著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.67-99, 2017-04

動物カフェとは, 犬カフェ, 猫カフェ, ウサギカフェ, 小鳥カフェ, フクロウカフェ, ヤギカフェ, ハリネズミカフェなど動物と交流できるカフェで, 飼っている動物と休息を楽しめるカフェ(主に犬カフェ)とお店が飼育している動物と過ごすことを目的としたカフェ(猫など)がある。ここでは, 猫カフェ, 犬カフェ, ヤギカフェ, それにフクロウカフェ(あるカフェにフクロウ虐待の内部告発があった)を概観する。お店の猫を眺めたり遊んだりする猫カフェが, 同様の犬カフェよりも多いのは, 猫の方が扱いやすいからである。日本で開発されたメルセデス・ベンツ・ジャパンの「車を売らないショールーム」併設カフェはマーケティング目的であり, 顧客層と車の売上を拡大, その結果, 本社に採用され世界的に展開している。カフェ・チェーンで過労死は発生していないが, 飲食業界の従業員の労働時間は長く過労死が発生している。違法または悪質な労働条件で働かせる企業はブラック企業と呼ばれている。このブラック企業とはどのようなものかを検討した後で, 実際に起きた過労死等の具体的な案件について分析する。その対象は, マクドナルド(過労死になりかけた店長の残業代請求訴訟を含む), 大庄, ワタミ, そして, 最近の事件として電通を扱う。従業員たちは残業しても残業時間を付けることができない圧力を受けており, 過大な残業と睡眠不足により過労死に至っている。「発症前1か月間におおむね100時間」または「発症前2か月間ないし6か月間にわたって, 1か月当たりおおむね80時間」を超える時間外労働が認められる脳・心臓疾患または心理的負荷による精神障害を原因とする過労死の場合は, 業務と発症との関連性が強いと評価され, 労災認定されている。会社のデータでは記録されていない残業をどこまで洗い出すかが鍵となっている。残業時間の限度は, この労災認定時間を下回る時間に設定すべきであろう。論文
著者
吉田 栄介
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.75-86, 2012-02

論文本研究は, テンション・マネジメントとしての管理会計という視座に立ち, 管理会計の機能・役割を探索することを意図する。具体的には, 原価企画と業績管理を取り上げ, 「業績目標水準」と「コントロール・モード」に焦点を当て, 成果との関係を実証的に明らかにする。分析の結果, 第1に, 製造業での原価企画においてある程度の挑戦的目標原価が有効であること, 第2に, 業種を問わず原価企画における部門間協働が有効であること, 第3に, 業種を問わずインターラクティブ・コントロールも診断的コントロールも業績目標の達成に有効であることが示唆された。This paper aims to clarify the function of management accounting from the point of view of management accounting as tension management. We focused on the level of performance targets and control mode on target cost management and management control and show the relationship between them and organizational performance. As the results, first, we identified that stretch target costs which were set at relevant levels were effective. Second, we identified that cross functional activities at target cost management are effective in both manufacturing and non-manufacturing industries.Third, it suggests that both interactive and diagnostic control were effective for achievement of performance targets.
著者
森岡 耕作
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.87-110, 2009-04

論文マーケティング研究における重要な研究領域と見なされるブランド論で先駆的研究を展開したAaker(1991)は,「同種の製品であっても,そのブランド名が付いていることによって価値に差異が生じる」という興味深い命題を提唱した。しかしながら,それに続く既存研究は数多く存在するものの,消費者があらゆる点について同種であると見なす製品を前提にして,その製品に付与されるブランド価値の生成について議論を展開することはなかった。このことを問題視する本論は,消費サイドにおけるブランド価値の生成と変容というダイナミックな現象について,前半部ではN. Luhmannの社会システム理論に依拠しつつ,補完的にLeibenstein(1950)のバンドワゴン効果/スノッブ効果,およびGranovetter(1978)の閾値モデルを援用して,「ブランド価値はバンドワゴン効果を伴う消費者間コミュニケーションよって生成し,他方,スノッブ効果を伴う消費者間コミュニケーションによって崩壊し,さらに,それらの組み合わせによってブランド価値は生成・変容する」ということを説明した。他方,後半部においては,その現象を理解するために,マルチエージェント・シミュレーションを設計・実行した。その結果,既存のブランド論が捨象してきた議論領域においても,ブランド価値が生成・変容しうることを明らかにした。そして,このように展開される本論は,一方では,Luhmann の社会システム理論が既存のブランド論の問題ないし限界を克服するために有用な理論枠組であることを示し,他方においては,ブランド価値の生成・変容という具体的な現象を吟味することによって,それまで一般的かつ抽象的な議論に留まっていた社会システム理論の発展可能性を示唆した。Prior research on brand equity or brand value has assumed that all products are the same in their functions but different in their marketing activities. However, we can assume that products are the same in not only their functions but also their marketing activities, and this assumption has been paid little attention. So, this paper aims to explore how the emergence and collapse of products' brand values resulting in their up-and-down market shares can be possible when all products are same in all aspects. At first, we use Niklas Luhmann's social system theory to explain the emergence and collapse of brand values. Then, we get a constructive understanding of market share dynamics by conducting experiments using multi-agent simulation model. This is the way we imply the frontiers of brand research by suggesting that the social system theory is useful in analyzing the emergence and collapse of brand value.
著者
戸田 裕美子
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.89-115, 2006-02

