著者
堀 浩二 倉持 勝久 中林 成広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.239-246, 1985-11-20
被引用文献数
1

エゾアオカメムシの幼虫生育にとって,インゲンマメの種子莢,エンドウマメの種子莢,小麦の穂,オオハナウドの種実およびライラックの種実が好適な食餌植物であった。アスパラガスとナナカマドの実はすくなくとも比較的若い幼虫(野外では多分幼虫の全生育期間に対して)にとって,非常に良い食物であった。若い多汁なナタネの種子莢はまた幼虫生育にとって適した食物であろう。種実をつけていないアブラナ科植物,馬鈴薯,アルファルファおよびてん菜茎葉で幼虫を成虫まで生育せしめることはできなかった。
著者
高橋 伸彰 山本 紳朗
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告
巻号頁・発行日
vol.28, pp.13-22, 2007-10

土壌pH と有機物施用が土壌有効態ミネラル濃度,トマトの生育,ミネラル濃度,食味に及ぼす影響について調べた。硫酸および水酸化カルシウムにより土壌pH を4~10 に調整し,化成肥料によりトマトを栽培した。また,これらのpH の土壌に堆肥とボカシ肥を合わせて施用し,トマトを栽培した。土壌の有効態ミネラル濃度は,酸性土壌においてはカリウム,カルシウム,マグネシウムは低下し,鉄,マンガンは高まった。また,アルカリ性土壌においてはマグネシウム,鉄,亜鉛,マンガンは低下した。トマトの地上部および地下部乾物重は,酸性およびアルカリ性土壌において大きく低下した。トマト体内のミネラル濃度は,酸性土壌ではカリウム,カルシウム,マグネシウムは低下し,マンガンは高まった。アルカリ性土壌では亜鉛,マンガンは低下した。トマトのミネラル吸収量は,酸性およびアルカリ性土壌においてこれら全てのミネラルが大きく低下した。果実の酸度および食味は酸性土壌では低く,pH の増加にともない高まった。有機物施用は,アルカリ性土壌において,トマトの乾物重とカリウム,カルシウム,マグネシウム,亜鉛吸収を改善した。しかし,土壌においてこれらのミネラルの有効態化は認められなかった。これより,有機物施用によるアルカリ性土壌でのトマトの生育改善は,土壌化学性への直接的な作用によるものではないと考えられる。
著者
中原 淳一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第II部, 人文・社会科学篇 (ISSN:03857735)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.217-225, 1976-02-25

Taxonomy of 2×2 games has been shown by Rapoport & Guyer. Later, Hamburger introduced a metric classification system of 2×2 games restricting his examination on separability of payoffs. If the classification system is a metrical one, then not only comparability of game behavior of strategicaly different games, but also quantitative analysis of game behavior is supposed to be possible by using the parameters of the system. Moreover, dynamic game methods should become a powerful experimental method for the study of interpersonal interaction processes, if the system contains metricaly related, psychologicaly meaningful games such as prisoner's dilemma game, chicken game and so on. Following the above preliminary considerations the author presented a new way of construction of the 2×2 game system. Itemized discussions are as follows : 1. A state vector is attributed for each player. The element of this vector is a potential payoff. A rectangular arrangement of these vectors makes a state matrix. The state matrix of a two-person game is shown as follow : [numerical formula] 2. Somewhat ad hoc payoff rules are applied to the state matrix, and the 2×2 payoff matrix is constructed as follow : [numerical formula] 3. Characteristics of games which are deducible from this parametric payoff matrix are discussed. 4. A symmetric case (α=β, x=y) is examined at first, and α is hypothesized to be a fixed parameter. In this case, game are quasi-chicken games if x>α, prisoner's dilemma game if α>x>α/2, quasi-coordination games if α/2>x>o, and pure coordination game if x=0. 5. An asymmetric case (a=β, x≠y) is considered next. In this case, if y>α>x, then column player's payoffs are always secured as positive, and also he can determine row player's payoff as positive or negative only by his own strategic choice. This game is called the absolute positive-negative control game. 6. Finally, several further extensions of the method are discussed.
著者
小野山 敬一 熊谷 幸民
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.115-129, 1989-06-30

