著者
中尾 弘之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1117-1125, 1963-12-01

I.実験方法 視床下部刺激によるスイッチ切り行動の学習無麻酔,無拘束の状態で,猫の視床下部,辺縁系,視床および大脳皮質の脳波記録と電気刺激が双極的にできるように手術がなされた。 実験箱は簡単なもので,実験箱内の猫は,一定の窓の外にさがつている板を押すことにより,与えられた視床下部刺激電流を中断することができるようになつている(中尾,1958)。このような装置内で,猫視床下部の一定部位を刺激すると,猫は板を押してその刺激を中断する。これをくりかえして行なうと,刺激をあたえてから猫が板をおすまでの潜時はだんだんと短縮し,最後には,試行のたびにほぼ一定の短い潜時を示すようになる。十分に訓練しておけば,数十日間猫を放置していても,猫はこの行動をよく保持している。われわれはこれをスイッチ切り行動とよんでいる。
著者
近藤 喜代太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.928-929, 1979-06-10

タバコの受難時代 人とタバコとの永いかかわり合いの歴史上,後者の受難がつづく時期は今日を措いてない.私はパイプ党だが,つぎつぎにだされるタバコの有害性の証拠のまえには脱帽するしかない.2月19日の朝日新聞によると,日本でのタバコによる損夫は,火事や病気で年に1兆1千億円をこすというが,これも愛煙家には気分のよくない数字だ,石油蛋白の有害論が盛んだが,もしタバコに永い歴史がなく,新顔の嗜好品だったら,ひとたまりもなく追放されてしまうことだろう. ところが,それほど悪者扱いされるタバコをのむ人々が罹りにくい病気がただひとつだけ知られている.専売公社の喜びそうなこの病気はパーキンソン病で,患者の既往歴を調べると,不思議にもかえって喫煙歴が少ない.パーキンソン病は初老期以降に起き,振戦,筋の固縮,無動症などを呈する病気で,本誌16巻2号の特集でとりあげられている.
著者
小平 潔 柳沢 温
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1165-1166, 1979-12-20

尿道脱とは女子尿道粘膜が外尿道口より反転脱出した状態で,粘膜が全周にわたり脱出した完全(輪状)尿道脱と部分的尿道脱に区別される。いずれも外尿道口にイチゴ状の軟らかい赤色の腫瘤として認められる。時間の経過とともにうつ血,浮腫を来し腫瘤は増大するが,いずれの場合でも膀胱内にカテーテルの挿入可能なことにより診断は容易である。治療として,a)保存的整復術,b) Fritsch氏結紮法,c)切除術,の3方法がある。整復術についてはBalloon catheterを用いて還納整復させる方法が好結果を得ている報告1)があるが,一般には再発しやすく,またFritsch氏結紮法を推奨する報告2)も見られるが,最も普通に行なわれているのは切除術である。
著者
根來 秀樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.46-48, 2014-03-15

目の前にいる青年期の患者さんが、「イジメられている、悪口が聞こえる」と興奮して訴える時、私たち精神医療に従事する者はそれが事実かどうか確かめるだろう。そして家族などからの情報で、現在イジメを受けている事実や悪口を言われているような事実がないとすれば、「幻覚妄想状態」と判断されるのは自然なことかもしれない。幻覚妄想を呈する精神疾患は覚醒剤精神病や気分障害に伴うものもあるし、身体疾患に伴うものもあるが、それらが状況的に否定されれば、このような症例は好発年齢などからも「統合失調症」と診断されることが多いのではないだろうか。 しかしその患者さんは、実は統合失調症ではない可能性がある。現在そのことに警鐘が鳴らされるようになった★1。
著者
前川 智 新澤 真理 原田 大
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.460-466, 2021-04-20

