著者
塚越 健司
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.4, pp.89-99, 2014-03

フランスの哲学者・思想家のミシェル・フーコー(1926-84)は、晩年に「パレーシアπαρρησiα parrêsia」という古代ギリシア語の言葉を研究していた。本稿は、パレーシアを「真理陳述=真実語りvéridiction」の一つの形式だと述べるフーコーのパレーシア研究に沿いながら、預言者の真理陳述に着目する。パレーシアとは、古代ギリシア語で「すべてを語るtout-dire」あるいは「真実を語るdire-vrai」といった意味を持つ。さらにパレーシアは常に危険を伴う言説行為であり、また語る内容を語る本人が信じていなければならない等の条件がある。本稿では第1章として、フーコーが語った真理陳述としてのパレーシアが、古代ギリシアのアテナイ民主政社会においてその機能を健全に維持するための、一種の社会的装置であったと解釈する。第2章では、フーコーが直接語らなかった古代イスラエル社会における預言者の「真理陳述」の形式について、預言者に関する先行研究を参照することで、それが神との契約を想起させる社会的装置であったと解釈する。第3章では、預言者の言説がパレーシアとどのように異なるのかについてフーコーの主張を確認する。さらにフーコーが残した仮説から、古代イスラエルの預言者の真理陳述の形式が、現代ではパレーシアの形式と混合し、「預言的パレーシア」として名付けることができることを確認する。最後に、預言的パレーシアという真理陳述の形式が革命家の言説として、現代にも引き継がれていることを確認する。
著者
マイ・ティ・カイン・フエン
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.73-88, 2017-03-15

日本の農村地域は国全体の高齢化を20年ほど先取りして既に超高齢社会になっている。したがって、21世紀の日本の高齢化社会のなかで、農村地域における高齢者の生活が維持できるかどうかは、深刻な問題となっている。こうした状況のなかで、2000年4月に介護保険制度が施行された。社会保険公式の導入、「措置」から「契約」の移行、民間事業者の参入などにより日本の高齢者福祉システムは大きく変化してきた。それは、介護サービス利用者が多様なサービスを選択し、利用できるようになったことである。このような制度のもと、山形県最上郡戸沢村と長野県小県郡旧真田町(現在の上田市真田町)での事例を通して、本稿の目的は、(1)農村・農家での要介護高齢者への家族介護について、(2)高齢者介護と農業生産との相互の関係性、(3)介護サービス利用後の高齢者生活の変化等、三つの点を明らかにすることである。さらに、その分析を踏まえたうえで、介護保険制度の導入によって発生する問題を検討するとともに、農村地域における要介護高齢者と主介護者の生活の質を高めるための課題を探ることである。
著者
斉 穎賢
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.1, pp.107-117, 2011-03

本稿は、これまでの先行研究で明らかになった、モンゴル社会における伝統的家族・父系親族の特徴が、①父系原理によって構成された血縁関係からなる氏族的集団、②家父長的小家族が単位、③族外婚、④複数の相続があり、女子の相続も小部分あるが、主に男子相続であり、特に「末子相続」であることを整理し、「小家族」と「末子相続」に焦点を当てて、これまで先行研究が見落としてきた点、つまり、①なぜ小家族が単位なのか、②なぜモンゴル社会は末子相続なのかを再検討し、明らかにするのが目的である。研究方法として、文献・資料を検討の上で、比較的伝統的であったモンゴル社会に生まれ育った経験を生かしながら、現在の生活の中での家族・親族関係を踏まえて、内側から、モンゴル社会における家族・父系親族の現象をとらえるだけでなく、その現象の持つ主な特徴の「意味」を探った。その結果、①モンゴル小家族は、遊牧的経済だけが要因ではなく、モンゴル人が、子どもを結婚させて、「独立」させることを、親の基本的な「義務の達成」とし、それを子供の「1人前の成人」であるという概念と、「親族間の軋轢」を避けるという観念と緊密に関連している。②モンゴル相続の発生は親の死後ではなく、子の「結婚・独立」時に発生しており、「平等である」という親の「判断基準」に基づき、諸子に財産を分割しているのが実態であり、しかも、「末子相続」慣行であっても、他の民族の「長子相続」のような「1人の子どもが死者の財産を排他的に継承する一子相続のパターン」ではない。③モンゴルの「末子相続」慣行は、明らかにモンゴルの「小家族が単位」と関連しており、上の兄弟たちが、次々と独立していった結果は、末子が親の扶養をすることになる。しかし、親の扶養が問題にならなかったから、法制度的な規定がなかったことになる。④農耕化したモンゴル社会における事例から、「末子相続」の慣行は、遊牧或は農耕のような経済的形態が主因でなく、「イエ」や「家族」をどう見るかという「観念」によるいという内藤莞爾説が実証されたことになる。
著者
庄司 俊之
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.5, pp.99-112, 2015-03

