著者
井手 秀樹
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.41-56, 2012-12

論文①平成21年の「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(以下「特措法」という)は, その制定の経緯に照らし, 需給調整規制(台数規制)を予定したものであるか。結論「特措法は需給調整規制を予定したものではない。」 特措法は車両台数の増加に関する事業計画の認可基準について, 「輸送の安全を確保するもの」, 「適切な計画」, 「適格に遂行するに足る能力」という要件を定めたものである。増車認可では, これらの要件を満たしているかどうかで判断される。収支計画上の増車車両分の営業収入が, 営業区域における「新たに発生する輸送需要」であることを増車認可申請者が証明しなければならないということは, 輸送需要に対して適切な車両数を算出し, それにより増車を認否するという需給調整規制に他ならず, かかる規制は特措法の下で許されるものではない。②タクシー事業において需給調整規制をすることは規制の在り方として合理的か。需給調整規制により, タクシー業界の諸問題は解決するか。結論「タクシー事業において, 台数規制をすることは, 規制の在り方として合理的ではない。」特措法施行の背景には, タクシー車両の増加に伴い, タクシー運転者の待遇の悪化, 安全性・サービスの低下等の懸念が指摘されているが, 論点2, 3で述べるとおり, データを見る限りではその根拠は希薄である。参入・増車抑制により安全性の確保, タクシー運転者の待遇等の問題を解決するという考え方には疑問があると言わざるを得ない。
著者
岡本 大輔
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.111-133, 2009-04

資料筆者は2008年,The University of New South Wales = Keio University Exchange Program により,オーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニーに滞在する機会を得,その間,日系企業を数社訪問し,インタビュー調査を行なった。本稿はその現地トップへのインタビューを中心としたケースである。対象企業は,凸版印刷(豪州),豪州新日本石油,キヤノンオーストラリア,みずほコーポレート銀行(シドニー支店),ライオンネイサン,NTT オーストラリア,豪州商船三井,JTB オセアニアである。これらのトップ・インタビューは,故清水龍瑩名誉教授が行なった「社長および各界リーダーのインタビュー・サーベイ」(1987年~2001年『三田商学研究』に連載),筆者の行なった「アメリカ・ニューイングランド地域における日系企業のケース」(1997年)等の続編である。During 2008, the author stayed in Sydney, NSW, Australia, as a visiting professor at The University of New South Wales (UNSW), thanks to the UNSW= Keio Univ. Exchange Program. He visited several Japanese-affiliated companies in Sydney area and conducted interview surveys. In this material, some managerial matters, which Japanese-affiliated companies have when they try to transfer Japanese management system to a company in Australia, will be discussed. Companies dealt in those case studies are as follows: Toppan Printing Co. (Australia) Pty. Ltd., Nippon Oil (Australia) Pty. Limited., Canon Australia Pty Ltd, Mizuho Corporate Bank, Ltd. (Sydney Branch), Lion Nathan Limited, NTT Australia Pty. Ltd., Mitsui O.S.K. Lines (Australia) Pty Ltd., JTB Oceania Pty Ltd.
著者
齊藤 通貴
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.93-106, 2008-10

樫原正勝教授退官記念号論文本論では,特にグローバル・マーケティングの観点から,社会階層概念を導入したラグジュアリー・ブランド戦略を導出するためのラグジュアリー・ブランド購買モデルを提示し,戦略上の示唆を得ることを目的としている。社会的規範因子を用いたFishbein の行動意図モデルを援用しながら問題点を修整したモデルを考える。準拠集団や個人による主観的規範に加えて,より説明力が高いと思われる社会階層変数を導入し,ブランド選択における消費者知識についても考察される。
著者
今口 忠政 三輪 尚巨 加藤 実禄
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-83, 2011-06

