著者
原 二郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.39, 2003-10-30

白内障術後眼内炎の発症抑制に関与する因子として,睫毛切除,抗菌薬投与,灌流液への抗菌薬添加などを文献的(1966~2000年の英文での論文88編)に考察し,イソジンによる術前洗眼のみが眼内炎の発症抑制に有効であったと2002年Ciullaらは報告している1)。 イソジン(ポビドンヨードpovidone-iodine,PVP-I:polyvinyl pyrrolidone iodine)液の眼科での使用を歴史的にみれば,1959年神谷ら2)が,治療(投薬用)には64倍希釈液,洗眼(処置用)には16倍希釈液を用いて,流行性角結膜炎を含めた急性結膜炎(約200例)の治療を行い,副作用や刺激作用はなく結膜炎の治療に有効であったと報告している。1981年中谷3),眼科手術領域でのイソジンによる消毒効果と家兎での眼障害を検討し,結膜囊消毒には8倍希釈液の使用を勧めている。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1032, 2019-10-10

芥川龍之介が大正10年に発表した『藪の中』は,関山から山科へ向かう山中で,多襄丸という盗賊が,通りすがりの夫婦の妻を夫の面前で凌辱するという話である. ところが,そこで起きた事実に対する3人の当事者の陳述が異なるために真相は藪の中ということになるのだが,この事件を性的暴行事件という視点から捉えた場合,注目されるのは,「清水寺に来れる女の懺悔」として記されている妻の陳述である.
著者
西村 正治 川上 義和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.349-356, 1984-04-15

低酸素換気応答とは,文字通り生体に低酸素刺激を加えたときの換気の応答パターンを評価する検査方法である。周知の如く,一般に生体に低酸素血症を誘導すると末梢化学受容器,ヒトでは主として頸動脈体を介して換気は代償的に増加する。しかし酸素受容が生命維持に最も重要で必須の生理学的事象であるにもかかわらず,不思議なことにこの低酸素換気応答の程度は個体間のばらつきが非常に大きく,ときには低酸素により換気はむしろ抑制されるという現象すら生ずる。従ってこの応答が種々の心肺疾患の病態の修飾因子となり,病因・病態の解析や治療とくに酸素療法を考えるうえでも重要な意味をもつものと想像されるが,検査手技の複雑さや検査自体のもつ危険性のため,必ずしも日常的な臨床検査項目となるには至っていない。当施設においては,動脈血ガス二重制御装置の開発以来1),高炭酸ガス換気応答と合わせて,本検査を数多くの健常人や患者で比較的容易に施行できるようになった。本稿においては,それらの知見も合わせて,測定方法と評価法に関する現在の問題点を概説し,次に臨床的立場から慢性閉塞性肺疾患と低酸素換気応答にふれ,最後に低酸素換気抑制の問題についても解説を加えたい。
著者
菅原 英和 日下 真由美 笠井 世志子 水間 正澄 石川 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.123-129, 2021-02-10

