著者
大谷 稔男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.18-22, 2013-04-10

要約 インスリンを同一部位に繰り返し注射するとアミロイドが沈着して結節を生じることがあり,インスリンボールとも呼ばれる.インスリンがアミロイドを形成する過程では,インスリン分解酵素の機能低下などが関わる可能性がある.インスリンボールは常色~褐色調の結節で,ときにlipohypertrophyとの鑑別を要する.最近われわれは,1型糖尿病患者の上腕に生じたインスリンボールを経験した.臨床像から皮膚悪性腫瘍も疑ったが,病理組織学的所見からアミロイドーシスと診断した.インスリン注射部位(腹部,上腕,臀部,大腿)に結節をみた際は,インスリンボールも念頭に皮膚生検を行い,診断を確定することが肝要である.インスリンボールへの注射は疼痛が少なく好んで行われる傾向があるが,インスリンの効果は顕著に減少する.診断後は内科医とも連携して,注射部位のローテーションを患者に指導する必要がある.
著者
三浦 一陽
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1154-1158, 1997-11-10

精液は大別すると2つの構成成分から成り立っている.精液のそのほとんどは精漿といわれる液体成分であり,残りの細胞成分である精子は全精液の1%にも満たない. 精漿は以前より副性器の機能や精子の運動機能に影響すると考えられており,精漿に対する多くの研究がなされてきた.本稿では精漿成分が精子運動においてどのように妊娠に重要な役割を果たすのか,あるいは精漿が精子運動に対して,いかに抑制的に作用するのかなどについて,筆者らの多少の経験と文献的考察をもとに述べるが,精漿に関しては,その詳細はいまだに不明な点が多いのが現状である.
著者
鈴鹿 有子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.41-48, 2010-04-30

Ⅰ はじめに インピーダンスとは抵抗のことで,インピーダンスオージオメトリーとは音のエネルギーが外耳,鼓膜,中耳へと伝達される際に,何らかの抵抗で伝わりにくくなる。その抵抗(音響インピーダンス)を測定する検査法である。 またインピーダンスオージオメトリーは鼓膜や中耳伝音系の異常にとどまらず,内耳や後迷路,顔面神経の情報も与えてくれる。他覚的検査であるので,信頼性も高く,短時間ですみ,純音聴力検査が不可能な乳幼児でも測定可能である。全自動式の機器が多く,手技的に難しい検査ではないが,正しい検査の心得は必要である。普及率も高く,以前から聴力検査とともに耳鼻咽喉科の診療に欠かせないものになっている。 現在インピーダンスオージオメトリーでできる検査は大きく分けて①ティンパノメトリー検査と②耳小骨筋反射検査である。 インピーダンスオージオメトリーの原理 音は外耳から入って,鼓膜,耳小骨,中耳を経て内耳に伝えられる。その経路で音エネルギーに対しての抵抗を音響インピーダンスという。インピーダンスオージオメトリーとは外耳からの音を与えて,跳ね返ってきた音を測ることで,どれだけの音が反射されたか,つまりどれだけの音が鼓膜や中耳を通っていったかを測定する。インピーダンスは小さいほうが抵抗なく音が伝達されたことになる。もちろん鼓膜,耳小骨を経るので,その分での抵抗があるのが正常であるが,鼓膜インピーダンスはきわめて小さいので,大部分の音は通過する。もし鼓膜インピーダンスが大きいということであれば,鼓膜が厚く,硬くなっていることを意味し,鼓膜のみでなく中耳腔に滲出液が貯まった場合は病態が著明に反映されるので,中耳インピーダンスともいう。外耳道から入った音のエネルギーは,耳小骨へ伝わり,耳小骨や耳小骨筋を動かすのにも消費され内耳へ伝わる。ということでインピーダンスオージオメトリーでは鼓膜,耳小骨,耳小骨筋,中耳腔,内耳の情報を得ることができる。
著者
岩下 明徳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.424, 1996-02-26