有害鳥獣駆除におけるエゾシカの捕獲状況についてのアンケート調査を7支庁管内(胆振,日高,上川,網走,十勝,釧路,根室)について行ない,捕獲時に目撃された群れ構成と大きさ,捕獲された時期,時刻,捕獲地の植生,捕獲地周辺での生息状況を調べた。群れ構成としては,雄と雌の混成群が約半数を占め,ほとんどの場合雌の方が多かった。雄の単独個体は,10月と6月に多かった。雌の単独個体の場合は非常に少なかった。群れは1〜5頭の場合が多く,平均頭数は,4月に7.5頭と大きく,3,5〜8,10月は3.9〜4.8頭で,9,11,12月は3頭以下であった。群れの大きさと構成の変化に関係する要因として,エゾシカの繁殖期の行動,採食集団の形成が考えられた。性比(雌/雄)はエゾシカの自然個体群よりも少し高いと推定された。捕獲個体が目撃総個体数に占める比率からみると,雄は雌の約5倍選択的に捕獲されていた。雌雄とも,捕獲数は4〜7月と10月に多く,時刻別には5〜7時台と14〜18時台に多かった。草地における捕獲が最も多くて64.8%を占め,ついでビート畑(15.4%)とマメ類畑(8.6%)が多かった。日高,釧路,根室のように草地の作付け面積比率が特に高いところでは,草地での捕獲が多かった。胆振,上川,網走では草地での捕獲比率は作付け面積比率よりかなり低く,胆振ではマメ類畑,上川と網走ではビート畑での捕獲比率が,作付け面積比率に対してかなり高かった。捕獲地域一円には,エゾシカが繁殖地を持って1年中生息するという回答がほとんどだった。捕獲は森林に隣接した草地や畑で行なわれることが多いと思われる。捕獲者による推定生息密度の各支庁管内での平均値は,日高と釧路でかなり高く,ついで上川,網走,十勝,根室でほぼ同じで,胆振はやや低かった。全7支庁管内での平均は51.8頭/km^2であった。農耕地周辺では採食集団の形成あるいは高い環境収容力によって生息密度が高くなっていると考えられる。
著者
堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

病原性プリオン蛋白質(PrPSc)と正常型プリオン蛋白質(PrPC)が直接会合することが、PrPScの増殖の第一段階である。そこで、PrPCとPrPScの結合に関与するPrP分子上のドメインを調べることを目的として、各種PrP合成ペプチドがPrPC-PrPSc間の相互作用を阻害するか否かについて検討した。PrPCがPrPSc存在下でPrPSc様のProteinase K(PK)抵抗性分子(PrP-res)に転換する試験管内転換反応で、PrP合成ペプチドaa117-141、aa166-179、aa200-223はPrPCがPrP-resに転換するのを阻害した。これらのPrPペプチドはPrPCと結合することにより、PrPCとPrPScの結合を阻害することが判明した。結合阻害活性を示すPrPペプチドは反応条件下ではβシート構造をとる傾向があることから、PrPペプチドがPrPScのPrPCへの結合ドメインを模倣することでPrPCと結合し、PrPC上のPrPSc結合ドメインを占拠する結果、PrPCとPrPScの結合を阻害する可能性が示唆された。PrPCとPrPScの分子間相互作用を解析する道具として、PrP分子に対するモノクローナル抗体(mAb)パネルを作製した。計34のmAbは認識するエピトープから9群に分類された。グループI〜VIはPrP分子上のリニアエピトープを認識する抗体、グル-プVII、VIIIはPrP分子上の構造エピトープを認識する抗体であった。また、グループIXはPrPSc特異的エピトープを認識する抗体である可能性が強く示唆された。aa59-89のリニアエピトープを認識するmAb、aa143-151を認識するmAb、およびaa1555-231領域内の構造エピトープを認識するmAbはプリオン感染細胞におけるPrPScの合成を阻害した。これらの抗体は細胞膜上に発現するPrPCと強く反応することから、抗体が細胞膜上のPrPCと結合することで正常なPrPC代謝経路が影響を受けるために、PrPSc合成の基質となるPrPCの供給が阻害された結果であると考えられる。
著者
和田 和子
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.505-547, 1967-03-31