【ポイント】◆内視鏡的胃内バルーン留置術は,BMIが27 kg/m2以上の肥満患者に対する減量を目的として,内視鏡を用いて胃の中に直径が約10 cmのバルーンを留置する術式のことである.◆物理的な胃内容量の減少と機能的な胃内容の排泄遅延によって,摂食量を減少させることで減量効果を期待する治療法であり,穹窿部にバルーンを留置することが望ましい.◆完全に可逆的な治療法であるため,十分な効果が得られるためには,バルーン留置中および留置後の食事指導が重要となる.*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年4月末まで)。
著者
藤田 郁代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.968, 2003-10-10

著者のバーバラ・ウィルソンは英国の高名な神経心理学者であり,本邦でも「The Rivermead行動記憶検査」および「BIT行動性無視検査」を通じてなじみの深い方も多いであろう. 神経心理学は医学,認知科学,心理学,言語病理学,作業療法学等からの学際的研究が重要な位置を占める学問領域である.著者の学問的背景は心理学にあり,詳細な症状記述と行動変化の過程の分析にその特徴を見てとることができる.特に,各種の神経心理学的症状にリハビリテーションを行い,その効果を人生の質(QOL)の面から長期に渡り追跡し,記述した書としては他に類を見ないといってよいであろう. 本書では著者が約20年の間に出会い,リハビリテーションを行った600人以上の脳損傷患者の中から特に多くのことを教えてくれた20人が取り上げられている.症状としては記憶障害,失語,失読,失認,視空間無視等を呈した者である.これらの者は治療期間だけでなく治療後も長期的にフォローアップされ,また本書を著すにあたってインタビューも試みられており,その障害が彼らの生活にどのように作用し,著者の治療的介入がその後の人生にどのような変化をもたらしたかが詳しく記述されている.
著者
清水 幹子
出版者
医学書院
雑誌
助産雑誌 (ISSN:13478168)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.42-45, 2021-01
著者
斉藤 正武
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1015-1021, 1988-09-15

抄録 盲目の妻に発生した皮膚寄生虫妄想が夫にも感応した症例について,夫婦共に入院治療を行い,経過を観察した。夫婦は発症まで比較的孤立した生活を送っており,また発端者の妻が夫に比べ知的にも性格的にも優勢であるなど,folie à deux例で一般にみられる傾向を示していた。しかし,被感応者で視力健常な夫に"虫を見る"症状が現れるなど,夫婦には互いに協力して妄想を守り発展させる面がみられた。また,夫は入院後間もなく他者に対し心を開き症状も改善したが,そのような夫に対し妻は"2人だけの共同体"を守るため様々な試みを行った。しかしやがて,妻は夫を媒介とすることで現実的共同社会へと開かれ,それに従い妄想も消失した。以上の経過をもとに,folie a deuxでの両者の関係や被感応者の役割を考察し,またfolie a deux例の観察が,妄想という現象に対して何らかの示唆を与える可能性を述べた。なお併せて,皮膚寄生虫妄想の感応例を文献的に概観した。
著者
竹友 安彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.175-188, 1984-02-15

I. Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition(以下DSM-IIIと略す)1)が米国精神医学会から出版されたのが1980年。出版前にもかなりの議論があり,殊に「自我親和的(ego-syntonic)な同性愛は精神医学領域の疾患ではない」というDSM-III委員会の意見をめぐり専門家の間の論議2)は新聞紙上にも華やかに展開されたものであった。刊行2年後の現在,米国精神医学会は既に公式のnosologyと決定されたDSM-IIIをどう受けとめているか。適当な資料を見つけて,この間に対する答えを試みることは,米国精神医学の体質を示すトモグラフィーの一例を示し,DSM-IIIに関心を持つ読者の参考になることかも知れないと考えた。偶々1982年の米国精神医学会年会で「DSM-IIIの長所は短所を補って余りあるものか?」(“Do the advantagesof DSM-III outweigh the disadvantages?”)と題する討論会があったことに気がついた。この討論会では司会者の許に議題に関して賛成論者と反対論者が夫々二人賛否両陣から相互に立って,ユーモアにつつまれた鋭鋒で討論する。その後,聴衆の有志が自由にどちらかの側に立った発言をする一時があり,最後にパネリストが夫々短い発言をする。筆者にはなかなかアメリカ的だと思える雰囲気であったが,壇上のメンバーは次の通りであった。
著者
前尾 直子 中塚 和夫 酒井 義生 山之内 夘一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.131-133, 1991-02-15