はじめに 障害者のリハビリテーションは,身体的,精神的,社会的,職業的,経済的な有用性を最大限に回復させることを主目標としている.就労世代の脳卒中では,自宅に退院しただけでは主目標を達成したことにはならず,退院後もさまざまなリハビリテーションによる支援を受けながら,復職や何らかの社会参加の可能性を徹底的に追求しなければ最大限の回復を目指したことにはならない.ただ,高次脳機能障害や失語,片麻痺などの障害を遺した患者の復職支援は簡単ではない.患者と家族が回復の階段を一歩一歩着実に登れるよう,地域のリハビリテーション資源や専門職がおのおのの役割を果たしながらも休職期間の限られた時間のなかで機を逃さずに連携し,最後は職場をも巻き込んで復職へのソフトランディングを実現できるよう適切にコーディネートする必要がある.連携や支援の輪が途中で切れてしまい十分なリハビリテーションを受けられずに復職の可能性が消えてしまう,あるいは準備不足の状態で復職を迎えてしまいうまく定着できずに退職してしまうような事態は何としても避けたいところだが,実際には残念なケースが少なからずあるのではないかと思われる. このような「危うい治療過程」となっている就労世代の脳卒中リハビリテーションを少しでも確かなものにするためには,地域のリハビリテーション資源の役割分担と連携を明確にし,一部のモチベーションの高い職種や個人に依存しすぎない就労支援のシステム作りが求められる. 本稿では,就労世代の脳卒中患者が,急性期,回復期,生活期のリハビリテーションから就労支援を経て復職に至るまでのあるべき連携とおのおのの役割,共有するべき内容について述べてみたい. 就労世代の脳卒中患者が復職を目指してリハビリテーションを行う場合,「就労準備性」を高めていくという共通の目標を共有しながら進めていくことが重要である.「就労準備性」とは,働くことについての理解・生活習慣・作業遂行能力や対人関係のスキルなど基本的な能力のことである.図1は「就労準備性ピラミッド」と呼ばれているもので,復職を目指すにあたっては「健康管理」,「日常生活管理」,「対人技能」,「基本的労働習慣」,「職業適性」の5つの項目に対する能力を,着実に積み上げていくことの重要性を表している1).実際には,これら5つの項目にはさらに細分化された下位項目が設けられており,チェックリストや支援計画書という形でさまざまな就労支援機関で使用されている. 「就労準備性ピラミッド」の積み上げは就労支援のサービスに移行してから開始するのではなく,発症直後の急性期病院にいる段階から開始されるべきである.急性期,回復期そして生活期の外来リハビリテーションや自立訓練を通じて「健康管理」,「日常生活管理」,「対人技能」を底辺から着実に積み上げていき,就労支援機関に移行した後は「基本的労働習慣」,「職業適性」の仕上げに専念できるようにしておくのが理想的である.「健康管理」,「日常生活管理」などの基礎が脆弱であると,就労支援へスムーズに移行できなくなるだけでなく,何とか復職できたとしても長期的にはさまざまな部分で綻びが出て働き続けることが難しくなってしまう. 図2は,回復期リハビリテーション病棟に入院するような中等度〜重度の障害を有する就労世代の脳卒中を想定して,発症から復職までにかかわるべき主なリハビリテーション資源と専門職を,急性期,回復期,生活安定期,就労準備期,就労定着期の5つの時期に分けて示したものである.これらの資源は施設面でも制度面でもバラバラに存在しているが,復職を支援する統一体として要所要所で手を結び合って機能していく必要がある.
著者
藤田 公生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.928-930, 1990-10-20

ひとの横顔は,みるひとの左手のほうを向いて描かれることが多い,本誌の局所解剖シリーズをみてもわかるように,解剖図で矢状断面を描くときは向かって左が腹側で右が背側である.ところがこれに反対をしているひとがいる.こう書くとすぐにわかるかも知れないが,超音波医学会の偉いひとが,われわれは患者の右側面からみた図,つまり頭側を左,足側を右に記録しようと決めてしまったのである.本誌をみてもわかることであるが,この原則もすでに定着している.この原則が実は,長い間私たちの慣れ親しんできた図と対立してしまった. 私たちの多くは,尿道造影を斜位でとるときも腹側が左になるように撮影してきた.放射線医もMRCTの矢状面を描くときは左に向かった図を示している,これも本誌をみればわかることである.だから超音波断層像だけが反対を向いているので,総合的に画像診断をしようとするときにちょっと具合が悪いことが起こる.彼らもこれに気付いたものだから,放射線医にも図を右向きに変更するように迫っているという,こんなことは力関係で決まるものだから,ひょっとすると解剖の教料書も今後は全部右向きにさせられるかも知れない.
著者
本 仙一郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.388, 1964-05-10

