著者
柏柳 誠 長田 和実 宮園 貞治
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.112-118, 2016-03-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
21

ニホンオオカミが絶滅してから,100年以上が経過している.最後にニホンオオカミが目撃された場所は,紀伊半島であった.その後,福岡で目撃情報があったが,群れをつくるオオカミが単独で行動することが考えられないために野犬ではないかと結論づけられた.本小論は,絶滅以来100年を経過しているためにオオカミに対する怖さを体験していないエゾシカがオオカミ尿由来物質(P-mix)を忌避するとともに恐怖関連行動を示した研究成果を中心に紹介する.
著者
萬羽 郁子 東 賢一 東 実千代 谷川 真理 内山 巌雄
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.27-39, 2019-01-25 (Released:2021-11-03)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究は,化学物質過敏症(MCS;Multiple Chemical Sensitivity)患者の嗅覚知覚特性を明らかにすることを目的とした.MCS患者群と対照群に,T&Tオルファクトメータの5臭(β-フェニルエチルアルコール[A],メチルシクロペンテノロン[B],イソ吉草酸[C],γ-ウンデカラクトン[D],スカトール[E])を用いた閾値検査,においスティックの4種(みかん,ひのき,香水,無臭)を用いた嗅覚同定能力検査,各においの強度および快・不快度評価を行った. MCS患者群は対照群に比べて,基準臭Dの検知閾値,5基準臭の平均検知閾値および認知閾値が有意に低かったが,同定能力に群間の有意差はなかった.また,一部のにおいに対する強度や不快度は,対照群よりMCS患者群の方が有意に高かった.本研究では被験者数やにおいの種類が限られており,今後さらにデータを蓄積して検討していく必要がある.
著者
植田 秀雄 小橋 恭一
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.270-274, 2005 (Released:2005-11-25)
参考文献数
6

呼気には,多くの成分が含まれていることは意外に知られていない.一説には400種類以上ともいわれ,いずれも生体代謝産物である.呼気中の成分はそれぞれ意味のある生体情報を持っている.つまり,ガス濃度の変化と疾病との関係が明らかにされれば,呼気という“非侵襲”生体試料が大きな意味を持つことになる.近年,わが国ではガス測定技術の進展とともに,さまざまな専用ガス測定器の開発とその臨床研究が盛んになってきている.他方,先ごろ「国際呼気研究学会」(International Association of Breath Research)が旗揚げされ,呼気研究の機運が世界的にも高まってきた.呼気ガス測定の実用化研究の結果,臨床活用範囲が広がることにより,医療面のみならず非侵襲であるため,日常の健康管理にも役立てられることになると考えられる.呼気(におい)測定の実用化は,将来的,社会的にまことに大きい意義がある.
著者
大野 敦子 鈴木 萌人 矢田 幸博
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.50-59, 2022-01-25 (Released:2022-02-10)
参考文献数
37

紅茶の香りが自律神経活動に及ぼす効果について検討した結果,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香り吸入後に縮瞳率および指尖皮膚温は有意に上昇した.その効果は,アッサム紅茶とウバ紅茶の香りの効果より大きかったことから,交感神経活動を抑制し,副交感神経活動を優位にする鎮静作用が高いことが示唆された.香気成分分析によりダージリン紅茶セカンドフラッシュに特徴的な香気成分;ゲラニオール,ホトリエノール,2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン,2-フェニルエチルアルコールを選定し,紅茶飲用時の規定濃度でそれぞれ吸入した結果,ホトリエノールのみが縮瞳率を有意に上昇させた.濃度依存性を検討した結果,ホトリエノールは5 ppm以下の低濃度において縮瞳率は有意に上昇した.さらに,ホトリエノール50 ppm吸入後に縮瞳率ばかりでなく,指尖皮膚温も有意に上昇したことから,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュと同様の鎮静作用を有することが示された.以上の結果から,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りによる鎮静作用の発現に寄与する最も重要な成分であることが示唆された.
著者
大平 辰朗
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.34-44, 2012-01-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

我々の生活環境に様々な害虫(衛生害虫,貯蔵害虫,農林業害虫等)が存在する.それらは人の衛生面や食物等の品質等の劣化を招き,大きな問題となる.対策としては優れた防除作用を有する合成された化学物質が数多く開発されているが,残留性,安全性等の問題があり,環境に優しい天然物,例えば香り物質を用いる方法が注目されている.植物は一旦,大地に根を張ると身動きがとれない.そのため周辺の微生物,昆虫等による攻撃に対応するための方法として,防除効果や安全性の高い化学物質を生成してきた.ここでは,それらの利用を考慮する為に,植物が作り出した害虫防除機能の高い化学物質に焦点をあて,概説することにする.
著者
飯島 陽子
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.132-142, 2014-03-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