大阪の釜ヶ崎で日雇い労働者や路上生活者たちの支援活動を行っている修道女、大野晶子さんにライフヒストリーを聞いた。最初に現在の釜ヶ崎の状況、その変貌する様子をどのように見ているかを説明してもらい、ついで、どのような過程をへて釜ヶ崎での活動に携わるようになったのか、自身の前半生について語ってもらった。1927年生まれ。釜ヶ崎の危機的状況については原発労働者や監視カメラなど、硬質な言葉で表現した。それに対して出身地で幼少期にみた光景について聞くと、戦前の神戸がいかに国際色豊かだったかを語ってくれた。この原体験としてある多様性への感覚は、現在の危機意識と鮮やかにコントラストをなしていた。また、大正ロマンを生きたという両親からは「キリストに従うこと」や「慈善のわざ」を受け継いだ。しかし両親は、おんなは結婚して夫の家の宗教にしたがうべきとする伝統的な考えをもち、娘の入信には反対したという。これを押し切るかたちで家を出て修道院に入り、第2バチカン公会議における「現代化」の思想や労働運動に携わっていた弟から「キリストの生き方」を学ぶなどしながら、やがて定年間近の年齢になって「つぎの段階へすすむ」ために大きな修道院を出て小さな共同体を生きることを考えるようになった。そのとき短期の研修として赴いた先のフィリピンでの経験こそ、彼女が釜ヶ崎で活動するようになる大きなきっかけとなった。以上の事例研究は、たとえば福祉活動に携わるアクターの諸類型を比較研究する際の有益な材料のひとつにもなりえるし、また、福祉の思想や宗教思想を掘り下げようとする際にも有効な示唆が得られるはずである。
著者
庄司 俊之
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.97-104, 2020-03-23

この研究ノートは死生観の歴史的変遷と現在を考えるための視点についての覚書である。第1節では、現代の状況を考えるための視点としてバウマンの「液状化する社会」を挙げる。そして液状化にもかかわらず、あるいはそれゆえに、きわめてシンプルな死生観に収斂していく可能性について述べ、さらに今日「死生観を問う」こと自体が政治的効果を発揮しうることを言う。つぎの第2節では、2019年にオランダで議論された「認知症の安楽死」をとりあげ、これを死生観全体でいえば先端部分に位置する論争点と理解したうえで、その歴史的な経緯や行方について考える。そして第3節では、先端から底辺へ視点を移し、戦後日本における死生観の変容について、そして世界史的な転換の構図について触れる。最後の第4節では、死生観を考える際に見落とされることの多かった生の諸相について、排泄と食べることを例にとって若干の考察を行なう。
著者
小澤 拓大 下斗米 淳
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.9-19, 2012-03-15

本研究は,意思決定におけるネガティビティ・バイアスの強度の非一貫性を説明する変数として結果関連関与を導入し,「結果関連関与が高い意思決定の方が結果関連関与が低い意思決定に比べネガティビティ・バイアスが強くなる」という仮説を検討することにより,その説明力を検証した。質問紙実験において,結果関連関与高条件と結果関連関与低条件の2条件を設定し,2つの選択肢のうち一方を選択する選択課題と,決定において重視した情報があればそれを指定する重視情報指定課題を実施した。分析の結果,仮説は支持された。そして,結果関連関与が意思決定に際しての心理的安全装置の作動を規定する可能性について議論された。
著者
小森田 龍生
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.99-107, 2021-03-23

本稿では、日本における性的少数者(ゲイ・バイセクシュアル男性)のメンタルヘルス悪化のメカニズムを要因間の関連性と、時間の経過に伴う影響力の変化に注目して明らかにすることを目的として実施した調査結果の一部を報告する。調査対象は、日本国内に居住する20~60歳までのゲイ・バイセクシュアル男性、および異性愛男性である(共に学生、および外国籍の者を除く)。調査の実施方法は民間調査会社に登録するアンケートモニターを対象としたインターネット調査である。回収数はゲイ・バイセクシュアル男性1,684件、異性愛男性1,854件であり、データクリーニング後のサンプルサイズはゲイ・バイセクシュアル男性1,668件、異性愛男性1,851件であった。回答者の平均年齢は、ゲイ・バイセクシュアル男性41.69歳、異性愛男性47.26歳であった。メンタルヘルスについて、K6尺度をもちいてたずねた結果、ゲイ・バイセクシュアル男性の平均値は異性愛男性に比べて高く、メンタルヘルスの状態が悪い傾向にあることが確認された。また、メンタルヘルスに影響を与える要因のひとつとして想定しているいじめ・ハラスメント被害経験についてもゲイ・バイセクシュアル男性において経験割合が高く、クロス集計の結果からも2つの変数の関連性が示唆された。
著者
高田 夏子
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.27-38, 2014-03-15

