著者
鮎川 宏之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.64-69, 2021-01-01

経頭蓋超音波検査(TC-CFI)を始める前に 頭蓋内血管の病変を評価する方法の1つに経頭蓋超音波検査(transcranial color flow image:TC-CFI)がある.この超音波検査は,磁気共鳴血管撮影法(MR angiography:MRA),コンピュータ血管断層撮影(CT angiography:CTA),デジタル・サブトラクション血管造影検査(digital subtraction angiography:DSA)のように特別な設備の必要はなく,従来の超音波診断装置にて非浸襲的かつベッドサイドでも簡単に繰り返し検査が行える. 近年では頸動脈病変の診断や治療方針決定にあたって,頸動脈超音波検査の進歩は目覚ましいものがある.しかし頸動脈超音波検査は高位病変や末梢(頭蓋内)頸動脈においては観察できず,MRIやCT検査に頼らざるを得ないことがしばしば臨床ではみられる.その際,TC-CFIを用いることで,頸動脈から頭蓋内血管までより詳しい評価が可能となることがある.本稿では,筆者がレジデントから受けた3つの質問について,簡単ではあるが解説したい.
著者
前田 宏明 恵谷 秀紀 多賀谷 昌史 奥 直彦 金 奉賀 中 真砂士 木下 直和 額田 忠篤
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.661-666, 1989-07-01

抄録 経頭蓋超音波ドプラ法を用いて中大脳動脈(MCA),脳底動脈(BA)の血流を非侵襲的に測定して,本法の再現性について検討した。健常成人15人に対して経頭蓋超音波ドプラ装置を用いて,側頭骨,後頭骨直下にプローブをあてMCA,BAの血流速を測定し,その最大,平均のドプラ偏位周波数を求めた。この測定を検者A,Bの間で,A,B,Aさらに日を改めてAと繰り返し,最初のAの測定値を元にして以後の測定値との間の変動係数を求めた。この結果から同一測定日内のA,A間,A,B間および異なる測定日間のA,A間の測定の再現性について検討した。同一測定日内のA,A間およびA,B間の再現性は,変動係数6-18%と比較的安定した値を示した。異なる測定日間のA,A間の測定の再現性は,同一測定日内の再現性よりも劣っていた。またMCA,BAの血流測定の再現性は,前者の方がより良好な再現性を示した。特に同一測定日内のうちのMCAの血流測定の再現性は,変動係数6-11%と良好な値を示した。本法は,簡便かつ非侵襲的な脳血流測定法として良好な再現性を示しており,ベッドサイドでの脳血流モニタリングや,急性または慢性の負荷に対する脳血流反応性の評価等にも応用可能な方法であると考えられた。
著者
皆川 邦直
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.319-330, 1992-03-15

■境界例概念の変遷 我が国では井村37)が,Hochらの偽神経症性分裂病32〜34),Zilboorgのambulatory schizophrenial29,130)と,Knightの境界状態55,56)を中心に境界例概念を紹介した。続いて武田は,境界例(境界線症例)116)の臨床記述をしたが,Shenken105)の考えをも参照して,仮性神経症型,妄想反応型,混合型(中間型)3型に分類した。 ところでHoch,Zilboorg,Bychowsky5,6)らは境界例を分裂病概念の内側ないし辺縁にあるものとしてとらえていたといえるが,この流れはKetyらの境界分裂病50,122),ならびに分裂病型パーソナリティ障害110,111)に至るといえよう。我が国では武田,小此木-岩崎94),三浦-小此木ら74〜77),笠原-藤縄ら12,43),安永124),神田橋41,42),河合47),船橋-村上ら13,44,84)などの研究を含めることができる。
著者
森 沙耶香 長谷川 寛雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.614-615, 2020-06-01

Q CMLではNAPスコアーが低値になる機序,急性転化時には上昇する機序について教えてください. A 慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)患者の成熟好中球においてアルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)活性が低下していることが発見され,細胞化学的ALP活性測定法である好中球アルカリフォスファターゼ(neutrophil alkaline phosphatase:NAP)染色法が確立し,白血球数が著増していない早期でもCMLの診断が可能になりました.しかしその後長らく,CMLにおけるNAP活性低下の原因は実はよくわかっていませんでした.近年,さまざまなサイトカインの研究が進むにつれて,その機序が解明されてきました.本稿では,CMLにおいてNAPスコアーが低値になる機序について解説しますが,急性転化時におけるNAPスコアーの上昇については原因が解明されていません.機序に関して諸説あるのですが,私見を交え説明したいと思います.
著者
林 光葉 小林 光 伊東 慶悟 谷戸 克己 石地 尚興 上出 良一 中川 秀己
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.949-954, 2012-11-01

