著者
橋本 敬 西部 忠
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.131-151, 2012-03-08

本論文は, 制度の多様性と内生的変化を示す制度生態系を記述する数理モデルとして「ルール生態系ダイナミクス」(Rule Ecology Dynamics: RED)を提示し, それが経済社会進化の態様記述や政策展開に対して持つ経済学的含意を論じる。まず, 戦略ルール(ミクロ主体の内部ルール)とゲームルール(外なる制度)を経済社会の複製子(If-then ルール)と再定義し, 制度を, ミクロ主体の認識・思考・行動とマクロ的な社会的帰結をメゾレベルで媒介する, ミクロ主体によって共有されたルールと捉える。これにより, ゲーム形式と戦略的予想均衡という従来の2つの制度観を, それぞれ「ゲームルール」と「共有された戦略ルール」として統一的に理解できる。こうした進化的制度観の下, REDは, ゲームルールを評価するミクロ主体の価値意識の集合的表象(内なる制度)を「メタルール」として導入することにより, 進化ゲーム理論とレプリケータ・ダイナミクスを統合・拡張し, 戦略ルールとゲームルールの相対頻度が内生的に変化するような共進化を記述し分析できる。このため, REDは進化主義的制度設計のための理論枠組みとなる。
著者
園 信太郎
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-2, 2010-09-09

根元事象の定義を反省してみた。
著者
須戸 和男
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-99, 2006-06-08

本稿は,アメリカの通商政策と対外租税政策の相互関係を歴史的に概観し,今日のグローバルな世界経済におけるアメリカの対外経済政策の及ぼす影響を考察するものである。 その中心的論点は,アメリカ多国籍企業のグローバルな経営戦略であり,第二次世界大戦後のアメリカ多国籍企業は,政府の課税優遇措置による海外市場開拓促進政策に重大な役割を演じ,これによって両政策の密接な相互依存関係を創出した。しかし,1970年代以降の多国籍企業は,政府の政策目的とは離れた独自のグローバルな経営戦略を採り始め,両政策間に乖離・対立現象が現れ,次第にその相互関係は希薄になってきた。 多国籍企業の外国直接投資は,その実質的本拠を国外に移転し,国内産業の空洞化をもたらし,貿易収支および経常収支の巨額な赤字を生み出した。さらに,多国籍企業のグローバルな租税回避戦略は税収を減じて財政政策に重大な影響を与えた。このため,通商政策は戦後の多角的自由貿易体制の修正を迫られ,二国間および地域間自由貿易協定や保護主義的政策に向かった。対外租税政策は多国籍企業に対する課税強化政策および租税回避抑止政策へと大きく変容した。以上の如く多国籍企業の自立的展開は,両政策の変化・変容と両政策の相互関係に変転をもたらした。
著者
久保田 肇
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.108, pp.1-34, 2012-12

Gale(1955) とNikaido(1956a) は独立にゲール・二階堂の補題を証明し、それを利用してn 次元ユークリッド空間Rn を財空間とする経済における競争均衡の存在証明を行った。そして、ドブリュー(1959、第5 章) では、ゲール・二階堂の補題を用いるGale(1955) とNikaido(1956a) の議論に沿って、Rn を財空間とす る経済における競争均衡の存在証明を行い、一般均衡理論の文献においてゲール・二階堂の補題を著名にした。Nikaido(1956b,57b,59) では、更に、Rn におけるゲール・二階堂の補題をノルム空間や局所凸線形位相空間にまで一般化した。この、有限次元空間におけるゲール・二階堂の補題を証明した直後に無限次元空間までゲール・二階堂の補題を一般化したという事実は、驚くべき事である。無限個の財がある経済における競争均衡の存在問題はPeleg-Yarri(1970)とBewley(1972) から開始されたのであるが、Debreu(1954) 同様に、これらよりも10 年以上先に既に無限個の財がある経済を取り上げていたのである。そこで本稿の目的はNikaido(1956b,57b,59) による無限次元空間のゲール・二階堂の補題を再考して、1 つの一般化の方向を議論する事である。
著者
久保田 肇
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.117-135, 2009-12-10

本論文ではビューリー(2007、第5章)において取り扱われた、クーン/タッカー的な接近法による古典的な凸有限経済における厚生経済学の基本定理を取り上げる。この経済の消費者が凹な効用関数を持つと仮定する事によって、厚生経済学の基本定理は制約条件付最適化(最大化)問題として表現できる。そこでこの問題に非線形計画法の基本定理であるクーン/タッカー定理を適用する事により、パレート最適な配分では線形社会厚生関数が最大化される事が示される。更に、制約条件付最適化(最大化)問題における最大値関数の性質により、財・サービスに対してその市場価格がその限界社会厚生値になっている事や、最大化された線形社会厚生関数の各係数が市場均衡における各消費者の所得/貨幣の限界効用の逆数になっている事が導かれる。これらの結果は効用関数の微分可能性を前提にすることなく得られている。
著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.271-276, 2014-01-24