作家森茉莉について,まずその気質を,てんかん気質,中心気質,内向的感覚タイプという観点から考察した。次に,森茉莉と父親鴎外との関係について述べ,父親元型と密着しすぎている「父の娘」という観点から見たとき,「父親の輝きを背後にもった少女」ということができ,生涯その父子のナルシシズムに守られていたということが言えた。また彼女は,「少年愛もの」から本格的な小説を書き始めているが,この「少年愛もの」は現代の「腐女子文化」に通じるものがあることを論じた。そして,長編小説『甘い蜜の部屋』を創造し書ききることで,父の庇護を必要としない「絶対少女」となり,それは父からの自立を意味していたということを明らかにした。
著者
藤代 将人
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.125-137, 2017-03-15

神奈川県県央地域にはエスニック関連施設が集積しているが、郊外におけるこのような地域を何と呼べばよいのか。本研究では、リ・ウェイ(Li.Wei)の概念に示唆を受け(Li 2011)、神奈川県県央地域全体を一種の「エスノサバーブ」と仮定する。エスノサバーブはいくつかのマルチエスニック・ネイバーフッドから構成されると筆者は考えるが(Alba1997:883-903)、本論では、マルチエスニック・ネイバーフッドの一つである大和市M 地区をフィールドに、「結節点」としてのエスニック施設を対象として、そこに形成されるマルチエスニックな社会的世界の一端と、その世界を支える地域のエスニシティ経験に焦点を合わせ報告する。本論ではいくつかの「結節点」の社会的世界について描くが、外国籍住民にとって、「結節点」としてのエスニック施設は母語で交流でき、必要な情報が得られ、日本でのストレスや家族の問題について相談できる場所でもあり、コミュニティセンターとしての役割を担っている。M 地区の場合の特徴は、「マルチエスニック性の高さ」である。また、マルチエスニック性と並んで「寛容性」の高さもあげられる。それはこの地区の周囲に難民定住促進センターや厚木基地の存在があったことも大きい。それが地域としてのエスニック経験を積み重ね、そのことが異質性に対する「寛容性」を生み出したと筆者は考える。
著者
柴田 弘捷
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.25-42, 2017-03-15

本稿はいくつかの調査データを用いて、日本の非正規雇用者のおかれている状況を、女性パートを中心に、明らかにしようとしたものである。日本の雇用状況は、非正規雇用者の増加と雇用形態の多様化(パート、派遣社員、契約社員、嘱託等)が進んでいる。2015年時点で、雇用者の1/3強の2,000万人、うち女性は1,350万人を超え、女性雇用者の半数強を占めるに至った。女性の非正規雇用者の多くはパートで主婦が多い。その主婦パートは、時給1000円程度で、1日数時間働いているものがほとんどである。年収にすると130万円以下が大半である。これには、税制(扶養家族控除規定)と年金・医療保険制度と大きく関係している。同時に、女性に大きく偏っている家事負担、家計補助程度の収入でよいとする意識、つまり家庭内地位と関係している。この低賃金と雇用の不安定性は、女性パートだけでなく他の非正規雇用者群も同様の状態に置かれている。また、やむを得ず・不本意に非正規雇用に就いている者も少なくない。彼ら/彼女らは、正規の雇用者に変わりたいと思っているが、なかなか正規の職には就けないのが現状である。いわば非正規の固定化(脱出できない)状況で「雇用身分社会」(森岡)となっている。労働世界に「格差と分断」が生じている。この背景には、人件費を節約したいとする企業の労務政策がある。
著者
徐 玄九
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.8, pp.53-64, 2018-03

明治末期から大正期を経て昭和初期にかけて、いわゆる「第二維新」を掲げる多くの運動が展開された。日本のファシズム化の過程で結成された多くの国家主義団体は、ほとんど大衆的組織基盤をもっておらず、しかも、組織機構を整備していなかった。ごく少数の幹部が勇ましいスローガンを掲げていたに過ぎず、経済的基盤も弱かった。しかし、大本教および出口王仁三郎の思想と運動は、これまでのテロやクーデターに頼った右翼や青年将校に比べて、大衆組織力、社会への影響力という点で、群を抜いていた。そして、大本教および出口王仁三郎の運動を「天皇制ファシズム」を推し進める他の団体、青年将校らと比較した場合、決定的に違う点は、テロやクーデターのような暴力的手段に訴える盲目的な行動主義とは一線を画し、「大衆的な基盤」に基づいて、あくまでも「無血」の「第二維新」を目指したことである。出口王仁三郎が追求したのは「民衆の力を結集すること」による社会変革であったのである。
著者
蔵屋 鉄平 澤 幸祐
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.3, pp.33-40, 2013-03

