著者
長 徹二 根來 秀樹 猪野 亜朗 井川 大輔 坂 保寛 原田 雅典 岸本 年史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1115-1120, 2010-11-15

はじめに アルコール依存症患者は自ら治療を受けることは少なく,家族などの勧めで医療機関を訪れることが多い。これはアルコール依存症に特徴的であり,「自分がアルコールに関連した困難を抱いていること」をなかなか認めることができないことに起因する。そのためか,わが国には治療を必要とするアルコール依存症者だけでも約80万人存在する23)と推定されているが,実際に治療機関を受診している患者数は約4.3万人16)しかいない。 アルコール依存症はさまざまな疾病とのかかわりも多く,一般病院に入院していた患者のうち17.8%(男性患者では21.4%)もの人がアルコールに関連した問題を抱えている可能性があった27)と報告されているように,医療機関を受診する患者の中に占めるアルコール関連の臓器障害や機能障害の割合は想像を はるかに上回るものであると予測される。また,総合病院において,他科から精神科への紹介患者におけるアルコール・薬物関連疾患の割合は30%前後2,18)と報告されており,連携医療の必要性が示唆されている。 アルコール依存症を一般病院でスクリーニングし,専門治療機関に紹介する連携医療を展開するために,1996年3月に,三重県立こころの医療センター(以下,当院)が中心となって三重県アルコール関連疾患研究会(以下,当研究会)を発足させた。当研究会はアルコールに関連する問題を抱えている患者を対象とした研修や研究発表に加え,断酒会員やその家族の体験発表などを中心とした内容で構成されている。三重県内の100床以上の総合病院の中で,当研究会を開催した病院は8割を超えており,参加者総数は2,000人に達している。当研究会発足前の1996年の三重県の報告では,アルコール関連疾患により一般病院に入院してからアルコール専門医療機関受診するまでの期間は平均7.4年もの月日を要しており14),アルコール関連疾患にて一般病院で治療を受けてもアルコール依存症の治療が始まるまでに長い月日を要してきた。そのため,治療介入後の最初の10年間の死亡率が最も高い26)と報告されており,早期診断・早期介入が急務の課題であるといえる。 一般病院でアルコール依存症の教育,啓発そして連携を進めてきた当研究会の成果を調べるため,今回はアルコール専門医療機関である当院に受診するまでの経緯に関する調査を行った。
著者
高宮 彰紘 田澤 雄基 工藤 弘毅 岸本 泰士郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.15-23, 2019-01-01

精神科診断は主に患者の訴える症状をもとに行われており,脳画像などの生物学的な検査は診断補助ではなく器質性疾患の除外目的で行われることが多い。近年は主に機械学習といった人工知能技術を脳画像検査に応用し,精神疾患の診断や治療反応に用いるための研究が行われている。人工知能技術は,個別の症例の診断補助となり得るうえ,精神疾患の病態解明に寄与する可能性がある。
著者
谷川 直
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.455-459, 1990-05-01

サマリー 頸動脈波,頸静脈波などの脈波は記録が容易であり,装置の手軽さなどから臨床的には十分に有用である.本稿では,この二つの脈波の記録法,波形の解釈と臨床的意義について述べる.頸動脈波は左心系の情報を表しており,大動脈弁狭窄症,特発性大動脈弁下狭窄症,心機能障害などの変化がわかり,また頸静脈波は右心系の変化についての把握が可能で,右房圧の上昇,右室の拡張期充満の状態の推測が可能である.
著者
伊関 友伸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.502-507, 2020-07-01

●新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の蔓延は,国が進めてきたこれまでの医療政策に対して大きな変更を迫る.●COVID-19の蔓延に対して,感染症指定医療機関が十分に配置できていない.●これまでの地域医療計画において,新興感染症への対応はほとんど考慮されていない.●感染症専門医の数や医師の集約化のメリットを考えれば,都市部の自治体・公的病院を統合・再編して機能向上を図る必要がある.
著者
川下 芳雄 小林 弘典 大賀 健市 大盛 航 板垣 圭 藤田 洋輔 竹林 実
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.837-845, 2016-10-15

