著者
桜井 芳生
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_91-2_104, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
5

まず、柄谷行人が『探究II』でおこなったクリプキの可能世界論の援用への疑義を提示する(1節)。つぎにこの柄谷の可能世界論の誤用がかれらのいう「第二の論点」と関連していることを確認し(2節)、大澤のいう「世界」と「宇宙」という概念を導入することで、柄谷がいわば「世界間差異」と「宇宙的差異」との混同に陥っていることを指摘し、後者をめぐって柄谷とクリプキとが異なっていることを明示化する(3~5節)。我々の行ってきた議論を用いて、柄谷のいう「反復」の議論への接近を試みる(6節)。最後に、ここでの議論とルーマンの「脱トートロジー化」の議論との連関を示し、社会理論的含意を示唆する(7節)。
著者
小林 盾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.81-93, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
24

この論文では,社会階層の違いがどのように食生活の違いとして現れているのかを,健康への影響に着目して調べた.食生活として野菜と海藻を事例とした.分析の結果,高階層の人ほど野菜と海藻をよく食べ,そうした人たちほど健康と感じていた.野菜と海藻は,バランスのとれた食生活を象徴していると考えられる.これまで,社会階層が食生活にどう影響するのかは分かっていなかった.そこで,東京都西東京市在住の35~59歳女性を対象として,郵送調査を実施してデータを得た(回収人数822人,回収率68.7%).分析の結果,以下のことが明らかになった.第一に,高階層の人ほど野菜と海藻を毎日食べていた.たとえば,高校卒のうち15.4%が毎日海藻を摂っていたのにたいして,大卒だと27.5%,大学院卒だと50.0%であった.第二に,野菜や海藻を毎日食べる人ほど,健康と感じていた.野菜と海藻のどちらも毎日は食べない人のうち,健康に幸せまたはやや幸せと感じるのは81.2%,両方を毎日食べる人のうちでは91.1%だった.第三に,教育から健康への影響を調べた結果,野菜と海藻の摂取が媒介変数となっていた.第四に,みそ汁摂取と朝食摂取が効果をもたなかったので,伝統的な食生活や規則正しい食生活が,健康を促すわけではなかった.
著者
金光 淳
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.114-131, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
25

近年日本各地で開催されているアート・フェスティバルはアートによる「観光のまなざし」を地域に内省化することで,観光客の側にも住民の側にも新たな地域表象を結像させている可能性がある.それはどのように地域イメージの形成に貢献しているのか,またそれは地域社会の問題をどのように可視化しているのかを瀬戸内国際芸術祭で探った.小豆島と豊島で行われた島ブランド・イメージ連想調査データのネットワーク分析は,1)産業が盛んで伝統的な地域イメージが形成されている小豆島では,アートはそれにほとんど貢献しておらず,産物,観光とメディア・コンテンツの連想イメージが前面化している;2)これとは対照的に産業が衰退し確固たる地域イメージが形成されていない豊島においては,地域表象形成におけるアートの役割は大きい.アート・フェスティバルは感覚的反応,他地域の連想を伴ないつつ,美しい瀬戸内の風景に助けられ豊かな美的空間を形成するのに貢献している;3)豊島では産業廃棄物問題は大多数の観光客には見えていないものの,地域の記憶を伝承するアート作品やシンボリックな豊島美術館を通してこの問題が観光客の一部にも連想されており,アート・フェスティバルは観光客の産業廃棄物問題の可視化にある程度貢献している,ことが明らかになった.これらの知見を基に瀬戸内国際芸術祭の課題が論じられた.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.91-104, 1999-03-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本稿のテーマは、準拠集団と相対的剥奪である。歴史的個体の説明に限定されない一般理論としての相対的剥奪の基本メカニズムは、既にBoudon(1982)とKosaka(1986)によって定式化され、モデルからは報奨密度の増加に伴う相対的剥奪率の上昇には臨界点が存在する、等のインプリケーションが導出された。本稿では、相対的剥奪モデルと既存の準拠集団論との接合は充分でなかったことを示し、Stouffer et al.(1949a)、Merton(1957=1961)などの帰納的研究の知見を基にモデルを修正し、相対的剥奪と準拠集団という概念の理論的な統合を図る。修正モデルでは、各行為者は属性の共有に基づいて準拠集団を選択する、という仮説に基づいた場合の相対的剥奪率の変化を分析した。その結果、選択の際に用いた属性の組み合わせによっては、利益率R›1のときに剥奪の臨界点が二つになること、剥奪率の最大値が一定であること、等のインプリケーションが導出された。