抗うつ薬の薬効評価や新規抗うつ薬の開発には,適切な動物モデルの存在が欠かせない。うつ病動物モデルの作成法は複数あるが,操作の簡便性や薬物への反応性の高さから,強制水泳試験がもっとも頻繁に用いられるうつ病動物モデルである。強制水泳試験は,薬効評価のみならず,うつ病の病態生理の解明にも多大な貢献を果たしてきた。しかし,頻用されるに伴い,変法が多様化し,そこから得られる知見は複雑化している。また,用いる系統によっても反応性は異なることが知られ,最適なモデルを特定するには至っていない。さらに,うつ病モデル動物とヒトのうつ病との間には決定的な隔たりがあり,その問題をいかに扱っていくかは重要な課題である。本稿では,強制水泳試験によるうつ病モデルマウスの知見を概観し,その現状と今後の課題を検討した。
著者
杣取 恵太 坂本 次郎 時田 椋子 鈴木 彩夏 国里 愛彦
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.41-58, 2016-03-15

Diagnostic tests specify whether a person has a specific disease or not and it extremely contribute decision-making of the intervention. Various types of diagnostic test are proposed and their methodological qualities have been improved. However, there are much inconsistent evidences in diagnostic test accuracy studies. We have become so difficulty of decision making in diagnostic test. Therefore, we believe that individual studies on diagnostic test accuracy should be synthesized for evidence based clinical psychology. In systematic reviews of diagnostic test accuracy, Cochrane collaboration is making up its guideline "Handbook for diagnostic test accuracy reviews". In the handbook, some key components of systematic reviews and meta-analysis in diagnostic test accuracy are explained, which contain the drawing up protocol, search strategy, assessing methodological quality, and meta-analysis. We review the key components of systematic reviews and meta-analysis according to "Handbook for diagnostic test accuracy reviews".
著者
大久保 街亜
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.81-89, 2011-03-15

Reaction time is used to measure various types of human performance such as perception, memory, and problem solving. Many constructs, from unconscious prejudice to intelligence to personality, can also be measured by use of reaction time. It is, therefore, fundamentally important to remove the influence of spurious long reaction time in a positively skewed distribution, which reaction time data tends to follow. The present article evaluated methods for dealing with reaction time outliers. These methods were categorized into three types : Sample selection, transformation, and whole distribution analysis. In this article, I summarized pros and cons of these methods and made suggestions for a practical reaction time analysis.
著者
柴田 弘捷
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.11, pp.23-40, 2021-03

COVID-19パンデミックは世界的に経済活動の縮小・不況と言うコロナ禍が生じさせた。その中で日本の就業世界では、企業の倒産、閉鎖・解散、事業所の閉鎖・縮小が生じ、それに伴って解雇・希望退職募集企業が増加し、休業者の急増、離職者の増加・就業者の減少、失業者・失業率の増加・上昇が見られた。休業者は非正規女性、特にパート、アルバイトに集中し、離職者は若年非正規、男性正規、女性非正規に多く、増加した離職者総計で見ると圧倒的に女性非正規が占めていた(97%)が、女性正規は増加していた。なお、休業者で法定休業手当(60%以上)以下の者やまったく払われなかった者も多くいた。また、就業形態では、「テレワーク」(在宅勤務)の導入、適用者(テレワーカー)も急増した。しかし、6月以降には導入中止、適用労働者割合、テレワーク日数も縮小しつつある。また、テレワーク導入目的、企業側、テレワーカーから見たテレワークの課題、問題点を明らかにした。
著者
今野 裕昭
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-13, 2020-03