われわれ臨床医は日常浣腸を患者に施しているが浣腸剤やその使用法については案外無関心であるし,医者自身が不潔なものとしてプレまかせであるのが現状ではあるまいか。浣腸は排便を促すものであるが,これが診断の助けともなり,治療に役立つものであればこれほどありがたいものはない。浣腸剤としてグリセリン,薬用石ケン,オレーフ油,重曹,食塩などが用いられている。私は主として食塩を用い,他にはグリセリンを使用するのみである。500cc入りのイルリガートルに2mのゴム管と先にエボナイト製肛門挿入管(約5〜6cm)を連結する。42℃,2%食塩水500ccをこのガートルに充たす。患者を側臥位にして下肢を軽く屈曲せしめ肛門にワセリンを塗布,ガートルを1.5m高さに保持して肛門挿入管を静かに肛門内に3〜4cm挿入,食塩水を注入する。温度が下らないように速やかに注入する。急激に行なうと失禁することもあるので注入時ゴム管を片手でおさえて速度を加減する。患者は300cc入るとだれもが軽い排便感が起こるが,そのまま注入をつづけ便意促追がつよく患者が我慢しえないというまで注入する。その後,ただちに排便させる。成人であればこの食塩水の直腸許容注入量(私は仮に直腸収容量と名づく)は男女ともに平均420ccである。
著者
島田 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.698-702, 2014-10-15

認知症の危険因子と保護因子 認知症の予防へ向けた取り組みを計画するには,その危険因子と保護因子を理解し,介入対象となる住民を特定する必要がある.年代別に認知症の危険因子をみると青年期における高等教育や,それ以降の知的活動は認知的予備力の向上と関連し,この認知的予備力は加齢による認知機能の低下に大きな影響は及ぼさないが,認知症発症抑制に寄与するかもしれないと考えられている1).中年期においては生活習慣病の管理が重要であり,高血圧,脂質異常症,糖尿病は脳血管疾患の危険因子であるとともにアルツハイマー病の危険因子でもあり,服薬管理,規則正しい食生活,運動習慣の確立が保護因子となる.高齢期には老年症候群などの因子が重要な認知症の危険因子となる. 例えば,高齢期のうつ症状は,活動性を低下させ社会的孤立を招くとともに,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)の発現を減少させる.BDNFの低下と海馬の萎縮は関連し2),これが脳の予備力低下につながる.また,転倒などによる頭部外傷は将来のアルツハイマー病発症の危険因子である3,4).これらの高齢期における老年症候群などの因子を回避するためには,身体,認知,社会的活動を向上し,活動的なライフスタイルをいかにして確立していくかが高齢期の認知症予防対策として重要であると考えられる(図1).
著者
林 眞弘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.85-90, 2018-01-15

抄録 統合失調症の治療は現在もドパミンD2受容体遮断作用を有する薬剤が主体で,精神科領域でのパーキンソニズムは一般的な神経症状である。パーキンソン病(PD)は,65歳以上の有病率は約1%と言われており,初老期以降の統合失調症患者でPDの合併に注意が必要である。一方若年性PDの有病率は40歳以前で0.00001%以下ときわめて低いため,成人早期の統合失調症患者に合併した際に,PDの診断・治療が遅れる恐れがある。今回,発症から約10年の経過を経て心筋MIBG,DaTSCANでのPDの診断が確定し,ドパミン補充療法にて精神・運動症状の顕著な改善を認めた43歳の統合失調症症例を経験した。その症状・経過とともに黒質線条体神経系の変性に関連のあるPD様症状も検討した。
著者
高木 章好 梶田 哲 豊田 典明 山本 明美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.148-151, 2000-04-15

ウイルス性疣贅の一型である尋常性疣贅の中には液体窒素による凍結法などに反応せず,治療に苦慮する症例がある.今回我々はモノクロロ酢酸による腐食療法を行い,本法が安価で簡単,安全かつきわめて有効な治療と思われ報告する.方法は,少量のモノクロロ酢酸飽和水溶液を楊枝の先で直接疣贅に塗布し(疣贅上に付着した液を数回軽く突くようにして疣贅内に浸透させるが,周囲に流れないように気をつける),乾燥を確認し帰宅させ,処置した日は入浴をさける.原則とし1週間に1度の間隔で施行した.結果は,1998年1月から6月まで総数377例,男171例,女206例に施行し,最年少は2歳男児,最高齢は83歳女性であった.ほとんどの症例で著効または治癒し,不変,悪化は足底で1.8%,手背は0.6%であった.
著者
坪井 良治 田嶋 麿美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.133-136, 2006-04-01