8種類の織物の低温における損傷について実験的に調査検討した。その要約,結論は次のごとくである。1)試料の処理及び測定試料の処理法: 冷却試料としては-75℃の魔法びん中に20時間投入,繰返し5回処理を行なった。各処理布の損傷度測定: 原布と処理布の強伸度・剛軟度・防皺度・収縮度をそれぞれ測定し,次式により各試料の各変化率を算出し損傷の状況を調査した。[humerical formula]2)低温による織物の損傷低温による織物の損傷としては,低温処理変化率と室温処理変化率との比較で表わした。第12表は繰返し5回処理の総合平均値をもとに表わしたものであるが,この結果次のごとき結論を得た。A)全試料は各性能測定項目別にみても,冷却処理によって変化を受けないもののほうが多い。しかしその内訳を見ると,銘柄別に冷却処理で比較的変化の少ないものを挙げれば,MCR樹脂加工綿布・レーヨンスフ未加工布・レーヨンスフ樹脂加工布・ビニロンで,逆に変化の多いものは,サンホライズ加工綿布・羊毛・ボンネル・アロンとなった。性能項目別では,全測定項目を通じ,概して冷却処理による変化が少なく,特に収縮度においてその傾向が著しい。しかし反面,羊毛・ボンネル・アロンなどの銘柄では,冷却処理で強力・伸度・剛軟度・防皺度にかなりの変化が見られた。B)低温処理による変化の度合は,一般に含水試料の方に多く表われ,石けん分含有試料についてはその表われ方の度合が少なくなっている。しかし,これはあくまで,冷却処理布と室温処理布との比較においてのことであるから,石けんが低温下で各種性能変化の抑制に影響したのではなく,逆に室温下で影響を与えた結果である。C)低温処理による変化の表われ方としては,概して強力変化が大であれば伸度変化が小さく,強力変化が小なら伸度変化が大となるように,その間ではほぼ負数的変化の傾向を表わす。剛軟度変化と防皺度変化との間には,一方の変化が大となれば他方もまた大となり,ほぼ平行的変化の傾向を表わす。今回の測定項目間では,このように強力変化と伸度変化,剛軟度変化と防皺度変化との間では,それぞれ関連的変化の傾向を示すが,収縮度変化は,他の性能と関連なしに表われた。3)日常衣生活への提言[table]羊毛の強力・ボンネル・アロン両試料の剛軟度・防皺度に低温による変化が大きく表われるから,これらが,感触・手触りを尊ぶ衣料だけに,特に注意が望まれる。したがって,感触・手触りなど感覚的性能が要求される衣料の場合には,低温にさらすことは回避しなければならないであろう。しかし,全般的には冷却による損傷は少なく,特に収縮度においては衣料の寸法安定性の上から,低温にさらすことを回避する必要はない。
著者
左 久 小田 伸一 萩野 顕彦 大谷 昌之
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