水晶体嚢のtrue exfoliationの1例を経験したので報告した。症例は78歳男性で両眼の前房中に薄い透明なセロファン様の膜を認めた。この膜は水晶体前嚢と連続性があり眼球運動に際して可動性を有していた。Pseudo-exfoliativematerialとは明らかに異なる様相を呈しており,隅角所見は両眼とも正常で緑内障の合併もなかった。職歴から強い熱への暴露が原因と考えられた。
著者
九嶋 亮治 葛原 正樹 馬場 正道 服部 行紀 松原 亜季子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1481-1491, 2015-11-25

要旨●胃底腺型胃癌は胃底腺粘膜に発生する主に低異型度な分化型腫瘍で主細胞への分化が明瞭なものを指す.この腫瘍の臨床病理学的特徴を深く理解することを目的として,胃底腺粘膜の増殖・分化と化生,また,同じ胃底腺粘膜に発生する腫瘍様病変と低異型度腫瘍の病理学的特徴について解説する.胃底腺細胞は腺頸部より表層の腺窩上皮,深部方向の頸部粘液細胞,壁細胞,主細胞と内分泌細胞から構成される.頸部粘液細胞は主細胞の前駆細胞である.化生としては偽幽門腺化生,幽門腺化生と完全型腸上皮化生が発生する.これらの正常・化生組織を基盤として,腫瘍様病変としては腺窩上皮型過形成性ポリープ,胃底腺ポリープ,過誤腫性内反性ポリープ(粘膜下異所性胃腺)が,低異型度腫瘍としては腺窩上皮型腫瘍,胃底腺ポリープに伴う腺窩上皮型腫瘍,胃型腺腫(幽門腺腺腫),カルチノイドと低異型度小腸型腺癌が発生し,実際的あるいは概念的に胃底腺型胃癌の鑑別診断の対象となりうる.
著者
馬淵 誠士 志村 宏太郎 松本 有里 梅本 雅彦 北田 文則 木村 正 藤江 建朗 中村 英夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.281-288, 2021-03-10

▶要約 目的 : 子宮頸癌に対する広汎子宮全摘術が術者に与えるストレス・疲労を,術式別(ロボット支援下・腹腔鏡・開腹)に比較した. 方法 : 広汎子宮全摘出術の術中に,執刀医の心電図・筋電図を無線測定機器で持続モニタリングした. 結果 : ロボット支援下手術では,開腹手術や腹腔鏡手術に比して,脊柱起立筋の筋活動量が有意に軽微であった.ロボット支援下手術では心拍数が終始一定であったのに対し,開腹手術と腹腔鏡手術では心拍数は手術の進行とともに漸増し,ロボット支援下手術と比較して有意に高値となった.Tone-Entropy法による評価でも,ロボット支援下手術ではEntropyが終始一定であったのに対し,開腹手術と腹腔鏡手術では手術の進行とともにEntropyが低下し,ロボット支援下手術のストレスが少ないことを示す結果であった. 結論 : ロボット支援下広汎子宮全摘術は,開腹手術や腹腔鏡手術に比して執刀医へのストレス・疲労が少ない術式である可能性が示された.
著者
後藤 美希 鈴木 蓉子 竹入 洋太郎 大村 美穂 神野 雄一 竹内 真 永井 美和子 江口 聡子 中林 稔 東梅 久子 横尾 郁子 有本 貴英
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.289-294, 2021-03-10

