著者
仁田 亮
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.85-91, 2018-08-30 (Released:2019-08-01)
参考文献数
22

キネシンスーパーファミリータンパク質は,微小管上を一方向性に動く分子モーターである.その機能は,細胞内物質輸送に留まらず,染色体分裂の牽引,左右軸の決定,シグナル伝達の制御,線毛の長さの調節など多岐に渡っている.私はこれまで,X線結晶構造解析法やクライオ電子顕微鏡構造解析法を用いて,キネシンの多彩な機能を支える分子構造基盤を明らかにして来た.本解説では,微小管のプラス端方向へ順行性に動くKinesin-3,逆行性に動くKinesin-14,微小管を脱重合するKinesin-13,そして順行性に動き,かつ微小管を脱重合するKinesin-8の4種類の機能の異なるキネシンを取り上げ,それぞれの動作を支える構造基盤を概説する.キネシンは,微小管との結合・解離という基本の素過程を維持しながらも,微小管結合面の構造を改変したり,キネシンの動力部位の構造変化を増幅する構造を添加したりするなどして,多様な機能を獲得することができたと考えられる.
著者
星 治 牛木 辰男
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
電子顕微鏡 (ISSN:04170326)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.78-82, 2003-07-31 (Released:2009-06-12)
参考文献数
18
著者
馬水 信弥 田中 康太郎 安永 卓生
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.104-108, 2020-12-30 (Released:2021-01-13)
参考文献数
17

クライオ電子顕微鏡による単粒子解析では,試料中に含まれる複数のタンパク質構造を分類しながら解くことが出来る.ただし分類された構造間のダイナミクスの情報は類推するしかない.この問題について2020年に発表された三次元再構成およびクラス分類を行うための深層学習アプローチであるcryoDRGNは,離散的なデータ分割による構造分類を脱却し,連続的な構造分類を実現した.そこでは,オートエンコーダーをベースとし,入力粒子画像から投影パラメーターに依存する情報を分離して潜在空間を構築している.本稿では従来の構造分類と,cryoDRGNおよびその背景となる深層学習のトピックについて解説を行ったのち,構造分類のベンチマークとして6種類の複合体を有するGroEL/ESの実データについて三次元再構成とその分類を試みた.
著者
守屋 俊夫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.114-119, 2020-12-30 (Released:2021-01-13)
参考文献数
30

生体高分子の近原子分解能での構造決定において,クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法が現在急激に発展している.特に,本手法は構造のサイズ,構造の不均質性,組成の変動性のために他の構造決定手法が適用できなかった対象でも直接的な可視化を実現した.単粒子解析は画像処理ヘビーな手法であるため,多種多様なアルゴリズムが試されて既に多くの手順が自動化されており,着々とその手順のルーチン化が進んでいる.しかし,過去の構造解析経験に基づいている人の汎用的な視覚認識や総合的な判断だけは自動化することがこれまでできていなかった.ところが近年になりAI分野に革命をもたらした深層学習技術がこの状況を打破しつつある.そこで本稿では,単粒子解析の様々な処理ステップにおける深層学習技術の応用例を紹介し,その中でも全自動化が実用レベルまで達している粒子ピッキングの代表例としてcrYOLOとTopazを少し掘り下げて説明する.
著者
柴田 直哉
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-84, 2019-08-30 (Released:2019-09-07)
参考文献数
37

STEMを用いた位相イメージング法の一種であるDPC STEMは,通常のSTEM本体と分割型検出器やピクセル型検出を組み合わせることで,試料内部の局所電場・磁場分布を可視化できる手法である.近年のSTEM本体性能の向上と検出器開発の進展により,DPC STEMは市販のSTEM装置でも利用できる一般的な手法となりつつある.本稿では,DPC STEMの簡単な原理から始めて,最近の材料・デバイス研究応用事例を紹介する.また,この手法を原子分解能観察に用いることで,原子内部の構造観察が可能になりつつある最新の開発状況についても紹介する.
著者
臼倉 英治 臼倉 治郎
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.31-36, 2020-04-30 (Released:2020-05-09)
参考文献数
22