抄録 視覚障害者に鮮明な幻視を呈する病態はシャルル・ボネ症候群(Charles Bonnet Syndrome;CBS)というが,近年,難聴の高齢者の一部に音楽性幻聴が出現するCBSの聴覚型が聴覚性CBS(auditory CBS;aCBS)と呼ばれている。高齢女性の難聴者に音楽性および要素性幻聴が生じ,aCBSが疑われ,非定型抗精神病薬は無効で,carbamazepineを含む抗てんかん薬が有効であった2例を経験した。1例目は,軽度認知機能障害をベースにaCBSが生じ,精神運動興奮,被害念慮を伴い,脳波異常はなかった。2例目は,被害妄想を伴い,脳波異常を有していた。2例とも脳萎縮,右側頭葉の血流増加の所見を共通して有しており,解放性幻覚仮説と呼ばれる脳の脆弱性や機能変化がaCBSの病態に関連する可能性が考えられた。
著者
山口 晃史 島村 忠勝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.173-178, 2001-02-15

はじめに 重症感染症ならびに慢性化した感染症に対し抗生剤の多剤連用を強いられる場面に遭遇することはしばしば経験するものである.多くの場合,耐性菌に対する医師の意識の向上により十分なモニタリングのもとに適切な抗生剤の選択,投与,中止が行われているが,一部では不適切な選択,無計画な投与期間によって薬剤耐性菌が出現し病棟内に蔓延している場合も少なくない.薬剤耐性菌の存在が治療を困難にしているのは,呼吸器感染症においても例外ではなく,特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylp—coccus aureus:MRSA),ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)や薬剤抵抗性緑膿菌(Pseudomonasaeruginosa)による感染症は難治性となる場合が多い. 最近話題の植物由来生体機能物質であるフラボノイドの一種である茶カテキンが,これらの薬剤耐性菌をも殺菌することが明らかにされている.われわれは,このカテキンの殺菌活性を臨床応用し,MRSA呼吸器感染症に対し除菌を目的としてのカテキン吸入療法を提唱している1).本稿では,カテキンの抗菌活性とそのメカニズムならびに,難治性呼吸器感染症であるMRSA呼吸器感染症に対するカテキン吸入療法の実際とその可能性について述べてみたい.
著者
茂木 千聡 橋本 大 藤原 肇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.87-92, 2021-01-20

はじめに 鼻出血は,耳鼻咽喉科の日常診療や救急現場でよく遭遇する一般的な疾患の1つだが,出血部位の同定が難しい場合や出血部位によっては,しばしば止血に難渋し,入院対応や止血手術が必要となる。当科では過去に,2009〜2013年の5年間の鼻出血489例の臨床的検討1)を行った。今回われわれはさらにその後2014〜2018年の5年間の鼻出血症例の臨床経過をまとめ,鼻出血のリスク因子,特に難治例(入院例・再出血例・手術例)の傾向を検討したので報告する。
著者
露木 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.270-275, 2018-07-15

タキサン系薬剤による末梢神経障害を抑制する圧迫療法 我々は、手術手袋を90分装着するだけでタキサン系薬剤による末梢神経障害の発現を非装着時と比較して28%に抑制する方法を考案した。本圧迫療法は、手術手袋の圧迫により指先の微小血流が減少する作用を利用して、末梢神経への抗がん薬の曝露を抑制する新しい予防方法である。手術手袋さえあれば、どの施設でも簡単に実践できる末梢神経障害予防方法と考える。その原理と臨床試験の結果に基づく予防効果、今後の課題について述べたい。
著者
高久 史麿
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.19-25, 1980-01-15

TdTはオリゴ・ポリデオキシヌクレオチドをプライマー(primer)として,その3'OH末端にポリデオキシリボヌクレオチド三リン酸からのデオキシリボヌクレオチジル残基の付加を行う特殊なDNAポリメラーゼで,その測定にはpoly dAをプライマーとして3H-dGTPの取り込みでもって測定する生化学的な方法と,TdTに対する抗体を作製して間接螢光抗体法によって個々の細胞中のTdT活性を測定する免疫学的な方法とがある.TdT活性はかつてはT細胞のマーカーとされていたが,ほとんどすべての急性リンパ性白血病及び,約1/3の慢性骨髄性白血病急性転化例の芽球中にTdT活性が証明されること,TdT活性陽性の症例がビンクリスチン・プレドニゾロン(V-P)療法によく反応することなどが判明し,この酵素の病態生理学的ならびに臨床的意義がにわかに注目されるようになった. 現在TdT活性の生化学的な測定が幾つかの施設においてなされており,また螢光抗体法による測定も一般化しつつあるが,特に後者の螢光抗体法による個々の白血病芽球のTdT活性の測定は,今後日常の臨床検査として広く行われるようになるのではないかと期待される.
著者
島田 信宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.68, 1972-03-01