▶概要 常勤内視鏡技術認定医不在下で子宮体癌に対する腹腔鏡手術を導入し,治療成績について以前の開腹手術症例と後方視的に比較検討した.腹腔鏡手術では開腹手術に比べて出血量の減少,術後在院日数の短縮を認めた.合併症に関しては重篤なものは認めず安全に腹腔鏡手術の導入ができたと思われるが,腹腔鏡手術で有意に多いという結果になり,そのうちの50%は下肢の神経障害であった.いずれもBMI30以上の肥満症例であり,術者が手術操作に熟練するまでは手術適応のBMI基準を低く設定することも必要と考えられた.また,内視鏡技術認定医と婦人科悪性腫瘍専門医が密に連携して手術操作を行うことが重要と思われた.
著者
高橋 徹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1153, 2005-10-15

対人恐怖の概念と診断,治療の進め方,臨床の実際の三部からなる。第一部では,対人恐怖の諸症状,その構造と内容,対人恐怖心性と現実とのかかわり方の諸相など,対人恐怖の臨床的な諸特徴が,著者が扱った症例の数々の例示をもとに懇切に解説されており,さらに,対人恐怖のひきこもりの病理が,対人恐怖の不安の考察および醜形恐怖を取り上げての対人恐怖の発達心理学的考察をもとに論じられている。第二部では,外来診療における精神療法的アプローチの仕方,薬物療法の実際が,やはり自験例をもとに解説されている。第三部では,対人恐怖の周辺的な病態の数々について,とくに統合失調症とのかかわりが取り上げられている。どの部をとっても,その平易な叙述をとおして,読む者に著者の対人恐怖研究への熱意と臨床経験の厚みと深い考察が伝わってくる。 ところで,近年の精神障害診断分類(ICD-10;Ch VやDSM-Ⅳ)に馴染んでいる人には,「対人恐怖」は,もはや古びた病名でしかないであろう。今では「社会恐怖」あるいは「社会不安障害」と呼ばれている。しかし,新旧病名のラベルの貼り換えだけでは済まされない重要な問題を,著者は,第一部の「対人恐怖から社会恐怖へ」および「社会不安障害(SAD)の概念および定義」の章で論じている。
著者
佐藤 洋一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1920-1926, 2012-12-25

要旨 結腸は系統発生的にみて,哺乳動物になってから食物残渣を固形化するために発達・分化した区域で,種による差が大きい.ヒトの右側に位置する近位結腸と左側に位置する遠位結腸では,発生(中腸vs.後腸),血管支配(上腸間膜動脈vs.下腸間膜動脈),神経分布(交感神経:胸髄vs.腰髄,副交感神経:延髄vs.仙髄),生理機能(ゆっくりした動き,食物残渣の固形化vs.短時間に糞塊を送る),上皮細胞(杯細胞の粘液性状,Paneth細胞の存否など)に関して差異が認められる.その境界は横行結腸にあると言われているが,明瞭なものの線引きはできないし,またそれぞれの要素で想定されている境界が一致するかどうかも検証されていない.横行結腸は右あるいは左の結腸のいずれかに帰属させることはできないと思われる.
著者
東村 輝彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.787-790, 1998-07-15

■はじめに 猫は犬とともに最も身近な愛玩動物である。猫に関する俗信は多く,猫は化ける,崇る,憑きやすいと言われてきた。しかしながら,猫憑きに関する精神医学の領域からの報告は少なく,「猫男」になったという例も含めてわずか5例にしかすぎない1,3,4,14,16)。したがって猫憑きに関してその地域特異性などを検討することは困難である。 我々4)は,かつて猫憑きの1例を民俗精神医学的立場から検討し本誌に報告したが,本シリーズでもその症例をもとに,改めて,動物と人間霊が継時的に憑依した点と祖霊信仰と憑依とのかかわりに注目し報告したいと思う。 宮本10)は,「動物憑依と神仏・人間霊による憑依はふつう同一人物で混じり合うことがない。憑きものの俗信がなお残る山陰や四国でも,動物霊と人間霊の両方に—同時的または継時的に—憑依された症例はおそらくまだ観察されていないだろう」と述べている。 我々の症例は,猫に続いて祖母の霊が憑依しており,これまで観察されたことのなかった貴重な憑依現象ではないかと考えている。
著者
所 崇 北島 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1687-1692, 2003-12-15