海外ライフスタイル移民は、ミカエラ・ベンソンが「仕事や政治的避難のような伝統的に挙げられてきた理由のためではなく、主に生活の質として広く語られる理由に駆りたてられた移住のグループ」と定義しているように、より良い生活を求めての移住という点に特色があると言われる。本稿では、日本人のライフスタイル移民の研究が比較的多いオーストラリア移民の事例を中心にこの移民の移住動機を再検討し、生活の質として語られる理由の内実を確かめる。先行研究から、出自国社会の閉塞感、上下の人間関係、ジェンダー規範や都会のストレスからの脱出と、ゆとりのある生活、安い住宅費と生活費、健康に良い気候や景観、子育てに良い環境への希求が出てきた。さらに、1980年代90年代に新たに登場したライフスタイル移民と、戦前からの従前の経済移民とを対比し、前者の移住の性格は自発的な選べる移動に特徴がある点を確認した。その上で、グローバル化現代のライフスタイル移民が、移住先の海外日本人社会の中でどのような位置に置かれているかを検討し、移民の性格の点で見るとこの人たちが今やゆらぎの中にあることを明らかにした。この半世紀の間にライフスタイル移民のタイプは複雑に多様化し、階層分化の中で格差が大きくなり、孤立する者が生じ、重大なことに、選びとる移動で来たはずの人が、グローバル化の進展の中で今や選べない移動を強いられている事態が表面化してきている。
著者
金 思穎
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.107-126, 2018-03-23

本研究の目的は、2013年の災害対策基本法改正で創設された地域コミュニティの住民等を主体とした共助による防災計画制度である「地区防災計画制度」について、政令指定都市の中でも先進的な取組が実施されている北九州市独自のモデル事業に関する調査を踏まえ、地区防災計画づくりを通じた住民主体のコミュニティ防災の在り方について考察を行うことである。調査手法としては、2017年8月4日に、同市の防災担当官2人に対して、半構造化面接法によるインタビュー調査を実施し、SCAT(steps for coding and theorization)を用いた質的データ分析を行った。その結果、地区防災計画づくりに成功した地区では、①地域コミュニティの住民主体のボトムアップ型の活動、②大学教員、NPO、行政の防災担当経験者等の地域コミュニティの外部からの有識者等によるサポート、③福祉施設、学校、企業等の多様な主体との連携、④大学生から幼稚園児までの子供・若者の参加、⑤自治連合会長等の献身的な住民のリーダーの存在、⑥コミュニティセンター等を中心とした新規居住者を積極的に受け入れた校区単位の良好な人間関係、⑦河川の清掃活動のような日常的な地域活動を結果的に地域防災力の向上につなげる活動(「結果防災」)、⑧自治体の防災担当経験者による自発的な長期的支援、⑨地区の特性に応じた行政と地域コミュニティの連携等の特徴があることが判明した。なお、本稿は、1つの政令指定都市の地区防災計画制度のモデル事業に関する調査であり、検証のためには、さらなる事例の調査が必要である。
著者
石黒 良和 榎本 玲子 山上 精次
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-14, 2015-03

本研究では幼児を対象に, 向社会的行動, 感情的役割取得, 対人的問題解決の学年による水準の変化を検討するとともに, 3者間の関連性を検討した。向社会的行動とは他者からの見返りを期待せずに, 他者への利益のために起こす対人行動のことである。役割取得とは他人の感情, 思考, 観点, 動機, 意図を理解する能力のことである。対人的問題解決とは対人的な葛藤に直面した場面に適した対処法を導き出したり, 他者に対する社会的行為の結果を予測する能力のことである。感情的役割取得は学年に伴い一貫して水準が上昇していた。それに対して対人的問題解決は年長の幼児のみ他学年の幼児よりも有意に水準が高く, 感情的役割取得と比較すると成長に時間を要することが考えられる。向社会的行動は年長および年中の幼児が年少の幼児よりも有意に平均値が高かった。また, 向社会的行動に対して感情的役割取得および対人的問題解決の双方とも正の影響を与えていることが明らかとなった。このことから感情的役割取得, 対人的問題解決の水準が高いほど, 向社会的行動の水準も高いという関連性が示唆された。
著者
蔵屋 鉄平 澤 幸祐
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-40, 2013-03-15

抗うつ薬の薬効評価や新規抗うつ薬の開発には,適切な動物モデルの存在が欠かせない。うつ病動物モデルの作成法は複数あるが,操作の簡便性や薬物への反応性の高さから,強制水泳試験がもっとも頻繁に用いられるうつ病動物モデルである。強制水泳試験は,薬効評価のみならず,うつ病の病態生理の解明にも多大な貢献を果たしてきた。しかし,頻用されるに伴い,変法が多様化し,そこから得られる知見は複雑化している。また,用いる系統によっても反応性は異なることが知られ,最適なモデルを特定するには至っていない。さらに,うつ病モデル動物とヒトのうつ病との間には決定的な隔たりがあり,その問題をいかに扱っていくかは重要な課題である。本稿では,強制水泳試験によるうつ病モデルマウスの知見を概観し,その現状と今後の課題を検討した。