本稿では,初期の広告研究に重要な貢献をしたチェリントン(P. T. Cherington)の所説を当時の時代状況に照らして解釈し,その広告思想の展開基盤を明らかにすると共に,彼の主張が後の広告研究に及ぼした影響を議論する。19世紀末,不当表示や欺瞞的広告が横行する事態に対して消費者運動の中で広告批判が盛り上がりを見せた。これに対して,自主規制として1911年にプリンターズ・インク誌は虚偽広告を禁止する州法のモデル案を発表し,世界広告クラブ連合は1912年のボストン会議で「広告に真実を」というスローガンの下で広告浄化運動を展開した。こうした運動は1914年の連邦取引委員会法の中で欺瞞的広告を禁止する条項が織り込まれるという形で結実した。このような広告浄化運動を背景に,チェリントンは広告思想を発展させた。彼は当時の一般的な広告批判,(1)広告は消費者に偽りを伝え,消費者を騙すものであるから社会悪である,(2)広告は経済的浪費であるという2点に対する応答として議論を展開した。彼は第1の点に関して,真実の広告を守るためにも虚偽広告が社会から排斥されるべきだと考え,そのための規制や立法の制定,倫理規定の策定等,実際の制度設計に尽力した。第2点目については,広告が無駄ではない根拠として,広告費は販売費の削減に寄与すること,また広告費は大規模生産システムによってもたらされた生産費の縮減を源泉としており,それを広告に再投資することによる需要刺激が更なる生産量の増加をもたらし生産効率の向上を実現すること,さらに,広告の教育的側面に着目し,広告によって啓発された消費者はより良い購買者になってきたことなどを主張した。広告批判が高まり広告活動の否定的な部分が強調された時代の中で,広告の肯定的な側面を分析したチェリントンの広告思想は,後の広告研究に重要な貢献をなすものであったことを議論する。
著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.301-324, 2008-02

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty論文環境省は自主参加型排出量取引を平成17年度より実施しており,平成19年3 月15日付で「排出削減クレジットにかかる会計処理検討調査事業」を公表した。そこには,キャップ・アンド・トレードの会計処理について複数の会計処理が提示され,クレジットの無償交付時に,①クレジットもその償却義務も認識しない,②クレジットとその償却義務を認識する,③クレジットのみ認識(償却義務は温室効果ガス排出時に認識)する3 つの考え方が示され,②と③については,事後測定につき原価法と時価法が示されている。 2004年12月に公表された国際財務報告解釈指針第3 号の方法は③の基であるが,この処理に対し欧州財務報告アドバイザリー・グループ等からの懸念が表明され,直ちにこの解釈指針は廃止された。その批判は,約束期間はじめのクレジット無償交付時にクレジットのみ公正価値で認識するため受贈益が生じるのに対し,クレジット償却義務は,その後の事業活動によるガス排出につれて認識するという処理が,両者は一体であり利益は生じないという経営者の感覚に反し,また,当該受贈益は政府補助金として繰延処理するが,利益の繰延べが負債の定義を満たさないため,政府補助金の繰延処理について廃止検討予定である点,さらに,クレジットは原価又は公正価値(評価差額は資本直入)で測定されるのに対し,排出削減義務は現在価値で測定され変動差額は損益に計上されるため,事後測定と報告においてもミスマッチが生じる点にある。 基準年度の実績排出量から削減義務量を控除して算出された総排出枠(キャップ)と同量のクレジットが無償交付されるが,継続企業であればガスを排出する約束期間後に,通常,当該クレジット量を償却するという契約に基づく義務も存在する。無償交付クレジットは企業にとって生存権的な意味合いのもので,収益によりカバーされる必要のないものである。もし収益によりカバー,又は削減義務以上に排出削減できるのであれば,それがほぼ確実となった時に利益認識すればよい。これに対し,有償で取得したクレジットについては,収益により回収されるか,費用削減によってカバーされる必要があるから,償却義務は実際にガスを排出したときに費用とともに認識すればよい。また,認識したクレジット償却義務の範囲でクレジットの時価評価を行うことにより,経済実態を適正に表示することができると考えられる。したがって,経営者の感覚に合うものは上記②の時価法であり,これが適切な会計処理ということになる。 さらに,クレジットは,企業が対象事業活動を行わない,又は廃業した場合には,契約違反として返還しなければならないと考えられるため,クレジットの返還義務は解除されていないと解され,上記条件付償却義務と一体となって無償交付時の負債を構成するものと解釈できる。
著者
斉 中凌
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.121-141, 2007-10