消化管壁の全層,すなわち粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜(外膜)のすべての層にわたる炎症を全層性炎症と言う.この言葉は,炎症性腸疾患inflammatory bowel disease(IBD)と総称されるCrohn病(特に大腸Crohn病)と潰瘍性大腸炎の病理組織像の差異を表現する際によく使用される.例えば,Crohn病の炎症反応はリンパ球集簇を主とする全層性炎症を特徴とし,潰瘍性大腸炎のそれは,急性電撃型を除き,粘膜と粘膜下層に限局する表層性炎症(superficial inflammation)を特徴とするごとくである. 大腸Crohn病は上述したように全層性炎症を示すので全層性大腸炎(transmural colitis)とも呼ばれる.なお,全層性炎症のみられる他の腸疾患として,腸結核,単純性潰瘍,腸型Behçet病,虚血性腸炎などが挙げられる.一方,主として粘膜と粘膜下層に限局する表層性炎症を示す腸疾患には非特異性多発性小腸潰瘍症がある.
著者
清水 誠治 富岡 秀夫 小木曽 聖 石田 英和 眞嵜 武 池田 京平 上島 浩一 横溝 千尋 高島 英隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.423-430, 2018-04-25

要旨●ヒト腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis;HIS)の自験例43例について臨床的検討を行った.41例は生検組織またはEMR標本のHE染色で偽刷子縁の所見により,2例は内視鏡検査時に吸引した腸液の直接塗抹で診断された.症状の有無別では無症状例が31例,有症状例が12例であった.生検は主にポリープやびらんから採取され,組織診断は低異型度管状腺腫13例,過形成性ポリープ8例,炎症性変化7例,過形成性結節4例であった.有症状12例中9例は他の疾患が判明し,3例はアメーバ性大腸炎を合併していた.他の原因疾患がみられなかった3例の内視鏡所見は,右側結腸を中心とした半月ひだの浮腫と発赤であった.その内2例では慢性下痢がみられており,腸液の直接塗抹でHISと診断され,遺伝子解析でBrachyspira pilosicoli(BP)が同定された.抗菌薬による治療は1例で行われたのみで,他の症例は無治療で症状が改善していた.HISについての文献的考察を行った.

1 0 0 0 保健婦雜誌

著者
医学書院 [編]
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2003
著者
安井 はるみ
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.18-24, 2006-01-10

いま,なぜクリニカルVEなのか 医療費総額が31兆円を超え,医療制度改革のなかでも医療費削減は大きな課題であり,厚生労働省が2005(平成17)年6月に実施した第15回医療経済実態調査の結果速報報告では,一般病院の赤字傾向は続いている1)。いま,看護管理者や施設管理者には,医療におけるコストを,「収入」「支出」,そして「アウトカム(結果)」としてどのようにとらえ,どんな戦略を立て戦術をどう展開するのかが問われる時代に突入している。病院や施設の存続のためには,患者や家族,地域社会,自施設に従事している医療従事者が期待している満足度向上,経営面での適切な費用対効果,新たなサービスによる他施設との差別化による収入増など,課題は山積している。 昨今の医療界の傾向として,在院日数短縮化などによる効率性重視型の「コストカット」が経営陣から迫られる一方で,継続的な質改善,質管理,質保証などを実施してきた。いずれもこれまで看護管理者が医療現場でのマネジメントを効果的に展開するために取り組んできたことであるが,新人看護職員の離職率増,患者高齢化に伴う療養上の世話の増加などにより,医療現場がかかえる課題はますます膨張し,そこで働く者にとっては疲弊感を感じざるを得ない。さらに,患者中心の質の高い医療や看護を提供することが本来の目的であるにもかかわらず,コスト削減・医療事故防止活動などに追われ,日々の業務のなかで,患者中心とは,看護の目的とは,自分自身のマネジメントのめざすものとは何なのかをじっくり考える暇もなく,目の前の業務をこなすことに忙殺されていると感じているのは筆者だけではないのではないだろうか。
著者
黒木 優一郎 上原 なつみ 中西 徹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.53-54, 2017-04-01

56歳の男性.現病歴 2か月前から1日数行の下痢としぶり腹とが出現した.発熱や食欲低下はなく様子をみていたが,3週前からときどき血便が混じるため来院した.
著者
大西 季実 吉田 裕美 藤井 美代子 鈴木 まさ代 伊東 美緒 高橋 龍太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.101-107, 2010-01-15

