著者
小林 克治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.819-824, 2015-10-15

はじめに レビー小体病(Lewy body disease;LBD)はパーキンソン病(Parkinson's disease;PD),レビー小体型認知症(dementia with Lewy body disease;DLB),パーキンソン病認知症(dementia with PD;PDD),レビー小体嚥下障害(Lewy body dysphagia)を総括した臨床概念で,剖検によって偶然にレビー小体関連病理が発見されたものは偶発レビー小体病(incidental Lewy body disease;iLBD)と呼ばれる。これに加え,運動症状や認知症のない精神症状群,すなわちisolated psychosis(孤立性精神病)は1998年にLennox13)によってpure psychiatric presentation(純粋精神症状:PPP)と呼ばれた。つまりPPPは機能性精神病のように経過するLBDと考えられる。 このPPPは新しく定義された臨床事実でも臨床概念でもない。うつ病で経過した患者にパーキンソン症状が加わり,PDのうつ病であったと分かることは珍しいことではない。LBDでは幻視,意識変動,うつ病,せん妄,レム睡眠行動異常,妄想性誤認,幻聴など精神症状または非運動症状が多く,これらの症状と運動症状が下位疾患ごとに重なり合っているために21),精神症状からLBD下位疾患を診断することは難しい。このためにLBDでPPPの疾患概念が使われることはなかった。PDと認知症については1年ルールがあるが,認知症以外の症状についてはこのような取り決めはない。LBDは精神症状が多様で豊富な神経疾患であり精神症状からの診断が難しいが,心筋meta-iodobenzylguanidine(MIBG)検査やドパミントランスポーターのスキャンなど診断マーカーが近年進歩を遂げ,運動症状や認知症のないLBD,すなわちPPP,を診断できるようになったので,自験例を集めて検討した。
著者
岩澤 うつぎ 宮川 かおり 柿沼 寛 鈴木 啓之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.35-38, 1995-01-01

43歳,男.約20年来,尋常性乾癬と診断され加療されていた.当科初診の10カ月前より関節の腫脹,疼痛,運動制限が出現.皮疹の性状と病理組織所見,およびリウマチ血清反応陰性を示す関節症状を併せて関節症性乾癬と診断した.関節痛増悪のため入院,メソトレキセートの少量間歇投与を試みたが効果なく,サラゾスルファピリジン(サラゾピリン®)に変更したところ関節症状は軽快し,通常の生活および職場復帰が可能となった.サラゾスルファピリジンの関節痛に対する作用機序など若干の考察を記した.
著者
高橋 任美 杉田 直 山田 由季子 鴨居 功樹 高瀬 博 望月 學 丸山 和一 木下 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1281-1283, 2009-08-15

要約 目的:ぶどう膜炎の発症と経過などに及ぼす月経の影響の報告。対象と方法:ぶどう膜炎で通院中の女性54名に,月経周期とぶどう膜炎の自覚症状について問診を行った。年齢は12~51歳(平均31歳)で,内訳はサルコイドーシス8名,原田病8名,Behçet病7名,特発性ぶどう膜炎26名,その他5名である。結果:9名(17%)が月経がぶどう膜炎の自覚症状に関係すると答えた。うち8名では月経直前から月経期間中に症状が悪化した。54名中8名にぶどう膜炎の発症後に妊娠した経験があり,うち出産した5名全例で出産後にぶどう膜炎が一時的に悪化した。結論:ぶどう膜炎がある女性では,月経周期により女性ホルモン動態が変化し,ぶどう膜炎の発症または経過に影響する可能性がある。
著者
坂木 孝輔 山口 庸子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.208, 2019-03-10

現場に相談できる人がいてほしい 現場では,「エビデンスに基づく実践がしたい」と思う一方で,日常業務に追われ,理想と現実のギャップを感じている看護師は少なくないと思います。臨床で分からないことがあったとき,いきなり原著論文を調べるという人は少ないでしょう。まず先輩や他職種に聞いてみたり,教科書や雑誌の特集を見たりするのではないでしょうか。 日常の実践から生じる疑問はあっても,それをPICOやFINERといった枠組みを使ってリサーチクエスチョンに落とし込むのはなかなか難しいものです。いざ,情熱を持って信頼できる仲間たちと研究しようと思っても,時間がなかったりメンターがいなかったりするのが現状ではないでしょうか。
著者
市瀬 博基
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.366-371, 2016-04-10

今回から3回にわたって慶應義塾大学病院看護部のEBP(Evidence-Based Practice:エビデンスに基づく実践)の導入について検討していきます。EBPとは,「臨床意思決定に向けた問題解決手法」であり,看護の文脈では,看護研究における最新の知見,現場の看護師の専門的知識と判断,そして患者のニーズや価値を統合するための仕組みをつくり,臨床実践に反映するための取り組みを指しています1)。 慶應義塾大学病院看護部では,看護の質保証をめざしたこれまでの取り組みを拡張する形で,2013年からEBP導入に取り組んでいます。看護ケアの「実践と並行して評価を行い,その評価を次のケアに活かす活動が体系的に行われる」ための組織的な支援体制を整備し,「実践レベルで(EBPが)浸透することによりPDCAサイクルが回り,エビデンスを活用できる組織に変えていく」ことが狙いです2)。
著者
白方 隆晴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.366-367, 1988-04-01