原子間力顕微鏡(AFM)は探針で試料表面を走査することにより,電子顕微鏡とほぼ同等の分解能で表面の凹凸を計測する顕微鏡である.そのため,水中でも計測が可能であり,培養液中で生きている細胞の表面構造を観察できると期待されていた.しかし,細胞表面は常に動いているため,表面構造を描写するには,その運動より速く探針を走査しなければならない.結局,今日の高速AFMの出現まで待たなければならなかった.我々の使用しているAFM(オリンパスBIXAM)は6 μm × 4.5 μmの範囲を1フレーム/10秒の速度で取り込む.現在では必ずしも高速ではないが,細胞表面から伸びる葉状突起や膜直下のアクチン線維の動きを明瞭に捉えることができた.一方,我々が改良した試料作製法であるアンルーフ法や凍結切片法をAFMの試料作製に応用することで,これまで不可能であった細胞内の微細構造を水中で電子顕微鏡同等の分解能で観察することに成功した.
著者
守屋 俊夫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.37-42, 2020-04-30 (Released:2020-05-09)
参考文献数
14

近年,加速電圧が200 kVのクライオ電子顕微鏡を使用した単粒子解析で複数のタンパク質構造が3.0 Åより高い分解能で決定された.300 kVに対して200 kVの粒子画像コントラストは高いため,100 kDa未満のタンパク質でも大きなデフォーカス量や位相板を使用せずに高分解能構造を得ることができる.これは,200 kVが小さなタンパク質の構造決定により適していることを意味する.しかし,これまで発表された近原子分解能構造の大多数は300 kVを使用したものである.そこで本講座では,特にコントラスト伝達関数に関連する入力パラメータを見直し,200 kVデータセットに最適なボックスサイズと粒子マスク直径を見つけるための理論と決定手順を紹介したい.また,デフォーカス分布を考慮してこの二つの設定値を最適化するだけで,200 kDa未満のタンパク質の単粒子解析で3.0 Å前後の分解能から顕著な向上を得た実例も紹介する.
著者
立花 繁明
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.81-83, 2007-07-31 (Released:2011-04-13)
参考文献数
9
被引用文献数
3
著者
小林 昂平 古寺 哲幸 田原 悠平 豊永 拓真 笠井 大司 安藤 敏夫 宮田 真人
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.67-71, 2019-08-30 (Released:2019-09-07)
参考文献数
27

Mycoplasma mobile(以下モービレ)は,ペプチドグリカン層を持たない,魚の病原細菌(単細胞の生物)である.モービレは固形物表面にはりつき,はりついたまま滑るように動く滑走運動を行う.滑走メカニズムにおいて,モービレの細胞表面にあるタンパク質でできた“あし”が,宿主細胞表面のシアル酸オリゴ糖を引き寄せ,菌体を前に進める.この滑走運動は,細胞内部にあるモーターがATPを加水分解することにより駆動されるが,ATPの加水分解によりモーターがどのような構造変化を起こすかは明らかになっていない.そこで本研究では,高速原子間力顕微鏡(以下高速AFM)を用いて,細胞内部におけるモーターの動きを可視化することを目的とした.ガラス基板表面に貼り付けた細胞表面を高速AFMでスキャンすると,内部モーターと思われる粒状の構造がシート状に並んでいる様子が見られた.さらに,個々の粒子は滑走方向に対して右方向に8.2 nmシフトする動きを示した.
著者
高木 薫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
電子顕微鏡 (ISSN:04170326)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.147-152, 1988-03-31 (Released:2009-06-12)
参考文献数
26
著者
石塚 和夫
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.11-15, 2015-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
10