はじめに 精神科では、自殺・事故防止の観点から、入院生活に何らかの制限が設けられていることが多い。病棟内に持ち込む日常生活用品を制限することもその1つである。制限される物品としては刃物やガラス製品、ベルト、電化製品のコード、耳かき、爪楊枝、毛抜き、割り箸など多岐にわたる。刃物など明らかに危険な物品については、マニュアルなどに明文化され対応が統一されていることが多いが、危険度が必ずしも高いとはいえない耳かき、毛抜き、爪楊枝、割り箸などの取り扱いについては、病院・病棟により規定が異なる上、看護者の判断によっても対応に違いが存在するのではないだろうか。 縊死に関連した日常生活用品の持ち込み制限に関する田辺らの調査においても、コード、ネクタイ、針金ハンガーなどは持ち込みを許可する病棟と許可しない病棟がそれぞれ半数ずつであり、看護者が異なる視点で判断している可能性を示唆している*1。病棟内においても看護者間の考え方や対応の相違により混乱が生じることは多々あり、特に精神科の臨床では日常的に遭遇する体験であるという*2。病棟内の看護者間において価値観そして実際の対応方法が異なる場合、患者に混乱をもたらし、そこで働く看護者を悩ませる要因にもなりうる。 過度な物品管理、不必要な制限は患者の依存や退行を引き起こし、自立の妨げになる可能性があり、病棟生活を送る患者の生活の質(QOL)に影響を与えることが示唆されている*1。QOLや人権に配慮しすぎると事故の危険が高まる*3ものの、事故防止を優先しすぎると日常生活を送る上で不都合が生じる。看護師が事故防止を優先するのか、QOLを優先するのかによって日常生活用品の持ち込みの判断に影響が生じると予測される。 そこでこの研究では、①病棟内への日常生活用品の持ち込み制限と優先傾向(事故防止・QOLのどちらを優先するのか)との間には関連があるのか、②看護者のバックグラウンドと優先傾向との間に関連があるのかの2点を明らかにすることを試みた。
著者
吉新 通康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.49-54, 2001-01-01

わが国におけるへき地医療対策の流れ 過疎対策法,離島振興法,山村振興法などの法律の適応される地域を一般的に「へき地」と呼ぶ.「へき地」は差別用語だとして,「地域」と呼ぶような向きもあるが,やはり「へき地」のほうがわかりやすい.日本には数多くの島々,そして急峻な山々が多い,これらの作り出す厳しい地形で地域が数多く分断され,集落が散在している.一方,急速な工業化により,これらの集落から若者が流出し,高齢化,過疎化が進行し,バスの便数が減り買い物や医療で不便を強いられ,さらに人口減が進むと,ますますへき地となる. わが国は国民皆保険制度で,自由開業制,出来高払いが特徴である.1,000名を割るような人口で,少子高齢化が進んでいて,受け持ち範囲が広く,しかも交通が不便な「へき地」では,事業リスクが高く,開業する医師はまずいない.一方,皆保険という医療制度上,サービスを受けられる体制を整備する必要があり,都市部に医師や医療機関が集中する中,市町村は山間へき地離島にも保健医療機関を設置する.が,医師たちはあまり行きたがらない.へき地の生活の不便さ,教育,文化施設などいろいろと不便だということもある.
著者
浅田 成也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.423-428, 1958-06-01

I.緒言 私は広島静養院に在つて,院長松岡龍三郎博士の元に精神病患者に対するクロール・プロマジン(以下C.P.と略記)の治療経験を持つた当時,多くの例に於て,その副作用としてパルキンソン様症候並に松岡氏症候と称せられ,松岡博士が後にTorsionsdystonieと指摘した症候に屡々遭遇するに及んで,果してかかる症候を持つ疾患にC.P.を施行した場合には,如何なる現象が窺われるであろうかと云うことに関心を抱いた。当時既に,同じくフエノチアジン誘導体のデイパルコールが,抗パルキンソンニスムス剤として使用されていたことから,C.P.にはそのような作用が期待されていたが,精神病者に使用した経験からは,むしろ上記のような逆の現象を得たが,然しパルキンソンニスムス(以下パと略記)に対するC.P.の効果は或は何等かの改善を斉らしうるかも知れないとも期待した。
著者
小島 亜有子 久保田 敏昭 森田 啓文 田原 昭彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1519-1522, 2008-09-15