要約 症例1:72歳,男性.初診の3か月前より前立腺肥大症に対しデュタステリド0.5mg/日の内服を開始した.その2か月後から両側乳頭部に疼痛が出現し,初診時両側乳輪部に有痛性の皮下硬結を認めた.超音波検査で両側乳頭直下に円盤状の低エコー像を認め,女性化乳房を疑った.内服中止し,約1週間で乳頭部の疼痛は軽減した.病理組織像では乳管上皮の増生や断頭分泌を伴うアポクリン化生を認めた.症例2:83歳,男性.初診の3か月前より前立腺肥大症に対しデュタステリド0.5mg/日の内服を開始した.その1か月後から両側乳頭部に硬結が出現し,初診時両側乳輪部に有痛性の皮下硬結を認めた.超音波検査で円盤状の低エコー像を認め,女性化乳房を疑った.内服中止後約1週間で乳頭部の疼痛は軽減したが,皮下硬結は4か月後も残存していた.病理組織像では乳管上皮の増生を認めた.5α還元酵素阻害剤の副作用としての女性化乳房は広く認識されるべきである.
著者
近藤 慶二 八木 保
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.112, 1994-02-01

浅野先生は昭和30年岡山大学医学部の卒業で,インターン修了後同第2内科(平木教授)に入局,33年からは米国スローン・ケタリング癌研究所に留学し約2年間腫瘍酵素学を学び教室に帰っている.もっぱらアイソザイムについて癌診断面の研究をし,また胃の血流や膵疾患とアミラーゼの関係などで後輩の指導にもあたっていた. 昭利42年岡山市民病院の内科部長,51年院長となり老朽化した病院を今のような立派な近代的な病院にした人でもある.
著者
皆川 洋至
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.433-442, 2014-05-25

はじめに スポーツ選手が訴える膝痛で最も多いのは,学会で話題になる半月板や十字靱帯,側副靱帯の損傷ではない.オーバーユースに伴う膝前方の痛み“anterior knee pain:AKP”である.臨床現場で遭遇するAKPには,現在大きく分けて3つの病態が考えられている.膝蓋大腿関節の圧迫・摩擦による膝蓋大腿関節障害,大腿四頭筋の牽引ストレスによる骨や腱の過労性障害,そして膝蓋下脂肪体や滑液包由来の痛みである.今回から3回にわたり,AKPに対する超音波診断について解説していく.オーバーユースに伴うAKPの第1回は「過労性骨障害overuse bone injuries」である.

1 0 0 0 結婚

著者
宮里 和子 鎌田 久子 坂倉 啓夫 末光 裕子 菅沼 ひろ子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.634-637, 1985-07-25

§続・初体験 前号において問題にした破瓜の習俗は,今日のモラルからみれば,許されることではないと決めつけがちであるが,一種の性教育とみなされていたことを見落としてはならない。 島根県東部の漁村での話に,12,3歳の娘が,まだ娘にならん前に,50歳以上のごけじいさんにオセ(大人)にしてもらうことがあったという。西石見地方でも娘が13歳になると,親が部落内の男衆に頼んで大人にしてもらうのをスケワリと呼んでいたという。福井県でもこのような習俗をアナバチといい,特定の者が,12,3歳の女子を一人前にして,若者(青年男子)の仲間に告げる風があった。破瓜したことを公表するわけで,前記の島根県でも,若連中(青年男子)にオセになったことをふれてもらったというが,これで名実共に一人前になったことで,婚姻可能な成女であることを公表し,結婚でぎることを願ったのである。
著者
鈴木 知準
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1077-1082, 1971-11-15

Ⅰ.はじめに さきに慈恵大学の野村1)は,森田が神経質の治療法を考究したとき,永平寺の修行を参考にしたのではないかと論じている。これは極めて興味深い発言であり,このことに関する論説はまだ発表されていない。森田の著書,論文を読んでも永平寺のことにふれているものはみあたらないようであるので,森田が永平寺の修行様式から直接影響をうけたことはないもののように思惟される。 しかし,新福2)のふれているように日本の禅的文化の背景下にそだった森田によって発見されたこの療法技法が,道元と同じかあるいは極めて近縁の道を歩むに至ったと考えるのが当を得ているようである。以下森田の療法と道元の永平寺の修行の相似相関について考察してみたい。
著者
後山 尚久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1029-1032, 2000-08-10