数学が後から多くの分野に於いて重要な応用を持つことは枚挙に暇がなく,現代数学の計算量の理論で「簡単には解けない問題」となっている素因数分解の難易度を逆転の発想で応用した公開鍵暗号が情報通信技術の発展した現代に於いて,電子商取引(EC) や情報基盤で欠くことのできない技術になっていることもその好例である。本稿では,組合せ問題のみならず他の数学の未解決問題とも深く関って本質的な数論に関するこの20年間―1995年の Fermat の最終定理の解決から2013年の双子素数予想への前進まで―を概観する。
著者
吉野 悦雄 ジャミヤン ガンバト
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.31-41, 2006-03-09

本稿ではモンゴルにおけるGDP計算方法の実態について分析する。モンゴル政府は,国民経済統計を市場経済体制に適応した統計制度に切り替えている。遊牧民の所得はGDPに計算されているが,ミルクなどの畜産物はその諸経費の把握が困難なためにGDPに計算されていない。また,法人企業のGDP計算はほぼ国連SNA基準に基づいて行われている。しかし,個人経営の商店やタクシー屋などの所得は測定できないがゆえに,GDP計算には算入されていない。
著者
李 嗣堯
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.49-61, 2013-02-21

台・中間に2010年6月に締結された「両岸経済協力枠組み協議(Economic Cooperation Framework Agreement: 略称ECFA)」は台湾経済・産業にもたらす影響が極めて大きいということで注目が集まった。これまでのECFAに関する研究は, 「ECFAの必要性」, 「ECFAの政治的リスク」そして「ECFAの台湾経済への影響」等をめぐってそれぞれの内容を検討したうえ, その賛否についての見解を述べるという形式が主であった。これに対して本稿は, ECFAの歴史的背景, ECFAの内容, そして台中双方にとってのECFAの狙い所の三つの側面に注目して馬英久政権が新たに展開した「台中経済連携強化」の意義を明らかにする試みである。 本研究の検討によって以下の5点の結論にまとめられる。(1)ECFA は特殊なFTAではあるが, 両岸経済の統合に寄与することに違いないこと。(2)経済統合といって台湾経済に与える影響は必ずしもプラスばかりでなく, マイナス面もあること。(3)ECFAは決して単なる経済的な議題ではない認識が必要である。(4)ECFAは台湾と他の国とのFTA調印を保証するものではないこと。(5)ECFA調印にともなう市場開放の圧力を直視すべきであり, 最終的に両岸貿易正常化の実現に帰さなければならなく台湾側もそれに対応できるように施策を検討すべきである。
著者
吉田 昌幸
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.69-87, 2012-07-12

本論文は, 地域通貨導入過程における課題のひとつである, 地域通貨に関する周知や理解の深化に対して, ゲーミング・シミュレーションという手法を採用し, ゲームの設計とその実施結果について考察をしたものである。地域通貨導入過程においては, 地域通貨の周知や理解, 発行形態や流通デザインの策定, 発行組織・体制の構築という課題がある。これらの課題を解決していく上で, 地域住民・リーダー層・研究者との間で共通のビジョン(地域通貨のある地域社会像)の醸成とその共有が欠かせない。本論文では, 地域通貨の学習ツールとして地域通貨ゲームver.2を作成し, その実施結果を流通状況と参加者へのアンケート結果を併せて考察を加えている。
著者
栗田 健一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.115-128, 2006-06-08

本論文では,ギルド社会主義思想を別の形で摂取し,独自の経済観を構想したC.Hダグラスの研究をおこなった。ダグラスは,市場と国家とは違う領域に経済の調整を任せるという発想を持っていた。この研究では,中央政府と分権的生産者銀行が協調しながら,市場経済がもたらす不安定性を除去するという視点をダグラスが持っているということが明らかにされた。特に,彼の重要な概念である「有形信用」と「金融信用」に着目した。「有形信用」とは潜在的な生産力概念を示すものである。例えば,石炭の生産でまだ150トン生産できる可能性があれば,「有形信用」は,その余剰生産力を意味している。そして「金融信用」とはその余剰生産力を顕在化させるための貨幣であり,通常は銀行から供給される。だが,ダグラスはこの「金融信用」の供給を市場で活動する銀行や国家に任せるのではなく,労働者達のアソシエーションである分権的生産者銀行に任せるという発想を持っていた。この発想に彼のオリジナリティーがあり,市場や国家とは違う領域の重要性を持っていた点に,彼の思想の意義があるという主張をおこなった。
著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.57-60, 2011-03-10

