著者
前多 修二
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 自然科学 (ISSN:09193359)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.203-211, 1996-06-26

今年4月上旬から11月上旬までの間の166日の正午の気象を対象として,気象衛星の雲画像が含む地域気象の情報を,多層ニューロネットワークによって有効に引き出す枠組みを試みた。構造が最も簡単な3層ネットワークを用い,北海道中央の矩形部分の赤外線強度分布を入力層とし,出力層において同時刻の矩形地域内3都市の天気が表現されるよう,ネットワークに学習を行わせた上で,雲画像の情報が中間層においてどのように変換されているかを調べた。その結果,同じ出力値(3都市の天気の組み合わせ)を導く雲画像が,中間層において複数のクラスターを形成していることがわかった。各クラスター内では,互いに似た情報の表現になっている。もしこれが気象の何らかの分類に対応しているとすると,ニューラルネットワークがその内部的表現において,カテゴリーを自律的に形成する事例と考えられる。
著者
近藤 錬三 岩佐 安
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.231-239, 1981-11-15
被引用文献数
4

ブラジル,アマゾン地帯に分布する腐植質黄色ラトソルの高腐植量の表層が,どのような土壌生成過程および土壌環境下で形成されたかは明らかでない。この点に関して,多くの仮説が唱えられているが,われわれは植物種の相違も要因の一つであったと推測し,腐植質黄色ラトソルとその隣接地に分布する黄色ラトソルの生物起源ケイ酸体組成およびその量について比較検討した。得られた結果を要約するとつぎのとおりである。1)腐植質黄色ラトソルおよび黄色ラトソル表層の生物起源ケイ酸体量は0.54〜0.91%の範囲にあり,両土壌の間でさほど相違は認められなかった。2)腐植質黄色ラトソルおよび黄色ラトソル中で高頗度に分布するケイ酸体は,ヤシ科植物起源で全生物起源ケイ酸体の約30〜70%を占め最も多く,ついでイネ科草本類起源,樹木起源のケイ酸体の順であった。3)全生物起源ケイ酸体に占めるイネ科草本類由来のケイ酸体の割合は,両土壌の間でかなり相違が認められた。すなわち,腐植質黄色ラトソルは黄色ラトソルの約3〜4倍のイネ科草本類由来のケイ酸体を含有していた。4)腐植質黄色ラトソルA層のヤシ科植物起源の変質ケイ酸体の多くは熔融していたが,黄色ラトソルおよび腐植質黄色ラトソルB層のそれは正常な風化過程によって「あばた状」の表面を有していた。5)腐植質黄色ラトソルのみにmono-axon型の海綿骨針が観察され,それは一時的にせよ湿った環境下にあったことを示している。以上の結果から,腐植質黄色ラトソルは高草木の強い影響,および一時的に湿った土壌状態下で発達してきたものと考えられる。
著者
伊藤 太郎
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.223-231, 1960-12-25

Homothallic種Sordaria fimicolaの天然分離の集塊胞子培養によって得られた子実体に形成された子のう胞子中に,4種の色調差を有するものが4種の分離型(同質接合体型 異質接合体型(2種)不規則型)に従って配列形成されていた。色調形質因子の発現作用考究のためには,先ず同因子の数及び因子構成が調査されねばならないが,本研究では自家和合系形質発現作用考究の一部として,子のう胞子の分離を四分子分析法によって調査した。その結果として,異質接合体型中,後還元的分離を示したものは50ないし63%で,OLIVE氏の人為然変異型間の交配により現出された濃淡色子のう胞子の分離頻度に略一致することが明ちかになった。これは更に不規則型分離型の子のうにおいても適用されると見なした。これはその第一次から第三次の核分裂で同形質発現因子に異常を来たし,その作用が不活性化されるか遅滞するために形成子のう胞子に淡色のものが生じたと見なした。即ち濃淡色子のう胞子配列により,第一次核分裂において生じた単一核に,第二次又は第三次分裂に際して遅滞がおきたと見なされるもの(第一群分離型),第一次分裂に続いて,第二次分裂及び第三次分裂に遅滞がおきたもの(第二群分離型),更に第二次及び第三次分離に遅滞がおきたもの(第三群分離型)として,その始発分裂時期によって第一群を同質接合体型に,第二群を異質接合体型(I)(前還元分離型),第三群を異質接合体型(II)(後還元分離型)に準ずるものと見なし,三群に群別することによって得られた後還元分離頻度は約50%である。従ってこれらの事実から同菌の胞子色調形質発現は単一遺伝子支配で,その核分裂時に屡々同形質発現の機能的因子が欠失されるか,同因子の作用が不活性化されることがあろうと推察した。
著者
佐瀬 隆 近藤 錬三
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.465-483, 1974-03-20
被引用文献数
2

