著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_3-2_20, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
25

プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだか? この問いは現在の社会学の出発点である。だが、Weber自身のを含めて、従来の答えはすべて失敗している。経営の規律性や強い拡大志向、資本計算などは日本をはじめ多くの社会に見出されるからだ。この論考では、まずそれを実証的に示し、その上で、プロテスタンティズムの倫理が「禁欲」を通じて真に創出したものは何かを問う。 それは合理的な資本計算や心理的起動力などではない。個人経営においても、経営体(組織)と個人の人格とを原理的に分離可能にしたことである。この分離と両者を規則を通じて再結合する回路こそ、日本の経営体に決定的に欠けているものであった。なぜなら、それが近代の合理的組織の母型になったのだから。その意味においてはじめて、プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだといえるのだ。
著者
大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-11, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
22

受賞論文では,成員の入れ替えのある流動的な集団において,どのようなメカニズムで助け合いが維持されるのか,というテーマを扱った.具体的には,コミュニティ・ユニオン(個人加盟型労働組合)で行われている助け合いを対象として,このテーマに取り組んだ.方法は経験的調査と数理的研究を組み合わせた分析的物語(analytic narrative)と呼ばれる方法を用いた.まず聞き取りと観察に基づいた経験的調査を行い,次に数理モデルを用いて分析を行い,対象となる助け合いのメカニズムに言及した.受賞論文の意義は,(1)現代的な課題である流動的な社会関係を対象として,協力が達成されるメカニズムに言及したこと,および(2)経験的調査と数理的分析を組合せることにより,社会現象に即した数理モデルを作成し,具体的な社会現象の説明を行ったことにあると考えられる.本稿では,後者の方法論に関して,その重要性を論じ,数理社会学および社会学全体に対して持つ意義を整理する.
著者
吉良 洋輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.281-297, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
31

社会的ジレンマの解決策として,費用を伴う懲罰と褒賞のどちらが優れているのかという議論がある.その一方で,長期的な社会的関係と懲罰・褒賞が非効率な規範を維持する,という指摘もある.本稿では,繰り返しゲームの枠組みを用いて,懲罰と褒賞が社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範のそれぞれを維持する効果を比較した.この分析では,均衡を維持できる最大の割引因子の値を比較することで,社会関係の長期性が薄い場合でも均衡が維持されるか否かを確認した.その結果,懲罰と褒賞の両方が,社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範の両方をより強固に維持する効果を持つが,懲罰のほうがどちらの場合にも顕著な効果を持つことが分かった.これは,懲罰を怠る誘引は懲罰を行っているときに発生する一方で,他者への褒賞を怠る誘引は協力行動など規範的行為を行っているときと同時に発生するためである.
著者
出口 弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.101-114, 1990-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10

南方熊楠は,偉大な博物学者であり粘菌学の大家であると同時に日本民俗学の生みの親の一人として広く知られている.しかし,彼の学際的な学の背後にあった方法論としての自然哲学そのものについては,殆ど関心は払われてはこなかった.本論では,我々は,南方熊楠の自然哲学に着目し,それを思想史的な観点からではなく,今日の諸学の錯綜し方法論の混乱する学の状況に於ける生きた思想として再把握することを試みる.彼の社会科学に関する科学方法論と数理的学についての卓見は,時代の中で抜き出ていたが故に日の目を見ることはなかった.主体を含む複雑なシステムとして社会システムを捉えその構造変動を含むモデル作成の為の確固たる方法論的基盤を築く必要がある今日の社会科学にとって,南方の思想と方法論は,時代を越えて有益な示唆を与えてくれるのではないかと期待する.
著者
山岸 俊男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-37, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2

社会的ジレンマにおける成員の行動が「意図せざる効果」を生むことはよく知られている。 すなわち社会的ジレンマにおいては、個々の成員の自己利益追及という意図にもとづく行動が、社会的に集積されることにより、それぞれの成員の意図に反する結果(利益の減少)が生み出されている。このような社会的ジレンマ問題の解決のためにこれまでいくつかの解決法が示唆されてきたが、これらの社会的ジレンマ解決法の「意図されざる効果」については、これまであまり議論がなされていない。本稿では、ジレンマ解決法の「意図されざる効果」の例として、選択的誘因の使用に伴う協力への「内発的動機づけ」の減少、および戦略的行の「外部性」により引起こされる「非協力の悪循環」をとりあげ、そこに含まれる問題を整すると同時に、関連研究の紹介を行なう。
著者
大隅 昇 保田 明夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.135-159, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
参考文献数
54
被引用文献数
3

ここではまず,テキスト・マイニング(TM)あるいはテキスト型データのマイニング(TDM)の特徴を俯瞰すると同時に,これに関わる技術的な諸要素,諸事項について総合的に報告する.つぎに,現状考えられるTMを実際データの分析に用いるうえでの諸問題を整理する.とくに,その適用可能性について,データ科学の視点から問題解決を図ることの重要性について触れ,さらに具体的なTM応用ソフトを紹介する.また,筆者等が独自に行ったWeb調査データによる分析例を通じ,どのような使い方ができるかの要点,留意事項を示す.ここでは,自由回答設問で得た情報と通常の選択肢型設問との併用による定性型情報の計量的評価の例として示すが,これはTMのごく一部の具現化に過ぎず,本来のTMのあるべき姿,目標はこれだけではない.このようなことからTMの今後の進むべき道あるいは期待される方向は何かについての私見を述べる.
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.277-280, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
2
著者
大林 真也 瀧川 裕貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.99-108, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
2

今年で,数理社会学会は設立30周年を迎える.本稿では,これまで,数理社会学会機関誌『理論と方法』がどのような軌跡を辿ってきたのかを明らかにすることが目的である.そのために,『理論と方法』の1986年11月の通巻第1号から2015年11月の第58号までの記事を分析する.具体的には,この30年間で扱われてきたテーマ(内容)と方法についての特徴と変遷を明らかにする.分析にはトピックモデルを用いた.分析の結果,扱われているテーマも用いられている方法も大まかには2000年付近を境にトレンドが変化しているということが示唆された.また,テーマの変化と方法の変化は密接に関連していることも示唆された.
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.277-278, 2020 (Released:2021-09-04)
著者
渡邊 勉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.218-233, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
43

本稿の目的は,職業経歴の不平等の時代変化の特徴を明らかにすることである.これまで7回おこなわれたSSM調査の職歴データを分析した歴史研究は,ほとんどない.そこで本稿では,労働経済学における終身雇用,二重構造の研究を参照しつつ,社会階層論の枠組みで,1920年代から2000年代以降までの日本の労働市場の変化を分析した. 明らかになった点は以下の通りである.第一に,職歴の不平等は,1970年代半ばまでの入職者において小さくなり,その後大きくなっている.第二に,職歴の雇用安定性は,戦後1970年代まで大きくなっていき,その後若干小さくなる.また職歴の従業先安定性は,初職大企業のほうが中小企業よりも安定しており,初職ホワイトカラーのほうがブルーカラーよりも安定しており,時代による変化は小さい.第三に,通時代的に職歴パターンは,父職,学歴,初職職業,初職規模それぞれの影響を受けている.特に従業先規模は戦後影響が大きくなっている.まとめると,職歴の不平等は,まず戦前から戦後の社会,制度の大きな変化の中で,平等化が進んだ.その後終身雇用制度の浸透と共に,さらに平等化が進んだが,1970年代後半以降の入職者は,不安定な職歴が増え,不平等が進行した.