著者
湯山 英子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.107-121, 2013-02-21

本稿の目的は, 1910年代から1940年代はじめにかけて仏領インドシナにおける日本商の活動を明らかにすることにある。特に財閥系商社である三井物産と三菱商事の人員配置および取扱品に注目し, 該当時のアジア支店がどのように営業活動を展開したのかを検討する。結果, 次の2つのことを明らかにした。(1)三井物産はホンゲイ無煙炭の取り扱いに優位性を示した。これは1910年代から三井物産香港支店とトンキン炭礦会社香港支店との取引関係が構築されており, 一手販売権を獲得したことが大きい。これが香港支店から仏領インドシナへの人員配置にも反映していた。(2)三菱商事においては現地在住の三菱退職者を人材活用し, 日本や香港からの出張者で補完していた。公式の人事録には表われていないため, 従来の研究では見過ごされていた部分である。主な商品に, 旭硝子とともに取扱った硅砂があり, 日本向け輸出に力を入れていた。 従来の研究では, 商社のアジア支店の中で仏領インドシナは規模が小さく継続的営業が確認できなかったが, 本稿では取扱品と人員配置からその活動を示すことができた。
著者
小杉 雅俊
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.59-73, 2012-03-08

本稿の目的は, イギリス企業における品質原価計算を検討することにより, その実態を明らかにすることである。第II章では, 品質原価計算が成立したアメリカの動向を整理し, 品質コスト概念を中心に品質原価計算の適応領域が拡大したことを確認している。第III章ではイギリスにおける個別企業の事例を対象とした分析である。事例として調味料製造企業, ヘルスケア関連企業を扱っている。コスト低減という目標において, 現場に対しては時間の削減という具体的な指示を行う企業, 機会原価概念を導入する企業があり, 品質コストの全体像を把握しようとする傾向があった。最後にイギリス企業における品質原価計算の特徴を検討し, 近年の実態を明らかにしている。 アメリカの品質原価計算は未来志向となっており, 全社レベルでの実施を重視する。その一例である機会原価概念の導入はイギリス企業でも実践されていた。機会原価を誘発する失敗活動の認識は, 改めて経営の全体的観点からの判断を要請する。品質原価計算を管理会計システムとして運用するか, 既存のシステムの中で運用するかは別として, 品質の重要性が低くなることは考えられず重要な技法であることには違いない。
著者
村上 明子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.329-348, 2013-02

1979年の革命以降, イランではイスラームを主体とした独自の社会統合論理が掲げられた。1990年代後半から2000年代初めにかけては自由化が模索されるも, 2005年に発足したアフマディネジャード政権下では, 現在に至るまで革命理念への回帰が謳われている。本稿では2005年以降の同国労働市場の状況について, まずは, 法制度を元に性別役割規範の基本構図を紐解きつつ, 人口圧力の高まりや経済制裁等, 労働市場を取り巻く課題とその対応策のあり方を確認した。加えて, 革命理念が労働現場に与える影響についても注目した。以上について, 現地における雇用者側へのインタビュー調査より, 1)革命後に示された労働者保護方針と労働需給の逼迫とが相まって労使双方が猜疑心を抱く状況を生み出していること, 2)革命後, 内外の変動が激しい同国では社会的紐帯が企業活動においても重視されていること, 3)イスラーム的価値観や同国におけるジェンダー認識が女性への労働需要に寄与する側面を有すること, 4)経済制裁への対応の結果, 取引チャンネルに変化が看取されること, --こうした事実が明らかとなった。今後は, 対外関係の改善と, 企業の公正な競争を担保する制度の拡充が望まれる。
著者
岡田 美弥子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.375-404, 2014-01

本稿の目的は,コミックとアニメ,キャラクター商品の事業間関係に焦点を当てて,日本のマンガビジネスがどのように発展していったのかを明らかにすることである。本稿で提示したアニメ製作会社およびキャラクター商品企業の事例に加えて,本稿に先駆けて行ったコミック事業の分析をもとに考察した結果,日本のマンガビジネスは,3つの事業がそれぞれの強みと制約を補完し合うことでもたらされたシナジーによって発展してきたことが解明された。このシナジーを生み出したのは,コミック事業を担う出版社とアニメ製作会社,キャラクター商品企業が,マンガという資源を用いた事業で試行錯誤を繰り返しながら築き上げていった相互依存関係,すなわちマンガのビジネスシステムである。
著者
瀬川 高央
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.167-182, 2008-12-11