要約 マラセチア(Malassezia)は,1996年,Guéhoによる再分類やその後のSugitaらによる新菌種の報告などで11菌種に分類されている.鱗屑から直接,菌由来DNA配列を検出することによりマラセチアの同定が可能になったことから,健常人や各種皮膚疾患において複数の菌種が同一部位に定着し,病態に関与していることが明らかになってきた.これまでの研究結果から,癜風やマラセチア毛包炎はマラセチア感染症といえるが,脂漏性皮膚炎はマラセチアが発症に深く関与した疾患であり,アトピー性皮膚炎では増悪因子の1つであると考えられる.また,痤瘡,酒さ様皮膚炎,ステロイド外用薬長期使用中の皮膚炎にも関与している.これらのマラセチア感染症や関連疾患に対して,ケトコナゾール外用薬やイトラコナゾールの内服を,感染症に対しては単独で,関連疾患に対しては従来治療に上乗せする形で投与すると著明に症状が改善することを報告した.
著者
渡邉 誠 金村 尚彦 今北 英高 森山 英樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.675-678, 2005-07-10

はじめに 末梢神経障害に対するリハビリテーションは,末梢神経損傷後の再生時にmisdirectionの問題が存在するために,知覚再教育としての知覚のリハビリテーションが必要となる. 末梢神経損傷後の知覚再教育は30 cpsと256 cps音叉の振動刺激および動的触覚のある部分が手掌まで回復してきた段階で開始するのが一般的である.Dellon1)は,末梢神経損傷後の知覚回復に関して,痛覚,動的触覚,静的触覚,振動覚の順に回復が認められたと報告している.この初期の回復段階,30 cpsや動的触覚は,皮膚機械受容器の一つであるマイスナー小体によるものとされる.マイスナー小体が初期に回復する理由として,複数の神経線維により神経支配されるため,神経再支配が起こりやすいと考えられている.機械受容器に関しては,立川ら2)は,日本ザルの前肢を用いた両側固有指神経切除後のマイスナー小体の形態的変化について,Navarroら3)は,坐骨神経の挫滅または切断後1~7週でのマウスfoot padへの感覚と神経再生の時間的順序を報告している.知覚障害に対するリハビリテーションの観点から,末梢神経と機械受容器の変性および再生過程の解明が進みつつある. 本研究の目的は,機械受容器の一つであるマイスナー小体に焦点を当て,ラット前肢の神経切断直後からのマイスナー小体の変性過程を形態および組織学的に検討することにある.とくに,このマイスナー小体の層板細胞より産生される非特異的コリンエステラーゼの分布域を調べることで,神経切断によるマイスナー小体の酵素活性領域の経時的変化を検討した.
著者
井上 義郷
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.395-400, 1964-07-15

ゴキブリの駆除法の一つとして,蒸したジャガイモに,硼酸を混ぜたものを毒餌として適用する方法が一般に広く知られている事実から,ゴキブリの駆除は,個々にはかなり古くから行なわれている事が想像されるが,しばらくの間はその技術的な進展は,全国的に大きくとりあげられたハエ蚊駆除運動のかげにかくれていて,殆んどみられなかった。しかし,その間にあっても,新たな合成殺虫剤の登場に伴ない,近代的な駆除技術の検討は,実験的にすでに実地に進められていたわけであり,たまたまそれが大きく一般にとりあげられるようになったのは,最近のポリオの流行時からと云ってもよいであろう。ゴキブリの疫学的な意義はひとまずおくとしても,当時,ハエと全く同じ意味で不潔な害虫として,その駆除が行政的にも考慮された事がきっかけとなり,一方では,ちょうどそれに答える駆除技術が或る程度完成をみていた事も幸して,ゴキブリの駆除は急速に進展したと云う事が出来よう。 このように,ゴキブリの駆除が俄かに注目されるようになった為か,現在一般に行なわれている駆除法には,まず目につく彼等を追廻し,それらを叩きつぶしたり取り抑えたり,或いは走り廻る彼等をめがけて殺虫剤をふりかけたりする,至って素朴な段階から,蒸したジャガイモに硼酸を混ぜたものや殺虫剤の毒餌を適用する方法とか,くん煙,煙霧や局所重点残留処理法など,技術的にはより高度なものまで,いろいろな段階がみられるわけである。