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出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2_135-2_145, 1999-09-30 (Released:2016-09-30)
著者
太郎丸 博 吉田 崇
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.155-168, 2007-10-31 (Released:2008-01-08)
参考文献数
23

求職者の意識と求職期間の関係を正しく認識することは、求職者に適切な援助を与えるためにも重要である。データの制約から両者の関係を正確に把握することは一般に困難であるが、ジョブカフェ京都の協力を得て、求職者の意識調査の結果と、その後内定までにかかった期間の追跡調査の結果を名寄せすることで、意識が内定率に及ぼす影響を推定することが可能になった。比例ハザードモデルを用いた結果、自信や「やりたい仕事」があることは内定率を有意に高めないが、「目標の期日」や、求職のための具体的な行動は、内定率を高めることがわかった。
著者
中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-36, 2004-03-31 (Released:2008-12-22)
参考文献数
12

本研究では、「ある様式が大規模に普及する」という意味の熱狂ではなく、「ある様式と類似の様式が連続して普及し続ける」という意味の熱狂現象に注目する。そして、様式の採用に敏感なエージェントや慎重なエージェントから成る人工社会を準備し、熱狂現象を構成するとともに、熱狂が生まれるメカニズムを抽出する(以下、「熱狂の生成モデル(Genesis Model of Enthusiasm)、略してGEモデル」と呼ぶ)。結果は、様式の採用に敏感なエージェントのグループが発生することがきっかけとなり、社会に熱狂的な雰囲気が生まれてくることが分かった。そして、現実の社会現象(少年非行の歴史)に着目し、敏感なエージェントのグループ化と同型の現象が少年非行の歴史の中にも見出されることを示し、GEモデルに対する了解を深める。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.271-286, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
53
被引用文献数
2

数理社会学は,1950~60年代において理論社会学の主流派だったパーソンズ理論や機能主義に代わって,社会学により厳密で経験的な裏付けのある理論形成の文化が必要だという考えを基盤にして始まった.そのことは,コールマンやホワイトなどの初期の仕事からうかがい知ることができる.しかし,そうした数理社会学の目標は,必ずしも達成されていない.その一つの理由は,残念ながら,経済と違って,社会学が対象とする社会的世界は意味世界であって,本来的な数理性が保証されていないからである.他方また,数理社会学者自身が数理社会学の役割を誤解してきたという面もある.少なくない数理社会学者が,数理社会学は経験的一般化やフォーマライゼーションを通じて社会学理論の構築に貢献すると考えている.また,一部の人は,数理モデルの帰結への何らかの解釈を通じて理論が導かれると思っている.これらはいずれも,数理モデルの構築が本来的に創造的な営みであって,モデル構築それ自体が新しい理論を生み出す試みだと点に気づいていない.本稿は,数理社会学の基本的課題は,現象の「構造的エッセンス」に対する数理モデルの構築を通じて,現象の新しい理解の展開に寄与することだと主張し,そのことを,いくつかの数理モデルを紹介しまた説明することで,明らかにしようとするものである.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-19, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
15
被引用文献数
2

社会学の他の領域の場合と同じように、階層研究もまた規範的問題を主題化することを避けてきた。それは、今日の格差問題の華々しさの中でもそうである。格差の拡大や存在を指摘する研究は、暗黙のうちに格差を批判しているのだが、その場合、格差が望ましくないことは自明なものと前提されている。また、かつての機能主義的成層理論は、成層の存在を機能主義的に説明することを通じて、実質的に成層を正当化した。しかしどちらも、規範的問題を主題化しないという点で不適切である。他方、階層の規範理論は現代リベラリズムにおいて盛んに展開されているが、ここでは責任―平等主義に代表されるように、「生産局面の等閑視」と「帰結への無配慮」がみられる。これも含めて、望ましい分配ルールに関する議論は、分配されるべき財の存在を所与とする「マナ型原理」に陥っている。本稿は、階層の規範理論をめざす試みの一環として、生産局面と帰結とを考慮した望ましい分配ルールとは何かを考察する。すなわち、いかなる分配ルールが望ましいかは、ルールの内在的性質によってではなく、ある共同生産関数が与えられている社会にあるルールが設けられたとき、人々の生産活動を通じていかなる分配状態が実現するかという問いとして定立される。そして、この理論枠組みのもとで、さらに人々の合理的選択を仮定したとき、分配ルールの望ましさが、ナッシュ均衡として実現する分配状態の望ましさに帰着することを示す。
著者
鈴木 鉄忠
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.267-281, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
21