本研究では,まず現在の東北海道に生育するイネ科植物表皮細胞中の珪酸体の記載分類を行なった。次にこの分類に基づいて,北海道各地域に分布する約1,300B.P.年以降の埋没火山灰土について,そのA層中の植物珪酸体の形態別組成と含量を明らかにした。さらに,各地域で生成年代の明らかな火山灰土A層につき植物珪酸体生産量(g/cm^2/年)を算出し,主としてイネ科植物生産量の側面から,北海道の後氷期の古気候変遷について考察した。その結果は,次のように要約することができる。(1)イネ科植物表皮細胞中の珪酸体は,その形態的特徴と植物分類学グループとの関係から,I)ササ型,II)ヒゲシバ型,III)キビ型,IV)ウシノケグサ型,V)棒状型,VI)ファン型およびVII)ポイント型の7グループに分類することができる。このうちII),III),IV)およびV)の珪酸体グループは,TWISS et al.の分類を暫定的に採用したものである。これらの珪酸体グループのうち,I)はササ属,II)はヒゲシバ族,III)はキビ亜科,そしてIV)はウシノケグサ亜科の表皮細胞中に特徴的に含まれる。V),VI)およびVII)の珪酸体グループは,特定の植物分類学グループとの関係は認められなかった。しかし,ファン型グループの珪酸体は,ウシノケグサ亜科よりキビ亜科に一般的に多く含まれる傾向があり,とくにササに非常に多く含まれている。また,ヨシのファン型珪酸体は著しく粒径の大きいのが特徴である。(2)北海道各地の埋没火山灰土A層には,棒状型,ポイント型およびファン型グループの各植物珪酸体が,全試料に含まれていた。ササ型珪酸体は,5,000〜6,000B.P.年以降の埋没火口灰土A層に普遍的に認められた。ウシノケグサ型グループの珪酸体は,絶対年代に関係なく,道南渡島地域の試料を例外として,すべての地域の試料に含まれていた。キビ型グループの珪酸体は,数種の試料にごく少量認められたが,ヒゲシバ型珪酸体は,すべての試料にまったく含有されていなかった。これらの結果から推定される北海道の後氷期の火山灰地古植生は,5,000〜6,000B.P.年以前はウシノケグサ亜科のイネ科植物が優先し,それ以後はササが優先したものと推定される。5,000〜6,000B.P.年以降ササ植生が優先したという推定は,現在の北海道の火山灰地草地植生とほぼ一致するものである。(3)埋没火山灰土A層の珪酸体含量と,腐植含量の間には,正の相関(γ=0.64)が認められた。珪酸体生産量は,時代や地域の違いによって次のように変動したものと思われる。1)10,000〜7,000B.P.年,0.1〜0.2×10^<-4>g/cm^2/年(胆振,根釧地域)2)7,000〜4,500B.P.年,1.2〜1,9×10^<-4>g/cm^2/年(渡島,胆振地域)3)4,500〜2,500B.P.年,2.7×10^<-4>g/cm^2/年(渡島地域),1.3×10^<-4>g/cm^2/年(十勝地域)4)2,500〜1,500B.P.年,1.4×10^<-4>g/cm^2/年(渡島地域),1.0×10^<-4>g/cm^2/年(胆振地域),0.9×10^<-4>g/cm^2/年(十勝地域)イネ科植物の珪酸体生産量が,主に気候(とくに気温)によって規定されるという見地に立つならば,北海道の後氷期の古気候変遷は,ほぼ上記の珪酸体生産量の変動に対応したものと推定することが可能である。上述したように,埋没火山灰土A層中の植物珪酸体の形態組成および珪酸体生産量についての研究は,古植生のみならず,過去の気候条件を推定する有効な手段となることが明らかである。
著者
後藤 健三 岩野 貞雄
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.660-665, 1969-01-30

