著者
庄司 信行 新家 真 奴田原 紀久雄 東原 英二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.647-651, 1990-05-15

炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)を1年以上投与されている緑内障患者32例に著明な代謝性アシドーシスとそれに対する呼吸性代償,骨塩の融解および尿での骨塩の漏出とカルシウム溶解性の低下が認められた。 このうち22例にクエン酸製剤ウラリット-U®を投与したところ,眼圧の変化はなく,骨塩漏出の低下と代謝性アシドーシスが改善した。 以上の結果からCAI長期使用例,とくに骨系統の疾患や慢性肺疾患の合併頻度の高い老人では,定期的な血中重炭酸とカルシウムイオンのチェックが必要である。ウラリット-U®はCAIの併用薬として有望である。
著者
岡和田 愛実 金子 文成
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.689-696, 2019-07-15

はじめに ヒトは身体や外界からの情報を固有感覚や皮膚感覚,視覚から得ている.運動を実行すると,それらの運動の感覚が入力され,知覚することができる.筋紡錘への刺激である振動刺激や皮膚を伸張させる皮膚刺激などを行うことで,実際には運動が生じていないにもかかわらず運動を認知する.このように,感覚刺激により,安静にしているにもかかわらずあたかも自分自身の四肢などが運動しているように知覚することを運動錯覚という1).筆者らは,視覚刺激を用いて運動錯覚を誘導する視覚誘導性運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:KINVIS)について研究を行ってきた.そこで開発されてきたシステムは,理工学的には仮想現実技術を応用したものである.また,運動の認知以前に映像内の仮想身体像に身体所有感を生じることから,脳内の身体認知システムに対する刺激方法であると言うことができる.さらに生理学的には,ニューロモデュレーション効果を発揮する刺激である. われわれは,日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)“未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業(ニューロリハプロジェクト)”の研究開発支援を受け,脳卒中に代表される中枢神経系疾患に起因する感覚運動麻痺の回復を図るための研究開発に取り組んできた.KINVISを誘導する臨床システムであるKiNvisTMは,そのプロジェクトで開発されたものである.このKiNvisTMを使用し,現在は脳卒中片麻痺患者を対象としたKiNvis療法の効果を検証している.
著者
戸田山 和久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.588-594, 2016-08-25

ロジカル界の不思議 一時期ほどでもなくなったように思うが,「ロジカルにシンクしようぜ」「論理的に書こうぜ」という掛け声はまだまだ喧しい。そして,汗牛充棟とは言わないまでも,「論理的思考ノウハウでウハウハ」系の本はいまでも書店のビジネス本コーナーの重要な一角を占めている。 こんな具合に巷には,論理的に思考し,話し,文章を書くにはどうしたらよいのか教えて進ぜようという言説が溢れかえっている。しかし,不思議なのは,「どうしたら論理的にほにゃららできるのか」を問う前に答えておかねばならないはずのもっと重要な問題,つまり,「なぜわれわれは論理的にほにゃららしなければならないのか」,あるいは,これと重なるけれども「どういうときにわれわれは論理的にほにゃららすべきなのか」,という問いに,明確な答えが示されたためしはないということだ。それどころか,これらの問いそのものが明示的に問われることも滅多にない。これを問い始めると,いずれ「論理的とはどういうことか」に答えなければならなくなってしまうからだろう。
著者
澤田 祐季 齋藤 知恵子 松川 泰 佐藤 剛 杉浦 真弓
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.807-811, 2018-08-10

●精液アレルギーは,精漿中の蛋白を抗原とし,局所の瘙痒から致命的なアナフィラキシーショックまで幅広い臨床所見を示す即時型アレルギー反応である. ●症状が重篤な場合は通常の性交では自然妊娠は困難であるため,挙児希望があれば脱感作療法,人工授精,体外受精が考慮される. ●それぞれの治療法にはメリット,デメリットがあるため,治療の選択肢を提示し,十分な説明をしたうえでの治療方針の決定が重要である.
著者
友田 尋子 山田 典子 三木 明子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.48-54, 2015-01-25