古今東西,諸国家の闘争から親密関係のいざこざにいたるまで,社会集団における「第三者」の影響力について多くのことが語られてきた.ジンメルの古典的な三者関係(トライアド)論は3という数そのものから生じる固有の特徴を問題とし,典型的な三様の集団化形式として「中立者と媒介者」「漁夫の利」「分割統治」をあげた.これまでの数理分析はトライアド・コアリッション(三者間の提携形成)の協力ゲーム分析に主眼がおかれていた.本稿では,非協力ゲームによるトライアド・コンフリクトのフォーマライゼーションを試み,部分ゲーム完全均衡分析を行った.そこから得られた理論的発見は,(1)第三者の,二者の非協力行動にたいする仲裁力と横領する力量,そして二者の協力行動にたいする抑止力が,トライアド・コンフリクトの均衡に深くかかわっている,(2)漁夫の利や分割支配をたくらむ第三者の力量があまりに強くなりすぎると,かえって第三者の優越的な地位は揺らぐ,(3)トライアド・コンフリクトはホッブス的秩序問題の議論とも密接な関係をもっている,ということである.
著者
塩谷 芳也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.65-80, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究では地位志向の強弱に関する個人差を職業的地位の構成イメージによって説明する.地位志向とは社会的評価の高い職業や高い地位に就くことを重要視する価値意識である.職業的地位の構成イメージとは,職業の社会的地位の全体像に関する個人の認知である.個人が持つ職業的地位の認知について検討することの意義は,職業威信スコアのような社会的地位尺度を構成することだけではない.従来の階層意識研究では,職業や社会階層に関する個人の認知が説明変数として着目されることは稀であったが,職業的地位の認知を検討することによって社会階層をめぐる個人の意識をよりよく説明できる可能性がある.本研究はその一例を示すものである.職業的地位の構成イメージを捉えるため「自由測定法」という新たな測定法を開発し,それを用いて実施された「職業と社会に関する仙台市民意識調査(仙台調査)」データを分析した.その結果,以下の4点が明らかになった.(1)個人が持つ職業的地位の構成イメージは,小分類レベルの個別の職業ではなく複数の職業の束を単位として形成されている.(2)職業的地位が何段階に分かれているかについては人びとのあいだにコンセンサスは存在しない.(3)職業の社会的地位を細かく多段階に区別して認知する人びとほど地位志向が強い.(4)職業間の社会的地位の上下差に関する認知は地位志向とは無関連である.
著者
伊藤 公雄
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.75-88, 2000-06-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
25

「カルチュラル・スタディーズとは何か」。この問いかけに対して、簡略に語ることはむずかしい。というのも、この研究スタイルはひとつの声で語ることがないし、またひとつの声で語ることができないからだ。また、ここには、二〇世紀後半の多様な知的潮流や政治的な流れが合流しているからでもある。本稿は、こうしたカルチュラル・スタディーズの輪郭を、その来歴を溯って描く試みである。カルチュラル・スタディーズの背後には、1960年代のニューレフトの影響が明らかに存在している。と同時に、イギリスにおける文化主義との結び付きもまた明らかなことだ。さらには、構造主義やポスト構造主義といった現代の思想潮流の積極的吸収も、この研究スタイルの特徴だろう。また、カルチュラル・スタディーズの登場は、グローバライゼーションやポストモダンと呼ばれる現代社会の変容とも密接に関連している。カルチュラル・スタディーズの輪郭を探るなかで、カルチュラル・スタディーズが、私たちに、つまり、社会学に何を提起しようとしているのかについて考えてみたい。
著者
石原 慎一 内海 幸久
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.93-107, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
10