本稿の目的は,1983年のウィリアムズバーグ・サミットで,中曽根康弘政権が,米ソの中距離核戦力(INF)削減交渉に対し,極東配備のSS-20も交渉対象にすべきだとする立場を貫徹することで,ソ連による日米欧離間を封じていく過程を,日米外交資料の分析から解明することである。本稿は全5節で構成される。1節では,SS-20配備に対する西欧と極東の戦略状況の相違を明確にする。2節では鈴木善幸政権から中曽根政権にかけてSS-20問題での対外交渉姿勢の変化を検討する。3節と4節では,レーガンのゼロ・オプションが危機に直面したことを受け,日本が西側結束に向けて展開した秘密交渉について分析する。5節では大韓機撃墜事件により,東西緊張が再燃する中で,日米欧関係が強化されていく過程を考察する。最後に結語では,中曽根による西側決裂回避という成果を,首相のパフォーマンス外交ではなく,SS-20極東移転やINF暫定案の浮上という外生要因に対して,外相・事務方が行った対外交渉の結果として位置づけ直す。その上で,INF問題に対する中曽根政権の取り組みを契機として,日本の外交的地平が西側全体に拡大したことを論証する。
著者
横本 真千子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 = Economic Studies (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.27-43, 2014-12

1980年代からインドネシアは海外への労働者派遣を本格化させた。大多数は,アジア各国へ出稼ぎに行く女性家事労働者である。小論では,現在の募集・派遣ネットワークの歴史的形成過程と内在する問題点を指摘し,出稼ぎ国の香港での調査から,募集・派遣ネットワークがいかに彼女たちの就労に影響を与えているかを考察する。現在の海外出稼ぎの募集・派遣ネットワークは,募集人の村での活動や渡航費用の前借りなどの点で,政府が制度化に乗り出す前に農村において慣行化したインフォーマルな海外渡航ネットワークと似通っている。海外出稼ぎ女性家事労働者は,農村在住の募集人から海外出稼ぎの情報を入手し,仲介企業へと帯同される。彼女たちは,渡航前に渡航関連費用を工面する必要がないかわりに,渡航後およそ半年にわたって賃金のほぼ全額を渡航費用の返済に充てる。この募集慣行が,香港で働くインドネシア人女性家事労働者に他国の出稼ぎ労働者に比べて低賃金かつ悪条件での就労を強いる要因となっている。女性家事労働者は,香港での就業によって情報へのアクセスが可能になる。そして,海外出稼ぎ終了後,彼女たち自身が募集人となって渡航ネットワークの一端を担う。
著者
大塚 昇三
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.167-182, 2015-06-11

フーリエには情念が世界をかたちづくるという根本思想がある。もし人間が情念にしたがって自由に行動すれば情念の引力と斥力が働いて,歩兵隊の陣形のように中心集団と,その両側に中心集団と競い合う二つの極集団を形成する。この中心と両極の構造をフーリエは系列とよぶ。情念が,情念みずからの存在や働きを,人間の集団形成の行動を通して系列構造という目にみえるかたちであらわす,ともいえる。そして神がこの系列構造を原型にして世界のいっさいをかたちづくる。情念が自由ならいっさいが系列構造を分有して統一がうまれ,世界は調和する。情念が抑圧されると系列構造に歪みが生じ,統一が乱れて世界は不和になる。これがフーリエの根本思想である。本稿では,「文明のカースト」を中心に,このカーストの階層構造と系列構造との対応関係を確認する。この確認作業をもって,フーリエが系列といういわば事物の認識パターンにそって外界からの情報を分類・編集し,かれ独自の鍵になる観念を成形しているという筆者のフーリエ解釈の傍証としたい。
著者
谷口 勇仁 小田 寛貴
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.13-22, 2016-06-09

本稿は,大学院の理系研究室の運営を「ラボラトリーマネジメント」と位置付け,効果的なラボラトリーマネジメントを探求するために,ラボラトリーマネジメントの課題を明らかにすることを目的としている。まず,ラボラトリーマネジメントに関連する先行研究を概観した上で,先行研究では民間研究組織との比較検討の視点が欠けていることを指摘した。次に,大学院理系研究室と民間研究組織との比較検討から①小規模な組織,②高い流動性,③PIの大きな自由裁量度,④多面的な成果評価という4つの特徴を導出し,大学院研究室の運営責任者であるPI(Principal Investigator,主任研究員)は,「小規模で流動性が高い組織において,大きな裁量のもとに,多様な成果を達成することを求められている」ことを明らかにした。最後に,上記の特徴を検討し,ラボラトリーマネジメンの課題として,①先輩と後輩の経験格差が非常に小さいことを前提としたOJTの運用と,②実験研修・研究打合せ・研究発表等の制度の構築と維持を指摘した。
著者
小山 光一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.47-66, 2005-03-10