子宮内膜は月経周期とともに,増殖期,排卵期,分泌期と変化していくのを,皆さんはよくご存知でしょう。このような内膜で被われている子宮腔は,乾燥したものではなく,しめった液体で一面がぬれたようになっているのは子宮の内視鏡,ヒステロスコープなどで分っていたのですが,一体どんな液体があって,それが何の役にたっているのか,全く研究されていなかったのです。ところが最近,不妊女性の検査が一段と進歩してきたために,いろいろな観点からみて,子宮内膜にある液体も妊娠と何か関係あるのではないかと考えられるようになり,その検査も行なう必要があるといわれはじめました。 つまり,子宮腔の中にある液体は,子宮内膜からの分泌物や子宮頸管からの分泌物,あるいは卵管,腹腔内の液体も入って来て,みんなが入り交ったものとなっています。このような分泌物の混合体が子宮腔内の貯りゅう液で,これを「uterinemilk」子宮の乳汁(ミルク)というのです。如何にも妊娠との結びつきを想像させるような名前をつけたものですね。
著者
木村 徳宏 向井 萬起男 飯田 俊彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.380-381, 2007-04-01

はじめに GFAP(glial fibrillary acidic protein,グリア線維酸性蛋白質)は中枢神経系の星状膠細胞などに含まれている中間径フィラメントの構成分子で,分子量約50kDaの蛋白質である.中枢神経系では星状膠細胞のほか上衣細胞,末梢神経系ではシュワン細胞(Schwann cell)などに発現が認められる.腫瘍では神経膠腫などに陽性となる.また唾液腺の多形腺腫では腫瘍性筋上皮細胞にGFAPが染まることが知られており,これは筋上皮細胞の異分化と解釈されている.病理診断の現場では,抗GFAP抗体を用いた免疫染色は主に脳腫瘍の鑑別の際のグリア系マーカーとして使用されることが多いと思われる.ここでは,子宮内膜に生じた病変の診断にGFAP免疫染色が役立った興味深い1例を紹介する.
著者
本間 栄 村松 陽子 杉野 圭史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.359-365, 2010-04-15

はじめに 特発性肺線維症(IPF)増悪例の治療には,これまでステロイド剤が広く使用され,米国胸部学会(ATS)のIPF診療のガイドライン1)では,進行性に悪化するIPFに対してステロイド剤と免疫抑制剤であるシクロフォスファミド,またはアザチオプリンの併用を推奨してきた.しかし,これらの薬剤を併用しても効果は十分とは言えず,血球減少などの副作用で薬剤を中止せざるを得ない症例も少なくない.このため,最近では線維化が顕著となる以前の疾病早期からの治療導入が必要であると考えられるようになっている. グルタチオンはグルタミン,システイン,グリシンの3つのアミノ酸から合成される.IPFの末梢気腔ではグルタチオンが減少し,レドックスバランスの不均衡が生じ,特に進行例において顕著になる(図1~3)2~4).N-アセチルシステイン(NAC)はグルタチオンの前駆物質として抗酸化作用を有するとともに,直接活性酸素のスカベンジャーとして作用し,さらに炎症性サイトカインの産生を抑制することで,抗線維化作用を発揮すると考えられている(図4)5~7). また,最近の基礎実験において,IPFの線維化機序の一つである肺胞上皮細胞における上皮-間葉転換(EMT)がNAC投与により抑制されることが示された.これは,細胞内グルタチオンの補充とTGF-β1に誘導される細胞内活性酸素種産生を抑制する機序が主に関与している8,9).
著者
阿部 又一郎
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1131-1135, 2010-11