泌乳牛へのルーメンバイパス加工デンプン給与が血漿成長ホルモン濃度や乳量・乳成分などに及ぼす影響を検討する4つの実験を行い以下の結果を得た。1.泌乳牛のデンプン利用能を調べるために、泌乳初期牛に40日間、米粉デンプンを日量0.5-1.5kg給与し、乳量および第一胃内容物性状を調べた。デンプン1.0kg以上を摂取した牛の第一胃内プロピオン酸モル比は上昇、pHは低下し、日乳量は減少した。バイパス性デンプン給与日量は1.0kg以下が適切と判断された。2.泌乳初期牛に90日間、バイパスパルミチン酸、リノール酸Caおよび米粉をリノール酸Caで皮膜処理したバイパス性デンプンを1日4,000kcal相当量給与した。日乳量増加は給与熱量からの期待値にほぼ匹敵し、バイパス性デンプン給与が泌乳量をより高めることはなかった。3.泌乳中期牛に180日間、バイパス性デンプンを1日1kg給与すると、開始後約100日間は日乳量が泌乳進行に伴って低下せ、バイパス性デンプン給与が泌乳持続性を高める可能性が示唆された。試験期間中の血漿IGF-1濃度はバイパス性デンプン給与牛111.1ng/mlと材料給与牛が対照牛よりも有意に高く、グルコース濃度は給与前後とも定常値で推移し、NEFA濃度は試験開始より次第に低下し給与2ヶ月後からほぼ一定の値となった。4.泌乳中期牛15頭に60日間、バイパス性デンプンを給与し、血漿GH濃度、GH分泌刺激ペプチド(GHRP)負荷GH分泌反応を検討した。バイパス性デンプン給与牛の第一胃内pHとVFAs濃度は給与前後で変化せず血漿GHの日内平均濃度、GHパルス高、基礎濃度およびパルス数は増加する傾向が認められたが、GHRP負荷反応は対照牛と違いがなかった。これらの試験結果は、泌乳牛へのバイパス性デンプン給与が成長ホルモン分泌を高め、泌乳の持続性を高める可能性があることを示唆している。
著者
堀 浩二
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.666-675, 1971-05-30

マキバメクラガメの腸インバーターゼの性質を研究し,今まで研究された昆虫インバーターゼのあるものと比較した。またそれを同じ昆虫の他の消化酵素と比較してその消化生理に関する役割を論じた。1.pH 5.5における24時間インキュベーションの場合,腸インバ'ーターゼの最適反応温度は約37℃であった。2.pH 5.5,37℃において,腸インバーターゼは48時間のインキュベーションの間中アクティブであり,その際生産される還元糖の量はインキュベーションの時間に伴って直線的に増加した。3.反応混合液中のシュークロース濃度が10%以上であった時,腸インバーターゼは最もアクティブであった。4.腸インバーターゼはpH 3.0と8.0の間でアクティブであり,4.0と6.5の間で,そのより高い活性が認められた。その最適pHは5.5であった。5.どのpHにおいても,NaClとKNO_3はインバーターゼの作用になんらの影響も与えなかった。6.腸のpHと腸インバーターゼの作用に対する最適pHとの一致は本カメムシのシュークロース消化にとって有利であろう。
著者
小野 泱
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.893-909, 1978-06-20
被引用文献数
1

著者は1975〜1977年の2〜5月に帯広市東郊依田台地の下を流れる小沢でブユの採集を行い,C. subcostatumオタルツノマユブユとC. uchidaiウチダツノマユブユにそれぞれ極めて類似した2種類のブユの多数の幼虫,蛹を得た。これらの室内飼育で得た2種の成虫はsubcostatumおよびuchidaiとはそれぞれ別種であり,かつ新種と認めたので本文においてCnetha boldstemta n. sp.オビヒロツノマユブユおよびC. acmeria n. sp. サツナイツノマユブユとして記載した。C. boldstemtaはC. subcostatumに類似しているが,雌雄のgenitalia構造に差がありboldstemtaの雌の胸背に3条の淡色条が認められるがsubcostatumには淡色条がなく,雌の額板の幅,雌雄の脚の形態,色彩,蛹の呼吸糸の幅,繭の形態,幼虫の頭部額板の斑紋,頭部腹面の割目の形態,肛鰓にも明瞭な差異が認められる。C. acmeriaはC. uchidaiに類似しているが,雌雄のgenitalia構造に差があり,繭のdorsal projectionは特異的に極めて長くなっている。また雌の額板の幅,雌雄の脚の形態,色彩,幼虫の頭部額板の斑紋,肛鰓にも差が認められる。C. subcostatumとC. uchidaiの成虫は5月から11月まで見られ,幼虫,踊も道内各地の平野部から山地の林内の小沢からかなり幅広い川で普通に見られるが,C. boldstemtaとC. acmeriaの成虫は平野部の台地下に4〜6月だけ見られる。両新種の幼虫と蛹は融雪期とその前後に,湧水からの小沢にのみ生息しており,この小沢は夏期,秋期には消滅する。両種の雌成虫は吸血するかどうか不明である。
著者
谷口 哲司 小野 哲也 大友 功一 安田 裕隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.203-210, 1983-11-30