要約 目的:ステロイドレスポンダーの臨床的特徴の報告。対象と方法:副腎皮質ステロイドの点眼または内服で眼圧が5mmHg以上上昇し,かつ25mmHg以上になった17症例をステロイドレスポンダーと定義した。7例は全身投与,10例では点眼が原因であった。男性9例,女性8例で,年齢は15~82歳(平均49歳)であった。診療録の記述からその特徴を検索した。結果:屈折は右眼-3.58±2.72D,左眼-3.50±2.58Dであった。ステロイド投与開始から最高眼圧に達するまでの期間は,全身投与群では9.8±13.5か月,点眼群では10.5±12.7か月であった。最高眼圧は全身投与群31.7±5.3mmHg,点眼群40.6±13.7mmHgであった。眼圧の上昇率は全身投与群143.0±103.1%,点眼群154.1±100.9%であった。すべての項目で投与方法による有意差はなかった。全身投与群では両眼の眼圧が上昇し,点眼群では点眼側の眼圧だけが上昇した。結論:ステロイド投与では,点眼だけでなく全身投与でも眼圧が上昇することがあり,かつ長期の経過観察が必要である。
著者
佐藤 正之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1370-1377, 2011-12-01

はじめに 音楽は聞くヒトに癒しや安らぎ,興奮を与える。行進曲やラジオ体操にみられるように,音楽が加わると運動の効率が高まることは,誰もが経験したことであろう。音楽を病気の治療に利用する試みは,これらの日常体験での印象を背景に持つ。さまざまな疾患や症状に対する音楽療法が試され報告されているが,エビデンス足り得る研究は少ない。本稿ではまず,音楽療法の歴史と定義について簡単に述べ,次にこれまでに報告されている高次脳機能障害ならびに認知症に対する音楽療法の取り組みを紹介する。なお,本稿で用いる“高次脳機能障害”は医学的な定義を意味しており,具体的には失語や失認,失行,健忘,注意障害,判断障害を指す。高次脳機能障害という用語をめぐる混乱と医学,行政上の各定義については,岩田1)の総説を参照されたい。
著者
川口 浩太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.227, 2008-03-15

エンドフィールとは,関節を他動的に動かした時に最終域で感じられる抵抗感である.エンドフィールは正常関節でも感じられるものと,痛みや関節可動域制限に関連した異常なものに分けられる.この概念はイギリスの整形外科医Cyriax1)により軟部組織損傷の診断手技の1つとして紹介され,その後,徒手療法を行う理学療法士によりいくつかの分類がなされている2).本稿ではMageeによる分類3)に従って解説する.
著者
原 萃子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.76-85, 1988-02-25

ここ数年来,学術研究の国際交流が学術審議会の答申1)などの影響もあってか,従来の一方交通的かつ先進国志向の交流のみならず,国際協力という意図を強化した交流のあり方が考慮されるようになってきたと身近なところで感ずる. 新潟大学医療技術短期大学部(本学)は,1986年の年の瀬もおしせまった12月24日,私たちにとっては正に近くて遠い国であった大韓民国々立清州専門大学(〒310忠清北道清州市司倉洞山53番地)と姉妹校関係の調印式を行い,主として看護学の領域で交流を深めていくことになった.
著者
芦原 義弘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.97-98, 1990-01-15

臨床検査に用いられるアルカリホスファターゼの基質としては,従来より比色測定用のp-ニトロフェニルリン酸(PNP)が知られている.また,高感度基質としては4-メチルウンベリフェリルリン酸(4MUP)が一般的である.これらは臨床検査の分野では生化学のみならず,免疫血清でのEIAの標識酵素であるアルカリホスファターゼの基質として利用されている.一方,EIAにおける迅速,高感度化にともない,化学発光あるいは生物発光法が注目されている.本稿では,最近報告されたアルカリホスファターゼの新規な化学発光基質(AMPPD)の反応原理,その特徴,応用について述べる. 1988年,米国のDr.Bronsteinらは,アルカリホスファターゼの安定な化学発光基質3-(2'-spiroadamantane)4-methoxy-4-(3"-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane(AMPPD)を合成した1).その構造は図1の(Ⅰ)に示すように,ジオキセタンに結合するフェニルリン酸とジオキセタン骨格を立体的に安定化させるアダマンチル基よりなる.このAMPPDは酵素により加水分解されて,比較的不安定な中間体(Ⅱ)となる.この化合物はアルカリ溶液中でジオキセタン骨格が開裂して,1重項励起状態のm-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(Ⅲ)とアダマンタノンになる.この励起化合物(Ⅲ)は波長470nmの光を発して基底状態に戻る.この反応は酵素で励起化合物の生成をくり返すため,酵素反応時間20分~30分で発光量がプラトーになる増幅型となっている.アルカリホスファターゼのこの基質に対するKm値は2×10-4mol/lであってPNPや4MUPと類似しており,基質の親和性にアダマンチル基は影響していない.