1.サイトカインの特徴 サイトカインとは,免疫担当細胞に代表される様々な細胞から産生される生理活性物質である.サイトカインの特徴を以下に列挙する1). 1) サイトカインは糖蛋白である 多くのサイトカインは糖蛋白であり,分子量約1~10万である. 2) サイトカインは微量で作用する in vitroで,サイトカインはpg~ng/mlの微少な濃度で十分に生理活性作用を示す.一方では,ある一定の濃度以下では生理活性は示されず,作用が発揮される閾値が存在する.また,一定の濃度以上ではプラトーに達してしまうこともある. 3) サイトカインは主に産生された局所にて活性を示す サイトカインは,産生された局所にて活性を示すことが多い.その一例として,関節リウマチの滑膜組織では,インターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF-α)などが大量に産生され,破骨細胞を活性化し骨破壊が起こることが挙げられる. 4) 単独のサイトカインが複数の生理活性作用を示す 多くのサイトカインは1つの分子であるにもかかわらず,多彩な生理活性作用を有する.例えばIL-1は,免疫系の賦活作用以外に,白血球や破骨細胞,血管内皮細胞,滑膜細胞,線維芽細胞など様々な細胞に働き,その活性化を引き起こす.これはサイトカインの“pleiotropy”とも呼ばれる. 5) サイトカイン産生細胞が多様に存在する サイトカインを産生するのは単一の系列に属する細胞群に限らない.IL-1を例に挙げると,マクロファージからだけでなく,T細胞,B細胞,NK細胞,多核白血球,血管内皮細胞,滑膜細胞,皮膚のランゲルハンス細胞など,様々な細胞から産生される. 6) 異なるサイトカインが同一の作用を有する IL-1とTNF-αの生理活性はほぼ同一であり,また産生制御機構も極めて類似している.これをサイトカインの“redundancy”と呼ぶ.このように一見無意味に思われる現象であるが,生体内ではこの現象により危険回避をしている可能性が推定できる.それは1つのサイトカイン遺伝子が何らかの原因によって異常を起こしても,別のサイトカイン遺伝子がこれをカバーするからと考えられている. 7) サイトカインは相乗的あるいは拮抗的に働く IL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインは同時に複数存在することで,その作用が相乗的に働く.つまり,複数のサイトカインが低い濃度で産生されたときに,単独で働かなくても,それらのサイトカインが同時に存在することで,相乗的に強い活性を示す.この現象は炎症反応における増悪・慢性化に関わっている.またIL-10はマクロファージに作用することで,IL-1やTNF-αの産生を間接的に抑制する.IL-4やIL-13もIL-10同様の作用を持ち合わせており,抗炎症性サイトカインとして注目を集めている. 8) 正のフィードバック機構を有するサイトカインカスケードの存在 1つのサイトカインが産生することで,次のサイトカイン産生が誘導される.このような現象を“サイトカインカスケード”,または“サイトカインネットワーク”と呼ぶ.例として,IL-1が産生されるとTNF-α,IL-6,IL-8,GM-CSFなどの産生が誘導される.炎症反応において,IL-1が産生されることで,さらにIL-1産生が誘導されるという正のフィードバック機構が働くことが知られている. 9) サイトカインインヒビター・アンタゴニストの存在 サイトカインにはインヒビター,またはアンタゴニストが存在する.例えば,IL-1アンタゴニスト(IL-1ra)はIL-1と構造が似ているために,IL-1レセプターと競合的に結合する.すなわちIL-1の活性を特異的に阻害することになる.IL-1raはIL-1レセプターと結合しても,IL-1のように細胞内シグナルを伝達しない.またIL-1raを産生する細胞は,同時にIL-1も産生する.つまり,同じ細胞がIL-1,IL-1raを産生することで免疫応答の調節をしているということがいえる. 10) サイトカインは正と負両面の作用を有する サイトカインは生体の恒常性を保つうえで必要不可欠な存在である.一方で,炎症反応により過剰産生され病態の増悪・慢性化につながる.例えば関節リウマチ患者の関節滑膜ではIL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが大量かつ持続的に産生される.これにより滑膜細胞の増殖,破骨細胞の活性化,軟骨細胞の破壊が起こり,関節組織が破壊される.またサイトカインがサイトカイン産生を誘導し,炎症の慢性化を引き起こす.
著者
孫 連坤 吉井 與志彦 宮城 航一 石田 昭彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.119-125, 1999-02-10