一般産業用エンジンに採用され発達したターボチャージャは,わが国においても一部の農業用トラクタに使用されている。同型で同一排気量でターボ過給されたトラクタ(TCトラクタ)と,されないトラクタ(NAトラクタ)の2台を供試して性能試験をおこない,農業用トラクタに対するターボ過給の適応性を検討し,次の結果を得た。1)PTO軸性能試験において,ターボ過給されたトラクタは最大軸出力が19.6%増大し,その最大値は低回転域にずれた。最大軸トルクは定格回転より急激な上昇を示し,その最大値はNAトラクタに較べて27.6%増大し,エンジンにねばりをもたせている。燃料消費率は全回転域にわたり約4%の改善を成した。2)けん引性能試験において,ターボ過給されたトラクタは滑り率20%時のけん引出力が14.2%の増大を示し,より高速作業のできることを示した。さらに消費燃料を考慮したけん引仕事効率では2.4%の向上を示し,このときけん引力が29.5%大きく,けん引出力が19.8%増大していた。以上のことを総合して,ターボ過給されたトラクタは同型同排気量のトラクタと比較して,機関出力に余裕があり,燃料消費率が低減され,高いけん引仕事効率が得られる結果となった。したがってより重作業・高速作業に適応できると考察された。
著者
品川 森一 金子 健二 古岡 秀文 石黒 直隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

伝達性海綿状脳症の病原体プリオンは従来の微生物不活化処理に高い抵抗性を示し、その不活化には132℃1時間、1-2Nの苛性ソーダ或いは数%の次亜塩素酸ソーダへの浸漬などの厳しい処理が要求される。しかし、精密医療機器のほとんどはそのような処理には耐えられえない。医療器機のプリオン汚染は、比較的低濃度或いは,洗浄により低濃度とすることが可能と考えられる。本研究は、このような低濃度の汚染プリオンを除くための、温和な処理によるプリオン不活化法の開発を目的とした。液化酸化エチレン(LEO)は2%程度で完全ではないが目的にあった程度にプリオンを不活化する。その作用機構は、プリオン蛋白のリジンを始め5種のアミノ酸と反応して比較的特異性を持って切断されるため,不活化がおきることが判った。しかし、処理に数十時間と長時間を要することと、沸点が10□と低く爆発性であり、取り扱いが難しい難点があった。LEOに代る化合物のスクリーニングを目的として、3種のエポキシ化合物、6-プロピオラクトン、プロピレンオキサイド及びグリシドール(GLD)のスクレイピープリオンに対する影響を抗体の反応性を指標に調べたところ、GLDが有望であった。GLDはやはりプリオン蛋白と結合して、LEOの場合より速やかに低分子に断片化することが判った。3及び5%GLDによりPBS中で室温処理のマウスを用いたバイオアッセイにより、プリオンの感染性が、千分の一以下に低下することが判ったが十分とは言えなかった。より有効に処理する条件を見いだすために、GLDの効果に及ぼすGLDの濃度、温度、塩、pHの影響を抗体との反応性により調べた。抗原としての反応性は短時間に減少するが、なお僅か残存し、残りは時間と共に徐々に消失した。調べた範囲のGLD5%、50℃、pH7.8まででは高い方がより効果的であった。マウスを用いたバイオアッセイに長時間を要するため、これらを合わせた条件で処理した試料の成績を本研究期間内で終えることはできなかった。
著者
品川 森一 桑山 秀人 石黒 直隆 堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