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty50周年記念論文金融政策の主体である中央銀行は時には財務状況が悪化し債務超過に陥り,物価の安定という政策目標を達成することができなくなった事態が起こる。本稿では,大量な海外資産(外貨準備)を所持している中国の中央銀行である中国人民銀行に焦点を当て,その外国為替市場への介入にかかるコストを推計し,人民銀行の現在の財務状況を調べる。その結果に基づき,人民銀行にとる今後の課題を論じる。 人民銀行は国際収支黒字の拡大を背景に,人民元の為替レート水準の安定を図るため,外国為替市場への介入を続けており,外貨準備残高は急速に拡大している。本稿では人民銀行のバランスシートを使用し,データが利用可能な2001年1月以降について為替市場介入によって発生した人民銀行の損益,すなわち為替市場介入コストを推計した。推計結果より,介入による累積損失は拡大傾向にあり,その規模が2005年末時点で人民銀行の自己資本の5倍にも至っていること,また,介入コストの要因を分解してみると,為替レートの変動は金利変動より影響力が強く,その効果がより早く現れることがわかった。 以上の推計結果を踏まえ,人民銀行にとって如何に財務の健全化を維持しながら,金融引締政策を遂行できるのかは今後の大きな課題であると結論付けた。
著者
八代 充史
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.27-40, 2012-12

論文本研究は, 東京市場で競争している異なる資本国籍の人的資源管理を「収斂と差異化」という観点から検討する。 人的資源管理に変化を促す要因として重要であるのが, 国際化, 具体的には外資系企業との競争である。一般に長期雇用の日本企業では, 年功賃金や遅い昇進によって, 従業員の格差が長期的に拡大していく。こうした日本企業の人的資源管理は, 短期的な処遇格差を重視する海外で人材獲得競争に「失敗」し続けてきたが, 近年国内の外資系企業との人材獲得競争においても, 同様の問題が生じている。本稿では日本企業と外資系企業との人材獲得競争が各々の雇用制度にどの様な影響を及ぼすかを, 投資銀行を対象に考察する。 投資銀行の業務は, 大別して個人営業部門と法人部門とに分けられる。海外の基準では, 両者の報酬体系は大きく異なるにもかかわらず, 伝統的に日系の投資銀行では職能資格制度によって処遇は基本的に同一であった。この点について現在どの様な変化が見られるかを, ①職種別採用の有無, ②両部門間の人事異動, ③報酬体系という3つの側面から検討する。 また投資銀行における総費用の中で人件費の占める割合は極めて高く, 人件費の削減をどの様にして行うかが市場競争において決定的に重要である。この点については, ①法人部門と個人部門の分離, ②外部労働力の導入および雇用調整, ③職種別賃金制度の導入, ④ボーナス比率の調整等, という4つの側面に関して, 各社の対応を明らかにしたい。
著者
前田 淳
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.181-198, 2007-08

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty十川廣國教授退任記念号 = In honour of Professor Hirokuni Sogawa50周年記念論文・退任記念論文「テイラーシステム」の形成過程に着目しながらテイラーの著作『工場管理法』の論点を整理し,その意義と限界についても明らかにした。その際,前稿で考察対象とした彼の論文「労働問題の部分的解決へ向けての第一歩である出来高給制度」の論点と特徴を踏まえながら「比較の視点」を重要視した。
著者
新倉俊一著
出版者
慶應義塾大学出版会
巻号頁・発行日
2004
著者
大西広著
出版者
慶應義塾大学出版会
巻号頁・発行日
2012
著者
塚田 朋子
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.149-161, 2006-10

堀田一善教授退任記念号本稿ではナイストロム(Paul H.Nystrom)の業績を概説し,彼が提出した我々の分野のパズルの原形について考察する。わが国では注目されることが少なかったマーケティング研究のパイオニアであるナイストロムの精力的な執筆活動により,小売思想は制度的及び技術的という2つの方向に発展したとされるのである。本稿で特に注目する『流行商品計画(Fashion Merchandising)』では「かつては富裕な,また貴族階級のごく一部の人々が追求するものでしかなかったが,今や大衆がこれに従うようになった」流行を分析するのであるが,そこで述べられた内容のどれもこれもが今日も流通企業が用いる実践的手法であり,また何よりマーケティング研究者にとっての重要な研究課題がその中で示されている。先立って『消費の経済学』『流行の経済学』を提出したナイストロムが,第二次世界大戦後に活躍する合衆国の多くのマーケティング研究者が学生時代に用いたテキストの著者であったことによるその後の影響を,我々は不注意にも見落としていたのではないだろうか。