はじめに フォレンジック・ナーシング(Forensic Nursing)は,「司法看護」や「法看護」と和訳されているが,後者の「法看護」は法医学(Forensic Medicine)と対比する和訳として用いられることが多い。本稿はForensic Nursingを,2014年に設立した日本フォレンジック看護学会(http://jafn.jp/)同様に,「フォレンジック看護学」とする。フォレンジック看護学は,イギリス,オーストラリア,アメリカでは1つの確立した看護学分野として位置づけられている。 実は看護場面で出会う対象者と,司法との接点は多い。例えば,DVや虐待を受けた被害者と加害者の両者への看護,交通事故の被害者への看護,現場で患者から暴力を受ける医療職への看護,薬物・アルコールによる中毒死の患者や遺族へのかかわり,虐待などによる脳死者からの臓器移植コンサルテーション,オカルト儀式や宗教団体のなかで宗教の名のもとに行われる人権侵害や身体侵襲,外来受診や手術を受ける受刑者や服役中に病院で出産する受刑者などである。 欧米でのフォレンジック看護は,犯罪を防止し被害者をなくすことを目的とし,被害者と加害者を救済するための看護活動である。日本における現行の加害者支援は,司法精神看護(医療観察法病棟の看護),矯正看護(少年院や刑務所など矯正施設における看護)であり,被害者支援では性暴力被害者への看護としてSANE(Sexual Assault Nurse Examiner:性暴力被害者支援看護師)の育成が,特定非営利法人「女性の安全と健康のための支援教育センター」で行われており,2014年春で330人の修了生がいる。また,フォレンジック看護の視点での教育ではないが,子どもの虐待被害者支援としてけがや病気への看護,DV被害者への早期発見を中心とした看護が存在している。 しかし,日本の大学や大学院では学問的体系がなく,フォレンジック看護学の視点での教育や実践は始まったばかりと言える。その先駆けとしては,2011年4月から甲南女子大学大学院で開講したフォレンジック看護教育や,東京医科歯科大学大学院の司法解剖医学・看護学,2014年3月に設立した日本フォレンジック看護学学会がある。このような動きをとらえながら,本稿ではフォレンジック看護学への期待と展望について考える。
著者
中原 雄二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.439-446, 1995-04-15

毛髪薬物分析の歴史に続き,毛髪の組織構造や生態に関して説明し,①毛髪試料の前処理,②毛髪中の薬物の抽出法と分析方法,③薬物使用量と毛髪中薬物濃度の相関,④毛髪中の薬物の移動,⑤毛髪中の薬物分布と薬物使用歴,⑥毛髪中の薬物の安定性,⑦血中薬物濃度の比率と毛髪中濃度,⑧毛髪への薬物取込率,⑨毛髪分析による薬物依存症の診断への試み,⑩覚醒剤ベビー,⑪多剤乱用,の項目で毛髪中薬物分析の基礎から応用まで述べた.〔臨床検査39: 439-446, 1995〕
著者
山本 暢朋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.83-85, 2013-01-15

はじめに 統合失調症の薬物療法において,第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics;SGA)が果たす役割は大きくなっているが,各種SGAの位置づけや使い分けには議論が残されている。本邦で開発されたSGAであるperospirone(以下PRP)は,欧米各国においてほとんど使用できないこともあり,海外で作成された主要な治療ガイドライン・アルゴリズムでの言及がなされておらず,薬物療法上の位置づけについても共通したコンセンサスが得られているとは必ずしも言いがたい状況が存在する。筆者は,PRP投与後に統合失調症の強迫症状が改善した症例を報告しているが11),Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale日本語版(以下JY-BOCS)のような評価尺度を用いたものではなかった。 今回,PRP投与後に強迫症状が改善した統合失調症患者について,JY-BOCSを用いて強迫症状を評価した1例を経験したので,若干の文献的考察を用いてこれを報告し,統合失調症薬物療法上におけるPRPの位置づけについても簡単に触れたい。
著者
熊谷 晋一郎 栗原 房江
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.878-884, 2010-10-25

なぜ医療の道に進んだのか 栗原 私たちは2人とも,障害をもち医療へ携っています。今回は障害をもつ者として,教育と臨床に期待することを,話し合ってみたいと思います。 私の障害について最初にお話ししますと,小学校3年の春の健診で聴覚に障害があるとわかりました。当時は,25~30 dBの軽度であり,日常生活に支障はないと言われていました。19歳の頃,めまいで倒れて,それから少しずつ聴力が下がっていきました。それでも右耳が40 dB,左耳が35 dBぐらいで推移していました。25歳頃,右耳が突発性難聴になって90~100 dBと低下し,昨年の終わりぐらいからは左耳も落ち出して,今年になってスケールアウトになりました。
著者
井上 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.155, 2021-02-15

小児期の虐待,不適切な養育からはじまり,思春期・青年期のいじめ,成人期のハラスメント,老年期の虐待まで,他者からの攻撃は人間にとって最もつらく,しかも長期に心身に影響を与えるストレスである。小児期の虐待,いじめ,トラウマをはじめとする小児期逆境体験については,本誌61巻10号(2019年10月)特集「トラウマインフォームドケアと小児期逆境体験」で取り上げた。同特集は小児期の逆境体験に気付くこと,そしてトラウマインフォームドケアの重要性を指摘している。 最近,小児期にいじめを受けた体験が自殺につながること,さらに長期にわたり心身に悪影響を及ぼすという疫学的研究が報告され,いじめが長期的には精神疾患発症の原因となることも明らかになってきた。いじめに気付き理解することといじめを無くすることが,個々人の健康のみならず公衆衛生,あるいは国家経済の観点からも重要であると思われる。
著者
槻 浩司 戸田 佳孝 月村 規子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1027-1031, 2010-11-15