本稿の主要な目的は、破産問題におけるタルムード解をファジィ値をもつTUゲームのコアを利用して特徴付けることである。タルムード解の一部は、提携の満足水準が最大になるようなコアと一致し、相対的に見て少ない資金を貸しているプレーヤーに有利な分配方法になっているという特徴をもつ。加えて、ミシュナの分配方法は、安定的であり、満足度の観点から偏りがない唯一の方法であることが明らかとなる。
著者
小林 盾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.163-176, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
39

この講座は,合理的選択理論がどのような理論構造をもち,どのように社会現象へと応用できるのかを考える.もともと合理的選択理論は人びとの行動を「個人が合理的に選択したもの」と仮定する.しかし,現在の合理的選択理論は,狭い利己的個人像に限定されず,ネットワークや文化を考慮するなど,より多様で豊かな人間像を想定するようになってきた.そこで,この講座ではまず合理的選択理論の理論構造を整理し,人的資本,社会関係資本(ソーシャル・キャピタル),文化資本という3つの資本投資メカニズムを取りあげる.つぎに,どうすれば合理的選択理論を用いて,実証的な仮説を立てられるかを考える.合理的選択理論は理論構造が明確で体系的なため,シャープな仮説を検証可能な形で導出できる.そのため,じつはこの理論は計量分析と相性がよい.
著者
数土 直紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-179, 1995-12-01 (Released:2016-08-26)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿では、サンクションを有する正当化された権力(公式権力)を問題にする。一般には、権力が正当化されるためにはその権力が組織の維持に貢献している必要があると考えられている。しかし、公式権力の行使がパレート劣位な状態を導く場合が存在する。したがって、組織の維持に対する貢献は、公式権力の本質的な規定ではない。また、本稿では、この事実をゲーム理論を用いて明らかにすることで、ゲーム理論が社会現象の分析にとって有効な方法であることを明らかにする。
著者
伊藤 伸介 石田 賢示 藤原 翔 三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.321-336, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿では,公的統計の個票データ(調査票情報)の申請と活用の方法について解説した.統計法改正により,現在では,公益性のある学術研究ならば,公的統計の個票データにもアクセスできるようになっている.利用申請が承認されたのちには,テキスト形式の個票データ,データのレイアウト表と符号表が収録されたCDRが届くことになる.個票データを自由に扱うことで,様々な変数の加工・作成やそれら変数間関連の分析をおこなうことができる.公的統計の個票データの分析で基礎的な変数の関連パターンを精確に明らかにできるため,そこから導かれた発展的な問題に対しては個別具体的な社会調査でアプローチする研究プロセスが考えられる.そのように,公的統計の個票データと社会調査データを組み合わせることで,優れた計量社会学的研究が蓄積していく可能性が拓かれる.
著者
白川 俊之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.249-265, 2010 (Released:2011-03-12)
参考文献数
41
被引用文献数
8

日本とアメリカにおいて,ひとり親家族で育つことが子どもの学力形成にあたえている影響を検討する.父不在と母不在とで,子どものリテラシーへの影響の程度と影響が生じる過程が異なりうることをふまえ,2つの仮説を提示する.ひとり親家族は貧困であったり経済的に不安定であったりするため,子どもの学力形成に不利が生じると,第1の仮説は主張する(経済的剥奪仮説).一方,第2の仮説は,ひとり親家族における子どもへの教育的関与の水準の低さが,学力低下の原因になっているという可能性に着目するものである(関係的剥奪仮説).これらの2つの仮説を手がかりに,父/母不在家族のそれぞれを両親のそろった家族と比較したとき,子どもの学力形成に関してどのような不利が見られるのかを分析する.PISA2000のテスト結果から学力の指標を取り出し家族構成との関係を調べたところ,日米に共通の結果として,以下の知見がえられた.(1)子どもの学力は家族の形態で有意に異なり,母不在家族の子どもの学力がとくに低い.(2)家族形態と資源保有との関連については,父不在家族において経済的資源の不足が見られる.母不在家族では経済的資源の不足に加えて,関係的資源の顕著な不足が特徴的である.(3)父不在家族の子どもの学力の低さの背後には,経済的な不利が要因として働いている.(4)母不在家族の子どもの低学力は,家族単位の資源不足の観点からは説明することができない.