香料やハーブの品質を決めるうえで,香りの質やバランスは大きな要素である.その素材となるそれぞれの香辛植物は,ほかの植物に比べて特徴的な香気成分を大量に作り出し,ため込む能力を特化させた植物といえる.近年,植物代謝研究の立場から香辛植物を対象にした香気生成の分子メカニズムが徐々に明らかになってきた.さらに,代謝工学,バイオテクノロジーへの応用に関する研究も盛んになってきている.ここでは,特に香辛植物の香りの生成に着目して,最近までに明らかになった知見について概説する.
著者
奈賀 俊人
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.240-245, 2010-07-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

透明容器詰柑橘果汁のクロロフィル類による光増感劣化オフフレーバーについてまとめた.蛍光灯照射によりテルペン類が酸化して柑橘特徴香が失われると共に,金属様臭または油臭い特徴を有する種々脂肪族カルボニル化合物が生成した.最も寄与度が高いと考えられた成分として1-オクテン-3-オンを同定した.異臭は蛍光灯照射1日で急激に進行した.クロロフィル類はオフフレーバーの前駆体である脂質の光劣化を促進し,その促進作用はpHが低いほど強くなった.ビタミンCの添加や酸素バリア性ボトルの使用など,酸化対策がオフフレーバーの抑制には有効であった.
著者
小川 緑 綾部 早穂
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.292-295, 2019-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
4

本研究では実験参加者自身の吸気に合わせて,同一のニオイを40回提示し,知覚強度変化を検討した.先行研究において,快(不快)とされたニオイ各1種類ずつを選定し,快不快の影響も合わせて検討したが,知覚強度変化の報告頻度に違いはみられなかった.また,内観報告に基づくと,多くの実験参加者が快,不快なニオイともに提示終了までニオイを感じており,知覚強度変化の様相もニオイ間で大きな違いはみられなかった.
著者
野下 浩二
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.267-274, 2021-09-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
35

昆虫は様々な化学物質を駆使して,身を守ったり,仲間とコミュニケーションを取る.臭いにおいを発することで知られるカメムシの防御物質やフェロモンについて,著者らの研究を中心にまとめた.また,昆虫は外界からの化学シグナルを感知し,最適な餌資源や産卵場所を探す.カメムシの餌探索行動に関わる植物由来のにおい成分について,植食性カメムシと肉食性カメムシを例に,近年,著者らが取り組んできた研究も紹介する.
著者
柏谷 英樹
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.112-117, 2021-03-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
13

古来より植物の芳香が抗不安効果を持つことは経験的に広く知られてきた.今日でもその作用は民間療法として取り入れられている.しかしながら「香気が抗不安効果を生み出すメカニズム」については未だ不明である.本稿ではリナロール(ラベンダー精油の主要香気成分の一つ)の香気が持つ抗不安作用,その作用の嗅覚依存性,そしてベンゾジアゼピン感受性GABAA受容体の関与を中心に,その基盤となる脳内メカニズムについて最新の知見をもとに解説する.
著者
小川 藍
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.9-17, 2017-01-25 (Released:2021-04-24)
参考文献数
31

加熱中のサツマイモ香気の変化,および,加熱中最も嗜好性が高まる時間帯の香気について調査した.加熱温度を200℃とした場合,最も焼き芋らしく好ましいと評価されたのは,加熱開始から75~90分の間の香気だった.この香気のAEDAより,16成分が香気寄与成分として示された.これらはいずれも加熱反応による生成物であるが,加熱中の増加の仕方は一様ではなく,アミノ-カルボニル反応,ストレッカー分解,カロテノイドやフェルラ酸の熱分解といった生成経路ごとに異なる増加パターンを示した.
著者
三輪 高喜
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.363-369, 2018-11-25 (Released:2021-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患では,早期に嗅覚障害が出現することが知られている.したがって,嗅覚検査は,これらの疾患の早期発見のためのバイオマーカーとなりうる.本項では国内外で行われている嗅覚検査について,その方法と特徴について解説した.神経変性疾患による嗅覚障害では,嗅覚同定能の低下が特徴的である.わが国で行われている嗅覚検査の中で,T&Tオルファクトメーターを用いる基準嗅力検査における検知域値と認知域値との解離の増大は,同定能力の低下を示し,神経変性疾患による嗅覚障害の検出に有用である.また,新たに開発された嗅覚同定能検査もこれらの発見に有用とされている.
著者
松本 英顕 江原 史雄 小山 玲音 笹川 智史 原口 智和 宮本 英揮 龍田 典子 上野 大介
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.233-239, 2021-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

