびin vivoの非臨床薬理試験で示されている.さらにシクレソニドの作用は持続的であることが肺細胞を用いた検討で示されており,そのメカニズムとして細胞内滞留性を有する脂肪酸抱合体の形成による可逆的な代謝経路の関与が示唆された.オルベスコ<sub>&reg;</sub>インヘラーは完全溶解型の製剤であるために,デバイスから噴射されるエアロゾルは1&mu;m程度の微細粒子の割合が高く,末梢気道まで効率よく到達する.そのため,本剤の効果は末梢気道にまで及ぶと考えられる.その一方で,薬剤の口腔沈着率が低いことからカンジダ症や嗄声などの局所副作用の低減が期待される.また,シクレソニドはdes-CICとしての消化管からの生物学的利用率が低いこと,全身循環に移行した場合においてもタンパク結合率が高いために遊離型薬物濃度が低いこと,さらに肝臓で速やかに代謝不活性化されることなどの特性により,全身性副作用の軽減も期待できる薬剤である.これらの特性に基づいて国内外で臨床試験を実施した結果,1日1回の用法で喘息患者の呼吸機能,症状,QOLが改善されること,および長期の安全性に問題がないことが確認された.現在,吸入ステロイドは国内外で喘息の薬物治療の第一選択薬とされているが,本邦ではその普及率は未だに低いのが現状である.オルベスコ<sub>&reg;</sub>インヘラーが新たな吸入ステロイド薬の治療選択肢を提供し,吸入ステロイド治療の定着と喘息患者のQOL向上に寄与することを期待する.<br>
著者
山元 ひかり 入鹿山 容子 石川 有紀子 滑川 由紀子 根本 剛 田中 大夢 高橋 元樹 柳沢 正史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第93回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.1-SS-05, 2020 (Released:2020-03-18)

Loss of orexin-producing neurons in the lateral hypothalamus causes the chronic sleep disorder narcolepsy-cataplexy. Narcoleptic humans suffer from two major symptoms, excessive sleepiness and cataplexy in the active phase, and these symptoms in mouse models are manifested as sleep/wakefulness fragmentation and SOREMs (direct transitions from wakefulness to REM sleep), respectively. The neuropeptides orexin-A (OXA) and orexin-B (OXB) act on two receptors orexin type-1 receptor (OX1R) and orexin type-2 receptor (OX2R). Orexin receptor agonists are expected to be of potential value for treating human narcolepsy. Here, to confirm the fundamental strategy aimed at improving narcoleptic symptoms, we examined the association between orexin receptor subtypes and these symptoms by intracerebroventricular (ICV) administration of the OX2R-selective agonist [Ala11, D-Leu15]-OXB in orexin knockout mice. OXA and [Ala11, D-Leu15]-OXB similarly decreased the number of SOREMs. Further, transition frequencies between NREM sleep and wake states in narcoleptic model mice were similarly decreased. We confirmed in vivo that [Ala11, D-Leu15]-OXB did not activate OX1R-expressing LC noradrenergic neurons by Fos staining. Therefore, OX2R-selective agonism is sufficient to ameliorate narcoleptic symptoms, both cataplexy and fragmentation of wakefulness in model mice. Activation of LC noradrenaline neurons expressing OX1R are not essential for suppression of these symptoms.
著者
岡本 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.2, pp.92-97, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
21

現在,吸入療法には,気管支喘息もしくは慢性閉塞性肺疾患などを対象とした局所作用薬が用いられている.吸入剤には,吸入液剤,吸入エアゾール剤,吸入粉末剤がある.吸入液剤はネブライザを用いて生じる微細な液滴を吸入するので,乳幼児から高齢者まで使用できるが液の無駄が多い.吸入エアゾール剤は1950年代から広く使われてきたが,環境問題がある.吸入粉末剤は環境にやさしく吸入の失敗が少ないが,高度な粒子設計と使いやすい吸入デバイスの開発が必要である.肺は全身作用薬の吸収部位としての利点を多く備えており,消化管吸収が困難なペプチド性医薬の吸入剤化研究が進められている.しかし,2006年に米国と欧州で承認されたインスリン吸入粉末剤は,売り上げが伸びず翌年には製造中止となった.2014年に米国で承認された新しい粉末剤も売り上げが伸び悩んでいる.今後肺局所疾患を対象とした抗体医薬や核酸医薬の開発が期待される.
著者
恒枝 宏史 前田 貴大 髙田 慎治郎 大塚 小由希 今 寛太 和田 努 笹岡 利安
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第93回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.2-O-050, 2020 (Released:2020-03-18)

Non-alcoholic steatohepatitis (NASH) is a severe form of fatty liver disease induced by obesity. So far, no therapeutic drug is available against NASH, because the pathogenic mechanism remains unclear. Since hypothalamic orexin system is a main regulator of energy homeostasis, we investigated the role of orexin against NASH under obese conditions, using orexin knockout (ORX-KO) mice fed high fat diet (HFD). ORX-KO mice showed severer obesity and glucose intolerance on HFD, compared to wild-type controls. Also, remarkable NASH-like phenotypes were observed in the liver of ORX-KO mice, such as the accumulation of triglyceride and the increase in the levels of biomarkers for endoplasmic reticulum (ER) stress (phosphorylation of eIF2α, etc.), chronic inflammation (Tnfα mRNA, etc.), and hepatic fibrosis (Tgfβ mRNA, etc.). When the HFD-fed ORX-KO mice were treated with orexin A (i.c.v.), the hepatic ER stress and chronic inflammation were improved, whereas body weight was not altered. These results indicate that the central action of orexin is required to prevent the development of NASH by reducing ER stress and chronic inflammation in the liver under the obese condition. Hypothalamic orexin system may be a crucial therapeutic target to promote the brain-liver network functions for preventing the progression of NASH.
著者
川ばた 和一十 萩尾 哲也 松岡 昌三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.151-160, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
25
被引用文献数
5 8

急性肺障害がもたらされる原因の一つとして,肺の炎症局所ではプロテアーゼに対する高分子内因性阻害物質の活性が種々の要因により減弱するため,好中球エラスターゼが肺組織を破壊する可能性が考えられている.急性呼吸促迫症候群を含む急性肺障害患者では,肺胞洗浄液中や血液中の好中球エラスターゼが増加することが知られている.また,急性肺障害惹起後の動物では好中球の活性化に伴い,血漿中や肺胞洗浄液中で好中球エラスターゼ活性が顕著に上昇している.シベレスタットナトリウム(商品名:注射用エラスポール100,以下シベレスタット)は好中球エラスターゼに特異的な合成低分子阻害薬である.シベレスタットはこれらの動物モデルにおいて,上昇した好中球エラスターゼ活性を阻害すると同時に,肺の炎症性·浮腫性変化や呼吸不全死を抑制した.さらに,臨床試験ではシベレスタットが全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害を改善することが明らかにされている.シベレスタットは,体内に存在する高分子内因性阻害物質と異なり,肺炎症局所で活性が減弱せず,好中球エラスターゼがもたらす急性肺障害の特徴的な病態を効果的に改善するものと考えられる.今後,臨床現場において,本剤の急性肺障害に対する有用性がさらに明らかにされることが期待される.