著者
荒 武
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.495-503, 2021-10-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
14

生体内に存在する低分子有機化合物全体を表すメタボローム情報の代謝成分研究への活用は,ゲノム情報の遺伝子研究への活用に比べて遅れている.さまざまな生物種におけるメタボローム情報の蓄積および整理が不十分なことが理由の一つではあるが,新規有用成分や未知代謝制御の解明のためには,メタボローム情報の活用が重要である.そのためには,関連するさまざまなデータベースや解析ツールを使いこなす必要がある.これらのデータベースを使うと何ができるのか,具体的な利用方法と利用時の注意点を紹介する.今後の課題や,将来の学術および産業界への応用の展望も述べる.
著者
赤星 亮一 大熊 広一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.357-365, 1984 (Released:2008-11-21)
参考文献数
21
被引用文献数
9 9

(1) 34°Cにおける水,エタノール,エタノール水溶液および蒸留酒のNMRスペクトルの化学シフトについて測定を行った.純エタノールは4.075ppm,純水は3.528ppmであり,エタノール水溶液および熟成蒸留酒のOH基プロトンのNMRスペクトルは,いずれも水の化学シフト位置の近傍に出現する.これは,エタノール水溶液や蒸留酒は,その水素結合の状態がきわめて水に類似した液体構造を持つものと考え,られる. (2)エタノール水溶液や蒸留酒中に微量の酸が存在すると, OH基プロトンのNMRスペクトルは,酸を含まないものに比べて約0.01~0.05ppm低磁場にシフトする. 0.01~0.18%の濃度範囲では酢酸の濃度が変っても,シフトの位置は変らず固定されている. (3)熟成蒸留酒には必ず微量の酸が存在するので,貯蔵年数の異なる試料のNMRスペクトルは,酸の存在によって決まる一定のシフト位置に出現し,熟成に伴う差異をみることができなかった. (4)蒸留酒のOH基プロトンスペクトルの半値幅は貯蔵年数とともに増大し, 10年当り約0.5 Hz増大する.半値幅の増大はプロトン交換速度の減少および単量体の減少を示すもので,熟成に伴う誘電率や気相エタノール濃度減少の事実とよい一致を示している.これは,長い年月貯蔵熟成された蒸留酒中ではエタノール分子が強く束縛されていることを示すもので,その香味円熟と深く関連している. (5)蒸留酒中に存在する酸,エステル,アルデヒド,フーゼル油,樽材浸出物等の微量成分がOH基プロトンのNMRスペクトルの半値幅に与える影響について検討を行った.エステル,アルデヒド,フーゼル油の場合,存在する濃度範囲においては,ほとんど影響がなく無視することができる.酸が存在すると水素交換のためNMRスペクトルはシャープとなり半値幅を著しく減少させる.樽材浸出物は若干半値幅を増大させるが,熟成に伴う半値幅の増大に比べればわずかである.
著者
稲葉 靖子 大坪 雅
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.426-434, 2021-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
35

アロイド(Aroid)はサトイモ科,サイカド(Cycad)はソテツのことであり,被子植物のサトイモ科と裸子植物のソテツは,発熱植物の中で2大勢力を誇っている.サトイモ科植物は,発熱能力の高い種を多く含み,古くから発熱植物研究の主役であった.一方,ソテツは,発熱と昆虫との関係性が深く,発熱の基本メカニズムを知るうえでも近年注目されている.一般的に,花の温度を外気温に対して0.5°C以上上昇させる能力をもつ植物のことを『発熱植物』と呼び,花の発熱には植物の生殖機構に絡む重要な役割がある.本稿では,この2つの植物グループに焦点を当て,発熱植物の「いろは」から,花の発熱原理・生理的意義に至るまでを概説する.
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.132-138, 1990-02-25 (Released:2009-05-25)
被引用文献数
6 2
著者
小菅 貞良 稲垣 幸男
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.251-254, 1962 (Released:2008-11-21)
参考文献数
9
被引用文献数
5 7

とうがらし果実のカプサイシン及びジハイドロカプサイシンの両辛味成分をペーパークロマトグラフィーにより分別し,抽出後定量してほぼ満足すべき結果を得た. 本分別定量法によりカプサイシノイド結晶及び各種とうがらし果実について, 2辛味成分を定量して両辛味成分の含量比すなわちハイドロカプサイシン含量/カプサイシン含量を求めた.その結果本含量比はカプサイシノイド結晶中において単離した時期を異にしてもほぼ一定であり,また収穫年度,開花期,熟度,肥料及び施肥量にかかわりなくほぼ一定であって,おおむね0.40~0.55であった.
著者
横川 智之 髙橋 英眞 奈須 一颯 宮崎 稜也
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.477-481, 2021-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
7

本研究はシロアリを利用した間伐材の資源化と飼料化を図ることを目的として行った.個体数と産卵数の関係を調べ,養殖に最も適切な個体数を明らかにした.また,シロアリ配合飼料を用いて魚を養殖したところ,配合割合を10%とした場合に最も体長が増加した.これは,現在配合飼料として用いられている魚粉と代替可能であることを示唆していた.また,シロアリの脂質成分は,落花生油に近いことも判明した.
著者
児玉 豊
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.21-28, 2018-12-20 (Released:2019-12-20)
参考文献数
20

生物はどうやって温度を感じるのか? 非常にシンプルな問いであるが,わからないことが多い.これまで,さまざまな生物で温度センサー分子が報告されているが,植物では一つも見つかっていなかった.筆者らは,植物細胞で起こる温度依存性の葉緑体配置変化について研究し,最近,青色光受容体フォトトロピンが温度センサー分子であることを発見した.また,この発見を基盤にして,生物の温度感知に関する新しい説を提唱している.本稿では,青色光受容体フォトトロピンによる温度感知のメカニズムを解説するだけでなく,これの解明にたどりつくまでの10年間について記録したいと思う.