要旨:膝OA患者においてACLとMCLをパッドと蝶番付きの支柱によって補強する機能を有する比較的長いサポーターと,ネオプレーンゴム製のベルトに側方動揺性を防ぐコイルを縫いこんだ比較的短いサポーターを装着した場合での日常生活動作における疼痛の改善度を比較し,各装具の適応を考察した. 62例の膝OA患者を長いサポーター装着群(31例)と,短いサポーター装着群(31例)に無作為に振り分け,装着2週間前後での10項目の日常生活動作における疼痛の改善度を比較した.その結果,でこぼこ道での歩行における膝疼痛に関しては短いサポーター群のほうが有意に優れていた(P=0.014).その他の9項目に両群間の有意差はなかった.その理由として,ACLを補強するパッドが付随していると,でこぼこ道歩行時などの不安定な状態では重心動揺性がかえって増加するため疼痛が引き起こされると考察した.このことから,膝OAに対する軟性装具療法ではシンプルな装具でもスポーツ外傷で用いるような強固な固定力を有する装具と同等の効果(一部ではより高い効果)が得られると結論した.
著者
秋山 正子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.58-59, 2021-01-15

アメリカ発祥の「Continuing Care Retirement Community」、略称「CCRC」。これは、リタイア後の高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身暮らすことができる生活共同体のことを指します。計画的に「街づくり」された郊外の広大な地域に、数百人規模の高齢者が住むイメージです。そんな場所が、全米で2000か所にも増えているといいます。 一般的な高齢者施設と異なるのは、元気なうちからコミュニティに移り住む点。元気なうちから移り住むことによって、その地域共同体に新たな一員として加わることができます。そして、時間が経って医療や介護が必要となる段階が訪れても、そのころにはそこが「住み慣れた場所」となり、他地域にある施設へ移ることなく、適切なケアを受けながら暮らすことができるというわけです。
著者
矢吹 省司 菊地 臣一 丹治 一 Robert R. Myers
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.41-46, 2001-01-25

抄録:脊髄後根神経節(以下,DRGと略す)は,一次性知覚神経細胞を有し,腰痛や根性坐骨神経痛の発現に重要な役割を果たしていると考えられている.本研究の目的は,椎間板ヘルニア・モデルにおけるDRGの内圧の変化と臨床での椎間板ヘルニアにおけるMRミエロでのDRGの変化を検討することにより,DRGでのコンパートメント症候群の発生を証明することである.実験的検討から,神経根上への髄核設置はDRGの内圧を上昇させることやDRG内に浮腫が惹起されることが判明した.また,臨床的検討からは,責任神経根のDRGは反対側や対照群に比して有意に高輝度を呈し,腫大していることが明らかとなった.以上の結果から、腰椎椎間板ヘルニアにおいては,責任神経根のDRGには浮腫に伴ってコンパートメント症候群が惹起されることが証明された.
著者
形浦 昭克
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2564-2566, 1989-12-10

癌性疼痛緩和に対する薬物療法としてのブロンプトンカクテル(Brompton Coctail,BC)は,イギリスにおける胸部疾患病院で開胸手術後の鎮痛剤として使用されたのに始まる.その代表的処方例は,塩酸モルヒネ10mg,塩酸コカイン5mg,ワイン1mlおよび単シロップ2mlと,全量10mlである里このブロンプトンカクテルの療法から精神興奮状態が出現することから,塩酸コカインを除き,筆者らの施設においても塩酸モルヒネカクテルとして,1983年以来,使用してきた.
著者
八木 麻衣子 森田 英隆 坂本 雄 小諸 信宏 宮城 春秀 亀川 雅人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.212-221, 2021-02-15

要旨 【目的】リハビリテーション部門にて,トランザクティブメモリーシステム(transactive memory system:TMS)や組織風土と,職務・職場満足との関連性を検討することを目的とした.【方法】対象は首都圏の医療機関3施設のリハビリテーション専門職331名であった.調査項目は回答者属性のほか,TMSと組織風土を評価し,因子構造を確認して用いた.アウトカムとして職務・職場満足を調査し,多変量解析で関連する因子を検討した.【結果】職務満足は,TMSの高い信憑性,相互調整や高い専門分化,組織風土の高い組織環境性,職種,経験・勤続年数と関連した.職場満足は,高い信憑性,相互調整や低い専門分化,低い伝統性と高い組織環境性,年齢,勤続年数などと関連した.医療職としての転職経験,上司との意識的なコミュニケーションは職務・職場満足とも関連した.【結論】職務満足にはTMSの全要素と組織風土の組織環境性が,職場満足にはTMSの全要素と,組織風土の伝統性・組織環境性が関連した.今後は診療成績などとの関連性の検討が望まれる.
著者
児玉 聡
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.172-176, 2019-03-15