高分解能電子顕微鏡には透過型電子顕微鏡(CTEM)と走査型透過型電子顕微鏡(STEM)がある.現在,どちらのタイプの電子顕微鏡でも最適な条件では原子コラムの並びが観察できる.しかし,電子顕微鏡像から推定された原子構造が正しいこと確認するにはシミュレーションが必要になる.試料の構造情報と顕微鏡の結像情報をシミュレーションプログラムに与えれば,顕微鏡像が表示されるが,CTEMとSTEMでは顕微鏡像に寄与する信号が異なり,電子レンズの効果も異なる.表示された結果を正しく評価するにはシミュレーションの基本的な考え方やアルゴリズムの大枠を理解しておく必要がある.本解説ではマルチスライス法による高分解能電顕像のシミュレーションの基礎的な考え方,特に弾性散乱,熱散漫散乱の計算方法および部分干渉性の取り扱いについて説明する.
著者
高橋(中口) 梓 平岡 毅 遠藤 泰久 岩淵 喜久男
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-52, 2014-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
25

生活環のほとんどを他の昆虫体内で過ごす内部寄生蜂は,それぞれの宿主に適応するため驚くべき進化を遂げている.本稿で扱うキンウワバトビコバチCopidosoma floridanumは宿主卵,そして孵化した宿主幼虫の中で生き延びるために,進化的にバリエーションが少ないはずの初期発生を大幅に変更し,卵割後,アメーバ様に移動できるステージを獲得した.この移動性の寄生蜂胚は宿主細胞に自己と誤認させ,宿主胚の胚発生に伴う細胞移動に便乗し,その細胞間を通って宿主胚体内に侵入する.孵化した宿主幼虫体内で寄生蜂胚は,宿主細胞の臓器を保護する宿主由来の嚢組織(cyst cell)で周囲を覆わせて宿主免疫を回避するだけでなく,酸素を得るため宿主に気管を形成させていた.本講座では,共焦点レーザー顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて一連の現象を明らかにした経緯と,分子擬態に関与する分子機構の一部について紹介する.
著者
釜澤 尚美
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.219-221, 2009

<p>凍結割断レプリカ標識法による観察から,中枢神経系のギャップ結合は,斑状だけでなく,ひも状,リボン状,網状と多様な形態を頻繁に呈すること,また,直径0.1 µm以下の小さなギャップ結合が多数存在することが明らかになった.さらに,双面レプリカ標識法によって,網膜の神経細胞間において2種類のコネキシンで構成されるギャップ結合では,それぞれのホモ6量体コネクソンがサブドメインを形成して2つの細胞間で連結していることが判明した.</p>
著者
野中 茂紀
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 = Microscopy (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.163-166, 2012-09-30
参考文献数
12

<p>光シート顕微鏡とは,シート状の励起光を試料側方から照射することで光学断面像を得る蛍光顕微鏡である.この手法は,低褪色,低光毒性,高速性,深部観察能といった,生物個体や組織の生体イメージングに大変好都合な特徴を有する.一方で,側方から励起光を照射することに起因する特有な照射ムラなどの欠点も抱えており,その解決法としていくつかの方法が提案されている.本稿では,生物学研究のための光シート顕微鏡の特徴と近年の発展について概説する.</p>
著者
平尾 彰子 柴田 重信
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 = Microscopy (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.83-86, 2012-06-30
参考文献数
12

<p>我々の体内に存在する体内時計は約24時間の周期で毎日時を刻んでおり,体内時計は疾病の発症リズムや投薬治療に影響を与える.体内時計と薬の関係を調べる時間薬理学と同様に,体内時計と栄養・食の関係を調べる"時間栄養学"の重要性について解説した.栄養物の吸収・消化・代謝に関わる酵素のほとんどは体内時計の支配下にあるので,食事のタイミングで肥満が予防できうる.一方,規則正しい食餌のタイミングがマウスの時遺伝子発現リズムをリセットできた.食事の間隔では長い絶食後の給餌でインスリン上昇に伴って体内時計の食餌性のリセットが起こることを見出した.また,食事内容では消化しやすいデンプンの重要性を見出した.現代人の抱える病気の多くが,食事療法を必要としているのが現状であるため,我々はより,臨床応用が可能なモデルマウス作りを目指している.体内時計にやさしい食事パターンが健康維持,改善に役立つと考えている.</p>