研究ノート近年, 国内外のライバル企業同士が互いに独立性を保ちながら, 経営戦略の根幹に関わる部分で協力しあう「戦略提携」が増加している。戦略提携とは, 2つ以上の独立した企業が競争優位性を確立するために他社の経営資源を効果的に活用することを目的とした戦略である。双方の企業が保有する経営資源を相互補完させ, 新規市場開拓や新規技術開発などでシナジー効果を生み出すことができれば, 競争優位性を強化することができる。そのためには, 企業間の提携関係を効果的にする連携のマネジメントが重要な役割を担っている。そこで, わが国企業の戦略提携の現状と, 連携効果を引き出すためのマネジメントに焦点を当て, ハイテク産業である化学産業(医薬品を含む), 電気機器産業, 輸送用機器産業, 情報・通信産業, 精密機器産業に属する企業を対象にアンケート調査を実施した。本稿は戦略提携の理論的考察と, 92社から得られたデータの集計結果および数社のインタビュー調査をもとにして, わが国ハイテク企業の戦略提携について取りまとめたものである。
著者
田邉 勝巳 松浦 寿幸
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.77-97, 2006-08

本研究は,株式市場に上場している電機機械・輸送用機械産業の製造事業所データを用いて,1970年から1998年までの工場の立地選択の要因分析を行った。日本全国の事業所データと企業データを接続し,立地の空間的要素として主要な交通施設(空港,港湾,新幹線駅)までの移動時間,本社と各工場の移動時間を考慮している。工場の立地分析は既存研究でも数多く取り組まれてきたが,交通に関連する要因を考慮しつつ,全国の事業所データを用いた分析は少ない。地方自治体は,一般道路や空港,港湾といった交通インフラの整備に力を入れてきたが,その目的の1つに工場誘致による地域経済の発展がある。当研究は,こうした公共事業が企業誘致にどの程度の効果を持っていたのか,そして近年,どの様に変化したのかを明らかにする。有価証券報告書等により工場の設立年・所在地を特定化し,離散選択分析の一種であるコンディショナル・ロジットを用いて実証分析を行った。分析の結果,最寄りの空港,港湾,新幹線駅まで一定の時間内に到達できることが立地要因の1つであることが分かった。更に,本社までの移動時間が立地選択において最も重要な要因であり,高速道路の延伸は特に本社により近い地域の立地確率を高めることが明らかになった。
著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.53-63, 2014-02

今口忠政教授退任記念号#論文功利主義は18世紀にイギリスで生まれた倫理思想であり, 「最大多数の最大幸福」をその規範原理としてきた。本論文ではこの規範倫理学説を現代の視点から再解釈する。まず, 古典的な功利主義の要約とその問題点を跡づけた後, この原則には空間─時間の理論枠の導入が欠けていることを指摘し, さらに現代的な観点から功利計算問題へのビッグデータ技術からの貢献の可能性が論じられる。さらに最大幸福の概念についても, 昨今の幸福研究の成果をふまえた指標化の試みを紹介しながら, 総合的な再定義の可能性と課題が論じられる。
著者
桜本 光 吉岡 完治 和気 洋子
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.137-148, 2010-06

資料中国遼寧省瀋陽市康平県で実施中の植林事業は,2009年12月4日付けで京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトとして,日本政府より承認を受けた。本稿では,かねてより砂漠化防止対策として実施中の植林プロジェクトの経緯・概要・CDM 事業化へ向けての手続き・今後の展望について紹介を行う。本プロジェクトは,日本政府が承認した,大学が実施する初めての植林CDM プロジェクトであることから,植林CDM フレームの学際的普及に努め,地球に負荷を与えない研究・教育の推進として役割を果たしていく予定である。Japanese Government approved the project Small-scale Afforestation for Desertification Combating at Kangping County, Liaoning Province China which Keio University has been promoting under the Kyoto Protocol on 4th Dec in 2009.In this thesis, we intend to introduce the outline of this project, procedure to CDM approval by Executive Board, and views in the future of this Afforestation project in China.This is the first Afforestation project among Japanese university which has been admitted by Japanese Government.So this project is expected to value on the importance role of Afforestation CDM project to academic world, and will lead to the enviromental research and educational promotion which will affect favorable effects on the earth.
著者
山田 敏之
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.323-341, 2007-08