リバルタ反応は,腹水や胸水などの穿刺液が濾出性のものか浸出性のものであるかの鑑別に利用される検査法の一つである. 腹水や胸水は腹腔や胸腔に多量に水分が貯留したものであり,その生成の原因により濾出液と浸出液に分類される.心不全,肺静脈血栓症での毛細血管内圧の上昇やネフローゼ症候群,肝硬変などでの血漿の膠質浸透圧の低下が原因で生成される腹水や胸水は濾出液である.一方,感染症や悪性腫瘍などで毛細血管透過性の充進やリンパ系の通過障害によって生成される腹水や胸水は浸出液である.
著者
櫻本 秀明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.68-71, 2020-01-15

集中治療後症候群(PICS)とは? PICS(ピックス)とは,post intensive care syndromeの略で,集中治療後症候群といったような日本語訳になる言葉である.PICSについてのはっきりとした定義はない.2012年に集中治療にかかわるステークホルダーを一堂に揃え行われたカンファレンスの報告によれば1),「重症疾患後に身体,認知,メンタルヘルス状態に関する新しい障害が観察された,または障害が悪化し,継続する状態」を指し,そして,この用語は患者(PICS)だけではなく,その家族(PICS-F)にも適応できるとされる. PICSにはいくつかのドメインがあり,その症状ごとに,図1のようにまとめられている.呼吸機能障害,筋神経系障害などを含む身体機能障害,認知機能障害,うつ・不安・心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)を含むメンタルヘルス障害,家族にみられる精神症状(post intensive care syndrome-family:PICS-F)に分けられる.
著者
網野 皓之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.246-250, 1997-04-15

人間だれもが長寿を願っている.また,医学医療が寿命の延長を目指して努力を重ねてきたのも当然のことと理解できるだろう. しかし,成果は今一つはっきりと日に見えてこない.検診に関しても有効性を科学的に明らかにした研究は少ない.日本においては皆無である.にもかかわらず,全国いたるところで検診車が走り回っている.なぜだろうか.
著者
内場 光浩
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.144-150, 2016-02
著者
平山 宗宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1438-1440, 1968-12-10

ハイジェッター実用化の意義 針を使用する注射の苦痛と恐怖感をとりのぞく方法はないだろうか,という要求から出発したと考えられるいわゆる針なし注射器として,自動皮下噴射注射器・ハイジェッター(Hyjettor)が実用化されている.このハイジェッターは米国で,もとは軍隊での使用要求から開発されたというが,現在では一般にも広く使用され,わが国でもすでに約200台が輸入実用に供されているので,ここではその概要を紹介したい.筆者自身使用経験は十分でないので内容に不備の点があれば経験のある方がたのご叱正をいただきたい.
著者
丹治 進
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.95-105, 2005-02-20

要旨 陰茎切断は,稀な疾患で,自傷がその原因であることが多い。性器自傷は,精神医学領域の問題が背景となっており,最近では統合失調症に代わって,性同一障害などの人格障害が増加傾向にある。切断陰茎は,陰茎再接着術により救急的な救済が得られる。その制限時間は,24時間ともいわれているが,はっきりとした根拠はない。陰茎の血管神経系が再吻合されなくとも,勃起機能の温存が得られる報告が多いことから,陰茎深動脈の再吻合の必然性はいまだ示されていない。一方,皮膚や亀頭の欠損は,陰茎背動静脈再吻合で著明に改善される。
著者
東 泰弘 高畑 進一 松原 麻子 西川 拡志 重田 寛人 由利 禄巳 中岡 和代 兼田 敏克
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.161-166, 2019-02-10

要旨 【背景】日本版ADL-focused Occupation-based Neurobehavioral Evaluation(日本版A-ONE)の内的妥当性を検討した.日本版A-ONEは,日常生活活動(activities of daily living;ADL)観察を通して,神経行動学的障害を同定する評価法である.【対象と方法】対象は,脳卒中の診断のある65例であった.全65例の22 ADL項目に対してRasch分析を行った.次に属性による特徴を明らかにするために右半球障害30例と左半球障害35例に分けて同様に分析した.【結果】全65例の分析では,「理解」,「表出」,「箸の使用」,「浴槽移乗」,「洗顔と手洗い」の5項目が不適合項目となった.右半球障害の分析では,「理解」,「浴槽移乗」の2つが,左半球障害の分析では,「理解」,「表出」,「箸の使用」,「洗顔と手洗い」の4つが不適合項目となった.【結語】全65例で不適合項目となった5つを除く17項目で内的妥当性が認められた.不適合項目になった理由として,特定の障害の有無で能力が決定する項目があったことが考えられた.今後は,対象者数を増やして検討する.