はじめに 経腟分娩において,麻酔を行って陣痛の痛みを和らげるものをわが国では無痛分娩あるいは和痛分娩と呼んでいる.この目的は,元来分娩時の強い陣痛による母体の苦痛(精神的,肉体的)を取り除くことにあるが,同時に母児双方に悪影響がなく,順調に起こっている陣痛を損なわないことが要求される.したがって,全身への作用の強い薬剤による全身麻酔や神経ブロックなどの局所麻酔剤の使用は,常に母児の状態を慎重に観察しながら行わなければならない. ハリ(鍼)麻酔が中国で普及しはじめて現在で40年ほど経過したが,産婦人科領域でも分娩,帝王切開,人工妊娠中絶術における麻酔や鎮痛の手段として試みられてきた.西洋でもTENS(trans—cutaneous electrical nerve stimulation:経皮電流刺激)による鎮痛が試みられており,鍼や灸と同様の理論基盤を持つ.本稿では,これらの麻酔薬を用いない減痛手段の分娩への応用について概説する.
著者
駒沢 治夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.54-55, 1968-04-09

パラフィン・バス 熱源としては交流を用い,バスの形・大きさは2種類のものが製造されている。バスの内部は腐蝕しないような金属を使用し,底部は特に患部が直接触れても火傷を起こさないように断熱材を用いてある。 バスの容量は製造会社によって異なるが,大体19kg(酒井),と35kg(八重洲)の2種類が良く使用されている。固形パラフィンは医療器店で発売しており,融点42~43℃のものは流動パラフィンを混合する必要がないが,46℃のものは固形パラフィン35kgに流動パラフィンを約1l入れれば良い。なお固形パラフィンは工業用としても発売されている。
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
1987-03-20

DMSO療法を受けた後で多くの患者が困ることは刺激性の強いニンニク様悪臭が残ることである。 ある患者は,この治療を受けたあとで,孫からゴリラのようないやな臭いがすると言われたので,それ以後,本療法を拒否したことがある.余談はさておき,この治療に関して著者は多くの患者から人のいやがる悪臭についてのきびしい苦情を聞いている。 最近,若い婦人の閲質性膀胱炎患者にDMSO治療を施したが,驚いたことには,悪臭については終始何の苦情も言わなかつた。そこで,どうして悪臭を出さないですんだのかと質問してみた。彼女はこれに対してかなり長い書面で答えてくれた。その要旨は悪臭の治療に関するものなので読者諸氏に紹介したい.
著者
立花 孝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.683, 2008-08-15

●インピンジメント(impingement)とは インピンジメントは「~に突き当たる,衝突する」という意味で,整形外科領域においてもその意味の通りに一般的な言葉としても使用されるが,殊に肩に関するある病態を表す言葉として半ば固有名詞的に認識されている.つまり,肩甲骨肩峰下と上腕骨頭との間(第2肩関節)で生じる衝突に由来する障害のことをimpingement syndrome,impingement lesions,あるいは単にimpingementと表現する. 従来より,この肩峰下での障害に対して,肩峰切除術が諸家により提唱されてきた(Watson-Jones,Smith-Petersen,McLaughlin).切除する範囲は報告者により異なるものの,肩峰を全層的に切除(acromionectomy)したため,三角筋の起始部を失ったことによる弊害が起こった.これに対し,Neer1)は衝突が起こるのは肩峰下面の前方1/3のみであるとの見地から,三角筋起始部を温存し,衝突する部分のみを水平にそぎ落とす方法(anterior acromioplasty)を提唱した.これ以降,インピンジメントという言葉が“Neer”とセットで固有名詞化していったようである.さらにNeer(1983)は,烏口肩峰アーチ(つまり棘上筋の出口)の形状が原因のものをoutlet impingement,そして元来インピンジメントの主役であった石灰沈着や大結節の変形治癒などをnon-outlet impingementと分類した.前者を3つのステージに分け,急性の肩峰下滑液包炎(スポーツによるオーバーユースなど)をステージ1,慢性の肩峰下滑液包炎や腱板炎(五十肩など)をステージ2,腱板不全断裂,腱板完全断裂,骨棘形成をステージ3として,インピンジメントが重症化していくなかで腱板が滑液包側から断裂していくとした.これに対し,腱板不全断裂はそのほとんどが関節面側にあり滑液包側ではないことから,断裂が滑液包側から起こるという説には異論を唱え(Uhthoff,信原2)),ステージ3を否定する者もある.
著者
木村 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.44-48, 2021-01-10