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty十川廣國教授退任記念号 = In honour of Professor Hirokuni Sogawa50周年記念論文・退任記念論文本稿は,企業倫理再生の本質をとらえ,従来の企業倫理の制度化や仕組みづくりの限界を示すとともに,企業倫理再生に向けた新たな視点として組織学習の有効性を明らかにすることを目的とするものである。これにより,企業倫理の再生という現象をより厳密に説明するための理論構築の基礎を提示することができるものと期待される。企業の倫理問題は,ステークホルダーからの要請の変化あるいは新たなステークホルダーの出現という形で表面化する社会理念の変化,企業責任に対する社会的合意の水準が企業の理念や価値観と乖離することで生じる。このような乖離を埋め合わせていく作業が企業倫理の再生であり,それには計画的なものと自発的なものとが存在している。再生の有効性の視点からみると,事前に乖離の兆候を発見し,有効な変革行動に移行できる自発的な再生活動の生起ということが重要になる。企業倫理の制度化のアプローチには,①合理性やコントロールへの偏重,②個人の行動や思考の標準化,規格化の促進,③法令や規則遵守の強調,④個人の倫理性の向上を究極の目的としている点,⑤仕組みづくりの目的化といった問題があるため,自発的な再生を生起させるには限界がある。これを回避するには,組織内で自発的な問題発見,原因探索,変革行動が生起されるような倫理自律性を身につけ,個々人の相互作用により支配的な価値観の修正を行い,同時に構造や仕組みの創造プロセスまで遡って批判・検討する組織学習の視点を導入することが重要になる。
著者
齊藤 壽彦
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.51-75, 2007-01

赤川元章教授退任記念号債券の発行による資金調達・債券への投資という資金運用は,支払約束を信頼した取引である。したがってそれは信用という取引の一形態であるということができる。とはいえ,債券発行・債券投資の信用的性格は,銀行信用,すなわち銀行の預金業務・貸出業務とは形態的差異がある。債券発行・債券投資は売買取引を通じて行われ,価格変動リスクを伴う。このような点においてそれは信用と異なる性格を有するのであり,償還期日前の債券の売買取引が貸付・返済取引に見せかけられるという点において,それは株式投資と同じく擬制信用的性格を有するのである。本論文はこれらのことについて詳しく論述している。
著者
星野 高徳
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.179-201, 2009-02

吉田正樹教授退任記念号論文本稿では,大正・昭和初期の東京において,資源回収業が民間事業として存続した要因について考察する。元来,再生資源の回収と塵芥の処理はほぼ同様の事業主体,業務内容で行われていたが,明治33年に汚物掃除法が施行されると,塵芥処理が市の責任で行われるようになったのに対して,資源回収業は依然として民間業者によって担われた。これまで資源回収業に関しては,主にスラム研究,貧民調査との関係から考察されることが多く,資源回収業の収益環境については1970年代の物価変動期や1990年代の行政回収に関するものに集約される。本稿では,これまで戦後の一時点を対象として行われてきた資源回収業者の収益環境に関する分析を戦前期にまで拡大することによって,業界全体の変容を明らかにするとともに,静脈産業の成立・存続要因に関して再生資源価格の上昇・低下以外の要因にも言及する。まず,資源回収業と塵芥処理業の関係の変化について,明治33年に施行された汚物掃除法の影響を中心に見ていき,資源回収業と塵芥処理業の役割が分離していく過程を明らかにする。続いて,明治後期から大正期にかけての衛生関係の法規制の影響と第1 次大戦前後の好不況期における資源回収業者の収益環境の変化に言及する。最後に,第1 次大戦後に再生資源価格が暴落した後も資源回収業者は屑鉄,アルミニウム,硝子,セルロイドなどの回収を重視しながら,民間事業として存続していたことを明らかにする。本稿では,資源回収業の収益環境や法令について,東京市の公文書や『都新聞』,『読売新聞』,『鉄と鋼』などの新聞・雑誌記事を主要資料として論じる。