はじめに 近年,公衆衛生の分野では,公衆衛生の倫理に関する実践と研究の重要性がうたわれるようになっている.本稿では公衆衛生の倫理学の動向を概観する.最初に,公衆衛生の射程の問題を説明する.次に,なぜ今,公衆衛生の倫理学が問題となっているのか,そして,主要な倫理的課題にはどのようなものがあるのか,主要な倫理的アプローチはどのようなものかについて論じる.
著者
青木 裕志 浅見 志帆 飯野 瑞貴 小倉 加奈子 坂口 亜寿美 松本 俊治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1266-1270, 2016-12-01

はじめに ホルマリンは,1890年Blumにより固定液への応用が試みられてから今日に至るまで,病理標本作製においては欠くことのできない固定液となり,病理組織学の発展に多大な貢献をもたらしてきた.その理由として,取り扱いが容易なうえ,細胞形態を良好に保持し,さまざまな検索目的に対する汎用性に優れる点が挙げられる. 当初,ホルマリンは単に水で希釈しただけの固定液として使用されていたが,免疫組織化学など新しい検査技術が導入されるに従い,より精度の高い染色結果が要求されることとなり,固定液の組成にさまざまな研究が加えられてきた.Lillieによって報告された中性緩衝ホルマリンは,現在使用されている固定液の主流となっている. ホルマリンは優れた固定液である反面,人体に対しては強い毒性を示す化学物質でもある.法規上“医薬用外劇物”や“特定化学物質第二類”に指定され,その取り扱いや作業環境の管理には,法的な厳しい規制が課せられている1,2).このように,医療従事者へのホルマリン曝露が問題視され,作業環境の改善が求められるなかで,調整済ホルマリン固定液(市販品)が普及してきた背景がある. 調整済ホルマリン固定液(市販品)は,メーカーにより若干異なるが,約3年の使用期限が設けられている(図1).これは,ホルマリンが永久的に不変のものではないことを意味している.つまり,保管の過程で徐々に性状が変化し,劣化が進み,十分な固定効果が期待できない時期がいずれやってくるということである.使用期限切れのホルマリンを使用することは,程度の差はあれ,組織標本の質を落とし,病理診断の精度に影響を及ぼす可能性をもっている. 本稿では,期限を過ぎたホルマリンの使用により起こり得るリスクや,必要以上の劣化を進めないために保管に際してどのような注意を払えばよいのかを,ホルマリンの性質を踏まえながら解説したい.
著者
津野 香奈美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.177-186, 2021-02-15

抄録 近年,職場のいじめ・パワーハラスメント(パワハラ)は労働者の精神健康を害する大きな要因となっている。全国の労働局に寄せられる個別労働紛争相談の中で最も件数が多いのがいじめ・嫌がらせに関する相談であり,精神障害・自殺に関する労働災害の認定件数の中でも最も件数の多いものが,いじめ・嫌がらせ・暴行に関する事案である。そのような中,2020年6月には,企業に職場のいじめ・パワハラ防止を義務付ける法律が施行された。本稿では,職場におけるいじめ・パワハラ問題への理解を深めるために,いじめやパワハラの定義を整理した後,職場のいじめやパワハラを発生させる職場要因,および加害者要因について,これまでの研究で分かっていることを解説する。
著者
山下 光
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.281, 2016-03-01

10年以上にわたり,わが国で一般的な八田・中塚(HN)式利き手検査1)と,国際性の高いエジンバラ利き手検査(EHI)1)で大学生の利き手を調べてきましたが,最近気になることがありました。 2014年度の医学部新入生141名に実施したHN式では,8名(5.7%)が左利きと判定されましたが,右利き(115名)・両手利き(18名)の合計133名中24名(18%)が,マッチをするとき左手で軸を持つと回答しています。しかし,左手でマッチをする人が2割近くもいるとは思えません。同時に実施したEHI(八田訳)にもマッチに関する質問がありますが(「マッチをする手はどちらですか」),それに対しては,全員が「右手」と答えています。どうやら,今の大学生には「マッチの軸」という言葉がわからないというのが真相のようです。確かに「マッチの軸って棒のほうですか,箱のほうですか」という質問が複数ありました。そこで2015年度はHN式の項目を「マッチをするとき,軸(棒のほう)をどちらの手で持ちますか」に変更したところ,右利き129名,両手利き16名の合計145名中,「左手」と回答したのは1名のみでした。