供試された6種類のブランデー中,池田ブドウブドウ酒研究所で試作されたものはVitislabruscaを原料とするために,他の4種の四Vitis viniferaを原料とする市販品に比較して香気が著しく異なるが,これらは熟成期間中に樽材から溶け込むタンニン系化合物含量の相異によるほか,最も低級なカルホニル化合物の含量が比較的多く,発酵中に果汁アミノ酸から生成すると考えられる各種のカルボニル化合物含量が少ないためと推定される。最後にこの研究の大要は,昭和40年11月12日日本農芸化学会北海道支部会(函館)において発表された後,農化誌40巻3号(昭41)に要旨が収録されたものであり,ジメチルホルムアミドー水系溶媒による2,4-DNPH誘導体の濾紙クロマトグラフィは文献に記載のないものであることを附記する。
著者
伊藤 繁 津久井 寛
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.423-435, 1992-07-31
被引用文献数
1

畑作物共済は1979年から本格実施されたが,当初の引受率は共済組合,農協,役場などの組織的対応や制度運用上の問題点によって規定されていた。また地域によっては,作付け構成や畑作部門の経営にしめる比重が異なるが,これらの要因も共済加入率に影響を及ぼしていたとみられる。さらに1980,81,83年の冷害をきっかけとして加入率は上昇したが,近年では,当初の組織的対応による過剰保険を調整するような動きも出てきている。この動きは長期的にも短期的にもリスク水準に対する反応で,次第に畑作物共済の収益と費用との関係を意識した保険需要行動がとられるようになったとみられる。また,小麦を含めた作物共済の所得補償は被害の大きい地域では広範な農家に及んでいた。ここではこれを支払共済金の分布に注目して,とくに対象期間中最大の被害年でありまた1960年代の大凶作年に匹敵する1983年について,地域レベルの支払共済金の平均値では捉えられない側面を明らかにした。
著者
池滝 孝 太田 三郎 鈴木 省三 熊瀬 登 遊佐 啓一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.19-24, 1982-11-25

低グルコシノレートナタネ粕の高水準配合飼料が乳牛の飼料摂取量および乳生産・乳質におよぼす影響を知るため,ホルスタイン種乳牛8頭を用い,キャンドル種(Candle)ナタネ粕24%を含む配合飼料(R24)と現行種(Ordinary)ナタネ粕8%,大豆粕9%を含む配合飼料(R8)を産乳量に応じ各群4頭に給与し,28日間を1期とする3期反転泌乳試験を行なった。各群とも給与した配合飼料を全量採食し,粗飼料として与えた乾草,とうもろこしサイレージの摂取量も処理間に差はみられなかった。産乳量,乳脂率,無脂固形分率および乳脂生産量にも差は認められなかったが,乳蛋白率はR24給与期にやや多く,有意差(P<0.05)があった。また,供試牛の体重変化および健康状態もほぼ正常に推移した。本試験のように,配合飼料給与量が1日7〜9kgのレベルであれば,乳牛用配合飼料にキャンドル種ナタネ粕を24%の高率で配合しても,乳牛の食欲,生産性,乳成分に著明な影響を与えることなく,安全に使用できるものと推察された。
著者
有賀 秀子 林 友子 永田 信一 祐川 金次郎
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.177-186, 1978-10-31

継続採取した農家婦人10名,非農家婦人18名の乳汁および飲用水について,硝酸・亜硝酸およびジメチルアミン含量と,人血液中の硝酸・亜硝酸および血色素量の測定を実施した。1.人乳中の硝酸と亜硝酸の合計含量は,分娩後3〜5日目には平均2.67ppmであったが,2週間後までに急激に減少し,約1/2量になった。40日目以降では0.5ppm前後にまで減少するが,60日後やや増加した。初乳中硝酸・亜硝酸含量の個体差は大きいが,日数の経過とともにその差は小さくなった。2.人乳中亜硝酸含量は,初乳で0.025ppm程度で,その後やや増加するが,60日目には初期の1/2量にまで減少した。3.人乳中ジメチルアミン含量の個体差は大きいが,75%の試料が0.1ppm以内にあり,他の一般食品に比べ低い値であった。4.人血液中の硝酸・亜硝酸含量は,分娩後3〜14日目の者についてみると,平均1.11ppmで,0.5〜1.5ppmの範囲に全体の80%が分布していた。乳汁中含量に比べその約1/2量と低かった。5.人血液中の血色素量は,分娩後の経過日数により大きく異なり,6〜8日目で正常値の者は約60%であった。6.飲用水中の硝酸・亜硝酸含量は,地下水の場合は水道水に比べはるかに高く,乳幼児に推奨されている3ppm以下のものは50%に満たず,また飲用水基準の10ppmを超えるものも約10%程度みられた。