著者
志田 基与師
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.197-209, 2003-09-30 (Released:2009-01-20)
参考文献数
10

進化ゲーム理論を(数理)社会学に応用する際の有効性と限界とについて方法論的な議論するのがこの論文の目的である。進化ゲーム理論の特徴は古典的なゲーム理論とは異なり、プレイヤーにたいして「合理的な主体」としての解釈ないし理解を行わない点にあり、進化ゲーム理論の応用を行うことの利点も限界もそこから生じている。一方で、進化ゲーム理論には既存の社会学・社会科学の静学性や演繹予測能力の低さなどの弱点を指摘し、それを補強するという建設的な役割も期待できる。しかしながらこのような方法を社会科学にそのまま導入するならば、以下のような限界が存在することが指摘できる。(1)進化ゲーム理論の応用は社会科学における実証性という点で問題がある。少なくともそれは実証の問題を、伝統的な社会科学のそれと異なるレベルに移行させる必要がある。(2)進化ゲーム理論が想定している状況は「制度」を説明するには不十分な道具立てにならざるをえない。それは制度にたいしてアドホックな説明にしかならないからである。(3)社会科学における「合理性」の位置づけから見る限り、社会科学的な問題構成を十分に体現していない。
著者
中尾 啓子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.135-149, 2002-10-31 (Released:2009-02-10)
参考文献数
8
被引用文献数
3

階層帰属意識の規定要因に関する先行研究によると、個人の階層的地位とともに生活水準に関する意識が主要な要因とされている。本稿では、「上」・「中」・「下」などの階層帰属意識のカテゴリーとして判断される階層帰属意識には、階層的地位についての自己評価と生活水準に関する意識の双方が相互に関連しながら反映されている様相を追究する。クラスター分析手法を用いて2000年度JGSS調査データを分析した結果、自己地位の評価と生活意識に関して共通した意識パターンをもつ人々からなるクラスターが導きだされた。そして、それらはそれぞれ異なった意識パターンを共有し、さらに「上」・「中」・「下」といった帰属階層と対応するクラスターであることが示された。本稿では、これらの結果に基づいて、クラスターに共有されるパターンからそれぞれの帰属階層に特有の意識を解釈していく。
著者
間淵 領吾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.3-22, 2002

「日本人は、他国民と比較すると同質的であり、国民のあいだにコンセンサスが形成されている」と主張されることが多い。しかし、ここで「日本人同質論」と呼ぶことにするこの種の主張は、少数の事例から推論された場合が多い。一方、大規模なランダムサンプルを対象とした世論調査データによって、同一の質問内容に対する各国民の回答を計量的に分析し、この主張を検討した研究は見当たらない。そこで、国際共同世論調査であるISSP調査と世界価値観調査のデータを分析し、日本人同質論の検証を試みた。その結果、日本人の意識は必ずしも他国民より特に同質的とは言えず、家族・ジェンダー意識、政府役割観、職業意識についてはむしろ同質性が低い場合もあることがわかった。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.111-126, 1994-10-01 (Released:2016-08-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1

女性の地位や階層をどう位置づけるかは、今日の階層研究の最重要課題の一つであるだけでなく、階級階層理論の根本的再編を迫るものでもある。1980年代にイギリスのSociology誌上を中心に展開されたゴールドソープとその批判者たちとの論争は、表面上はどちらがデータ分析上より有効な階級概念であるかをめぐるたたかいであったが、実際上は経済秩序の中で女性が層としておかれている状況を従来の階級理論が無視していることに関するものであった。社会的閉鎖理論は階級、性、人種等の社会的亀裂を捉える統合的な概念図式を提供しようとしているが、その説明力は期待できない。本稿はこうした問題状況の中で、女性を位置づけるために階層理論がどのような変貌を遂げなければならないか、そしていかなる具体的な探求課題が存在するか、を示すものである。
著者
小田中 悠 吉川 侑輝
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.315-330, 2018

<p> 本稿では,日常的な相互行為における期待の暗黙の調整メカニズムを,ゲーム理論を軸とした数理モデルによって説明することを試みる.その際,Goffmanが「ゲームの面白さ」論文で提示した,「変形ルール」というアイデアを精緻化することを通して,先行研究とは異なり,次の二点を考慮した上でモデル構築を行った.すなわち,人々によるゲーム状況への意味付与のダイナミクスを捉えうること,及び,経験的な検証可能性を考慮した上で,Goffmanのアイデアをフォーマルに記述することを目指した.そして,カラオケ・ボックスにおける次回歌い手の決定場面を分析することによって,本稿の視座が上述した二点の他にも,たとえば,チキンゲームのような,調整ゲームとは異なる均衡選択場面についても見通しをよくするものであることが示唆された.最後に,本稿のモデルが,公共空間における人々の相互行為を支えるルールの探求について,人々に参照されている「望ましさ」の基準(自らの利益よりも他者や集団の利益を優先するための基準)を捉えられるという点で有用なものであることが示唆された.</p>

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出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.156-163, 2018 (Released:2018-08-03)