日本では,長年にわたりハンセン病隔離政策が行われ,患者・回復者および家族は偏見と差別によりさまざまな人権侵害を受けてきた。この政策に現場の行政保健師がどのように関わったのかを,高知県の保健師への聞き取り調査による証言を基に紹介する。また,それを受けて,差別・偏見を解消するために必要なことや,公衆衛生の専門職として持つべき視点を述べる。
著者
渕野 恭子 石戸 岳仁 武田 莉沙 小島 一樹 井上 克洋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.239-243, 2021-02-15

要約 目的:遷延する原因不明の両眼球結膜浮腫および両眼球結膜充血からクッシング症候群と診断し,原疾患の治療により眼症状の改善が得られた1例について報告する。 症例:53歳,女性。 病歴:6か月前から持続する両眼球結膜浮腫,両眼球結膜充血を主訴に藤沢市民病院眼科を受診した。0.1%ベタメタゾン点眼を使用したが症状は改善しなかった。眼症状の発症と同時期から高血圧,顔面浮腫や両下腿浮腫もみられ胸腹部CT検査を施行したところ,左副腎腫瘍がみられた。血液検査で副腎皮質刺激ホルモンが低値,尿中コルチゾルが高値であり副腎性クッシング症候群と診断され,左副腎摘出術が施行された。手術後速やかな結膜浮腫,結膜充血の改善が得られた。 結論:眼症状を契機に最終的にクッシング症候群の診断に至った症例を経験した。局所の治療に反応せず遷延する両眼の眼球結膜浮腫,眼球結膜充血がみられた場合,全身疾患の1症状として眼症状が起きている可能性があるため他科と連携して精査を進めることが肝要であると考えられた。
著者
髙橋 忠志 尾身 諭 泉 圭之介 菊池 謙一 遠藤 聡 尾花 正義 太田 岳洋 長谷川 士朗 柚木 泰広 北澤 浩美 方波見 裕子 八木 真由美 長井 ノブ子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271-274, 2019-03-10

はじめに 荏原病院(以下,当院)は東京都の区南部医療圏における中核病院の1つである.リハビリテーション科においては,中枢神経疾患や運動器疾患,廃用症候群,呼吸器疾患などを中心に,急性期から早期リハビリテーション介入を行っている.がん患者に対するリハビリテーションは2015年に所定のがんのリハビリテーション研修を修了し,がん患者リハビリテーション料が算定可能となった. がんのリハビリテーションガイドラインでは,周術期がん患者に対するリハビリテーションは呼吸器合併症の減少・入院期間の短縮のため勧められるとされている1).しかし,当院ではがん患者リハビリテーション料算定可能となった後も,がん患者のリハビリテーション科依頼は少なく,周術期がん患者に対して十分なリハビリテーション介入を行えていなかった. さらに,周術期の呼吸器合併症の予防で有効な手段として口腔機能管理が挙げられる.周術期の口腔機能管理は,口腔ケアによる口腔細菌数の減少,口腔感染源の除去,挿管・抜管時の歯牙保護が主な目的であり,周術期口腔機能管理料を算定できる.2016年度の診療報酬改定において,医科歯科連携の推進として,周術期口腔機能管理後手術加算の引き上げ,栄養サポートチームに歯科医師が参加した場合の歯科医師連携加算が新設され,現在,医科歯科連携がいっそう求められている. 当院では2016年度に外科,歯科口腔外科(以下,歯科),看護部,リハビリテーション科が協働して,がん患者の周術期サポートチームを立ち上げた.このチームをSupport Team of Rehabilitation,Oral care and Nursing care Group for perioperative patientsの頭文字を取り“STRONG”とした. これまで,医科歯科連携として,手術を行う主科と歯科の連携の報告は散見するが,歯科とリハビリテーション科が連携して呼吸器合併症を予防する取り組みは報告が少ない. 今回,当院の外来におけるがん患者周術期サポートチーム“STRONG”の取り組みを紹介する.
著者
中川 国利
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.825, 2019-07-20

尿意を感じればトイレに行くのが自然であり,我慢にも限界がある.では長時間に及ぶ手術中にトイレに行きたくなったら,外科医はどうしているのだろうか. かつての名物外科教授の中には,手術中に尿意を催し,「婦長,尿瓶」と宣った強者がいたそうだ.そして手慣れた婦長は「失礼します」と語って教授の排尿を手伝い,教授は手を休めることなく手術を続け,「ご苦労様」と語ったと伝えられている.