本稿は、わが国の財政赤字の構造を制度分析の観点から検討している。公債の累積を財政制度の欠陥として捉え、財政制度として国債の償還制度、財政政策、財政投融資、地方財政、社会保障(公的年金と医療)、および税制を取り上げる。各制度がどのような制度の欠陥をもち、それが財政赤字をどのように拡大させているのかを検討する。現実の制度の下で各経済主体は合理的な行動を行い、その結果として「制度の下での均衡」が生じる。制度の欠陥により、「制度の下での均衡」が非常に不安定な均衡になり、この結果、歳出が拡大するとともに税収が異常に低い状態になって、財政赤字が拡大していることを示す。さらに、公債累積の影響として財政破綻の可能性と公債の負担を論じる。公債が累積した結果、わが国は財政破綻の危機に直面しているとともに、累積した公債を償還していく過程で国民の負担は著しく高くなる。例えば、景気が回復しないで金利が上昇すれば、巨額の公債に対する利払い費は急激に上昇するので、財政は破綻の危機に直面し、これを回避するため国民の税負担は著しく高くなる。今後、財政破綻を回避しながら、どのように累積した公債を減少させていくかを検討している。
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.i-iii, 2007-03-08
著者
本田 宏
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.195-215, 2014-01

(旧西)ドイツでの原子力をめぐる政治過程の中で再三設定されてきた,原子力推進・反対両派の討議の場を保障する「政策対話」の主要事例を概観する。(1)反原発運動の拡大に当惑するSPD(社会民主党)とFDP(自由民主党)の連立政権が試みた「原子力市民対話」(1975~78年)。(2)紛糾する再処理工場計画の検討を専門家に委ねるため,CDU(キリスト教民主同盟)の州首相が設置したゴアレーベン国際評価会議(1978~79年)。高速増殖炉をめぐる連邦与党内および州政府との対立を契機に連邦議会が設置した「将来の原子力政策」(3)第一次および(4)第二次特別調査委員会(1979~82年)。(5)チェルノブイリ原発事故後の再処理工場や高速増殖炉の建設の放棄という情勢を踏まえた利害関係者による交渉としてのエネルギー・コンセンサス会議(1993年)。この延長線上にSPDと緑の党の連立政権と電力業界との脱原子力合意(2000年)がある。(6)福島原発事故後,キリスト教民主・社会同盟とFDPの連立政権が脱原子力への政策転換を正統化するため設置した「安全な電力供給に関する倫理委員会」(2011年)。以上である。
著者
後藤 祐一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.163-207, 2009-06-11

本研究の目的は,NPO,政府,企業間の戦略的協働(以下「協働」と略記)がいかにして形成,実行および展開されるのかを解明することである。分析された事例は,1970年代後半から顕在化したスパイクタイヤに起因する粉塵問題の解決を目的とした協働である。分析の結果,(1)協働アクティビストがアジェンダの重要性を参加者に認識させる場合,協働が促進される,(2)組織のやる気が最も高い組織は,時間の経過とともに交替する,(3)参加者によって能動的もしくは偶然に,3種類の協働の窓がほぼ同時に開かれる場合,協働の実現可能性が高まる,等の仮説命題が支持された。
著者
荻野 昭一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.207-227, 2014-01-24

平成25年金融商品取引法改正の中に,昭和63年に制定されたインサイダー取引規制の基本的構成を大きく変換させる改正が含まれている。すなわち,インサイダー取引規制とは,上場会社等の役員等の特別の立場にある者が,重要事実等を知った場合において,これが公表される前に所定の有価証券の取引を行うことを規制しているものである。これまで,情報受領者によるインサイダー取引を助長・誘発する可能性のある情報伝達行為については,禁止の対象とはされてこなかったところ,改正法は,情報伝達行為及び取引推奨行為を規制の直接の対象としたところに大きな意義が認められる。そして,これまでの形式的な規制体系によって構成要件の客観化・明確化という重要な特徴を有していたインサイダー取引規制体系に,新たに主観的な要件や抽象的な概念が加わることとなった。本稿は,金融審議会報告書の内容に照らしつつ,従来のインサイダー取引規制の基本的構成を大きく変換させることとなる情報伝達・取引推奨規制について,その構成要件を詳解した後,論点を抽出して考察を試みたものである。
著者
岡田 美弥子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.79-89, 2003-03-11
著者
清水 一史
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.1-9, 2013-02-21

現代世界経済の構造変化のもとで, 東アジアの経済統合が更に求められてきている。世界経済の構造変化の中でASEANは1976年から域内経済協力を進め, ASEAN自由貿易地域(AFTA)を確立し, 現在は2015年のASEAN経済共同体(AEC)の完成を目指している。アジア経済危機後には, ASEANを中心に広域の東アジアの地域協力とFTAも進められてきている。そして世界金融危機後の構造変化が, 東アジア経済統合の実現を強く迫っている。世界金融危機後にこれまでの東アジアと世界経済の成長の構造は転換を迫られ, ASEANや東アジアの経済統合がより求められるようになった。また世界金融危機後のアメリカの状況の変化は, 対アジア輸出の促進とともにTPPへの参加を促し, TPPの構築の動きはASEANと東アジアの経済統合に大きな影響を与えている。本稿では, 世界金融危機後の世界経済と東アジア経済の構造変化のもとにおける, 東アジアの経済統合を考察する。