4 0 0 0 OA 文献紹介

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.355-359, 2016 (Released:2017-01-15)
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.363-372, 2014

盛山和夫『社会学の方法的立場』ではM・ウェーバーやN・ルーマンらの方法論が批判的に再検討されているが,我々の考えでは,これらは彼らへの批判というより,その理論と方法の再記述にあたる.例えばウェーバーの方法は,近年の英語圏や独語圏での研究が示すように,主にJ・フォン・クリースの統計学的で分析哲学的な思考にもとづくもので,経験的な探究では『理念型』や『法則論的知識』は因果分析での反事実的条件としても使われている.彼の『価値-解釈』はベイズ統計学での事前分布と機能的に等価であり,有名な『価値自由』論が意味しているのは,内部観察である社会科学にとって不可避な,観察の理論負荷性である.
著者
小林 盾 内藤 準
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.179-189, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
7
被引用文献数
4
著者
五十嵐 彰
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.293-306, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
26

福岡『在日韓国・朝鮮人』(1993)をはじめとし,「日本人の条件」に関する議論は多い.しかし,従来の研究方法では,福岡の提起した問題である「それぞれの条件がどれくらい重要なのか」について,一般に共有されているかを分析できない.さらに,日本に強く愛着を持つ個人や,外国人に脅威を抱く個人間でこの重み付けは大きく変動する可能性がある.これの問題に対処するため,Mokken scale analysisを用いて,一般的に「日本人の条件」項目の重要性の重み付けが共有されているかを分析する.結果として,日本人は「日本人であるという意識」「日本国籍」「出生地」「日本語」「居住地」「先祖」「日本の法制度尊重」「仏教・神道の信仰」という順で「日本人の条件」に対して共有した順序の重要性を抱いていることがわかった.さらにこの順位は日本への帰属意識が高い集団や外国人に脅威を感じる下位集団間でもほぼ共有されていることが示された.
著者
桜井 芳生
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.99-113, 1991

「権威」がいかに存立しているかに関しては、「社会外的根拠説」「社会内的根拠説」「自存説」に大別できるが、それぞれ不満点を含んでいる。我々は、AI(人工知能)研究者たちによって関心が持たれている「フレーム問題」を導きの糸とすることで、「権威」の存立への探究を試みる。まず、松原らにしたがってフレーム問題を概観し、それを参考に「一般化フレーム問題」を定義する。次に松原にしたがって「一般化フレーム問題」がAIにとっても人間にとっても「解決」不能であることを確認する。それゆえ「一般化フレーム問題」はその「疑似解決」が探究されるべきである。つぎに、我々の試案が提示される。我々は、以上の「一般化フレーム問題」の考察の帰結として「規範不安」の仮説を提示する。これを仮説すれば、ひとびとのあいだにオーソリティー・バブル(権威の信憑域の泡)が生じる蓋然性がたかまることを、微細なメカニズムとともに示す。このオーソリティー・バブルの蓋然的生成・再生産のモデルが「権威」の問題の解答たりうることを主張する。そしてまた我々のモデルが、「ひとびとがいかにして一般化フレーム問題を疑似解決しているか」という問いの一つの解答ともなりえていることを主張する。
著者
片岡 栄美
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.33-55, 1992-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
41
被引用文献数
2

本研究では、文化による象徴的な支配のメカニズムが人々の日常生活の階層的リアリティを構成し、階層構造の再生産にとって重要な役割をもつことを解明する。このために文化資本を幼少時の文化的環境(相続文化資本)と現在の文化的活動(文化資本)の2つで測定する。その結果、次の知見を得た。(1) 男女で文化的活動の構造は異なる。(2) 正統文化への関与の意味は、男女で異なる。(3) 文化資本の再生産プロセスが、社会階層の再生産および教育的再生産にとって重要な媒介プロセスとなっている。さらに、LISRELの構造方程式モデルによる男性データを用いて得られた主な知見は、(4) 相続文化資本は、出身階層により差がある。(5) 相続文化資本は、階級のハビトゥスとして、学歴および成人後の「正統」文化的活動を左右する重要な要因である。すなわち家族から幼少時に相続した文化資本の効果は、成人後の文化資本を規定し、ここに文化的再生産メカニズムが存在する。(6) このメカニズムにおいて、教育は上層階層の家庭環境に由来する文化的能力を承認する役割を果たしている。
著者
小林 盾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.187-202, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
18

This paper sheds light on the role of mobility on cyclic processes in mobile social dilemmas. Olson argues that large groups will allow free-riders. Erhart and Keser's experiment revealed that people formed clockwise cycles of group size and cooperation when they can change groups. But they did not compare various levels of mobility. Thus, our research question is how mobility affects the cycle and the cooperative behaviors. We conducted a laboratory experiment (with 168 participants in 40 groups in 10 sessions). Three conditions (treatments) were introduced (immobile, high mobility costs, and low mobility costs conditions). We show the following findings. (i) Mobility did not change effects of size on cooperation (N=339 group-rounds). (ii) Still, mobility accelerated effects of cooperation on size (N=360 group-rounds). As people moved more easily, cooperative groups were more likely to expand. (iii) As a result, intergroup mobility accelerated the cycle (N=40 groups). Groups rotated faster when people moved more easily. (iv) However, mobility did not raise nor decline cooperation levels (N=40 groups). Therefore, to foster cooperation, first increase mobility to free cooperators. Then, restrict mobility to exclude free-riders.
著者
中里 英樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.197-212, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
参考文献数
16

