- 著者
-
水野 紀子
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1992
日本固有の家族法を体現する存在である戸籍制度と、西欧法を継受した民法との間には根本的な矛盾が存在する。戸籍制度と民法が前提とする身分登録制度である自分証書制度との間にある相違は、単に個人別登録か家族ごとの登録かというものにとどまらず、戸籍は、国民登録兼親族登録兼住民登録である点で、出生・婚姻・死亡の単なる証拠書類にすぎない身分証書と基本的に異なっている。この相違がわが国の家族法に及ぼした影響は大きく、しかしその相違について無自覚であったため解釈は混乱している。平成4年度は、この矛盾があらわれている典型的なテーマのうち、実親子関係法について「比較婚外子法」、婚姻法について「重婚に関する一考察」、相続について「相続回復請求権に関する一考察」を著して、それぞれの問題を明らかにしたほか、日本の戸籍制度全体にわたってその特徴と将来像を描いた論文「戸籍制度」を執筆した。実親子関係法では、戸籍制度の特殊性故に虚偽出生届による戸籍を訂正する必要から生じた諸実務が、嫡出否認や認知など民法の設けている要件規定を事実上空洞化する傾向にある。その構造を明らかにした上で、現状の日本法の実務がどのような特殊性と難点をもっているかを描いた。婚姻法では、戸籍の届出制に基礎をおく協議離婚制度とそれが意思確認機能を持たないが故に必要となった協議離婚無効確認訴訟という日本法独特の訴訟類型、その結果生ずる重婚という日本にしかない特異な重婚類型に、構造上重婚が可能な身分証書制度下の民法がもつ重婚規定が適用されることから生じる問題を明らかにした。また、相続法においては、相続人がどこにどれだけいるかということが戸籍によってわかるという条件は、西欧法にはない。それがわからない身分証書制度を前提として形成されてきた相続回復請求権などの制度が、日本法に導入されたときどのような特異な機能を果たすことになったかを研究した。