感染性プリオンを試験管内で複製することを最終目標として、試験管内で微量のプリオンと多量の正常プリオン蛋白の接触により正常プリオン蛋白の構造を変えることを目論んだ。以前、動物脳から正常プリオン蛋白を多量に精製することに失敗しているため、今回は組換プリオン蛋白を用いることを計画した。さらにプリオン蛋白の精製の困難さから、組換プリオン蛋白のN端にヒスチジンタグを結合し、キレ-トカラムでアフニティ-精製を導入した。今回われわれの用いた系で、プリオンに見られるように,微量のプリオンを添加することにより組換プリオン蛋白のαヘリックス含量が減少し、βシ-ト含量が増加すること、蛋白分解酵素抵抗性に変化すること、プリオン蛋白の一部に相当する合成ペプチドの添加により阻害されること、さらにこのように変化したプリオン蛋白を次の新たなプリオン蛋白に添加することにより、プリオン添加と同様の構造変化を引き起こすことを見出した。唯、この系では,蛋白分解酵素抵抗性に変わったプリオン蛋白の状態がプリオンと同様の構造を反映しているとはいえない可能性が示唆された。この結果、真のプリオン複製に至らなかったが、プリオン複製のために、プリオン蛋白以外の要因が必要か否かを解析するために適した系として使用できる可能性が示唆された。一方、本研究をサポ-トする周辺領域の研究として,プリオン蛋白検出法の改良,牛プリオン遺伝子の完全1次構造解析、発現調節,羊プリオン遺伝子多様の解析,さらに人アルツハイマ-病の危険因子であるApoE蛋白遺伝子が、プリオン病の危険因子ともなる可能性について、羊スクレイピ-での検討等も行った。
著者
品川 森一 久保 正法 山田 明夫 古岡 秀文 中川 迪夫 堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、従来から行われているウエスタンブロット(WB)法の試料調整法の改良を行った。その結果、マウスモデルでは、腹腔内接種1週目から脾臓にプリオン蛋白が検出できるようになった。多数検体を検査するためには、より簡便なプリオン検出法が必要であり、マウスモデルを用いてELISA法を開発した。検出感度はウエスタンブロット法のおよそ2倍であった。中枢神経系組織からの試料調整を簡便化し、実際に羊材料に応用可能なことを確かめた上で、この方法の有用性を北海道のと蓄場から分与を受けた羊材料を用いて検証した。また、さらに検出感度を高めるために、ELISAの検出系に光化学反応試薬を導入したところ、およそ20倍ほど検出感度が上昇した。まさらに、コラーゲン中のプリオン検出のための試料調整法も検討し、前処理法としてコラーゲンの粘性を低下させ、大容量から比較的選択的にプリオン蛋白を濃縮することが可能となり、プリオン汚染の検出法に目処がついた。一方、プリオン病は宿主のプリオン蛋白の遺伝子に多型があり、その型によって感受性が異なる。国内の羊プリオン遺伝子型の出現頻度とスクレイピ-との関連を検討した。またプリオンの蓄積は主として中枢神経系であり、少量であるが細網内皮系の組織にも起きる。診断に有用な組織採取部位を決定するためにも、詳細なプリオン蛋白発現の違いを明かにする必要があり、羊体内のプリオン蛋白発現を調べた。さらに伝達性海綿状脳症のプリオン以外の危険因子の検討を人海綿状脳症に倣い、アポ蛋白Eを標的として検討した。
著者
岡本 雅子
出版者
帯広畜産大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日常生活における食品の味の記憶を促進する要因を検討することを目的に、処理水準モデルを枠組みとした味覚記憶実験および脳活動計測を行った。その結果、食品の写真がその食品の特性に沿った味の特徴の記憶を促進すること、また味の再認記憶成績の高い人ほど、左下前頭回前部の活動が高いことを明らかにした。これらの結果は、意味処理が記憶効率を高めるという処理水準モデルと一致し、味の記憶においても処理水準モデルが有効である可能性が示唆された。
著者
鍋田 憲助 松尾 敏正 杉沢 博
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.293-299, 1988-06-30