和牛(黒毛和種・繁殖雌牛)のストレス数値化技術として,皮膚ガスをマーカーとして利用する手法に着目した.本研究では基礎的検討として,皮膚ガスのサンプリング手法および分析技術の高度化に取り組んだ.サンプリング手法として,牛に特化したサンプリングデバイスを作製し,固相吸着剤を腰部に近い背部に装着させる手法を開発した.本手法で捕集された皮膚ガスをGC-MS分析に供試したが,特徴的なピークを検出することはできなかった.そこでにおい嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O),ガスクロマトグラフ分取システム(GC-F),およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析したところ,黒毛和種の皮膚ガスに特徴的なにおい物質として(E)-3-Octen-2-oneを同定した.本研究は大型畜産動物の皮膚ガスを同定した初めての報告である.将来的に本技術を活用して皮膚ガスとストレスの関係を検証し,パッチテストや嗅覚センサーを用いた非侵襲的なストレス数値化技術の実用化につながることが期待される.
著者
北村 壽朗
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-28, 2018-01-25 (Released:2021-08-13)
参考文献数
19

相模川水系を水源とする神奈川県営水道では,貯水池である相模湖(相模ダム)や津久井湖(城山ダム)で繁殖した藻類が,浄水処理や水質に悪影響を及ぼす「生物障害」が問題となっている.これらの生物障害のなかで最も深刻なのは,かび臭による異臭味障害である.近年このかび臭障害が,上流の水源湖沼だけでなく,相模川本川で発生する事例が観察されている.本報では,相模川水系における異臭味障害について概説し,さらに,相模川本川中流域における湖沼性障害生物の繁殖事例と河床着生・付着藻類の調査結果について報告する.
著者
小林 純子
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.92-105, 2017-03-25 (Released:2021-05-21)

この30年,公共トイレの進化がめざましい.その内容は,利用者の要望に即した基本機能や付加機能,デザインの向上である.課題は,一番大切な,安全とメンテナンスの取り組みがまだ不十分であること.都心と地方,建築用途(商業施設と学校),男女,障害者等への取り組みの格差があることである.表面的なデザイン等でイメージがトイレの印象を変えてしまった我国の公共トイレだが,地についた進化に展化するためには,内容の深さや継続性が必要だ.そのためにも設計からメンテナンスまで統括して取り組む組織や人材の育成が必要だと考える.
著者
宮崎 雅雄
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.327-335, 2022-11-25 (Released:2022-11-25)
参考文献数
16

近年のネコブームで,ネコの行動や生理に関する様々な情報が書籍やインターネット上にあふれている.しかしこれらのネコに関する情報は,すべてが根拠に基づかれて書かれているものばかりではない.他の動物の知見がそのままネコでの知見のように書かれているものや,ネコで推測されたことがいつの間にか事実のように書かれてしまっているものもある.ネコが生活環境に尿をマーキングして縄張りを作ることは,一般にも知られている.別のネコが他のネコのマーキング尿に出会うと,におい情報から縄張り主の種や性,個体情報を入手していると考えられてきた.しかし時々刻々と変化するにおい情報から本当にネコがこれらの情報を識別できているのか,その真偽はほとんど検証されていなかった.そこで筆者らは,ネコの排泄物の揮発成分をガスクロマトグラフ質量分析計などで分析し,ネコの尿や糞,肛門嚢分泌物の中にどのような揮発性物質が存在するか網羅的に調べ,種や性,年齢,個体に特有なにおい物質を見出すことで,ネコの縄張り行動の理解を深めてきた.本稿では,これまで筆者らが明らかにしてきたネコの排泄物のにおいを介した嗅覚コミュニケーションについて解説する.
著者
吉浪 讓
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-26, 2019-01-25 (Released:2021-11-03)
参考文献数
1

自動車室内での香り付与技術についてまとめた.車室内で感じられるにおいのメカニズムとそれを制御する空調装置,香りを付与する技術とメカニズム,香りを付与に当って必要な注意点についてまとめている.車室内で香りを付与するに当たっては,濃度と放出量の管理が重要であり,より薄い放出濃度の制御と間欠運転をするにあたっては空調装置に支流を追加した強制対流式のディフューザを紹介している.