I.はじめに これまでの悪性腫瘍治療の研究で,腫瘍細胞を色々な操作によって正常細胞に分化誘導する試みは,白血病では既に臨床応用まで行っている12).しかし,その他の癌5)では実験的な研究のみであった.グリオーマ治療研究に於いても,神経成長因子10),プロスタグランジンD7),レチノイン酸8)等の分化誘導物質を使った実験報告がなされているが,臨床応用には至っていない. ビタミン剤を用いた分化誘導の研究は,重篤な副作用が少ない点で多く試みられている.例えば,活性型ビタミンD3(以下ビタミンD3と略)が骨髄性白血病細胞を単球/マクロファージ系細胞に分化誘導して治療効果を得たという報告1)や,乳癌9),ヒト骨肉腫細胞26)及び脳腫瘍細胞4,18)等にも,ビタミンD3の分化誘導及び腫瘍増殖抑制効果を検討した実験報告が見られる.他にビタミンB12も肺癌細胞に対して分化誘導効果を持っている21).このように,ビタミン剤の分化誘導効果や腫瘍増殖抑制効果は今後,種々のビタミン剤で検討されていくものと思われる.
著者
山内 泰 伊藤 亜紗 村瀨 孝生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.478-483, 2020-09-15

前号(2020年7月号)では、「ポニポニ文化会議」★1で哲学者・國分功一郎さんと対話した回を紹介したが、今回は伊藤亜紗さん(東京工業大学准教授・美学)と村瀬孝生さん(宅老所よりあい代表)がゲストの回★2を紹介しよう。2人の話や語り口は、「障害や老い」と「健常」との違いを差別的な意味で際立たせるのではなく、むしろそれぞれのリアリティの豊かさに満ちていて、とても面白く、また不思議な感じもする。老いや障害を巡る話が、こんなに可笑しく感じられるのは、どうしてなのだろう。今回はそんな問いから、お2人の話をまとめてみたい。
著者
吉井 信夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.659-664, 1969-08-15

最近のトランジスタなどの半導体に関する技術の進歩は,非常に目ざましいものがあり,脳波計や心電計の増幅器などがだんだんとトランジスタ化されてきた.そして,心電計のほうは,すでにオールトランジスタ化されている.しかし,脳波計のオールトランジスタ化はなかなか困難があり,これまでは不可能ではないかと考えられていたが,電界効果トランジスタ(Field effect transistor;FETとよぶ,図1)が開発されて脳波計のオールトランジスタ化が成功し,一昨年の脳波学会の医療器械展示会では各社がいっせいに新脳波計の発表を行なった.このトランジスタのおかげで,脳波計のオールトランジスタ化,ひいては小型化・軽量化ができるようになった.FETは脳波計以外にも各種の用途があつて,近い将来,医用電子の分野で真空管を駆逐してしまうことが予想されるくらいである,以下,この半導体について説明を加えるが,そのまえに,まずトランジスタについてだいたいの概念をもってもらうために,その一般について簡単に述べよう.