本稿では Farkas の補題の系を用いて, Mangasarian-Fromovitzの制約想定の下で一般的な非線形計画問題の最適性の必要条件であるKarush-Kuhn-Tuckerの定理をMotzkinの定理やFritz John条件を経由せずに直接導出する。 また, Farkasの定理の無限次元への拡張, 凸関数, 離散変数等様々な方向への拡張についても概観する。
著者
田中 愼一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.153-173, 2012-03-08

2010年1月に満63歳となったため北海道大学の定めにより同年3月31日に停年退職することになった北海道大学大学院経済学研究科・経済学部教授の田中愼一が同年3月16日におこなった最終講義の記録である。当日配布した口述原稿を元に, 講義中に入れたad lib や大幅に加筆した註を加えて成稿となったものである。 大学入学以来, 著者が直接に薫陶や高誼を受けた先学(掲名順。松田智雄先生, 下村先生, 石井寛治先生, 安良城盛昭先生, 武田幸男先生, 長岡新吉先生, 大石嘉一郎先生, 岡田与好先生, 坂本忠次先生, 神立春樹先生, 石坂昭雄先生)や厚誼を得た韓国人学者(延世大学尹起重教授, ソウル大学安秉直教授)の思い出をまじえながら, 著者の1966年4月からの学部時代, 1970年5月からの大学院時代, 1975年4月からの社研助手時代, 1979年1月からの北大教員時代を変遷していきつつ, いくつかの研究課題を設定したことの背景, それらの研究対象を選択した理由, そうした研究対象に対して模索した研究方法, それらの成果としての諸論文の因果連関を論述しようとすることで, 一小学究としての説明責任を開陳せんと試みたものである。
著者
成田 泰子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.57-68, 2004-03-09

1870年代以降、イギリス古典派経済学は衰退の様相を呈していた。その様な中でイギリス国内において、従来の古典派経済学の方法を激しく批判し、歴史的方法を採用すべきことを訴えたイギリス歴史学派が台頭してきた。彼らは、古典派に代わって主流派を形成するかのような勢いを示した。こうした状況の中で、ジョン・ネヴィル・ケインズ(John Neville Keynes)は、1891年、『経済学の領域と方法』を著し、理論派と歴史派との対立を理論派の立場から調停しようと試みた。本稿においては、『領域と方法』を、イギリス歴史学派による古典派批判に対するケインズからの回答の書として位置づける。なぜなら、ケインズが、イギリス歴史学派の活発な動きを非常に意識していたであろうことが容易に推察されるからである。こうして、従来ほとんど言及されることがなかったケインズとイギリス歴史学派との関係に着目し、イギリス歴史学派からの批判に対して、ケインズがどのような回答を与えたのかという点を、特に経済学の領域問題に焦点をあてて考察する。そして、ケインズがなした回答が経済学史上、いかなる意義持ったのかということを明確にする。
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.i-ii, 2009-12-10
著者
石坂 昭雄
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.91-130, 2016-12-08

ドイツ新歴史学派経済学の巨匠ルーヨ・ブレンターノは,経済理論や社会政策のみならず,経済史学においても大きな功績を遺したにもかかわらず,現在では内外ともにまったく忘れられ無視された存在となっている。その原因の一端は,彼が資本主義精神を最大限利潤の追求一般に帰し,かのマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と《資本主義の精神》」を最も早い時期から批判してきた代表者としてのみ理解されてきたところにある。しかし,ブレンターノは,当時のドイツの学界切ってのイギリス経済と経済史の専門家であり,かつその自由主義と社会改革の強固な信奉者であったし,ヴェーバーなど社会政策学会内の自由主義的改革派を率いる中心的リーダーでもあった。それゆえ,彼の資本主義精神の議論だけを捉えてブレンターノを評価するのは妥当ではない。 そこで本稿では,ブレンターノの経済史研究,とりわけイギリス経済史とヨーロッパ経済の発展にかんする全体像をとらえ,そのなかでのヴェーバーの「資本主義の『精神』」批判を検討しながら,その主張や歴史認識が,どこまでヴェーバーと重なり合うか,どの点で相互に大きく乖離することになったかを論じたい。
著者
前畑 憲子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.203-215, 2006-11

『資本論』第3部第3篇でマルクスは利潤率の傾向的低下法則を明らかにし,また,この法則と恐慌との関連について論じている。本論文は,現行版『資本論』では削除された「現実の資本の過剰生産」とはいかなる事態であるかの解明を通して,この法則と恐慌との関連を明らかにしている。特に,この法則を「二重性格の法則」として捉えること,また,諸資本間の競争戦の意義を明らかにすることを重視した。