本稿は、宗門改帳を用いた統計分析および社会学におけるリレーショナル・データベース(RDB)利用の可能性を考察するものである。まず、世帯に関する質問紙調査の代表的存在である世帯動態調査を比較対象にして、宗門改帳の形式の特徴について述べる。ついで、様々な形式のデータを結合し、非定型データを定型データに変換する上で有効な道具となりえるRDBの特徴と、歴史研究における導入の事例を紹介する。その上で、宗門改帳の情報から、世帯動態調査と同様に子との同居率やその変化を算出するための変数を作成する方法について、具体的にSQL(RDB操作の標準言語)文を示しながら解説していく。さらにそれを踏まえて、社会学における質問紙の効率的な利用のためのRDBの応用可能性についても提案する。

4 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.143-153, 2008-06-30 (Released:2008-08-11)
著者
永田 えり子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.45-59, 1992

正義とは等しい者を等しく扱うことだといわれる。ならば何が正義であるかは、誰と誰が等しいかを判断する類別の原理に応じて決まるはずである。人々がそれぞれ異なる類別の原理をもつとき、正義はどのように決まっているのか。そしてなぜ、どんなときにわれわれは個人間の異なった取り扱いを差別と感じるのだろうか。この考察を通じて、正義が差別を内包することを示す。
著者
石田 淳
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.81-97, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
17

本研究では,Yitzhakiの相対的剥奪指数をもとに,分配的正義論における「機会平等の原則」に基づき,人々の剥奪を「剥奪を生じさせる要因が機会の不平等によるものかどうか」によって分けることで,相対的剥奪指数,そしてジニ係数を分解するという分析手法を提案する.具体的には,機会平等の原則に基づき,機会の平等を実現する政策について数理的なモデルを提案したRoemerのモデル,そしてRoemerのモデルに基づき,経験的データに基づき性別や親の地位などの「本人のコントロールが及ばない要因」によって生じた所得などの優位の差を仮想的に調整した社会の不平等度を測る「仮想的機会調整分析」,これらの先行研究をもとに,機会不平等に起因する相対的剥奪の分解法とその指数を定式化する.同時に,アメリカ・コミュニティ調査データと2005年SSM調査データを用いた分析例を示し,最後に分解法の特性と今後の課題をまとめる.
著者
小森田 龍生
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.211-225, 2016 (Released:2017-01-15)
参考文献数
32

本稿の目的は,いわゆる過労「死」と過労「自殺」の比較を通じて,過労自殺に特有の原因条件を明らかにすることである. 原因条件の導出にあたっては,クリスプ集合論に基づく質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis, QCA)を採用し, 分析対象は労災認定請求・損害賠償請求裁判に係る判例58件を用いた. 過労死, 過労自殺とも, 複数の原因条件が複雑に絡み合い生じる現象であるが, 本稿では具体的にどのような原因条件の組合せが過労死ではなく過労自殺の特徴を構成しているのかという点に焦点を定めて分析を実施した. 分析の結果からは, 過労自殺を特色づけるもっとも基礎的な原因条件はノルマを達成できなかったという出来事であり, そこに職場における人間関係上の問題が重なることで過労死ではなく過労自殺が生じやすくなることが示された. この結果は, これまで過労自殺と呼ばれてきた現象が, 実際には通常の意味における過労=働きすぎによってではなく, ノルマを達成できなかった場合に加えられるパワーハラスメント等, 職場における人間関係上の問題によって特徴づけられるものであることを明らかにするものである.
著者
朱 安新
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.307-317, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
40

中国社会では家族の急激な小規模化が進んでいるため,若い世代の世代間同居に関する意識が,今後の家族形態を予測するうえで注目されはじめている.しかし,まだ全国レベルの統計データが欠如している.そこで,本稿では2013年に中国大陸と台湾で大学生を対象に量的調査を実施し,大学生の世代間同居意識の現状と規定要因を明らかにすることを試みた.分析の結果,(1)世代間同居意識は低い水準にあるものの,伝統的規範のうち父系規範が同居意識の促進要因となっていた.ただし,親孝行規範は同居意識を促進するという傾向は見られなかった.(2)台湾に比して大陸においては都市に戸籍をもつ大学生が農業戸籍の大学生よりも,親世代と同居しようとする意識が顕著に低かった.したがって,大陸の都市と農村の二元社会構造がいまだに世代間同居意識に影響を与えていた.(3)大陸では男子学生が女子学生より世代間同居を意識する点で,台湾と異なることを明らかにした.