オリーブ(Olea europea Linn.)2品種(Lucca種およびMission種)の葉,花および中果皮+外果皮の揮発成分の構成並びに量をガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフ-マススペクトロメトリーで研究した。2つの品種の揮発成分中に,既にオリーブ中で検出された27成分を含め56成分を同定した。3-ビニルピリジン,メチルビニルピリジン並びにcis-jasmoneを含めた29成分はオリーブより初めて同定された。2つの品種の定性的,定量的差異を検討した。Lucca種中果皮+外果皮でヘキサナールとtrans-2-ヘキサナールが高濃度に存在することが特徴であった。また,Lucca種,Mission種とも花に多種の直鎖状炭化水素が特徴的に存在した。
著者
後藤 仁 明石 博臣 酒井 健夫 高島 郁夫 橋本 信夫 品川 森一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

我が国で分離されている代表的なアルボウイルスとして、日本脳炎ウイルス(JEV),ゲタウイルス(GTV),アカバネウイルス(ABV)があげられる。日本脳炎の発生は近年日本では激減しているが、東南アジアではしばしば流行して多数の患者が出ている。GTVは馬に発疹,浮腫を伴う熱性疾患を起こし、ABVは牛の死、流産の原因となり,ともに周期的に流行している。またダニ脳炎ウイルスも分離されているが、その生態学的意義は不明である。本研究では、日本各地の家畜についてウイルス抗体の変動,ウイルス分離,抗原分析などからこれらウイルスの動物間での動向を明らかにしようと試みた。その結果、北海道で収集した馬血清のGTV抗体は道南と道北で抗体保有率が高く、7月〜11月間に本ウイルスの伝播のあったことを明らかにした。一方、1985年6月札幌近郊で豚のJEVによる異常産の発生と媒介蚊の収集成績から自然界におけるJEVの基本的な存続様式に新たな問題を提起した。JEVの全国的動態では、牛の血中抗体を指標とした場合、南部の鹿児島県から北部の岩手県に、4月から9月にかけて抗体陽性牛が漸次北上する傾向を明らかにした。ABV日本分離株10株とオーストラリア分離株2株のフィガプリント法によるRNAの解析では、両国分離株間はもちろん、日本分離株間でも相違がみられ、本ウイルスの変異がかなりの頻度で起こっていることが推定された。このことは単クローン抗体によるウイルス抗原蛋白の分析でも確認され、ABV感染の疫学を解明する上に極めて重要である。次にダニ脳炎ウイルスの根岸株の単クローン抗体による中和反応の機序に関する基礎的研究では、多種類の抗体を混和したとき、本ウイルスの中和活性が著しく増強され、この反応系はmulti-hit modelとなることが示唆され、今後のアルボウイルスの基礎的研究に大いに寄与するものと考えられる。
著者
加藤 清明 得字 圭彦
出版者
帯広畜産大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

「ゆきひかり」とイネ4品種のそれぞれを65%含む飼料を4日間給餌したラットを解剖し、大腸での遺伝子発現をDNAマイクロアレイ法で比較解析した。他の4品種群と比較して、ゆきひかり群で4倍以上の発現レベルとなった184遺伝子と1/2以下の発現レベルとなった109遺伝子を選定した。ゆきひかりで発現減少していた遺伝子群には、受容体をコードするものが多く、発現が増加していた遺伝子群には、物質輸送に関わるものが多かった。続いて、上記トータルRNAを用いたリアルタイムRT-PCR法によって、ゆきひかり群で発現が減少している2種の遺伝子を特定し、ハイスループットスクリーニング法の基盤を整えた。
著者
仙北谷 康 樋口 昭則 金山 紀久 耕野 拓一 窪田 さと子
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

家畜飼料に含まれている抗生物質を削減しようとする取り組みは様々な場面でみられるようになってきている。また代替技術もいくつか提案されている。しかし現状としては、抗生物質を投与しないことによって発生する追加的費用を、消費者の負担に求めることは困難であるから、生産の側でこれを内部化しなければならない。抗生物質を含む飼料に頼らない畜産フードシステムの成立は、現状としては生産者側の取り組みによるところが大きい。